機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re 作:ボルメテウスさん
白いガンダムの左手が、またジークアクスの頭部へ伸びた。
指先が触れるより早く、俺はガンダムXを横から割り込ませ、残ったシールドの縁でその腕を外へ押し流す。焼けた装甲同士が擦れ、火花がイオマグヌッソの赤い外壁へ降り注いだ。
「マチュ、距離を取れ!」
『取ったら、こいつが中へ行くでしょ!』
「だからって、毎回頭から突っ込むな!」
『今さら私の戦い方に文句を言うの!?』
「今さら言えるようになったんだよ!」
ジークアクスが白いガンダムの脇を抜け、その背後へ鋭く回り込む。シュウジの機体は振り向かず、右腕のビームサーベルだけを反転させ、マチュの斬撃へ正確に重ねてきた。
二本の刃が触れ合い、紫色の裂け目へ青白い波紋が走る。
俺はその正面へ踏み込み、敵の肩関節を狙ってサーベルを振った。けれど、白いガンダムは一歩分だけ機体を沈め、こちらの刃を頭上へ滑らせる。
その動きには迷いがない。
俺とマチュの呼吸を知っているわけではない。
ただ、二人が選べる軌道を先回りして、そこに答えを置いている。
『まだ分からないんだね』
シュウジの声が、光刃の振動を通して届いた。
『二人で守ろうとしても、世界そのものが間違っているなら、いつか全部が壊れる』
「間違っている世界で生きたこともない奴が、簡単に言うな!」
『僕は向こう側から来た。壊れる前の世界も、壊れた後に残るものも知っている』
「だったら、壊れた後に何も残らないことくらい分かるだろ!」
白いガンダムの膝が、ガンダムXの腹部へ突き上がった。
機体が大きく浮き、固定しきれなかったサテライトキャノンの基部から金属音が響く。俺は腰部スラスターを噴かして姿勢を戻したが、その間にシュウジはジークアクスへ踏み込んでいた。
『マチュ、上!』
「ドゥー、聞こえてるのか!」
「シュウジの音が、一瞬だけ先に跳ねた。次は頭じゃなくて、首の後ろを狙ってる!」
マチュへ伝えるより先に、白いガンダムの刃が振り下ろされる。
『分かってる!』
ジークアクスは頭を低くし、敵の懐へ潜り込んだ。
白い刃が背部を掠め、装甲片が赤い外壁へ散っていく。マチュはそのまま肩をぶつけて敵の姿勢を崩し、至近距離からサーベルを突き上げた。
シュウジは腕を折り畳み、光刃の腹で受け止める。
二機の間に細い空間が生まれ、その隙間へ俺はガンダムXの左腕を差し込んだ。
「二人とも、近過ぎる!」
『ランガが来ると思ってた!』
「それを当てにするな!」
『来なかったら怒るけど!』
「理不尽だな、本当に!」
俺は白いガンダムの腕をシールドで押し上げ、マチュの機体を反対側へ逃がした。
ジークアクスが一回転し、ガンダムXの右側へ戻る。二機の軌道が並んだ瞬間、戦場の外側から紫色の光が飛び込んできた。
「新しい射線!」
反射的にシールドを持ち上げる。
だが、二条の光はガンダムXもジークアクスも狙わなかった。
一条目が白いガンダムの左腕を掠め、ジークアクスへ伸びていた指先を外へ弾く。もう一条は次元裂け目へ向かう退路へ先回りし、シュウジの機体をこちら側へ押し戻した。
「エスビット……」
紫色の小型兵装が、戦場を大きく回りながら再び照準を整える。
その後方から、白と紫の機体が姿を現した。
ジフレド。
ジークアクスと似た系譜を持ちながら、輪郭も光の色も違う。二基のエスビットを従える姿は、戦場へ入ってきたというより、最初から誰が逃げる場所を探していたのか知っていたように見えた。
『マチュ、そこから離れて』
開放回線へ、控えめな少女の声が入る。
『次の一撃は、ジークアクスの頭を狙ってる』
『ニャアン!?』
マチュの声が跳ねた。
