機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第82話

 青いリック・ドムは、爆炎の外縁で止まった。

 

 ティターンズの外部保管区画は、もう基地と呼べる形を残していない。白い外壁は内側から裂け、赤い炎と黒い破片を吐き出しながら、暗礁宙域の闇へ崩れていく。俺たちが追っていた記録も、ドゥーが震えながら感じ取った白い音も、シロッコへ繋がるかもしれなかった手掛かりも、その大半が爆発の中へ消えた。

 

 それでも、全部が消えたわけではなかった。

 

 青いリック・ドムの右手には、小型の記録カプセルらしきものが握られている。機体は通常のリック・ドムよりも関節部に追加装甲があり、背部のスラスターも戦後改修を受けているように見えた。深い青の装甲は、ラルさんのグフとは別の重さを持っている。あれは目立つための青ではない。戦場の中で、自分の名と立場を隠さない者の色だった。

 

『青いリック・ドム、停止しました。武装は展開していませんが、こちらを正面に捉えています』

 

「攻撃してこないなら、こちらから撃つ理由はない。けど、あのカプセルは確認する」

 

『不用意に近づくな。あの動きは、素人のものではない』

 

 ラルさんの声に、俺はガンダムXの前進を止めた。焼けたシールドを下げず、ビームライフルの銃口だけをわずかに外す。撃つ気はない。だが、撃てない姿勢を見せるつもりもなかった。

 

 青いリック・ドムから通信が入った。

 

『撃つな。こちらに交戦の意思はない』

 

 低く、硬い声だった。無駄な感情を削ぎ落とした軍人の声だ。こちらを宥めるためではなく、事実だけを置くような声だった。

 

「なら、何を拾った。そこにあったものは、俺たちが追っていた手掛かりだ」

 

『貴様らだけの手掛かりではない。燃やされた場所から残ったものを拾った、それだけだ』

 

 言い方は静かだが、渡すつもりがないことだけは分かった。俺は操縦桿を握り直す。ここで撃てば、カプセルごと失うかもしれない。だが、黙って見送れば、ようやく残った細い糸まで遠ざかっていく。

 

『その声……まさか、ガトーか』

 

 ラルさんの声色が変わった。驚きだけではない。警戒と、古い軍人同士の敬意が混じっている。

 

『久しいな、ランバ・ラル大尉。まさか貴公が、このような場所で旧連邦の亡霊を追っているとはな』

 

「ガトー……アナベル・ガトーなのか」

 

 名前を口にした瞬間、自分の知っている歴史が、また一つ軋んだ。俺の世界でその名は、敗れたジオンの残火と結びついていた。だが、この世界でジオンは勝っている。目の前にいるガトーは、敗残兵ではない。勝利した側に残り、それでも戦後の闇を追い続ける軍人なのだ。

 

『私の名を知っているか。ならば、貴様もただの漂流者ではあるまい』

 

『ガトーはジオン軍の特務任務に就いている。表向きには存在しない残務処理、と言えば分かるか』

 

 ラルさんが短く補足する。青いリック・ドムは微動だにしない。こちらの反応を見ている。撃つか、問うか、奪うか。俺が何を選ぶのかを、カプセルごと測っているようだった。

 

『旧連邦の研究施設、強化人間の製造網、そして戦後の混乱に紛れたティターンズの萌芽。私はそれらを追っている』

 

「ティターンズを知っているのか」

 

『名が表に出る前から、腐臭はあった。世界が変わろうと、人を兵器に落とす者たちは消えん』

 

 その言葉に、ドゥーの通信がわずかに揺れた。

 

『そのカプセルの中に、白い音の欠片がある』

 

 青いリック・ドムのモノアイが、俺ではなく戦艦の方へ向いた。ドゥーの声を拾ったのだろう。俺は反射的に機体を半歩動かし、ガンダムXをその視線の間へ置いた。

 

『強化された娘か。いや、今はそう呼ぶべきではないな。貴様には名があるのだろう』

 

「ドゥーだ。彼女を番号や実験体みたいに呼ぶな」

 

『ならば、その名を守り続けろ。怒りで戦う者に、それができるかは別だがな』

 

 言い返そうとして、喉の奥で言葉が止まった。ガトーの声に侮りはなかった。けれど、甘さもない。俺がドゥーを守ると言うなら、それを戦場で何度でも証明しろと言っている。そういう声だった。

 

「そのカプセルを渡してくれ。そこに、ドゥーの過去やティターンズの手掛かりがあるかもしれない」

 

『渡せと言われて渡すほど、これは軽いものではない』

 

「基地は消えた。俺たちは、その一つを失ったんだ」

 

『貴様は人命を選んだ。それは認めよう。あの状況でメッサーラを追わず、潜入班を戻した判断は、兵として間違ってはいない』

 

「なら、なぜ渡さない」

 

 青いリック・ドムの肩部スラスターがわずかに光った。逃げる準備ではない。間合いを整えただけだ。俺が焦って踏み込めば、すぐにでも離脱できる距離を作っている。

 

『貴様の機体から、旧連邦の闇が匂う。ガンダムの外装、ペイルライダーの系譜、そして眠ったままの殺意のようなシステム』

 

「HADESのことか」

 

『名は知らん。だが、機体が先に答えを出す類のものだということは分かる』

 

 コックピットの端で、HADES監視端末が沈黙している。テムさんが取り付けた制御表示は安定していたが、ガトーの言葉は妙に刺さった。機体が先に答えを出すな。テムさんの言葉と、ガトーの警戒が同じ場所を指している。

 

『ガトー、彼はその力に呑まれまいとしている』

 

『だからこそ問う必要がある。呑まれまいとする者ほど、追い詰められた時に何を選ぶかが戦場で試される』

 

 ラルさんはそこで黙った。庇ってくれるかと思った自分が、少し情けなかった。これは俺が答えるべきものだ。ガンダムXに乗っているのも、HADESを抱えているのも、ティターンズを追っているのも俺なのだから。

 

「俺は、ティターンズを止めたい。シロッコも、ムラサメの白い部屋も、二度と誰かを檻に入れさせたくない」

 

『止めたい、か。討ちたい、ではなく』

 

「討ちたい気持ちがないとは言わない。あいつらに奪われたものは多すぎる」

 

『正直だな。だが、正直さだけでは戦場で人は守れん』

 

『ランガは、追わなかった。さっきも、怒ってたのに、私たちの方を見てくれた』

 

 ドゥーの声が入る。俺はその声に救われそうになって、同時に胸が痛くなった。彼女にそう言わせていること自体が、俺の危うさの証拠でもある。

 

『それを一度できた者が、二度目もできるとは限らん。戦いとは、同じ問いを何度も突きつけてくるものだ』

 

『だから試すのか、ガトー』

 

『試すのではない。見極めるのだ。この記録を託すに足る者かどうかをな』

 

「何を答えればいい」

 

『言葉だけなら、誰でも飾れる』

 

「じゃあ、何を見たい」

 

 青いリック・ドムのモノアイが、まっすぐ俺を見た。爆炎の赤が背後で消えていき、崩壊した白い基地の破片が闇に散っていく。その中で、ガトーの声だけが重く残った。

 

『貴様の戦う理由だ』

 

 俺は返事をしようとした。けれど、言葉はすぐには出なかった。マチュを守りたい。ドゥーを番号に戻したくない。ティターンズを止めたい。シロッコを追いたい。奪われたものを取り返したい。どれも嘘ではない。だが、その全部が同じ方向を向いているとは限らなかった。

 

 ガトーは、俺の沈黙を責めなかった。

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