機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re 作:ボルメテウスさん
宇宙へと出た瞬間、俺は何度経験しても消える事のない、あの独特の静けさを感じていた。
サイド6の外壁から漏れる人工の光が遠くに滲み、その周囲には、クラバの戦場としては都合の良いデブリ帯が広がっている。
視界が悪い訳ではない。
けれど、死角が多い。
だからこそ、こういう場所では機体性能や武装以上に、操縦者の癖と判断力が物を言う。
『ランガ、聞こえてる。こういう時はどうすれば良いの』
通信越しに聞こえたマチュの声は、緊張を隠しきれてはいなかったが、それでも以前よりはずっと落ち着いていた。
ジークアクスを動かす事にも慣れ始め、クラバの空気にも順応しつつある。
その成長は嬉しい。
嬉しいが、それはつまり、戦いというものへ近づいている証拠でもある。
『まずは焦るな。相手の初撃は、探る為の一撃か、癖で撃つ一撃のどちらかだ。だから避けながら、相手の狙いを見る』
『分かった。ランガは』
『俺は前に出る。お前は無理に合わせようとしなくて良い。俺が崩した所を、お前が見て判断しろ』
『……うん、任せて』
マヴとしては、決して良い指示ではないかもしれない。
本来ならば、もっと事前に役割を分担し、呼吸を合わせるべきだ。
けれど、今のマチュに必要なのは、最初から完璧な連携ではなく、戦場で自分の眼で見て、考える感覚を失わない事だと俺は思っていた。
視界の先。
ゆっくりと現れた二機の機影を確認した瞬間、俺は思わず眉を顰めた。
『……ゲルググ、だと』
通信に乗らないよう、ほとんど独り言のように呟く。
モニターに表示された識別コードは確かにゲルググ。
だが、俺の知るゲルググとは外見があまりにも違いすぎた。
記憶にあるそれは、もっと重厚で、ジオンの機体らしい曲線と威圧感を備えた名機だったはずだ。
けれど、今、目の前にいる二機は、どこか連邦系の量産機を思わせる面構えをしていて、その違和感が俺の思考を一瞬だけ鈍らせた。
『ランガ、どうしたの』
『いや、気にするな。世界が違えば、同じ名前でも別物になるらしい』
『また難しい事言ってる』
『つまり、見た目に惑わされるなって事だ』
そう答えた瞬間、相手が動いた。
シイコ・スガイ機と識別されるゲルググが、ほとんど溜めもなく腕を上げる。
その手に握られていたのは、ビームスプレーガン。
連邦寄りの兵装をジオン系の名を持つ機体が使っているという、その組み合わせだけでも、この世界の歪みを感じさせる。
『来るぞ、散れ!』
俺が叫ぶより早く、薄い光の弾線が宇宙を裂いた。
一発一発の威力はライフル級ほどではない。
だが、連射性が高い。
しかもシイコの撃ち方は雑ではなく、避ける先を制限するように、こちらの進路を削る撃ち方だった。
俺は偽装されたガンキャノンを横滑りさせ、機体を捻るようにして最初の弾幕を抜ける。
マチュのジークアクスも、その横で危なげなく軌道を変えた。
ビームの残光が装甲の脇を掠め、宇宙に細い熱の線を残して流れていく。
『マチュ、そのまま下がるな! 一定方向に逃げ続けると読まれる!』
『分かってる!』
マチュは言葉通り、逃げるのではなく、斜め上方へ一度跳ね上がるように機体を振った。
悪くない。
少なくとも、怯えて一方向へ流される動きではない。
その間に、俺は一気に前へ出た。
シイコの弾幕は確かに鋭い。
だが、鋭いからこそ分かる。
この女は、ただ当てる為に撃っているんじゃない。
相手がどう逃げるかを見て、その癖を記憶する為に撃っている。
つまり、こちらも早い段階で間合いを壊さなければならない。
『ポカタ、右から回るわよ』
『了解しました、シイコさん』
通信越しに、落ち着いた声が聞こえる。
シイコの相方であるポカタ機が、俺の側面を抑えるように回り込もうとしていた。
素直で堅実な動きだ。
シイコが狩る為に、ポカタが逃げ道を塞ぐ。
単純だが、マヴとしては理に適っている。
『ランガ、片方来る!』
『見えてる! お前はシイコを見ろ、俺がこっちを抑える!』
叫びながら、俺はスラスターを一瞬だけ絞る。
減速ではない。
相手の予測をズラす為の、ほんの僅かな“間”だ。
その隙間に、ワイヤーを撃ち出す。
偽装外装の内部に仕込んだアンカーがデブリに食い込み、その反動で機体を一気に引き寄せた。
直線で突っ込んだように見せかけて、途中から軌道を折る。
宇宙での戦いは、推進剤だけで作るものじゃない。
慣性を裏切り、相手の眼を騙し、その一瞬の違和感で懐へ潜る。
俺がティターンズで叩き込まれ、エゥーゴで磨き直した戦い方は、そういうものだった。
『なっ……!』
ポカタの声が揺れる。
読めなかったのだろう。
当然だ。
この外見の機体が、こんな近接機動をするとは思わない。
俺はそのままポカタ機の射線から外れ、さらに前へ出る。
目指すのはシイコ機だ。
スプレーガンの連射は厄介だが、至近距離では逆に運用が難しくなる。
懐に入れば、少なくともさっきのような削り撃ちは封じられる。
『マチュ、合わせられるか!』
『やる!』
マチュのジークアクスが、俺の少し後ろから追随してくる。
速い。
やはり、この機体とマチュの相性は異様なほど良い。
けれど、その時だった。
シイコ機が、あり得ない角度で機体を返した。
ただの急制動じゃない。
進行方向を断ち切るような、こちらの認識を狂わせるような反転。
ビームスプレーガンの銃口が消えたと思った瞬間、まるで最初からそこにいたように、俺の死角側へと滑り込んでくる。