機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第79話

 潜入艇が外部保管区画の白い入口へ消えた直後、基地そのものが息を吹き返した。

 

 暗礁に偽装されていた外殻の奥で、警告灯らしき赤い光が走り、白い通路の中へ入った潜入班の通信に細かなノイズが混じる。モニター越しに見える入口は、ただ開いているだけなのに、こちらを飲み込んだ後で閉じる口のように見えた。

 

『内部へ入りました。通路は生きています。照明、空調、監視機器も稼働中です』

 

「白い部屋がそのまま基地になったみたいだな。気を抜くな、ここは死んだ施設じゃない」

 

『了解。隔壁番号に旧連邦系の管理コードを確認。ムラサメ系列と思われる記号もあります』

 

 通信の向こうで、潜入班の足音がわずかに響いた。金属の床、白い照明、冷たい空調。ドゥーが恐れていた場所の匂いが、通信のノイズだけで伝わってくるようだった。俺はガンダムXのシールドを構えたまま、背後の入口と前方の改修ビグ・ザムを同時に意識する。

 

 改修ビグ・ザムはまだ完全には止まっていない。ラルさんのグフが右側面の接続ケーブルをヒート・ロッドで抑え続けているが、別の白い増設ユニットが代替信号を流し、巨体の中央砲門には鈍い光が戻り始めている。こちらが潜入班を送り込んだことを、基地側も当然理解しているはずだった。

 

『奥から音がする。冷蔵庫の音じゃないけど、同じ人たちが作った音』

 

 ドゥーの声が艦内通信から届いた。彼女の呼吸はまだ乱れているが、言葉は途切れていない。怖がりながらも、彼女は今の戦場から目を逸らしていない。

 

『基地内部より機動兵器反応。格納区画の隔壁が開きます』

 

「ビグ・ザムだけじゃ終わらせてくれないか」

 

 暗礁に偽装された外壁の一部が左右に割れ、薄い影が三つ、白い光の中から滑り出した。細身の胴体、鋭い腕部、可変機構を思わせる異様な姿勢。そいつらは外へ出ると同時に形を変え、暗礁の残骸と基地外壁の間を水中の魚のように走り始めた。

 

「ハンブラビ……それも一機じゃない」

 

『知っている機体か』

 

 ラルさんのグフがビグ・ザムの側面から離れすぎない位置で姿勢を変える。ヒート・ロッドを緩めれば、ビグ・ザムの制御が戻る。だが、ハンブラビを放置すれば潜入班の入口が潰される。敵はそれを分かった上で、三機を同時に出してきたのだ。

 

「俺の知る歴史では、嫌な戦い方をする機体です。正面から来るより、絡め取って引き離してくる」

 

『ならば、誘いに乗るな。守る線を決めろ』

 

「入口と艦の間は、俺が空けません」

 

 三機のハンブラビは、まるで最初から決まっていたように役割を分けた。一機が高く上がってビームを散らし、俺の視線を奪う。二機目が低く滑り込み、潜入入口へ向かう射線を作る。三機目は機体を変形させながら側面へ回り、鞭のような電撃兵装を伸ばしてガンダムXの腕を狙ってきた。

 

 速い。

 だが、速いだけじゃない。

 

 こいつらは俺を撃墜しに来ているのではなく、入口から引き剥がそうとしている。俺が一機を追えば、別の一機が潜入班の退路を塞ぐ。ラルさんがグフで前に出れば、改修ビグ・ザムの接続制御が戻る。戦場を細かく分け、こちらの守るものを増やして押し潰すやり方だった。

 

『その機体、奥へ入らせないために動いてる。潜入班を閉じ込めるつもり』

 

「分かってる。俺を引き離したいなら、逆に入口から離れない」

 

 俺はガンダムXを後退させず、入口の前に残った。上から来るビームをシールドで受け流し、低く滑り込むハンブラビへビームライフルを撃つ。胴体は狙わない。推進器と変形時に露出する関節だけを狙う。外れれば入口が撃たれる。追いすぎれば背中の大型装備に機体を持っていかれる。

 

 大型背部装備が、また回避の邪魔をした。

 急に左へ振ろうとした瞬間、後方重量が遅れてついてくる。

 

「くそ、ここで引っ張るな」

 

 俺は無理に押さえず、その遅れを使って機体を半回転させた。背中の重さで流される方向へあえて乗り、振り向きざまにビームライフルを撃つ。側面から電撃兵装を伸ばしてきたハンブラビの腕部外装を焼き、狙いを逸らす。青白い電撃が虚空を裂き、ガンダムXのシールドの端だけを掠めた。

 

『こちらも一機抑える』

 

