機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re 作:ボルメテウスさん
外部保管区画の白い入口が開いても、俺たちはすぐには飛び込めなかった。
目の前には、まだ改修ビグ・ザムがいる。主砲は再充填の光を集め、白い増設ユニットは苦しむ誰かの脈のように明滅していた。あの巨体を沈めるだけなら、狙う場所はいくつもある。だが、ドゥーが聞いた「名前にならない声」が本当に中の被験体のものなら、俺たちは撃ち抜く場所を一つでも間違えられない。
『ランガ、次で檻を剥がす。君は艦の進路を守りながら、白い増設部の外装だけを焼け』
「了解。中まで抜かないように、表面だけ削ります」
『よい。ケーブルはこちらで絡め取る』
ラルさんのグフが、改修ビグ・ザムの右側面へさらに近づいた。副砲がそれを追い、白い光が暗礁の残骸を削る。俺はガンダムXを艦の前へ出し、ビームライフルで飛来するミサイルだけを撃ち落とした。背中の大型装備が重い。急旋回のたびに機体が半拍遅れる。けれど、その遅れ方にも少しずつ慣れてきていた。
『右胴体の白いところ、そこが強く鳴ってる。そこから、中へ押し込んでる』
ドゥーの声は震えていた。
それでも、彼女は通信を切らなかった。
「ドゥー、今からそこを剥がす。痛みが強くなったらすぐ言え」
『うん。でも、止めないで。あの人を、まだ数字に戻させないで』
「あぁ。戻させない」
俺は照準を白い増設ユニットの外縁へ合わせた。中心を撃てば内部接続に衝撃が走るかもしれない。だから、焼くのは固定具だけだ。ビームライフルの出力を抑え、二射、三射と続ける。白い外装の縁が赤く溶け、固定フレームが歪む。
その瞬間、ラルさんのヒート・ロッドが入った。
電撃を帯びた鞭が、溶けかけた固定部とケーブル束へ絡みつく。グフは力任せに引かず、機体の位置をずらしながら、絡め取ったケーブルの張力を逃がしていく。まるで巨大な獣から棘を抜くような動きだった。乱暴に切れば、中にいる誰かごと裂いてしまう。だから、剥がす。ゆっくり、しかし迷いなく。
改修ビグ・ザムの巨体が震えた。
副砲の照準が跳ね、ミサイルの弾道が乱れる。
『接続信号、急低下。敵主砲、充填中断しています』
「効いてる」
『油断するな。檻は一枚ではない』
ラルさんの言葉通り、別の白いユニットが即座に明滅を強めた。まるで外れた接続を補うように、胴体左側と脚部の増設装置が一斉に信号を流し始める。ドゥーが短く息を呑む音が聞こえた。
『左の脚の付け根……そこも鳴ってる。でも、さっきより乱れてる』
「なら、今が隙か」
『そうだ。奴は制御を立て直そうとしている。立て直す前に、入口へ潜入班を入れる』
「俺が行きます」
口にした瞬間、ラルさんの返事は早かった。
『君はまだ外だ。ガンダムXが退けば、艦が撃たれる』
「でも、ドゥーの記憶に反応できるのは俺です」
『だからこそ、入口を守れ。中へ入る者を生かして戻すには、外の盾が必要だ』
言い返せなかった。俺は奥歯を噛み、開いた外部保管区画の入口を見た。あの奥には、MRX-008の記録があるかもしれない。ドゥーが閉じ込められた白い箱の証拠があるかもしれない。今すぐ飛び込みたい衝動はある。だが、ここでガンダムXが退けば、潜入班ごとビグ・ザムに撃たれる。
『潜入班、発進準備完了。小型艇二機、入口へ向かいます』
『ランガ、進路上のミサイルを落とせ。ラル大尉、敵右側面の制御を押さえています』
「任せろ。誰も落とさせない」
小型艇が戦艦の腹から滑り出した。装甲は薄く、改修ビグ・ザムの副砲を一発でも受ければ消える。俺はガンダムXをその前へ出し、飛んでくるミサイルをビームライフルで撃ち落とした。爆風が視界を白く染める。背中の大型装備がまた機体を引っ張る。だが、今度はその流れを利用して、二機の小型艇を覆うようにシールドを向けた。
『ランガ、右から来る』
ドゥーの声に反応して、俺は考えるより先に機体を動かした。右脚部の白いユニットから誘導弾が放たれる。照準に入る前に撃つ。三発のうち二発を落とし、最後の一発はシールドで逸らした。衝撃で腕部に警告が走るが、まだ持つ。
『小型艇、入口へ到達します』
外部保管区画のハッチは、不気味なほど静かに開いていた。奥から漏れる白い光が、小型艇の装甲を冷たく照らす。あれは救いの光ではない。実験室の光だ。人間を名前ではなく番号で呼ぶ場所の光だ。
『白い音が、奥から来る』
ドゥーの声は小さかった。
けれど、そこには逃げる響きはなかった。
「見つけよう。お前に何をしたのかも、中にいる誰かのことも」
『うん。見つけて。私も、聞いてる』
小型艇が、白い入口の奥へ吸い込まれていった。
同時に、改修ビグ・ザムの中央砲門が再び脈打つ。完全には止まっていない。ラルさんのグフはヒート・ロッドで右側面のケーブルを押さえ、俺のガンダムXは入口と戦艦の間に立つ。潜入班を送り込むことには成功した。だが、これで終わりではない。
『ランガ、ここからが踏ん張りどころだ』
「分かっています。潜入班が戻るまで、この檻は動かさせない」
白い施設の入口が、ゆっくりと暗礁の影に沈んでいく。
その前に立つ改修ビグ・ザムは、まだ檻として生きていた。
俺はビームライフルを構え直し、焼けたシールド越しに巨体を見据えた。
中へ入った者たちを戻すために、俺たちは外でこの白い檻を押さえ続けなければならない。