機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re 作:ボルメテウスさん
あれから俺は、徹夜で調べ続けた。
眠ろうとしても、瞼を閉じた瞬間に“虹”が浮かぶ。宇宙の暗さの中で、あり得ない色が割れて、地球が見えて、アクシズが落ちて、νガンダムが叫ぶ。
あの光景が幻だとしても、幻を見た事実は消えない。幻じゃないなら、なおさら消えない。
だから俺は眠るのを諦めて、端末とパソコンにかぶりつくように情報を繋いだ。
「……原因は何だ」
独り言が、やけに部屋に響く。
「二体のガンダムが戦った理由。軍警がスラムを踏み荒らした理由。赤いガンダムが現れた理由。マチュが“自然に”動かせた理由」
結論だけなら早い。
今回の二体のガンダムの戦いは、ジオンが絡んでいる。
ニュースに出ている“ソドン”の名も、そこに繋がっている。
こっちの世界の情報は断片的で、意図的に隠されている部分もあるが、それでも「関係者の名前」だけは拾える。
「少しは考えていたが、まさかジオンが関わっているとはな」
俺は息を吐く。
ジオンが勝った世界。
その勝利が、平和を作ったわけじゃない。
ただ支配者の制服が変わっただけで、スラムの息苦しさは残ったままだ。
「……けど、こいつ」
画面の中で、俺の視線を引っ掛けた人物がいた。
シャリア・ブル。
一年戦争で活躍した人物。
別名――木星帰りの男。
「木星帰り……」
その通り名を見た瞬間、胃の底が冷えた。
俺の記憶が勝手に一人の男を引きずり出す。
パプテマス・シロッコ。
俺が前の世界で、最期に戦った敵。
黄色い巨体。余裕の声。人間を“駒”として扱う眼。
あいつの脅威は今でも骨の内側に残っている。
そして、木星という言葉は、どうしてもあいつに繋がる。
「……冗談じゃない」
俺は言葉にして、ようやく呼吸を戻した。
シャリア・ブルとシロッコが同一人物だなんて、普通なら荒唐無稽だ。
でもこの世界は、荒唐無稽が現実を名乗る。
ジオンが勝ち、シャアがガンダムに乗り、英雄アムロの名が消える。
その時点で“普通”は死んでいる。
「この世界のクワトロ大尉……いや、シャアですら名前を偽った」
俺は画面をスクロールしながら呟く。
「なら、シロッコだって本気で身分を隠すだろうし……そもそも“シロッコ”という名前自体が偽名だった可能性もある」
考えれば考えるほど、嫌な形で筋が通る。
シャリア・ブルの経歴には、穴がある。
公的な記録は整っているのに、肝心な部分が薄い。
まるで“誰かが整形した履歴書”みたいに綺麗すぎる。
そして何より、木星帰りという肩書きが危険だ。
木星帰りの男は、いつだって世界を動かす。
「こいつと会ったら、何かヤバい」
俺はそう結論づけた。
向こうが俺の存在を認知しているかは分からない。
分からないからこそ、最悪の想定で動くしかない。
「……証拠を消す」
端末の履歴を一つずつ削り、アクセスログを迂回して、足跡を薄くする。
本当ならクラバの参加履歴だって消したい。
だがそれを消したら金が消える。
金が消えたら地球行きが消える。
地球行きが消えたら、マチュの“本物”が遠ざかる。
「クラバをどうするか、だな」
俺は椅子に沈み、天井を見上げた。
もしシロッコ級の男が俺の戦いを見れば、興味を持つ。
興味を持った瞬間、あいつは動く。
動いたら終わりだ。
俺が勝てるかどうかじゃない。
勝てたとして、その先でマチュを守れるか。
守れたとして、それで彼女を幸せにできるか。
「はぁ……だとしたら、どうするべきか」
独り言が増えるほど、心が狭くなる。
今回の一件で、マチュは確実にクラバに興味を持った。
目が輝いていた。
怖いと言いながら、綺麗だと言った。
あの目は、戦場の入口に立った目だ。
本来なら、俺が組んでカバーするのが一番安全だ。
俺が隣にいれば、死角も射線も推進剤も管理できる。
だが、これ以上俺の姿を表に出す訳にはいかない。
軍警は嗅いでいる。
赤いガンダムも嗅いでいる。
そして“木星帰り”が動いているなら、なおさらだ。
「だからって、あの下手くそ野郎に任せる訳にはいかないだろ」
俺は腕を組み、マヴ相手の顔を思い出して舌打ちした。
ジェジーの操縦は悪くない。
悪くないが、守るための操縦じゃない。
勢いと根性で押し切るタイプだ。
マチュの隣に置いたら、事故る未来しか見えない。
「……誰だ」
「マチュを安心して任せられる奴」
「腕があって、余計な欲が薄くて、何より歪みの気配に鈍感じゃない奴」
そこで、俺の脳裏に一人の顔が浮かんだ。
青髪の少年。
淡々としていて、ふわふわしていて、言葉だけが妙に刺さる。
そして、赤いガンダムと“何か”で繋がっているやつ。
「あ……いた」
声に出してしまって、自分でも苦笑した。
「シュウジ」
未だに分からない奴だ。
だが実力は信頼できる。
というより、信頼できる“動き”をしていた。
あの目。あの距離感。
そして、こちらの核心に触れてくる嗅覚。
危険だが、危険だからこそ使える。
「とりあえず、頼みに行くか」
俺は端末を開き、ポメラニアンズの通信アプリではなく、別の回線を使ってアンキーに短文を送った。
――“シュウジに繋げる手段あるか”。
すぐに既読がついたのが腹立たしい。
この女、寝てないのか。
『あるよ』
返事は短い。
『でも理由を言いな。私の手を借りるならね』
「……理由か」
俺は唇を噛む。
ここで本音を言えば、また一段、面倒が増える。
だが嘘を言えば、アンキーは嘘を嗅ぐ。
『マチュを巻き込みたくない』
俺はその一行だけ打った。
これ以上は言わない。
言った瞬間に、マチュが“人質”になる未来が見えるからだ。
しばらくして、アンキーから座標が送られてきた。
難民区域の外れ。
例のグラフィティの近くだ。
あいつは、あそこにいる。
「……分かりやすい」
俺はフードを掴み、立ち上がった。
眠気はない。
あるのは焦りだけだ。
「マチュの自由を守るには、先に“選択肢”を用意しないといけない」
俺はそう呟き、部屋を出た。
シュウジに頼むのは危険だ。
だが、危険を避け続けた先には、もっと大きい危険が待っている。
俺はそれを知っている。
だから、行く。
歪みの中心に近い人間に、頼みに行く。
俺が嫌う“戦場の呼吸”を、マチュの隣に置かないために。