機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第44話

「さて、アンキーさんはどうしますか?」

シャリア・ブルの声は柔らかいのに、刃が隠れている。

あいつの言葉はいつもそうだ。

丁寧で、穏やかで、相手に選択肢を渡しているように見せながら、最初から結論へ誘導する。

 

「……正直に言って、こいつを敵に回したくないからね」

アンキーが肩をすくめた。

「これ以上は止めておくよ」

 

止めておく、という言い方が腹立たしい。

止めておくで済むなら、最初からやるな。

けれど俺は、その言葉に噛みつく前に釘を刺した。

 

「言っておくが、アンキー」

俺はフードの影から、銃口を下げないまま言う。

「お前が仕掛けた程度の爆弾、もう解除してる」

 

「……」

アンキーの目が一瞬だけ細くなる。

驚きというより、計算が狂った顔。

この女は驚くより先に損得を計算する。

その計算が乱れたのなら、俺の言葉は効いている。

 

「あんた、本当に何者だい?」

アンキーが笑いを作る。

作った笑いの裏側に、警戒が滲む。

「あの子の幼馴染みとは聞いたけど、このコロニーにそんな環境はないはずだが」

 

「日々の努力の賜物だよ」

俺は嘘でも真実でもない答えを返した。

努力で手に入れたものもある。

努力じゃ手に入らないものもある。

そして俺が持っている一番厄介なものは、努力じゃなく戦場の後遺症だ。

 

俺は銃を構えたまま、二人の間合いを測る。

シャリアは距離を詰めてこない。

詰めてこないのが逆に嫌だ。

距離を詰めないのに刺せる人間は、言葉で刺す。

アンキーは詰めてこない。

詰めてこないのに噛みつける女は、金で噛みつく。

 

「……第一」

アンキーが、空気を変えるように言った。

「次のクラン、クランランキングトップのトゥエルブズ・オリンピアが最近になって、オーナーが変わった」

 

「オーナーが?」

シャリアが小さく首を傾げる。

わざとらしい。

知らないふりか、本当に知らないのか。

どちらにしても、今は関係ない。

 

「アマラカマラ商会っていう、素性の知らない会社の」

アンキーが言い切った。

 

「っ……!」

その一言で、俺の背骨が冷たくなる。

名前を聞いただけで分かる。

これは“匂い”だ。

誰かが匂いを消すために付けた、逆に目立つ香水の匂いだ。

 

俺は反射でアンキーの端末を奪い取っていた。

「ちょっ、何をしてるんだい!」

怒鳴り声が背後で上がる。

だが今は聞いていられない。

 

画面を叩き、社名を検索し、関連情報を引っ張り出す。

薄い。

薄いのに、薄いまま動いている。

薄いまま大金が動いている。

薄いまま政治の匂いがする。

 

「……やっぱりな」

俺は喉の奥で呟く。

情報は断片的でも、線の引き方が“それ”だ。

表に出ない資金の流れ。

偽装会社。

クラバのトップクラン買収。

それが意味するものは一つしかない。

 

俺は顔を上げて、シャリアを睨んだ。

「……おい、シャリア・ブル」

 

「なんでしょうか?」

シャリアは余裕の笑みを崩さない。

崩さないのが、嫌だ。

 

「近く、何か大きな出来事があるか?」

俺は言い切った。

「良いから答えろ、でなければマジでヤバいぞ」

 

シャリアの笑みが、ほんの僅かに止まる。

止まるというより、目の奥が計算を始める。

それから、短い沈黙。

そして、吐き捨てるように言った。

 

「……近く、キシリア様がこちらに来ます」

 

「なっ」

俺の喉が鳴った。

嫌な予感が“当たり”になった瞬間の音だ。

 

「……あのキシリア・ザビが!」

アンキーも顔色を変えて声を上げた。

この女ですら驚く名前。

驚くのが遅いくらいだ。

ザビ家の名前が出た時点で、空気が変わる。

 

「ちっ……だとしたらマズいな」

俺は舌打ちして、頭を回す。

早く。

最短で。

ここで迷えば、次はマチュが巻き込まれる。

 

「どうする」

俺は自分に言い聞かせるように呟いた。

「下手に動けば、こっちが先に潰される」

「だからって何もしなければ、向こうの計画が通る」

 

「おい、あんた、何をそんなに慌ててるんだ?」

アンキーが苛立ち混じりに言う。

「キシリアが来るってだけだろ、貴族の視察みたいなもんじゃないのか」

 

「慌てる?」

俺は笑えない笑みを浮かべた。

「そうだな、さすがに俺だって予想外だよ」

「ここでテロが起きるなんてな」

 