ジフレドは一度も大きく加速せず、二機と白いガンダムの間に留まっている。ビームライフルは下げられず、エスビットも攻撃位置を保ったままだ。
『どうして、ここにいるの。ジフレドで何をしてるの!』
『命令があったから来た』
ニャアンの返事は短かった。
『でも、今は何をすればいいのか、まだ決められてない』
紫色のエスビットが僅かに揺れる。
一基は白いガンダムを捉え、もう一基はジークアクスとガンダムXの動きまで測っていた。こちらを撃つつもりはなくても、完全に味方へ回ったわけでもない。
マチュが何か言おうとした瞬間、シュウジのガンダムがジフレドへ向きを変えた。
『君も迷っているんだね、ニャアン』
シュウジの声が、三機の回線へ静かに流れ込む。
『だったら、無理に選ばなくていい。この世界と一緒に夢を終わらせれば、誰かの期待へ応え続ける必要もなくなる』
白いガンダムが加速した。
ジフレドはビームライフルを上げるが、引き金が僅かに遅れる。シュウジの光刃が紫の機体へ迫り、ニャアンはライフルを捨ててサーベルを抜いた。
二本の刃が触れ合う。
ジフレドの紫と、白いガンダムの青白い光が押し合い、ニャアンの機体が少しずつ後退する。
『ニャアン!』
ジークアクスが飛び出そうとする。
「待て、マチュ。正面から入れば、シュウジの狙い通りだ!」
『でも、このままじゃニャアンが!』
「俺が刃を止める。君は左から回れ!」
ガンダムXを白いガンダムの側面へ滑り込ませる。
シュウジはジフレドを押しながら、こちらの接近へサーベルを返した。俺はシールドを斜めに差し込み、光刃を受け流す。
その瞬間、ニャアンのエスビットが敵の背後へ回る。
だが、照準はまだ定まらない。
『私が撃ったら、誰かの命令通りになるのか、それとも裏切ることになるのか、分からない』
ニャアンの声が細く揺れた。
『今まで、言われた場所へ行けば生き残れた。必要だと言われたことをすれば、そこにいてもいいと思えた』
ジフレドのサーベルが僅かに下がる。
白いガンダムの刃が、その隙間へ入り込もうとする。
『ニャアン!』
マチュの声が通信を貫いた。
『誰に言われて来たかじゃなくて、これから誰と生きたいかを決めて!』
ジークアクスが白いガンダムの左側から飛び込み、シュウジの腕を蹴り上げた。
俺は反対側からシールドを押し込み、ジフレドと敵機を引き離す。
ニャアンは返事をしなかった。
ジフレドが数歩分だけ後退し、次元裂け目の紫色へ半身を沈める。エスビットも周囲を漂ったまま動かない。
『そういうことを、戦っている最中に言うのはずるいよ』
『今言わなきゃ、また誰かに決められちゃうから!』
『マチュはいつもそうだよね。考える前に、一番難しいことを真ん中へ置く』
『ニャアンは考え過ぎて、自分を最後にするでしょ!』
『それで生き残ってきたから』
『じゃあ今度は、一緒に生き残ればいい!』
その言葉の後、通信へ短い沈黙が落ちた。
遠くでキケロガの緑光がギャン部隊を押さえ、イオマグヌッソの赤い非常灯が一定の間隔で点滅している。
赤。
紫。
緑。
いくつもの光が戦場を分けているのに、遠くの地球から届く青だけは、三機の装甲を同じ色へ染めていた。
ニャアンの呼吸が通信へ戻る。
『分かった』
ジフレドが姿勢を立て直した。
『仲直りしたとは、まだ言わない』
『今はそれでいい!』
『でも、マチュを一人で行かせないことは決めた』
二基のエスビットが一斉に動く。
右側の一基が白いガンダムの次元裂け目側へ回り、左側の一基はイオマグヌッソ外殻との間を塞いだ。逃げ道を攻撃するのではない。ただ、次に動ける方向を一つずつ削っていく。
最後に残された進路は、ガンダムXの正面だった。
「いい配置だ。ニャアン、右の退路をそのまま塞いでくれ」
『あなたがランガなんだね』
