機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re 作:ボルメテウスさん
「おい、これはどういう事だ」
俺は赤いガンダムのコックピットで、通信の回線を細く絞りながら問いかけた。
試合の共通回線に混ざれば、相手にも運営にも聞かれる可能性がある。
だから、今ここで聞くのはニャアンだけでいい。
『そ、その……一緒に向かう途中で軍警に見つかって……!』
ニャアンの声が震えている。
震えているくせに、言葉だけは必死に繋げようとしている。
『私達、すぐ別れたの。マチュは逃げて、私は……私が、ここに……』
「……軍警が?」
喉の奥が冷えた。
今すぐにでもマチュの所へ行きたい。
そう思った瞬間、俺の胸の中で何かが暴れる。
守るべき相手が、今どこで何をしているか分からない。
それなのに、俺は“試合”の場にいる。
理屈では分かっている。
この試合を落とせば賞金が遠のき、地球行きが遠のき、マチュの願いが遠のく。
遠のけば、マチュは別の方法で足を踏み外す。
だから勝つ必要がある。
それでも心は納得しない。
納得しないまま、試合開始のアラートが鼓膜を叩いた。
『ラ、ランガさんっ!』
ニャアンの叫び声。
同時に、視界の端へ熱源が滑り込んでくる。
来た。
リック・ドム。
「……とにかく、生き残る事だけ考えろ」
俺は息を吸って、声を落ち着かせる。
「ジークアクスの性能なら、最悪、死にはしない」
『生き残るだけって……ランガさんだったら勝てるでしょ!?』
「相手が、いつものザクだけだったらな」
俺は歯を噛みしめた。
目の前のリック・ドムは、俺の知るリック・ドムと形が違う。
違うのに、名前だけが同じで、そこが余計に気持ち悪い。
背中に“脚”みたいなパーツをバックパックとして背負っている。
脚を背負うなんて冗談みたいだが、冗談じゃなく推進剤の塊だ。
そのせいで、推進力が俺の記憶のリック・ドムより速い。
そして――武器。
ジャイアントバズーカの銃口が、こちらへ向いた。
「撃たせるな」
俺はシールドを前へ出し、同時にビームサーベルを抜いて前へ出た。
バズーカの弾はビームじゃない。
だから油断すると、衝撃が骨まで来る。
轟音。
宇宙では音が鳴らないはずなのに、衝撃の振動がコックピットの内壁を叩く。
シールドが受け止める。
受け止めた瞬間、ヒビが走った。
盾が割れる音が、俺の中でははっきり聞こえた。
「……一発で、ここまでか」
俺はヒビの走った盾を捨てず、そのまま押し出すように距離を詰めた。
割れるなら割れる前提で動けばいい。
盾は守るためじゃなく、詰めるための板として使う。
リック・ドムの側面へ回る。
足取りが軽い。
この世界線のドムは、重厚に見せて軽い。
この違和感が、さっきから胸の奥をざわつかせる。
俺はビームサーベルを横に振った。
狙いは胴体ではない。
腕でもない。
武装の保持部と、姿勢制御の癖が出る関節だ。
だが、相手は読んでいた。
バズーカの銃口を、真っ直ぐこちらへ向け直してくる。
至近距離で撃つつもりだ。
撃てば相手も危険だが、ドムの装甲なら耐える判断なのだろう。
「撃たせるかよ」
俺は刃を振り上げず、最短で銃口へ落とした。
ビームサーベルがバズーカを切り落とす。
切断面が赤く光り、金属片が宇宙へ散る。
追撃しようとした、その瞬間。
もう一機のリック・ドムが視界の外から割り込んだ。
手の甲のハッチが開く。
そこから射出される、黄色と黒で塗り分けられたワイヤー。
「あれは……マズいっ」
ヤザンの連中とやり合った時の記憶が、嫌な汗と一緒に噴き出す。
触れたら終わる。
感電、拘束、引き倒し。
あれは武器じゃない、処刑具だ。
俺は反射でビームサーベルを回し、ワイヤーを切り払った。
切れたワイヤーが撥ね、光の筋が一瞬だけ散る。
だが、その一瞬で分かった。
相手は引いた。
距離を取った。
こちらを殺しに来たのではなく、位置を整えるために刺してきた。
「……さっきから、なんだこの違和感は」
俺は息を吐きながら、ようやく気づいた。
俺を相手にしているこの一機は、俺を倒すことを最優先にしていない。
俺を“止める”ことを優先にして、もう一機が別を狙っている。
「……奴ら、まさか」
視線を走らせた先で、最悪が現実になっていた。
『きゃぁぁ!』
ニャアンの悲鳴が通信に割れる。
ジークアクスが、もう一機のリック・ドムに一方的に蹂躙されていた。
バズーカの衝撃で姿勢が乱れ、追い打ちの突進で押し込まれ、回避の余裕が削られていく。
ニャアンの操縦は“逃げ”しか選べていない。
逃げは悪くない。
だが、逃げだけだと相手の狩りは完成する。
「こいつら……最初からジークアクスを潰す気だったのか!」
俺は叫んでいた。
叫びながら、目の前のリック・ドムへ殺気を叩きつける。
邪魔だ。
お前が邪魔だ。
俺は今すぐニャアンの方へ行かなきゃいけない。
俺は接近する。
バズーカの弾をシールドで受け、ヒビが走った盾をさらに押し付けるようにして距離を詰める。
そしてビームサーベルを突き出した。
相手はヒート・サーベルで受け止めた。
熱と熱が噛み合い、刃が擦れる。
その瞬間、ドムの脚が動いた。
腹部へ蹴り。
重い蹴り。
推進剤の勢いが乗った蹴り。
「っ……!」
俺の機体が押し出される。
だが、押し出された勢いを殺さず、俺は後ろへ流れながら刃を振った。
斬撃は躱された。
躱されたまま、相手は別の目的を優先する。
バズーカの銃口が――ジークアクスへ向いた。
「ニャアン!」
俺は叫んだ。
避けろ。
避けろと言うしかない。
だがニャアンの返事は悲鳴だった。
『あぁぁぁぁぁ!』
その瞬間、俺は向かおうとした。
向かおうとして――間に合わない距離だと理解した。
理解した瞬間、胸の奥が真っ暗になる。
前の世界の記憶が、同じ速度で蘇る。
守れなかった。
間に合わなかった。
だから失った。
その“間に合わなかった”を、もう一度繰り返すのか。
そう思った瞬間。
ジークアクスの中で、何かが起動した。
オメガ・サイコミュ。
ニャアンが触れていないのに、勝手に反応が変わる。
機体の挙動が変質する気配が、空間の温度を変える。
けれど、それ以上に――俺の背骨が凍った。
この感覚を、俺は知っている。
圧。
重い。
視界が歪む。
自分の意志の外から、巨大な意志が覗き込んでくる感覚。
「……サイコガンダムと、同じ」