機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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testing each other

ニャアンが、マチュのスマホを壊した犯人だ。

その事実を頭の中で転がした瞬間、俺は妙に迷ってしまった。

ニャアンの境遇は、あの難民区域で少しだけ聞いている。

空腹を隠すのが下手で、怖がりなくせに逃げ場もなくて、それでも何とか生き延びているタイプの子だ。

そういう相手から金を取るのは、正直、気分が悪い。

けれど、金を取らなければマチュの怒りは収まらないし、収まらないまま夜を越えさせたら、俺の方が眠れなくなる。

 

「まぁ、筋だけは通すしかないよな、修理代は払わせて、後で俺が返せばいい」

そう決めた瞬間、心の中の冷たい部分が少しだけ楽になった。

俺は優しい人間ではないが、無駄に残酷な真似はしたくない。

 

「……ここが配達先なの」

マチュが先に言い、壊れたスマホを見せつけるように掲げる。

 

「そっ、そう……ここ……」

ニャアンは声が震えていて、足が止まりかけている。

 

俺は目の前の建物を見て、反射で目を細めた。

見覚えがあるどころじゃない。

ここは、ポメラニアンズの拠点だ。

 

「あぁ……マジかよ」

声が勝手に低くなる。

嫌になるぐらい偶然が重なっている。

マチュのスマホを壊した犯人がニャアンで、ニャアンの配達先がポメラニアンズで、俺はポメラニアンズの“シロー”として勝ってきた張本人だ。

この状況で正体がバレたら、面倒どころじゃ済まない。

 

(とりあえず恨むぞニャアン、いや恨んでも意味がないけど恨むぞ)

そう思った瞬間、ニャアンが「ひぃ」と小さく息を漏らしたが、今は気にしている余裕がなかった。

 

「とりあえず入ろうか、ここで立ち話しても目立つだけだぞ」

俺が言うと、ニャアンは目を泳がせる。

 

「えっ……いや、その……入るって……」

ニャアンの拒否が出る前に、マチュが一歩前に出た。

 

「おっおぅ……じゃなくて、マチュ待て、心の準備がいる」

俺が止めるより早い。

マチュは堂々とインターホンを押した。

 

「こんにちは、お急ぎですかと一応聞いておきますね」

扉の向こうから、棒読みの少女の声が返ってくる。

 

「はい、急ぎですし修理代も急ぎなので開けてください」

マチュの返しが遠慮ゼロで、俺は胃がきゅっと縮んだ。

 

ロックが外れる音がして、扉が少しだけ開いた。

中を覗いた瞬間、奥の暗がりから腕だけが伸びてきて、「こっちに来い」と言わんばかりに手招きしてくる。

 

「……あっ、あの、私、ただの配達で……」

ニャアンが消え入りそうな声で言う。

 

「いいから入れ、外で喋ると余計にサツに見つかるぞ」

俺が低く言うと、マチュが俺を横目で見た。

 

「ランガ、今の言い方が完全に裏の人なんだけど大丈夫なの」

「大丈夫じゃないから急いで入るんだ、そこは察してくれ」

 

三人で中へ入った途端、怒鳴り声が飛んできた。

 

「なにサツにバレてんだよ!! お前が捕まれば俺たちも見つかる事になるんだぞ!!」

ジェジーだ。

声の圧が強いのに、焦りが滲んでいて、余裕のなさが見える。

 

「いやいや待ってください、サツじゃなくてスマホが死んだだけです」

マチュが即座に訂正して、ジェジーが一瞬固まった。

 

「……は? スマホ?」

ジェジーの声が素に戻る。

 

「そう、スマホです、あなた達の配達員がぶつかって壊したので修理代です」

マチュは一歩も引かない。

この子は平和の中で育ったくせに、交渉だけは戦場並みに強い。

 

ニャアンが肩をすくめる。

「えっと、その、今日中に届けないと、先払いの分が……」

 

「でも今日中にって、ね?」

ケーンが奥から顔を出し、端末を振りながら妙に軽い声を出す。

 

「先払いなんだから当たり前でしょ、遅れたら次の試合に間に合わないんだから」

アンキーの声が続く。

 

(いや、それだったら前回の時に、慌ててマシンガンを撃つなよ、そのせいでこっちは次の試合までに部品が必要になったんだろうが)