「なっ……テロ?」

アンキーの声が裏返る。

シャリアの目の奥が、ようやく本気の光を帯びた。

 

「……なぜ、テロだと分かるのですか?」

シャリアが静かに問う。

「その会社名を聞いただけで」

 

「……どうせ、俺が本当の事を言っても信じられないと思うからな」

俺は短く返した。

言葉にした瞬間、馬鹿らしさが先に来る。

前世の知識。

別世界の記憶。

そんなものを根拠にしていると言ったら、普通は頭がおかしいと思われる。

 

だがシャリアは、俺の言葉を遮るように言った。

「今の君の焦りを見て、それはないと確信していますよ」

「君は嘘でここまで焦らない」

 

「……だったら良い」

俺は諦めて言った。

「話してやるよ」

 

俺はアンキーの端末を握ったまま、画面を指で叩く。

「おそらく、このアマラカマラ商会ってのは、ある組織の隠れ蓑だ」

「確信じゃない」

「でも、過去に見た事がある」

「同じ匂いを」

 

「率いている奴がいるの?」

アンキーが唾を飲み込む。

シャリアも無言で続きを待つ。

 

「バスク・オム」

俺は言い切った。

「俺が知ってる中で、最低の人間だ」

 

その名前は、この世界でどれだけ通じるのか分からない。

けれど通じなくてもいい。

通じないなら、これから通じるようになる。

通じた瞬間に、人は死ぬ。

 

「……なぜ、そう思うのか」

シャリアが問う。

声は穏やかなままなのに、問いは鋭い。

 

「直感だ」

俺は吐き捨てた。

「戦場の直感ってやつだ」

 

「直感って……」

アンキーが呟く。

信じたいのに信じられない顔だ。

当然だ。

俺が言っているのは“予告”だ。

予告は、証拠がない限り信用されない。

でも、証拠が出た時には遅い。

 

シャリアはそこで、驚くほどあっさりと提案してきた。

「では、どうするか」

「シローさん、ここは共同作戦をしませんか?」

 

「……何?」

俺は眉をひそめる。

共同作戦。

言葉は綺麗だが、裏には必ず対価がある。

 

シャリアは淡々と続けた。

「この情報が知られれば、大きな混乱を招く」

「それこそ、戦争が起きる可能性がある」

「それを阻止するには、最小限の戦力が必要です」

「そして――君は、たった一人でそれを補える」

「バックアップは任せてください」

 

言っている事は筋が通っている。

筋が通っているからこそ危険だ。

筋が通った提案は、人を動かしやすい。

そして動かした後に、首輪を付ける。

 

「……何を企んでる」

俺は銃口を下げないまま言った。

「俺はあんたを信用してない」

 

「言ったはずです」

シャリアは微笑む。

「私は混乱を避けたい」

「そのために最も良いのが、君と手を組む事です」

 

俺は一瞬だけ迷った。

迷うというより、選択肢が少なすぎる現実に苛立った。

単独で動くには情報が足りない。

アンキーを信用するのは論外だ。

シャリアは敵かもしれない。

だが、敵かもしれない相手を“利用する”ことはできる。

利用して、マチュを守る。

それが俺の目的だ。

 

「……良いだろう」

俺は言った。

「ただし、俺はあんたをまだ信じてない」

 

シャリアは満足そうに頷く。

「ええ、始めから全幅の信頼を得る人間はどこにもいないので」

それから、視線をアンキーへ向ける。

「アンキーさんも、この事は極秘に」

 

「ちっ……」

アンキーが舌打ちした。

腹が立つのだろう。

自分の庭で、自分の知らない話が進んでいくのが。

 

俺はアンキーの端末を返さず、そのまま言った。

「まず、マチュを巻き込ませない」

「次に、ジークアクスを押さえる」

「その上で、キシリアの来訪に合わせて動く奴らを炙り出す」

 

シャリアが微笑む。

「具体案が出るのが早い」

「やはり君は面白い」

 

「面白がるな」

俺は吐き捨てた。

「これは遊びじゃない」

「一人でも死ねば終わりだ」

 

その言葉を言い切った瞬間、俺の背中の悪寒がさらに強くなった。

もう始まっている。

始まってしまった。

キシリアが来る。

バスクの影が動く。

ジークアクスが暴れる。

そしてマチュは、戦場の入口に立っている。

 

俺は銃を仕舞い、フードの縁を指で押さえた。

守るために、また汚れる。

また嘘をつく。

それでも、マチュが生きる未来のためなら、俺はその選択をする。

 

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