機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第76話

 主砲の光が消えた後、暗礁宙域は別の場所になっていた。

 

 さっきまで艦を隠していた岩塊も、廃船の残骸も、白い閃光に抉られて細かな破片へ変わっている。全周モニターの端では、熱を帯びたデブリが赤い尾を引きながら流れ、ガンダムXのセンサーが次々と警告を重ねていく。直撃は避けた。艦も残っている。けれど、逃げ場は確実に削られていた。

 

『敵巨大機、主砲再充填に入っています。ですが、副砲とミサイル反応が増加しています』

 

 艦橋からの報告に、俺は改修ビグ・ザムの巨体を見上げた。中央砲門はまだ冷え切っていないのか、鈍い赤を残している。その周囲で、白い増設ユニットが不規則に明滅し、左右の副砲とミサイルポッドがこちらへ開いていく。

 

『このままでは、暗礁を抜ける前に逃げ道を潰されます』

 

『逃げるのではない。主砲を撃てぬ間に、こちらから懐へ入る』

 

 ラルさんの声が通信に乗った。グフは爆光の余波で流された姿勢を戻し、暗礁の残骸を踏み台にするような軌道で、戦艦の前方左側へ移っている。普通なら撤退を考える状況だ。だが、ラルさんは主砲の再充填時間を見て、逆に前へ出る道を選んだ。

 

「突破するんですか。あの火力の正面を」

 

『正面ではない。奴が戦場を壊すなら、壊された隙間をこちらの道にする』

 

 俺は一瞬だけ息を止め、戦艦の進路と敵の砲門角度を重ねた。暗礁が消えたことで隠れる場所は減ったが、同時に艦が大きく回り込む空間も生まれている。敵が主砲を再充填している今なら、その隙間へ艦を押し込めるかもしれない。

 

「了解。ガンダムXは艦の盾になります」

 

『撃ち落とせるものは撃ち落とせ。だが、主砲を受けるな』

 

「受けるつもりはありません。未完成でも、進む線は守ります」

 

 改修ビグ・ザムの両側から、ミサイルが一斉に放たれた。弾頭の数は多いが、軌道は妙に揃っている。通常のパイロットが状況に合わせて散らしているというより、外付けの制御装置が計算通りに吐き出している動きだ。俺はガンダムXを戦艦の前へ出し、ビームライフルを構えた。

 

「全部は止められない。艦の進路に入る分だけ落とします」

 

『それでいい。守るべきは艦の進む線だ』

 

 最初の三発を撃ち抜く。爆発で生まれた破片が後続の弾道を乱し、俺はその隙間へ二射目を重ねた。ビームがミサイルの群れを横から貫き、連鎖する火球が戦艦の前方に小さな壁を作る。ガンダムXの機体が爆風に押され、未完成の背部パーツが重く軋んだ。

 

 ペイルライダーなら、もっと強引に踏み込めたかもしれない。

 けれど今の機体で、それをやれば姿勢が崩れる。

 

 俺はスラスターを短く刻み、機体の重さを殺さずに斜めへ流す。防御と回避に徹する。今は敵を倒す場面ではない。戦艦が外部保管区画の入口へ届くまで、ガンダムXが折れなければいい。

 

『第二波、来ます。数が多すぎます』

 

「焦るな。弾道が揃いすぎているなら、まとめて落とせる」

 

 そう言いながら、俺は敵のミサイル群を待った。早く撃ちすぎれば、爆発の隙間を抜けられる。引きつけすぎれば、艦に近い。操縦桿を握る手に汗が滲むが、HADES監視端末は沈黙している。機体に答えを渡すな。俺の手で、俺の目で、落とせるものだけを落とす。

 

 ミサイル群が射程に入った瞬間、ビームライフルを三連射した。先頭、中央、右後方。弾道の要所を撃ち抜くと、爆発が互いを巻き込み、残りの弾頭が火球の中で崩れる。破片の一部がシールドへ当たり、鈍い衝撃が腕に返ってきた。

 

『よい見方だ。敵は強いが、まだ戦場を読んでいるわけではない』

 