俺は心の中で突っ込みながら、フードの影で口元を押さえた。

この場で俺がボヤけば、話が余計に拗れる。

 

マチュがジェジーにスマホを突き出す。

「とりあえず修理代払って、これ完全に画面が死んでるからね」

 

ニャアンが泣きそうな顔でバッグを抱え直す。

「えっと、その……今すぐは……」

 

「だったら届けて金を作れ、その上で払え、それが筋だろ」

俺はなるべく穏やかに言う。

穏やかに言いながら、逃げるなと目で言う。

 

ニャアンが小さく頷く。

「……うん……」

 

ジェジーが俺に視線を向ける。

「てめぇ、さっきからグチグチ言ってるんじゃねぇぞ」

 

「いや、その金、俺が勝った賞金だろうが、そこは一回落ち着け」

俺が言うと、ジェジーの眉が跳ねた。

 

「止めときな」

アンキーが割って入る。

「それをされたら、こっちが困るからだよ、そうだろ」

 

俺は一瞬、背筋が冷えた。

アンキーは、俺の“正体”までは掴んでいないはずだ。

けれど、掴みかけている匂いがする。

この女は、視線の使い方が戦場のそれに近い。

 

「……さぁ、何の事でしょうか、俺はただのどこにでもいる普通の高校生ですけど」

俺はわざと軽く言い、逃げ道を用意した。

 

「えっ」

ニャアンが信じられないものを見る目をした。

そのリアクションをされると面倒だ。

 

「そうだぞニャアン、俺は普通の高校生なんだから、今の目はやめろ」

俺が言うと、ニャアンは慌てて視線を逸らす。

 

アンキーが笑う。

「ただの高校生ねぇ、まぁその制服も本物だし高校生なのは間違っていないね」

 

「えぇ、そうでしょ、だから変な詮索はやめてください」

俺は笑って返し、腹の探り合いを終わらせる。

終わらせないと、マチュが気付く。

 

その時、マチュの視線がふと、壁際に置かれた旧型ザクの部品へ吸い寄せられた。

目が少しだけ、憧れの形になる。

あの目は危ない。

夢を見る目だ。

 

「……モビルスーツ」

マチュが小さく呟く。

 

「どうしたんだ、急に黙って見つめて」

俺が訊くと、マチュは視線を外さずに、ぽつりと言った。

 

「空って、自由ですか」

 

その場にいた連中が、揃って固まった。

ジェジーは口を半開きにし、ケーンは端末を持った手を止め、アンキーだけが表情を変えずにマチュを見ていた。

ニャアンは板挟みのまま、息を止めている。

 

「自由か……」

俺はその言葉を口の中で転がす。

少なくとも、俺の知る宇宙に自由なんてなかった。

宇宙は、逃げ場のない箱で、撃てば撃たれるだけの空間で、自由に見えるのは慣性だけだった。

 

「マチュ、自由ってのは……」

答えようとして、言葉が止まった。

俺が真実を言えば、マチュの夢を汚す。

俺が嘘を言えば、いずれマチュが現実に叩き落とされる。

どちらも嫌で、俺は一瞬だけ沈黙した。

 

その沈黙を切り裂くように、床がうねった。

 

ドン、と腹の底に響く衝撃。

金属が軋む音。

照明が一拍遅れて揺れ、工具が机から滑り落ちる。

 

「っ……地震!?」

マチュが声を上げる。

 

アンキーが即座に叫んだ。

「全員、姿勢低く! 落下物に注意しな!」

 

俺は反射でマチュの肩を引き寄せ、壁際に押し込む。

この揺れは、ただの建物の揺れじゃない。

コロニー全体が鳴っている。

嫌な鳴り方だ。

まるで巨大な何かが、外側から叩いたみたいな。

 

「ランガ、なにこれ、怖い!」

「大丈夫だ、まずは頭を守れ、俺から離れるな!」

 

揺れがさらに大きくなる。

俺の中の戦場人格が、はっきりと目を覚ました。

これは事故じゃない。

事故に見せかけた“何か”だ。

そう確信してしまう自分が、ひどく嫌だった。

 

そして嫌な確信のまま、俺は思う。

今日の偶然は、偶然じゃない。

ニャアンの荷物も、マチュの壊れたスマホも、ここに集まった俺たちも。

全部が、この揺れへ繋がっている気がした。

 

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