機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第71話

 ガンダムXが戦艦の格納庫から滑り出した瞬間、暗礁宙域の冷たい闇が全周モニターを覆った。

 

 艦内の警告灯に照らされていた視界が一気に広がり、デブリの影と廃棄された船体の残骸が、星のない海の岩礁のように浮かび上がる。未完成の機体は反応こそ素直だったが、背中に固定された大型パーツの重さと、各部の仮固定された装甲が生む微妙な慣性のズレが、操縦桿を通して手の中へ返ってきた。

 

 ペイルライダーとは違う。

 だが、完全に別物でもない。

 

 機体の奥には、俺の知る青い相棒の骨が残っている。HADESは沈黙したまま、胸の奥で赤い瞼を閉じているようだった。俺は監視端末へ一瞬だけ視線を落とし、異常なしの表示を確認してから、暗礁帯の向こうで動く敵影を捉えた。

 

『ランガ、まずは戦艦から敵を引き離す。突出するな』

 

 ラルさんのグフが、戦艦の左舷側から前へ出る。青い装甲は暗い宙域でも存在感を失わず、機体の動きには無駄がなかった。速さを見せつけるのではなく、最短の位置へ静かに収まるような動きだった。

 

「了解。ガンダムX、出ます」

 

 俺はスラスターを絞りながら、戦艦の正面へ向かう敵部隊との間に機体を滑り込ませた。敵は六機。前衛に三機、中衛に二機、後方に一機。さらに前回からこちらを誘導していた小型機が、デブリの影を縫うように離れていくのが見える。

 

 前衛の機体は、一目でザク系の系譜だと分かる形をしていた。丸みを帯びた頭部、単眼式のセンサー、肩部の片側に増設された装甲。けれど、胸部の装甲板や膝周りの関節保護には連邦系の直線的な意匠が混ざり、背部には通常のザクとは違う通信アンテナと補助推進器が取り付けられている。

 

「ザク系に見えるけど、装甲の継ぎ目が違う。連邦系の改修が混ざっている」

 

『敵もまた、戦後の歪みを抱えているということだ』

 

 ラルさんの言葉に、俺はわずかに歯を噛み締めた。ジオンが勝った歴史の中で、連邦軍がジオン系技術を取り込んだ結果なのだろう。俺の知るハイザックやマラサイとは違う。だが、ザクを模した身体に連邦の都合を埋め込み、さらに研究施設の手が加わったような気配がある。

 

 その歪さが、ティターンズという名前に似合っているのが嫌だった。

 

 敵前衛の一機がビームライフルを構える。海賊なら距離を詰めて奪おうとする場面で、こいつらは一定距離を保ち、こちらの回避先へ射線を重ねてきた。最初の一射が戦艦の進路を塞ぐように走り、続く二射がガンダムXの左右を削る。

 

「こいつら、奪いに来ているんじゃない。こっちを測っている」

 

『撃破より観測を優先しているな。ならば後方に目がある』

 

 ラルさんのグフが右へ回り込み、敵前衛の射線を盾で受け流しながらヒート・ロッドを展開する。電撃を纏った鞭状の武装がデブリの影を縫って伸び、敵機の武器腕に絡みついた。ラルさんはそのまま力任せに引くのではなく、相手の銃口を味方の射線へ向ける角度だけを変える。

 

 敵の一射が、別の前衛機の肩を掠めた。

 それでも、そいつらは止まらない。

 

 普通なら、味方の射線に入ることを恐れる。軍隊ならなおさらだ。けれど、前衛の改造ザク系は、肩を撃たれても体勢を立て直すより先に、こちらへライフルを向け直してきた。コックピットを守る動きも遅い。被弾を恐れず、ただこちらの反応を記録するためだけに前へ出ているように見える。

 

『その音、嫌い。白い部屋の機械に似てる』

 

 ドゥーの声が、艦内通信を通して小さく届いた。医療区画から聞いているのだろう。無理に通信へ入っていることを咎める気にはなれなかった。彼女の震えた声は、敵の正体を言葉以上に示していたからだ。

