機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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WIRE

 シイコ機の“スティグマ”と名乗った動きは、ただ速いとか巧いとか、そういう次元の話じゃなかった。

 俺が「この角度なら当たらない」と計算した瞬間、その計算の外側から刺してくる。

 機体の慣性があるはずなのに、慣性がまるで“相手にだけ都合よく無視される”ように見える。

 それが一番気味が悪く、同時に一番厄介だった。

 

『ランガッ、後ろ!』

 マチュの声が通信に割れたが、俺はすでに背中の皮膚で感じていた。

 シイコ機が、俺の偽装ガンキャノンの死角へ潜り込む瞬間の、あの冷たい圧。

 殺気というより、狙いが定まった刃の温度が、背中を撫でる感覚だった。

 

 だから俺は、逃げない。

 逃げたら、相手の“型”が完成してしまう。

 相手の型が完成した瞬間、次はマチュが狩られる。

 それだけは、絶対に許せない。

 

『マチュ、距離を取れ、今は俺に合わせるな!』

『でもっ!』

『いいから下がれ、相手の相方を見ろ! ポカタが動く!』

 

 俺の視界の端で、もう一機のゲルググが、こちらの退路を削るように位置を変えていた。

 あいつは派手なことはしないが、派手じゃない分だけ堅実に“詰む形”を作る。

 シイコの刃が刺さる位置を作るために、空間を整理してくる。

 つまり、俺がここで主導権を取れなければ、次は挟み撃ちで終わる。

 

 俺は操縦桿を握り絞り、偽装外装の重さを「弱点」じゃなく「盾」として扱う。

 装甲が厚いなら、擦らせて耐える。

 ただし擦らせる場所は選ぶ。

 ここで主機能を削られたら、次の一手が出せない。

 

 シイコ機のビームスプレーガンが、近距離で火花みたいに散った。

 狙いは俺の関節とセンサーだ。

 外装を溶かし、反応を鈍らせ、最後に“スティグマ”で刺す。

 手順が読めたからこそ、俺はその手順の“外側”を叩く必要があった。

 

「……面倒な女だ」

 俺はボイスチェンジャーの奥で吐き捨て、ワイヤー射出のスイッチへ指を滑らせた。

 

 次の瞬間、マルチアンカーがデブリへ食い込み、張力が機体を引き裂くように引っ張る。

 推進剤の噴射だけで逃げない。

 噴射で逃げると、相手に速度の癖を渡す。

 俺は張力で速度ベクトルを折り、慣性を殺さず角度だけを変える。

 立体機動の要領で、デブリとデブリの隙間を“糸で縫う”みたいに渡っていく。

 

『なっ……またその動きっ!』

 ゲルググの通信が漏れた。

 ああ、そうだ。

 この外見のガンキャノンもどきが、こんな三次元の折れ方をするとは、普通は思わない。

 思わないからこそ、思った瞬間にもう遅い。

 

 俺はデブリの影に潜り、影から影へ抜ける。

 射線を切る。

 相手の視界に入るのは一瞬だけにして、その一瞬に“次に出る場所”を誤認させる。

 シイコのスティグマは、予測の外側から刺す技だ。

 なら、そもそも予測の土台を壊してやるだけだ。

 

『逃げるの?』

 シイコの声が、妙に楽しげに聞こえる。

『それとも、怖いの?』

 

「逃げてない、位置を変えてるだけだ」

 俺は答えながら、視線をシイコではなくポカタへ寄せた。

 シイコを止めるには、まず“相方の支え”を削らないといけない。

 マヴは二機で一つの刃になる。

 なら、柄の方を折れば刃は暴れる。

 

 ゲルググが、俺の進路を潰すようにビームスプレーガンを散らした。

 散らし方が上手い。

 散布界で逃げ道を削り、次の瞬間にシイコの刺突が通る隙間だけを残す。

 つまり、ここで俺が“回避を選ぶ”と、回避先にシイコが来る。

 だから俺は、回避ではなく“奪う”を選ぶ。

 

 ワイヤーを撃ち出す。

 狙いは機体じゃない。

 ゲルググの手首。

 ビームサーベルを保持している側の手首の付け根へ、アンカーを刺す。

 刺さった瞬間、張力を一気にかける。

 