「初対面の自己紹介が遅れた。ランガ・ロードだ」
『マチュがずっと待っていた人だから、もっと怖い人だと思ってた』
「期待を下回ったなら謝る」
『そういう意味じゃない。マチュが待っていた人なら、壊れる前にちゃんと戻ってきて』
「初対面から厳しいな」
『マチュを何度も待たせた人には、これくらいでいいと思う』
『ニャアン、もっと言っていいよ!』
「今は共闘する場面じゃなかったのか?」
『共闘してるよ。会話も一緒にしてるだけ!』
通信越しに、ニャアンが小さく息を漏らした。
笑ったのか、それとも呆れただけなのかは分からない。
ただ、ジフレドのエスビットから迷いが消え、白いガンダムの左右へ真っすぐ配置された。
シュウジは三機を見回しながら、ゆっくりサーベルを構え直す。
『三人で、この世界を守るんだね』
「守るだけじゃない」
俺はガンダムXの重心を落とした。
「終わらせるしかないって決めたお前を、話せる場所まで連れ戻す」
『僕はもう、十分に話しているよ』
『話してるんじゃなくて、決めたことを言ってるだけでしょ!』
マチュがジークアクスを前へ出す。
『私たちの答えを聞く気がないなら、止めてから聞かせる!』
『ずいぶん乱暴だね』
『シュウジにだけは言われたくない!』
ジークアクスが加速した。
赤い推進光が大きく円を描き、白いガンダムの視線を正面から奪う。シュウジはマチュへ向けて刃を上げるが、その回避先にはすでにエスビットが待っていた。
紫色の射線が右を塞ぐ。
シュウジが左へ機体を振ると、もう一基が下方から上昇し、次元裂け目への軌道を消した。
『正面しか残ってないよ、ランガ!』
「十分だ!」
ガンダムXを真っすぐ踏み込ませる。
白いガンダムのサーベルとこちらの刃が正面から噛み合い、衝撃が右腕を駆け上がる。HADESがコックピットへの撃墜線を表示するが、俺はそれを視界の端へ捨てた。
「関節駆動だけ読め。命を奪う線は要らない!」
シュウジが刃を引き、空いた左手をジークアクスへ向ける。
そこへジフレドのライフルが一発だけ撃ち込まれた。
白い腕が弾かれる。
『全部壊す必要はない』
ニャアンの声から、先ほどまでの揺れが消えていた。
『マチュへ伸ばす手だけ、止めればいい』
『ニャアン、今のすごく助かった!』
『あとでちゃんとお礼を言って』
『戦いが終わったら、何回でも言う!』
「その約束、今度は俺も証人になる」
『ランガは自分の約束を先に守って!』
「二人とも容赦がないな!」
三機の軌道が重なる。
マチュは白いガンダムの視線を引きつけ、斬撃を誘って急停止する。シュウジの刃が空を切った瞬間、ニャアンのエスビットがその腕の外側へ射線を置き、引き戻す方向を限定した。
俺は残された中央へ踏み込み、サーベルの側面で敵の武器を押し上げる。
白いガンダムが初めて大きく姿勢を崩した。
『今だよ、マチュ!』
『分かってる!』
ジークアクスが敵の懐へ入り、肩で胸部を押し込む。
ジフレドは逆側からビームサーベルを差し込み、白いガンダムの左腕を外へ固定した。俺は正面から右腕の刃を封じ、三機でシュウジの動きを止める。
誰か一機が力を抜けば、均衡はすぐに崩れる。
けれど、三人とも互いの位置を確認する声を出さなかった。
マチュが前へ出る速さを、ニャアンの射線が先回りし、俺は二人が作った狭い空間へ機体を置いていた。
合わせようと考えるより先に、三機の動きが噛み合っている。
赤い軌跡が敵を動かす。
紫の光が逃げ道を消す。
青白い刃が正面を支える。
白いガンダムが次元裂け目から少しずつ引き離されていく。
『シュウジ、もう終わりにしよう!』
マチュが叫ぶ。
『世界を終わらせるんじゃなくて、この戦いを終わらせるの!』
『それは無理だよ』
シュウジの声は、押さえ込まれた機体の中でも静かだった。