 

「やっぱり、研究施設の部隊か」

 

 俺はガンダムXのシールドを前へ出し、敵の弾幕を斜めに受け流した。ペイルライダーの頃より反応はわずかに重い。大型パーツの固定が機体後方へ引っ張る感覚を生む。その癖を無視して動けば、姿勢制御が遅れる。だから、あえて敵の弾を真正面から避けず、デブリの影とシールドの角度を使い、機体に無理をさせない軌道を選ぶ。

 

 弾幕の隙間からビームライフルを返す。

 狙うのは胴体ではない。

 武器腕の肘、推進器の付け根、膝関節の外側。

 

 一機目のライフルが爆ぜ、前衛機が姿勢を崩した。その瞬間、別の敵機が味方の影ごと撃ち抜くようにライフルを構える。正気ではない。味方を盾にしながら、それを戦術として割り切っているのではなく、味方が壊れても計算に入っていないような動きだった。

 

「死を恐れていないというより、自分が死ぬことを考える回路が削られている」

 

『強化か、洗脳か。どちらにせよ、兵としては歪だ』

 

「ドゥーをあんな場所に戻すわけにはいかない」

 

 声に怒りが混ざった。

 その瞬間、監視端末の端で微細なノイズが走る。

 

 HADES反応、極小。

 

 俺はすぐに息を吐き、操縦桿を握る力を緩めた。怒りを捨てる必要はない。だが、その怒りを機体へ渡してはいけない。ラルさんに言われた言葉、テム・レイさんに渡された端末、ドゥーの「怖くなったら戻ってきて」という声。それらを一つずつ思い出しながら、俺はガンダムXを斜め下へ滑り込ませる。

 

「HADESは使わない。この程度なら、俺の手でやれる」

 

『よい判断だ。機体に答えを渡すな』

 

 ラルさんのグフが右の二機を引き受ける。ヒート・ロッドで一機の足を絡め取り、もう一機のビームライフルを盾で受けながら、懐へ入り込む。振るわれたビームソードは、コックピットを避けて武器と推進器だけを切り落としていく。殺すことに迷いがないのではない。殺さないために必要な場所だけを正確に斬る動きだった。

 

 俺は前方の二機へ集中した。敵の中衛、マラサイ系に近い改修機が後ろから指示を出している。装甲は前衛より整い、肩部には大型の追加ユニットがある。指揮官機か、少なくとも前衛の制御役だ。こちらを撃破するよりも、ガンダムXの反応を引き出すように弾幕の密度を調整している。

 

「敵の射線を借ります。ラルさん、少しだけ下がってください」

 

『面白い。やってみせろ』

 

 ラルさんのグフが一歩分だけ下がる。その瞬間、俺はデブリの隙間から前衛機の影へ入った。未完成のガンダムXでは、真っ向から機動戦を続けると関節負荷が増える。なら、敵の位置を足場と盾にする。前衛機がこちらを追って向きを変えた瞬間、中衛機の射線が味方の背中へ重なるように誘導する。

 

 中衛機は撃った。

 躊躇がない。

 

 ビームが前衛機の肩を貫き、装甲が弾ける。その爆風を隠れ蓑にして、俺はガンダムXを一気に接近させた。右手のビームサーベルを抜くが、胴体は狙わない。推進器、ライフル、脚部の関節を続けて断つ。機体の重さが手元に残るたび、ペイルライダーとは違う慣性が操縦桿へ返ってきたが、その癖も少しずつ掴めてきていた。

 

「一機、無力化」

 

 続けて二機目が迫る。そいつは味方の残骸を避けもせず、破片を弾きながら突っ込んできた。装甲表面には、医療施設の管理番号のような白い刻印が一瞬だけ見える。軍の正式な部隊名ではない。実験区画の資産番号に近いものだ。

 

 その刻印を見た瞬間、胸の奥で嫌悪が膨らむ。人間も機体も番号で管理し、壊れれば交換する。ティターンズの嫌な部分だけが、この世界でも別の形で育っている。

 

