機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第40話

 俺が意識を集中させた瞬間、コックピットの空気が薄くなる錯覚が走った。

 酸素が減ったわけじゃないのに、肺が勝手に「息をするな」と命令するような、あの嫌な感覚だった。

 サイコガンダムと対峙した時にも似ているが、あれよりもっと生々しい。

 目の前の敵は巨大な機体ではなく、怯え切ったはずの少女が乗っているジークアクスで、しかもその恐怖がいま刃になってこっちへ向いている。

 

 ジークアクスのオメガ・サイコミュが、声もなく発光した。

 光は派手じゃないのに、視界の端が滲み、空間の輪郭が一拍遅れて見えるようになる。

 その遅れが、戦場では致命になる。

 だから俺は、遅れを潰すためにさらに意識を沈め、赤いガンダムの内側へ手を伸ばすように“触れた”。

 

 次の瞬間、俺の方に流れ込んできたのはニャアンの感情だった。

 言葉ではなく温度で、恐怖の冷たさと、怒りの熱さと、諦めの重さが、まとめて胸へ突き刺さる。

 同時に、断片的な映像が見えた。

 瓦礫と煙と、崩れた天井と、泣き声と、手を伸ばしても届かなかった背中。

 それがニャアンの過去だと、説明もなく理解できた。

 故郷を失い、ひとり生き残り、誰にも助けられないまま“生き方”だけが歪んで残った記憶。

 

「……っ」

 俺は喉の奥で息を飲んだ。

 この感情は、知っている。

 この痛みは、俺も持っている。

 だからこそ、今の暴走は“敵”じゃなく、“壊れかけた生存”なんだと分かってしまう。

 

「ニャアンっ、止まれっ、俺を見ろっ!」

 叫びながら、俺はサイコミュ同士の共鳴へ踏み込んだ。

 結果がどうなるか分からない。

 分からないが、ここで迷っていたらニャアンが俺を斬るか、俺がニャアンを斬るか、そのどちらかになる。

 それだけは避ける。

 避けるためなら、俺はまた“向こう側”へ手を伸ばす。

 

 ジークアクスのオメガ・サイコミュがさらに強く輝き、宇宙の暗闇に不自然な光が咲く。

 それに呼応するように、赤いガンダム側のサイコミュも脈を打ち、まるで二つの心臓が同じリズムで鳴り始めたみたいだった。

 そして――繋がった。

 繋がった瞬間、俺は“やばい”と思った。

 

「っ!」

 俺は反射で接続を切ろうとした。

 だが切れない。

 いや、正確には俺の側の反応は切れている。

 切れているのに、繋がりだけが残っている。

 残っているのは、ジークアクス側の光が消えないからだ。

 光が消えないのは、ニャアンの意識が“握ったまま”だからだ。

 

「……まさか」

 サイコガンダムの記憶が、嫌な角度で重なる。

 あの機体は搭乗者の能力で動き、能力が増幅され、増幅が制御を奪う。

 それはつまり、ニャアンも――ニュータイプとして覚醒している。

 覚醒が暴走して、暴走がジークアクスを武器に変えている。

 

 そして、繋がりは一方通行じゃなかった。

 俺の記憶もまた、ニャアンへ流れていく。

 勝手に流れた。

 止めようとしても止まらない。

 止まらないまま、ニャアンの中へ俺の過去が落ちていく。

 

『……えっ、なに、これ……』

 ニャアンの声が、通信じゃなく頭の内側で響いた。

 驚きと恐怖と混乱が混ざった声で、さっきまでの「敵だ、敵だ」という叫びとは別物だった。

 それが“素のニャアン”の声だと、俺は確信する。

 

 ジークアクスの動きが止まった。

 止まったというより、刃を振り上げる筋肉が抜けたように、機体の姿勢がふっと緩む。

 俺はそこでようやく息を吐いた。

 息を吐いた瞬間、全身にどっと疲労が落ちてくる。

 

「……たく、ようやく落ち着いたか」

 俺は言葉を荒くしながらも、ビームサーベルの刃先を僅かに下げた。

 刃を下げるのは、信頼の合図でもある。

 

『えっ、その……ごめんなさい……』

 ニャアンの声が、いつもの怯えた声に戻る。

 戻ったことが、まずは救いだった。

 だが、救いだけで終わる話じゃない。

 

「早く離れるぞ」

『えっ?』

「クラバは終わったんだ、さっさと引き上げる」

「それに、ここに長居すると軍警だって嗅ぎつけるし、さっきのお前の動きは目立ちすぎた」

 

 ニャアンが黙った。

 黙ったのは理解したからだろう。

 理解した瞬間、また怖くなる。

 理解した子は、次に“質問”をする。

 

『……あの』

「なんだ」

『さっきの……一体なんですか』

『なんで、マチュが……』

 

 その言葉が出た瞬間、俺の背中に冷たい汗が浮かんだ。

 俺の記憶が流れたのなら、ニャアンは見たはずだ。

 前の世界のマチュの死。

 俺が抱えている“失った時間”の残骸。

 今この世界のマチュだけを知っているなら、ニャアンがそんな不安そうな顔で問いを投げるはずがない。

 

 だから俺は、反射で睨んだ。

 睨むのは脅すためじゃない。

 線を引くためだ。

 ここから先は踏み込ませないという線を。

 

「それ以上は、喋るなよ」

『ひっ……』

 ニャアンが縮こまる。

 いつもの反応だ。

 いつもの反応だから、少しだけ胸が痛む。

 だが、痛んでいる暇はない。

 ここで話せば、情報は広がる。

 広がれば、マチュの周囲が燃える。

 

「はぁ……とにかく急いで戻る」

「ここで話すと誰かに聞かれるし、聞かれたら終わりだ」

『わ、分かりました……』

 

 俺は赤いガンダムの姿勢を整え、ジークアクスの隣へ寄り添うように航路を取った。

 守るために近づき、監視されないために闇へ潜る。

 その矛盾を飲み込みながら、俺達はコロニーへ戻っていく。

 

「向こうで話す、いや、正確には話せる範囲だけ話す」

 俺は言い聞かせるように呟いた。

 ニャアンは小さく頷く。

 その頷きが、さっき爆散したリック・ドムよりずっと重い。

 

 俺達はまだ知らない。

 コロニーへ帰った時、今夜の戦い以上に、とんでもない“後始末”が待っていることを。

 そしてその後始末は、俺やニャアンだけじゃなく――マチュの平和まで巻き込む形で、もう動き始めていることを。

 

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