 ラルさんのグフが右へ抜ける。ビグ・ザムの副砲が追うが、ラルさんは残骸の影へ入る直前に軌道を変え、敵の照準を半歩だけ遅らせた。その遅れの中へ、戦艦が滑り込む。巨大機の火力を正面から押し返すのではなく、照準が追いきれない瞬間だけを繋いで道にしている。

 

 だが、改修ビグ・ザムの砲門追従は不自然なほど速かった。胴体の動きは鈍く、脚部もほとんど位置を変えていないのに、副砲だけが人間の反射のようにこちらを追う。白い増設ユニットが明滅するたび、機体の反応が跳ね上がる。

 

『ドゥーから通信です。音声、安定していません』

 

 艦橋要員の声の直後、ノイズ混じりの通信が入る。

 

『白いところ……あの白いユニットが、音を流してる』

 

「ドゥー、無理をするな。言える分だけでいい」

 

『違う。補助じゃない。中にいる人を、機体へ押し込むための場所。右肩の下、胴体の横、脚の付け根……そこが強く鳴ってる』

 

 通信の向こうで、ドゥーの呼吸が乱れているのが分かった。白い部屋に戻りかけながら、それでも彼女は今の戦場へ言葉を投げている。自分の恐怖を、ただの痛みで終わらせず、俺たちが進むための情報へ変えている。

 

『聞いたな、ランガ。撃つなら砲門ではなく、その白い増設部を見ろ』

 

「了解。けど、今は艦を抜かせるのが先です」

 

『その判断でいい。弱点は逃げんが、艦は止まれば沈む』

 

 改修ビグ・ザムがさらに副砲を開く。白いユニットが脈打つように光り、その直後、砲門がこちらへ向いた。俺はガンダムXを戦艦の進路から一瞬だけ外し、敵に自分を追わせる。ビームが機体の左側を掠め、シールド表面を焼いた。警告音が重なるが、まだ動ける。

 

 ビームライフルで次のミサイルを撃ち落としながら、俺は白いユニットの明滅を見た。確かに、光る瞬間と砲門の動きが完全には噛み合っていない。速い。だが、安定していない。反応を無理やり引き上げているせいで、照準に半拍の揺れが生まれている。

 

『見えたぞ。奴は巨体を動かしているのではない。繋いだ人間の反応で、無理に砲門を動かしている』

 

「だから、砲門だけが妙に速いんですね」

 

『速いが、安定していない。白い増設ユニットが明滅するたび、照準が半拍遅れる』

 

 ラルさんの声に、ドゥーが苦しそうに続いた。

 

『そこ、痛みが強くなる場所。機体が人を引っ張ってる』

 

 その言葉が、怒りとして胸に落ちた。人間の痛みで砲門を動かす。恐怖を反応値に変え、苦痛を兵器の速度へ変える。ティターンズのやり方は、どこまで行っても同じだ。

 

 HADES監視端末の端に、微かなノイズが走った。

 俺は奥歯を噛み、すぐに息を吐く。

 

 今は怒りを燃料にする場面じゃない。

 怒りを持ったまま、守る線を間違えない。

 

「接続ユニットを剥がせば、動きが崩れる」

 

『ならば弱点は装甲ではない。あの白い檻そのものだ』

 

 ラルさんのグフが、戦艦の進路から最後のミサイル群を引き剥がすように動いた。俺はそれに合わせてビームライフルを撃ち、艦へ向かう弾頭だけを落とす。爆発の隙間を、ラルの戦艦が前へ進む。外部保管区画の入口は、まだ暗礁の奥に隠れているが、確実に近づいていた。

 

 改修ビグ・ザムの中央砲門に、再び光が戻り始める。

 主砲の再充填が終わりに近い。

 

『次の主砲までに、そこへ届く道を作る』

 

「ラルさん、次は白いユニットを狙うんですね」

 

『そうだ。沈める戦いではない、剥がす戦いだ』

 

 その言葉が通信に落ちた瞬間、俺は改修ビグ・ザムの巨体を見据えた。

 あれは倒すだけの敵ではない。

 誰かを中に押し込めた、巨大な檻だ。

 

 なら、壊す場所を間違えてはいけない。

 次の一手は、あの白い檻を剥がすための戦いになる。

 

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