機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

25 / 46
Secretly operating

「さてっと、これからどうするべきか」

俺は息を吐いて、天井――いや、正確にはコロニーの外壁越しに浮かぶ“影”へ視線を向けた。

 

頭上に見える戦艦。

形だけなら、俺の知る歴史で何度も見た輪郭だ。

一年戦争を勝利へ導いた伝説の戦艦、ホワイトベース。

戦いの終わりと共に、時代の役目を終えて散っていったはずのあの船。

 

それがこの世界では、クワトロ大尉――シャア・アズナブルに鹵獲され、ジオンの象徴として“ソドン”へ改造されている。

冗談みたいな話なのに、目の前にあるのは冗談ではなく現物で、夜の闇の中でも堂々と存在している。

この世界は、正史が逆流しているわけじゃない。

逆流した水が、別の水路を勝手に掘って、そこに町まで作ってしまったみたいな歪み方をしている。

 

「……ジークアクスはジオンの兵器だ」

俺は口の中で確認するように呟き、端末の画面を見下ろした。

ジークアクスがジオン側の機体である事実は、俺の中でほぼ確定している。

それに、オメガ・サイコミュなんて名前のデバイスが搭載されている時点で、嫌な予感しかない。

ジオンとニュータイプ研究。

俺が知る限り、この二つがまともに手を繋いだ歴史は一度もない。

まともに手を繋ぐどころか、たいていは人間の尊厳を踏み潰して、その上に“進化”という言葉を飾り立てる。

 

「最悪の組み合わせだな、ジオンとニュータイプ研究所が関係している可能性が高い」

その推測を口にした途端、背筋が少しだけ冷えた。

推測が当たっていたら、マチュは今すでに“狙われる理由”を抱えている。

狙われる理由を抱えたまま、クラバに興味を持ち、空を綺麗だと笑っている。

これが平和なら、平和は残酷すぎる。

 

オメガ・サイコミュについて調べたくても、壁が硬い。

情報のロックが硬いというより、触れた瞬間に「触れたことが相手に伝わる」タイプの硬さだ。

下手に深掘りすれば逆探知される。

逆探知されたら、俺の隠しているものが全部、一本の線で繋がる。

繋がったら最後、軍警だけじゃなく、ジオン側の回収部隊だって動く。

そして、動いた先にいるのが“シャリア・ブル”なら、なおさら厄介だ。

 

「俺自身は普通の学生って立場だから、設備を整えることもできない」

言いながら、自分で苦笑した。

普通の学生の皮を被っているだけで、中身は戦場の生存者だ。

だが皮を破れば終わる。

皮を破れば、マチュが俺を見る目が変わる。

その変化が怖い。

怖いという感情すら、俺はちゃんと持ち続けたい。

 

「ポメラニアンズに頼るのも無理だし、あいつらを巻き込むのは論外だ」

アンキーもケーンもジェジーも、裏の匂いを嗅ぎ分ける鼻を持っている。

だが、彼らの鼻が嗅げるのは“金になる危険”までだ。

“世界の歪み”は金にならない。

金にならない危険は、裏社会でも扱いが雑になる。

雑に扱われた結果、守りたいものが巻き込まれる。

それだけは許せない。

 

ため息を吐いても問題は消えない。

むしろ今は、問題が増え続けている。

目を逸らせば逸らすほど、マチュが一番近い距離で巻き込まれる。

 

「……ジオンが隠していた兵器を強奪したんだ」

俺は“強奪”という言葉の重さを噛み締めた。

本人たちは盗んだつもりもないだろう。

マチュは導かれて乗った。

俺は守るために戦った。

結果として、ジオンの隠し球をスラムの連中が握っている形になっている。

そんなものを、ジオンが放置するはずがない。

 

「そんなに遠くないうちに、ジオン側が動く」

俺は断言に近い声で言った。

動かなかったら動かなかったで、その裏にもっと嫌な意図があるだけだ。

 

そして、最悪なのが――。

 

「ザビ家の連中がほとんど生き残っている」

資料だけで読んだ名前が、今の世界では“現役”で息をしている。

ギレンとキシリア。

この二人が生き残っているというだけで、未来は十分に地獄になれる。

勝者が変わっても、権力の匂いは変わらない。

権力の匂いが変わらないなら、踏み潰されるのはいつも弱い側だ。

 