『っ!?』

 ゲルググが反射で腕を引く。

 だが、宇宙で反射は遅い。

 遅いというより、反射に“慣性”が付いてくる。

 腕を引けば、機体が引かれる。

 機体が引かれれば、姿勢が崩れる。

 姿勢が崩れた瞬間、武器は“武器”じゃなく“重り”になる。

 

 俺は張力の方向をずらし、ただ引っ張るのではなく、回転モーメントを与える。

 腕の軸がねじれ、サーベルの柄が滑る。

 滑った瞬間を待って、ワイヤーをさらに一本、柄に絡め取るように撃ち足した。

 

「……奪う」

 声に出したのは、自分の手順を固定するためだ。

 

 次の瞬間、ワイヤーを巻き取り、柄を俺の方へ引っ張る。

 ゲルググが握力で抗うが、握力は機体の固定点じゃない。

 固定点は関節で、関節は“角度”に弱い。

 俺は角度を作り、柄だけをすり抜かせる。

 

 ビームサーベルが、俺の機体へ飛んでくる。

 飛んでくると言っても、宇宙では“滑ってくる”だ。

 俺は一瞬だけスラスターを吹かし、柄を受け止める位置へ自機を合わせた。

 

『ポカタ! 何をしてるの!』

 シイコの声が鋭くなった。

 さっきまでの温度が消え、刃だけが露出する。

 ああ、焦ったな。

 焦るなら勝機だ。

 

「マチュ、今だ」

 俺は短く言う。

 マチュのジークアクスが、ゲルググの視界の外へ滑り込み、圧をかける。

 これでポカタは防御に回るしかない。

 防御に回れば、シイコのスティグマの“支え”が消える。

 

 俺は奪ったビームサーベルの起動ボタンへ指を置き、ほんの一拍だけ迷う。

 ビーム兵器。

 この偽装機体に持たせるつもりは本来なかった。

 だが今は、選り好みしている場合じゃない。

 

 光が伸びる。

 緑の刃が闇を裂き、瞬間的に世界が明るくなる。

 あの時のνサーベルほどじゃない。

 だが十分だ。

 十分すぎるほど、戦場の匂いが戻ってくる。

 

『……ふふ、いいわ』

 シイコが言う。

『ようやく、こちらも斬り合える』

 

「斬り合いなら、望むところだ」

 俺は吐き捨て、デブリの陰から一気に踏み込んだ。

 ワイヤーで速度を作り、スラスターで微調整し、慣性を刃に乗せる。

 斬り合いは腕力じゃない。

 “どこで刃を合わせるか”の距離の勝負だ。

 

 シイコ機が、スティグマで迎え撃つ。

 その動きは相変わらず常識外れで、こちらの視界の端から端へ“瞬間移動”みたいに滑る。

 だが、俺は追わない。

 追ったら負ける。

 追うのではなく、相手が来る地点に刃を置く。

 

 キィン、と音が聞こえそうなほど、刃が噛み合う。

 ビームサーベル同士の交差が、宇宙に熱の線を刻む。

 俺は刃を受け流し、受け流した反動をワイヤーに逃がし、体勢を崩さない。

 シイコは受け流しを許さず、刃の角度を変え、もう一段深く刺しに来る。

 刺しに来る角度が、いやらしいほど正確で、俺は歯を噛みしめた。

 

「……お前のスティグマは、技術じゃないな」

 俺は吐き捨てるように言う。

「執着だ」

 

『そうよ』

 シイコの返事は、まるで誇りみたいだった。

『私は、赤いガンダムを殺す』

『あれが“ニュータイプ”なんて認めない』

 

「……ニュータイプを、認めない?」

 俺は一瞬だけ言葉を失った。

 認めない、という執着。

 殺したい、ではなく、認めない。

 それは復讐よりも深い。

 自分の世界観を守るために、相手を否定し続けるやり方だ。

 

『あの戦争で、私のマヴを奪った』

『あんなものが“人の進化”だなんて、冗談じゃない』

『私は、私の現実を守るために、あれを消す』

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが冷えた。

 過去の俺が、復讐だけで生きていた頃の俺が、同じ温度で笑った記憶が蘇る。

 そして今の俺は、それを否定したい。

 否定しなければ、マチュの未来が同じ穴へ落ちる。

 

 俺は刃を押し返し、距離を一瞬だけ開けて、言葉だけを投げた。

 これ以上の説得は無駄だと分かっている。

 分かっているからこそ、最短の答えだけを選ぶ。

 

「……くだらない」

 

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