 ラルさんのグフが、ビグ・ザムの側面から最小限の距離だけ離れた。ヒート・ロッドの一部を接続ケーブルへ残したまま、もう一方の腕でビームソードを抜く。ハンブラビの一機がラルさんを狙って急降下するが、ラルさんは待っていたように残骸を蹴り、相手の変形軌道の内側へ入った。

 

『変形の瞬間に、腹が空く。そこを逃すな』

 

「了解。撃墜じゃなく、推進器だけを潰す」

 

 俺はラルさんが作った一瞬へ照準を合わせた。ハンブラビが変形を終えきる前、推進器の角度が揃う。その隙間にビームを通す。直撃ではなく、推進器の片側を焼く程度。だが、それだけで機体の姿勢は大きく崩れた。

 

『回避不能、姿勢制御低下』

 

 敵の通信らしき声がノイズに混じる。撃墜はしない。だが、入口へ近づけさせる必要もない。ラルさんのグフがヒート・ロッドを振るい、姿勢を崩したハンブラビを外壁側へ弾き飛ばす。二機目は潜入入口へビームを向けたが、俺はその射線にガンダムXを滑り込ませ、シールドで受けた。

 

 衝撃が腕を通して肩まで返る。

 警告音が重なり、シールドの表面が赤く焼ける。

 

「これ以上、入口には近づけさせない」

 

 三機目が上空から降ってきた。狙いは俺ではなく、入口へ戻る通信アンテナだ。こいつらは潜入班を殺すだけではなく、内部との連絡を切ろうとしている。俺はビームライフルを向けるが、背中の大型装備がまた機体の戻りを遅らせる。

 

 間に合わない。

 

『ランガ、右へ一歩だ』

 

 ラルさんの声に従って、俺は考えるより先に機体を右へ滑らせた。次の瞬間、グフのヒート・ロッドが横から伸び、ハンブラビの脚部へ絡む。ラルさんはそのまま引き倒さず、相手の軌道をほんの少し変えた。その少しで十分だった。俺の照準が追いつき、ビームライフルがハンブラビの背部推進器を撃ち抜く。

 

 敵機は火花を散らしながら外壁へ叩きつけられた。

 三機の連携が、そこで崩れた。

 

『よし、潜入班の道はまだ生きている』

 

「ハンブラビ隊、後退します。けど、まだ基地は黙っていません」

 

 俺がそう言った直後、基地のさらに奥で、重い音がした。

 

 それは格納庫の隔壁が開く音ではない。もっと深く、もっと大きなものが、長い眠りから起き上がる音だった。外部保管区画の奥、白い通路のさらに向こうにある大型シャフトから、強い熱反応が急速に上がる。艦橋要員の声が一段硬くなった。

 

『基地深部より、新たな高エネルギー反応。先ほどのハンブラビとは桁が違います』

 

『新型機、変形します。大型可変MA、こちらへ高速接近』

 

 白い基地の奥から現れた影は、ハンブラビとはまるで違っていた。大型の推進器、肩から背部へかけて増設された燃料ブロック、旧連邦系の外付け装甲と、木星圏の高重力を想定したような過剰な推力。シルエットは俺の知るメッサーラに似ている。だが、この世界のそれは、ジオン勝利後に流れた技術と旧連邦残党の実験装備を無理に押し込めたような異形だった。

 

 機体の形を見た瞬間より先に、胸の奥が冷えた。

 

 ただ速いわけじゃない。

 ただ強いわけでもない。

 

 その機体は、こちらの位置、ラルさんの癖、潜入班の退路、改修ビグ・ザムの制御状態まで、全部を盤面の駒として見ているように動いていた。機械の反応ではない。誰かの意志が、戦場全体を上から撫でている。

 

『速いだけではない。こちらの退路を先に読んでいる』

 

「この動き……ただの防衛機じゃない」

 

『ランガ、怖い。あの機体、こっちを見てる。機械じゃなくて、人が見てる』

 

「分かってる。これは、俺を見ている」

 

 通信の向こうで、ほんのわずかに笑うようなノイズが混じった。

 

『面白い反応をする。君は、ただの迷い込んだ少年ではないらしい』

 

 その声を聞いた瞬間、胃の底が冷えた。

 姿は見えない。顔も見えない。だが、この圧だけは間違えようがない。

 

「……シロッコ」

 

『何だと』

 

 ラルさんの声が低くなる。俺はメッサーラの異様な機影を見据えたまま、操縦桿を握り直した。

 

「この世界でも、あいつがいる。あの機体の向こうに、パプテマス・シロッコがいる」

 

 ビグ・ザムよりも、ハンブラビよりも、あの圧だけは間違えない。

 俺は、あいつを知っている。

 

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