「こいつら、兵士じゃない。部品扱いされている」

 

『だからこそ、こちらまで同じ目で見るな。壊すべきは機体であって、人の心まで踏み潰す必要はない』

 

「……了解」

 

 俺はサーベルを横薙ぎにせず、シールドの縁で敵機のライフルを押し上げた。上がった銃口から放たれたビームが虚空へ逸れ、その隙に肩部の補助推進器を斬る。推進バランスを崩した敵機は回転しながらデブリへ接触し、動きを止めた。

 

 ラルさんの方も決着が早かった。グフのヒート・ロッドが敵機の脚へ絡み、電撃で関節を焼き切る。その直後、ビームソードが武装だけを叩き落とす。二機を相手にしているはずなのに、ラルさんの動きは急いでいない。敵の動きが速く見えるほど、彼の機体は先に必要な位置へいる。

 

『前衛機、半数以上沈黙。敵中衛機、後退を開始しています』

 

 副官の通信が入る。だが、俺の視線は後方にいた名称不明の試験型MSへ向いていた。そいつは一度も前へ出ていない。胴体が大きく、手足は細い。頭部と背部にセンサー類が集中しており、こちらの戦闘を観測するために存在しているような機体だった。

 

「後方の機体が逃げる。追えば本部に繋がるかもしれない」

 

『追うな。あれは誘いだ』

 

「けど、このままだとまた陰に隠れる」

 

『陰を追う時ほど、足元を見るものだ。今は戦艦を守った、それで十分だ』

 

 ラルさんの声には迷いがなかった。俺はスラスターを吹かしかけた指を止めた。追えば、何か掴めるかもしれない。だが、それは敵が用意した次の罠へ飛び込むことでもある。今のガンダムXは未完成で、HADESも使わないと決めている。ここで焦れば、前回ラルさんに止められた自分と何も変わらない。

 

「……こいつら、捨て駒か観測役だったんですね」

 

『その両方だろう。敵は我々を測り、こちらの反応を持ち帰るつもりだ』

 

「なら、次は対策してきます」

 

『だからこちらも学べばいい。戦いとは、勝った後に何を持ち帰るかで次が変わる』

 

 後方の試験型MSは、小型偵察機と共に暗礁帯の奥へ消えていった。残された敵機は、動けるものだけが煙を引きながら撤退し、動けない機体は通信を切られたように沈黙している。戦場に勝利の実感は薄かった。数で勝る敵を二人で圧倒したはずなのに、敵の本体へ触れた感覚がまるでない。

 

 ティターンズの陰は、まだ見えない。

 見えないのに、こちらを見ている。

 

 その不快感が、戦闘の熱より長く残った。俺はガンダムXを戦艦の前へ戻しながら、HADES監視端末へ目を落とした。反応は沈黙へ戻っている。俺は使わなかった。機体に答えを渡さなかった。けれど、それで終わりではない。次に敵が来る時、あいつらはガンダムXの反応も、俺がHADESを抑えたことも、ラルさんのグフの動きも分析してくるだろう。

 

『ランガ、帰投する。深追いしなかった判断は悪くない』

 

「ラルさんに止められなければ、追っていたかもしれません」

 

『それを口にできるなら、次は自分で止まれる』

 

 俺は小さく息を吐いた。コックピットの中に、戦闘後の機械臭と自分の汗の匂いが混じっている。ペイルライダーに乗っていた頃なら、この匂いの中でまだ敵を探していたかもしれない。だが今は、戻ることを考えている。ドゥーのいる艦へ、ラルさんの戦艦へ、いつかマチュの元へ戻るために。

 

 ガンダムXとグフが戦艦へ向かって進む。暗礁宙域の奥には、まだ敵の小さな光が残っているように思えた。姿を見せないティターンズの影が、こちらの戦いを静かに記録している。勝ったのに、終わっていない。むしろ、ここから本当に始まるのだと、俺はその闇を見ながら理解していた。

 

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