機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re 作:ボルメテウスさん
その会話を行って、どれだけの意味があるのか分からなかった。
けれど、この時の俺は、どこか仮面を外して本心で話していた気がする。
自分でも踏み込んでほしくない部分が、皮膚ごと剥き出しになったような、あの嫌な感覚だ。
「はぁ、話はここまでだろうし、俺はもう行くからな」
「うん、僕もここで切り上げるよ、今夜はそれで十分だと思う」
互いに、もう追加で話す事などなかった。
会話が終わると、自然と出たのは別れの挨拶だった。
俺の中で振り返れた事と、これからも変わらずにやる事が、全部決まってしまったからだ。
決まった以上、俺は変わらないし、変われない。
「……そう言えば、ちゃんと名乗っていなかったし、今さらだけど名前を言う」
「そう言えば確かにそうだったし、ここまで来たら名前くらい言っても良いな」
俺は奴に眼を向け、フードの影のまま声だけを整えた。
名前を出すのは、弱みになる時がある。
けれど今の俺は、妙に腹を括ってしまっていた。
「ランガ・ロードという名前で、今はこの場所を歩いている」
「シュウジ・イトウという名前で、僕はここにいるし、また会うと思う」
シュウジの口調は、噂通り淡々としていて、言葉だけが重く落ちる。
あいつは軍警から指名手配されるほどの落書き描きで、目的のために金を稼ぐと言われているが、いちいち説明が少ないのに妙に刺さる。
「俺は別にまた会いたい訳じゃないが、変な縁は切れない気がしている」
「僕も同じ気分だし、ガンダムもまた会うと言っている気がする」
「あぁ、そうかよ、じゃあ互いに勝手に生き延びよう」
「うん、それが一番現実的だし、君の方が先に死にそうで心配だよ」
「あぁ、心配される筋合いはないが、そういう事にしておく」
「じゃあまたね、ランガはたぶん忙しくなるだろうからさ」
そう言って、俺達は別れた。
これから先、会わない可能性もあるはずなのに、なぜか会う気しかしない。
俺は歩き出しながら、胸の奥で小さく呟いてしまう。
「……ニュータイプだからか、それとももっと別の歪みのせいか」
用事を済ませて家に帰る。
マチュに余計な心配をかけないように、今夜は普通に夕飯を作る。
そう思って、冷蔵庫の中身を確認しながら鍋を火にかけた。
その途端、玄関のドアが勢いよく開いた。
「ランガ、今すぐ聞きたい事があるから、逃げないでちゃんと答えてよ」
「うわっと、何だマチュ、そんな勢いで入ると転ぶから落ち着け」
マチュの顔には怒りがあり、頬も少し赤い。
俺は咄嗟に、クラバがバレたのかと身構えた。
だが、次に出た言葉は予想と違った。
「ランガって機械に強かったよね、今すぐ協力してほしい事があるの」
「機械に強いのは否定しないが、今すぐって何が起きたんだよ」
「お願いだから今は細かい事を聞かないで、とにかくこれを見てよ」
マチュはそう言って、掌に小さな部品を載せて差し出してきた。
「んっ、これは配線と基板の切れ端みたいだが、何の回路なんだ」
「私もさっき調べたけど、モビルスーツの回路っぽいって出たんだよね」
「回路だとしたら危ない物の可能性もあるが、どこで拾ったんだよ」
「拾ったんじゃなくて、運び屋の子とぶつかってスマホが壊れたのが最初なの」
「運び屋という言葉が先に出るのが嫌な予感しかしないが、続きも聞くぞ」
「ぶつかった瞬間にその子が落としていったのが、たぶんこの回路の一部なんだよ」
「つまりマチュは、回路と運び屋と壊れたスマホが繋がっていると考えた訳か」
「そうだよ、だから修理代を払わせるためにも捕まえたいし、放っておくのも怖いの」
マチュの声は怒っているのに、根っこは怯えに近い。
俺の中で戦場人格が顔を出しかけるが、ここは日常だと必死に押し戻す。
日常の顔を保ったまま、俺は質問で状況を整理した。
「ぶつかった場所はどこで、相手の特徴は何か覚えているのか」
「難民区域の外れで、荷物を抱えてて、すごく焦って走ってた感じだったよ」
「走ってたなら追えば良かったと言いたいが、怪我はしていないのか」
「怪我はしてないけど、スマホは完全に画面が死んだし、私はめっちゃムカついたよ」
「ムカつくのは当然だが、相手が回路の運び屋なら下手に追うのは危ないぞ」
「だからこそランガに協力してほしいの、監視カメラとかで足取りを追えないかな」
