機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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revenge

俺達は、そのままマチュから離れた。

離れた、と言っても距離を取っただけで、俺の意識はずっと背後の彼女に貼り付いたままだ。

マチュを背中に置くのは嫌だった。

守るなら前に出すべきじゃない。

けれど、ここでマチュを前に出した瞬間、会話が交渉じゃなく“脅迫”になる。

そうなれば、相手は喜んでそれを利用する。

だから俺は、マチュが耳を澄ませても言葉が届きにくい位置まで歩き、そこで止まった。

 

振り返る。

眼前にいる女は相変わらず穏やかな笑みを浮かべている。

顔だけ見れば、どこにでもいる“優しいお姉さん”だ。

だが、そういう仮面の下にこそ刃がある。

俺の直感は最初からそう言っている。

 

「そんなに睨まなくてもいいわよ」

女は肩をすくめるように言った。

「別にあなたと戦う気はないのだから」

 

「……よく言うぜ」

俺は低く返す。

「殺気を隠す気もない奴が」

 

女の笑みが、ほんの少しだけ濃くなる。

「殺気は殺気でも、私が殺したい相手はあなたでも、あの可愛い彼女さんでもないわよ」

 

その“可愛い彼女さん”という言い方が癪に障る。

わざとだ。

わざと俺の反応を引き出して、俺が守りたいものの輪郭を確かめている。

この女はそういう距離の詰め方をする。

 

「だったら、誰だよ」

俺は短く切り返す。

無駄に熱を上げない。

熱を上げた瞬間、相手の土俵になる。

 

女はあっさり答えた。

「赤いガンダム」

 

その単語が出た瞬間、背中の毛が逆立つ。

予感が当たったからじゃない。

“当たってしまった”ことが、今の状況の最悪を証明したからだ。

 

女は俺の目を覗き込みながら、淡々と続ける。

「シロー。最近になって現れた謎のガンキャノン使い」

「最初は事務所の知り合いに聞こうと思ったのだけど、それよりもあなたに聞いた方が早いと思っただけよ」

 

シロー。

その名を、ここで呼ぶ。

呼ばれるだけで胃が冷える。

この女は、俺が隠したいところへ正確に指を突っ込んでくる。

 

「知り合いね」

俺は歯の裏で舌打ちしそうになるのを堪えた。

「それで、もし俺が知ってたとしてどうする」

 

「そうね」

女はまるで食事のメニューを選ぶみたいに軽い声で言う。

「できれば会わせてほしいわね。ぜひ」

 

「殺すためにか」

俺が問うと、女は笑いも変えずに頷いた。

 

「ええ、もちろん」

 

その返答が軽すぎて、逆に寒気がした。

人を殺すという言葉を、雑談の調子で口にできる人間は厄介だ。

それは覚悟があるからじゃない。

“手段として慣れている”からだ。

 

俺は、わざと殺気を少しだけ滲ませる。

相手がそれを飲み込めるかどうかで、こちらのやり方が変わる。

 

「赤いガンダムは、ここ最近は誰も殺していないはずだ」

俺は言った。

事実の確認でもあり、牽制でもある。

 

女は一拍も置かずに返す。

「ええ、殺したのは、あの戦争の時」

「私のマヴを殺したからよ」

 

「……復讐か」

俺の声が少しだけ低くなる。

 

「ええ、そうよ」

女は即答した。

即答しすぎて、そこに迷いがないことが分かる。

 

それでようやく、俺は腑に落ちた。

この女が気に入らない理由。

会った瞬間に感じた嫌な共鳴。

目の前にいるのは、過去の俺だ。

復讐にしか目が向かなかった頃の俺。

いや、もしかしたら今の俺もまだ、その影を引きずっている。

 

「復讐しか考えなかったのか」

俺が吐き捨てると、女は肩をすくめるように笑った。

 

「……あの戦争で赤いガンダムがいなくなった時には、もう諦めたわ」

「今は優しい旦那もいるし、可愛い坊やもいる」

「とても幸せよ」

 

その“幸せ”という言葉が、俺の神経を逆撫でした。

幸せを持っている人間が、幸せを理由に復讐へ戻る。

それは、贅沢だ。

贅沢だからこそ、腹が立つ。

 

