機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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Mysterious boy

クラバの賞金は、ある程度まで溜まっていた。

幸いと言うべきか、参加している連中の多くは“戦争”を知らない。

撃ち合いが「勝負」だと思っていて、撃ち合いが「生存」だとは思っていない。

俺にとっては、その差がそのまま勝敗になる。

 

「まぁ、これでしばらくは稼げるかな」

俺は端末の残高表示を閉じて、フードを深く被り直した。

 

「次の試合、来週な」

アンキーの声が脳内に残っている。

一週間で偽装改修を終わらせ、宇宙で動く“偽物”に身体を合わせる。

無茶だ。

でも、無茶の種類なら俺は慣れている。

 

「……地球に行く金。稼ぐだけなら、まだ足りる」

独り言が漏れる。

マチュの「本物を見たい」という声が、耳の奥でまだ温かい。

その温かさが、俺を動かしている。

 

「……それでも勝てる。勝てなきゃ意味がない」

そう言い聞かせて、ポメラニアンズの拠点へ向かう。

 

難民区域は、相変わらず空気が重い。

建物は継ぎはぎで、壁面は汚れていて、窓の光は弱い。

それでも人は住んでいて、笑っていて、たまに怒鳴っている。

戦争の匂いが薄い分だけ、別の匂いが濃い。

貧しさと、焦りと、諦め。

そして、何かを諦めきれない目。

 

「んっ」

足が止まった。

 

「……なんだ、今の」

胸の奥に刺さる、説明できない引っかかり。

俺はゆっくり周囲を見回し、視線が一つの壁に吸い寄せられた。

 

「あれは……」

壁一面に広がるグラフィティ。

色は暴れているのに、線が妙に整っている。

乱雑に見せて、意図がある。

意図があるから、怖い。

 

「これは……」

見たことがある。

いや、“似ている”では足りない。

あの光だ。

グリプスの終盤、Zガンダムから放たれた、あの言語化できない光。

ニュータイプの断末魔みたいな、世界の縫い目が裂けるような、あの発光に近い。

 

「Zガンダムから放たれた光と同じ……」

俺が呟いた、その瞬間だった。

 

「へぇ、君もガンダムを知っているのか」

背後から、気だるげで、妙に落ち着いた声。

 

「っ」

俺は振り返る。

反射で距離を取ろうとして、でも足が止まる。

止まったのは、相手が“敵意を見せていない”からじゃない。

相手の気配が、妙に薄いからだ。

薄いのに、存在感だけが刺さる。

 

そこにいたのは青髪の少年だった。

年はマチュと同じくらい、いや少し上かもしれない。

目が虚ろに見えて、でも視線だけは妙にまっすぐ。

ふわふわしているのに、芯だけが硬い。

そういう人間が一番危ない。

 

「……お前は、何者だ」

俺の声が低くなる。

警戒が勝手に前へ出る。

 

少年は肩をすくめるように笑った。

「僕かい? 僕はシュウジ」

淡々としている。

感情を使わずに言葉だけで立っている。

 

「シュウジ……」

聞いたことがない名前。

だが、“この世界”では有名なのかもしれない。

グラフィティを描いて軍警に指名手配されている不思議な少年——そういう人物像が、頭の隅で噛み合っていく。

 

「君は?」

シュウジが首を傾げる。

その動きが軽いのに、視線は俺の深いところを覗いてくる。

 

「……シローだ」

本名は出さない。

この世界の俺は“ランガ”として生きているはずだが、今の俺はその座にいない。

だから偽名で生きる。

それが俺の安全策だ。

 

「あれ、本当にそうなのかい?」

シュウジは、笑っていないのに、笑っているみたいな声で言った。

 

「何が言いたい」

俺は半歩だけ重心を落とす。

袖の中で、指がナイフの位置を確かめる。

平和の中でやる動きじゃない。

でも俺は平気でやってしまう。

 

「だって、君は乗っていたんでしょ」

シュウジが、壁の絵ではなく俺を見て言う。

「あの青い機体に」

 

「……クラバの事を知られたか」

舌の奥が苦い。

噂は広がる。

広がるのが早すぎる。

軍警だけじゃなく、こういう“妙な奴”にまで届いているなら、どこかで線が繋がる。

 

「それもあるね」

シュウジはあっさり認めた。

そして、さらっと言う。

「けれど、あの中に隠されているんでしょ。ペイルライダーが」

 

「っ」

心臓が一拍だけ遅れる。

俺は反射でナイフを抜き、シュウジに向けて構えた。

刃先が震えないのが、我ながら嫌だ。

 

「どこで気付いた」

声が冷える。

冷えるほど、相手を黙らせられる。

そういう技術を、俺は身につけてしまった。

 

シュウジは、刃を見ても顔色を変えない。

怖がらないのではなく、怖がるという反応が、最初から別の場所に置いてあるみたいだ。

 

「気付いたのもある」

「けれど、何よりも教えてくれたんだ」

 

「教えたって、誰が」

俺の問いに、シュウジは少しだけ目を細めた。

まるで、答えが当たり前すぎて、こっちが分からないのが不思議だと言いたげに。

 

「ガンダムが言っていたからね」

 

その言い方。

その“距離”。

背筋がぞくりとした。

「〜とガンダムが言っている」——あの妙な言い回しが、噂としてだけじゃなく、本人の口から出たことで現実になる。

 

「……ガンダムが?」

俺は思わず聞き返していた。

聞き返した瞬間、負けた気がする。

相手の土俵に片足を乗せてしまったから。

 

シュウジは頷いた。

「うん。赤いガンダム」

「探してるんだってさ。君の機体の匂いを」

 

「匂い……?」

俺は眉をひそめる。

理屈じゃない。

ニュータイプの話なら、言葉はいつも理屈を裏切る。

それでも、俺は理屈に縋るしかない。

 

「君、戦う人だよね」

シュウジが言う。

「でも、戦い方が“殺し”じゃない」

「壊して、奪って、逃げる」

「そういう癖、ある」

 

「……観察が趣味か」

俺は吐き捨てるように言った。

だが内心では、当たっていることが怖い。

俺の戦い方は派手じゃない。

派手じゃないからこそ、見抜く奴は少ない。

なのに、こいつは見抜いている。

 

「趣味じゃないよ」

シュウジは淡々と否定する。

「必要だから見えるだけ」

「僕も、必要だから描く」

 

「描く?」

俺は壁を見た。

あの光。

あの裂け目みたいな色。

Zの光に似ているのに、Zではない。

何か別の“向こう側”の匂いがする。

 

「この光、どこで見た」

俺は問いを突きつけた。

「俺は知ってる。戦場で見た。人が壊れる光だ」

 

シュウジは少しだけ目を伏せる。

「僕は……見たっていうより、聞いた」

 

「聞いた?」

言葉が理解に追いつかない。

光は見るものだ。

音じゃない。

 

「歌みたいなやつ」

シュウジは、こちらの混乱を気にしないまま言った。

「呼んでるんだって」

「だから、描く」

 

俺の脳裏に、死の直前の感覚が蘇る。

爆発じゃない。

沈む海みたいな感触。

歌声みたいな何か。

あれを、こいつも知っている?

 

「お前……その“歌”を、どこで」

俺の声が少しだけ揺れた。

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