マチュが手を叩いて頭を下げる。
その仕草のおかげで、俺の顔が少しだけ強張ったのを見られずに済んだ。
俺は一瞬だけ迷う。
監視カメラを追うという行為は、俺にとっては簡単だ。
簡単すぎるから、簡単に一線を越えてしまう怖さがある。
それでも、マチュが関わってしまった以上、放置はできない。
「もちろん協力するし、まずはマチュのスマホの破損状況も確認するぞ」
「本当にやってくれるの、やっぱりランガって頼りになるって思ってた」
「頼りになるとか言われると落ち着かないが、まずは落ち着いて時系列を話せ」
「うん、時間は夕方で、人通りは多くて、ぶつかった後すぐにその子はいなくなった」
「荷物の特徴は何かあったのか、箱か袋か、色や大きさは覚えていないか」
「黒いバッグで、重そうで、なんか金属が擦れる音がした気がするんだよね」
「金属音とモビルスーツ回路なら、軍警が嫌がる案件の匂いが濃いな」
「でしょ、だからなおさら放置したくないし、私のスマホ代も返してもらうの」
「返してもらうのは良いが、マチュが単独で動くのは絶対に駄目だぞ」
「え、私ってそんなに信用ない感じなの、ちょっと傷つくんだけど」
「信用の問題じゃなくて危険管理の問題で、俺が今から一緒に動くって話だ」
「じゃあ約束だよ、勝手に一人で突っ走ったりしないで、ちゃんと一緒に動いてね」
その台詞が胸に刺さる。
本当は逆だ。
突っ走りそうなのは俺の方だ。
運び屋が絡むなら、俺は“最短で無力化”を選びやすい。
それがマチュの望む解決じゃないと分かっているのに、手が勝手に動きたがる。
「分かったし、まずは監視ログを当たって、相手の逃げた方向を特定する」
「うん、私もできる限り思い出すから、何でも聞いてほしいって思ってる」
マチュはそう言って、回路の切れ端を大事そうに机へ置いた。
その扱いが雑ではないのが、余計に怖い。
好奇心が先に立つと、危険物は“面白い物”に見えてしまうからだ。
「とりあえずその回路は触らずに置いておけ、指紋や油分が付くと追跡が鈍る」
「え、追跡ってそこまでやるの、なんか急に本格的で怖いんだけど」
「怖いと思えるうちは大丈夫だし、怖いなら余計に俺の横を離れるな」
「分かったよ、だから早くやろうよ、私のスマホの恨みは深いんだからね」
俺は頷き、端末を開いて監視網の位置を頭の中で組み立てる。
サイド6の警備はザルだ。
だから侵入できる。
侵入できるという事実が、俺の中の戦場人格を少しだけ喜ばせる。
それが嫌で、俺は口の中で小さく釘を刺す。
「……殺しはしないよ、殺しはな」
「え、今なんか物騒な事を言わなかった、ランガってばさ」
「聞き間違いだと言いたいが、危険はあるから最悪の想定はしているだけだ」
「最悪の想定って、スマホ修理の話が急に宇宙戦争みたいになってない」
「宇宙戦争みたいに見えるのが日常なんだよ、と言いたいが黙って進める」
「黙るのはやめてよ、黙ると余計に怖いし、ちゃんと説明してほしいんだけど」
「説明するし、今はマチュが巻き込まれた相手の正体を見極めるのが先だ」
「正体が分かったらどうするの、私が直接文句を言ってやるからね」
「文句は俺が言うし、マチュは距離を取って、危なくない位置で見ていろ」
「それじゃ私が何もしないみたいで嫌だけど、でも約束したから従うよ」
「従うと言えるだけで十分だし、俺はその約束が一番ありがたい」
俺はそう言いながら、監視カメラの死角と、難民区域の逃走経路を頭の中で重ねる。
シュウジと別れた直後の、この出来事。
偶然にしては、タイミングが良すぎる。
運び屋が運んでいた“回路”が、もしモビルスーツの中枢部品なら、軍警が動いている理由にも繋がる。
そして、軍警が動く場所には、赤いガンダムの影が差しやすい。
最悪の想定が勝手に増殖していく。
「ランガ、顔が真剣すぎて逆に怖いし、ちょっと深呼吸してほしいんだけど」
「分かったから深呼吸するし、マチュも落ち着いて自分の安全を最優先にしてくれ」
「安全最優先って言われると、なんか本当にヤバい事みたいに聞こえるじゃん」
「ヤバい可能性があるから安全最優先なんだよ、と今はそれだけ理解してくれ」
マチュは不満そうに唇を尖らせたが、最後には小さく頷いた。
その頷きが、本物の重さを持っている。
偽物の空の下でも、こういう瞬間だけは本物だ。
だから俺は、守る。
守るために、また一歩だけ戦場へ近づく。