「……なのに復讐を成し遂げたいのか」

「死ぬかもしれないのに」

 

「その通りよ」

女は平然と言った。

 

俺の中で苛立ちが膨らんで、抑え方が分からなくなる。

抑えなければ、マチュに聞こえる。

マチュに聞こえたら、マチュはここに踏み込む。

踏み込ませたくない。

踏み込ませたくないのに、俺の言葉が止まらない。

 

「……そのたった一つすら手に入れられない不幸を知らないから言えるんだよ」

俺は吐き出す。

「たった一つでも幸せなら十分だろ」

「それを二つも手に入れてるのに、まだ足りないのか」

 

女の笑みが、少しだけ薄くなる。

薄くなるのは、俺の言葉が刺さったからだろう。

でも刺さっても止まらない。

この女は止まらない。

 

「……まるで、あなたは全部失ったみたいね」

女が静かに言う。

その“全部”という単語が、胸に刺さる。

刺さるから、俺は答えてしまう。

 

「ああ、失ったさ」

「けど、たった一つの幸せが戻ってきた」

俺は言葉を噛む。

「それがどんなに幸福か、分からないのか」

 

女は目を細めて、笑い直した。

「私、かなり欲張りなのよ」

 

互いに譲らない。

譲る気もない。

このまま話しても無駄だ。

無駄なのに、無駄な会話の中で“地雷”だけが増える。

だから俺は、話を終わらせる形を選ぶ。

終わらせ方は一つ。

相手が欲しいものを餌にして、相手の行動を縛る。

 

「……さっきの話を聞く限り」

俺は目を細める。

「あんたもクラバに出るつもりか」

 

「ええ」

女が短く頷く。

その頷きは、戦場の頷きだ。

迷いがない頷き。

 

「なら」

俺は一歩だけ踏み込み、声をさらに低くした。

「そこで俺に勝てたら、赤いガンダムの居場所を教えてやる」

 

「……へぇ」

女の表情が変わった。

さっきまでの温厚な笑みが消える。

その顔が本性だ。

獲物を見つけた捕食者の目だ。

 

「それで、あなたが勝ったら?」

女が問い返す。

 

「二度と赤いガンダムに関わるな」

俺は言い切った。

条件は単純な方がいい。

複雑にすると、相手は抜け道を作る。

 

女は鼻で笑う。

「……それを飲むとでも?」

 

「飲め」

俺は言い捨てる。

「飲まなきゃ、あんたは赤いガンダムに近づけない」

「けど、飲めば確実に近づける」

「悪くない話だろ」

 

女は黙って、俯瞰するように考え込んだ。

目が遠くを見る。

遠くを見る目は、計算している目だ。

計算している時の人間は、相手を“数字”として扱う。

その数字の中に、マチュを入れられたら終わりだ。

俺はそれを許さない。

 

しばらくの沈黙の後、女は口角を上げた。

 

「いいわ」

「その話、乗ってあげる」

 

その言葉が落ちた瞬間、俺の背中の警報は鳴り止まなかった。

鳴り止まないどころか、もっと鋭く鳴る。

この女は、約束を守るタイプじゃない。

守るように見せて、守らない抜け道を探すタイプだ。

だから俺は、ここでさらに釘を刺す。

 

「約束を破ったら、今度は俺があんたを止める」

俺が言うと、女は楽しそうに笑った。

 

「止められるものなら、止めてみなさい」

その笑い方は、復讐者の笑い方だった。

 

俺はその場で踵を返す。

ここ以上話すと、マチュの世界が汚れる。

汚れたら、もう戻らない。

俺は戻したい。

戻したいのに戻せないなら、せめて壊さない。

 

背後にマチュがいる。

振り返らなくても、彼女の気配が分かる。

きっと不安そうに見ている。

だから俺は、マチュの方へ戻るための足を進めながら、心の中でだけ言った。

 

(クラバで決着をつける)

(俺が出られないなら、別の形で戦う)

(そしてマチュを巻き込ませない)

 

そう決めた。

決めた瞬間、胸の奥に嫌な予感が残る。

決めたことで、もう引き返せない予感が。

 

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