機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第45話

シャリア・ブルと手を組むと決めた瞬間から、俺の中の時間はまた戦場寄りに傾いた。

情報が増えるほど動ける範囲は広がるのに、同時に守るべき線も増えていく。

その線の中心にいるのがマチュだと思うと、胃の奥が冷える感覚が消えない。

だからこそ、今夜の行動はマチュに伝えなかった。

隠し事というより、彼女の目に触れさせたくない汚れがある。

もし彼女がそれを知ったら、止めるのではなく、隣に立つと言い出す。

そうなったら、俺の守り方は成立しなくなる。

 

シャリア経由で得た断片の情報は、ひどく不快な形で整っていた。

アマラカマラ商会、トゥエルブズ・オリンピア、キシリア来訪。

それらが同じ線上に並ぶなら、バスクが手を回す場所は限られる。

表の顔を持つなら、表の施設に潜る。

その最たるものが、ホテルだ。

人が出入りし、金が流れ、偽名が成立する場所。

監視も厳しいが、監視が厳しいほど“偽装”に慣れた連中が混ざる。

 

「……さて、このホテルにいると思うが」

俺は黒いコートの襟を立て、顔を隠すようにして建物を見上げた。

高級感のある外装が、ここが“安全”だと主張している。

安全なんてのは、誰かが金で買った見せ物でしかない。

そういう場所ほど、裏で一番汚い話が転がっている。

 

入口は正面から入らない。

正面は監視が濃い。

濃い監視は顔を記録する。

記録は線になる。

線はマチュへ繋がる。

それを避けるために、俺はサービス用の搬入口へ回り、段ボールの山と台車の影を使って入った。

こういう場所の警備は、意外と“慣れ”で穴が生まれる。

誰もが、いつも通りの流れを疑わない。

疑う奴がいたら、それは既に“敵”だ。

 

通路の空気は冷えていて、消毒剤の匂いが鼻につく。

ホテルの裏側は、病院と似ている。

清潔の匂いで“血の匂い”を隠す。

俺は足音を殺し、カメラの死角を繋ぎながら目的階へ向かった。

シャリアが渡してきた情報は雑だが、雑なまま核心だけを突いている。

このフロアに“人が集まりすぎている”部屋がある。

そこが怪しい。

 

「……視線」

背中ではなく、皮膚で感じた。

誰かが見ている。

しかも、偶然目が合ったとか、そういう視線じゃない。

最初から俺だけを拾っている視線。

 

俺は立ち止まり、コートの内側から銃を抜いた。

抜く音は立てない。

立てたら、相手に準備を渡す。

銃口だけを、視線の方向へゆっくり向ける。

 

そこにいたのは――少女だった。

廊下の真ん中に、ぽつんと立っている。

ホテルの客のはずなのに、荷物もない。

ボディガードもいない。

そのくせ、こちらをじっと見つめている。

 

黒いマスクが特徴的で、肌は異様なほど白い。

血色が薄いというより、血が“遠い”感じがする。

生気のない目だと思った。

だが、その目は俺を見ると同時に、妙な光を帯びた。

興味。

観察。

そして、どこか“知っている”目。

 

普通なら一般客だと判断するべきだ。

このホテルに泊まっているだけの、偶然そこに立っている少女。

けれど俺の勘が否定する。

この空気は、戦場のそれに似ている。

“見つかった”時の空気だ。

誰かに狙われたのではなく、誰かに“見抜かれた”時の空気だ。

 

「……へぇ」

少女が小さく呟いた。

声は低くも高くもなく、感情の起伏が薄い。

しかし、その薄い声が妙に耳に残る。

消えない。

まるで頭の奥に直接貼り付くみたいに。

 

俺は銃口を下げない。

下げた瞬間に、この少女が何者か分からないまま距離を詰めてくるのが嫌だった。

嫌というより、危険だ。

 

「……誰だ」

俺は短く聞いた。

名乗らせることで、相手の立場が少しだけ見える。

見えれば、次の手が選べる。

 

少女は答えない。

答えないまま、一歩近づいた。

そしてもう一歩。

銃が向いているのに気にしない。

気にしないというより、“銃が怖い”という概念がないみたいな歩き方だ。

 

「動くな」

俺は声を落として警告した。

「これ以上近づけば――」

 

「撃つの?」

少女が淡々と聞いた。

「それって、あなたの本性?」

 

その問いの角度が気持ち悪い。

俺の名前も立場も知らないはずなのに、俺の中身だけを覗こうとしている。

それはまるで、サイコミュで繋がった時の感触に似ていた。

 

俺の指が引き金にかかる。

だが引かない。

引けば、音がする。

音がすれば、警備が来る。

警備が来れば、俺の行動は終わる。

終われば、バスクの線に触れる前に潰される。

 

「……俺を知ってるのか」

俺は問いを変えた。

知ってるなら、どこで。

どこで知ったかが分かれば、背後の組織が見える。

 

少女は、ほんの少しだけ首を傾げた。

その仕草が、子供っぽいのに妙に冷たい。

 

「知ってる」

少女が言う。

「あなた、変な匂いがする」

「……違う世界の匂い」

 

背筋が凍った。

今の言い回しは偶然じゃない。

偶然で出る単語じゃない。

この少女は、俺の“異物”としての部分に触れている。

触れているだけじゃなく、楽しんでいる。

 

「……何者だ」

俺はもう一度、今度は低く、刃のように言った。

 

少女は、銃口の先で一度だけ笑った。

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