「このままジークアクスを放置するとは考えにくい」

俺はモニター上の監視映像を思い返す。

マチュが乗る前のジークアクスは、頭部のアンテナが閉じられていた。

閉じられているアンテナは、ただの収納ではない。

“封印”だ。

機体の能力が完全に解放されていない証拠であり、同時に解放された時に何が起きるか分からない証拠でもある。

 

「……つまり、まだ本気を出していない」

俺の喉が渇く。

本気を出していないものを、マチュが“自然と動かせる”と言った。

それがどれだけ危険か、説明する言葉を俺は持っていない。

言葉を持っていないから、手を打つしかない。

 

けれど、悲観だけでもない。

俺は画面を閉じずに、別の可能性を頭に並べる。

 

「交渉の材料には、なるかもしれない」

少なくとも、マチュの身の安全を保証する条件を引き出すためのカードにはなり得る。

交渉の相手がまともなら、だが。

まともじゃない相手なら、交渉の材料は“餌”になる。

餌になったら、こっちが釣られる。

釣られた先に待っているのは、マチュの涙か、マチュの血だ。

俺はそれを想像して、指先が震えそうになるのを抑えた。

 

「ポメラニアンズにバレる前に、ザクの映像データを抜き取っておいて正解だったな」

そう呟きながら、俺は映像の中の“顔”を拡大する。

軍警ザクに乗っていた、若い青年の顔。

まだ戦場の顔じゃない。

制服の着こなしも固く、目つきも“仕事”としての硬さが先に立っている。

つまり、軍に入りたてのエリートだ。

訓練は受けているが、汚れ方を知らないタイプ。

 

「エリート……か」

俺は一瞬だけ、嫌な記憶を引っ張り出しかけた。

ジェリド。

あの手の若いエリートは、正義を盾にして簡単に人を踏む。

だが、今は関係ない。

今必要なのは、恨みではなく情報だ。

 

シュウジから聞いた話でも、戦闘技術はある程度あるらしい。

なら、口も固い可能性がある。

口が固いなら、固い口を開かせる方法を選ばなければならない。

ただし、マチュの目の前でやる方法は選ばない。

俺の戦場人格は便利だが、便利なものほど日常を汚す。

 

「まず、最初にこいつを探し出して、情報を聞き出す」

俺は画面の中の青年の顔を見つめたまま、手順を頭の中で組み立てる。

「話はそれからだ」

 

言い切った瞬間、背後の闇の中で、マチュの寝顔が浮かんだ気がした。

昨夜の寝息。

あの無防備な呼吸。

守りたいものが“目標”になると、人間は恐ろしく強くなる。

同時に、恐ろしく弱くもなる。

俺はその両方を抱えたまま、次の一手を選ばないといけない。

 

「……俺は出られない」

クラバに出ない。

目立たない。

それがシロッコ――いや、シャリア・ブルがシロッコ級だと仮定した場合の最善手だ。

だが、マチュは出る。

出るなら、出るなと言うより、出るなら勝てと言うより、出るなら“死ぬな”と言うしかない。

 

「そのために、シュウジに頼んだ」

頼んだことが正しいかは分からない。

だが、頼まないよりはマシだ。

少なくとも、マチュの横に“戦い方を知っている”影を置ける。

それだけで生存率は上がる。

上がるが、ゼロにはならない。

 

俺は端末を閉じて、暗い天井を見上げた。

ソドンの影が、そこにある。

ホワイトベースの影が、ジオンの影になっている。

それはつまり、この世界が“勝者の正義”で塗り替えられている証拠だ。

 

「……自由なんて、どこにもないな」

口にしてから、昨日マチュに答えられなかった質問を思い出す。

空は自由か。

宇宙は自由か。

俺は答えを持っていない。

だが、ひとつだけ答えられることがある。

 

「自由がないなら、せめて生きて選べるようにする」

俺はそう決めた。

マチュが選べるように。

マチュが帰ってこれるように。

そのために、まず軍警の青年を探す。

探して、情報を抜く。

必要なら、俺は嫌われてもいい。

嫌われたとしても、マチュが生きていれば、それでいい。

 

「……行くか」

俺は立ち上がり、フードを手に取った。

夜の闇は、俺を隠してくれる。

隠しながら、守る。

それが今の俺の戦い方だ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。