機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re 作:ボルメテウスさん
白い巨型機の砲門が、一斉にこちらを向いた。
サイコ・ガンダム系列機と呼ぶには、そいつはあまりにも歪だった。胸部に埋め込まれたメガ粒子砲、肩に増設された白い同期装置、背中から伸びる太いケーブル、そして周囲に浮かぶ増幅砲台。人型の名残を残しているのに、機体全体はひとつの檻として組み上げられている。
『前衛のサイコ・ガンダム系列機、全砲門起動。高エネルギー反応、来ます』
「正面から弾幕で潰す気か。ガンダムX、シールドを前に出す」
俺はガンダムXのシールドを構え、正面の射線へ機体を滑り込ませた。敵の狙いは俺たち三機の撃墜だけじゃない。ラルさんのグフ、ガトーの青いリック・ドム、俺のガンダムXをそれぞれ別方向へ弾き、連携を切ってから巨型機の火力で押し潰すつもりだ。
『まともに受け続けるな。巨体の砲門は多いが、旋回には必ず遅れが出る』
『右の増幅砲台は私が抑える。ランガ・ロード、中央を受けすぎるな』
「分かっています。受けるのは最初の射線だけです」
最初のビームが来た。太い光が暗礁を焼き、細かな破片を白く溶かしながら迫ってくる。俺はシールドの角度をずらし、真正面から止めずに流した。衝撃が腕へ返り、ガンダムXの姿勢が重い背部装備に引かれる。ここで踏ん張りすぎれば、次の弾幕に捕まる。
『ランガ、左じゃない。白い音が右から押してくる』
「ドゥー、艦から見えているのか。助かる、右へずれる」
通信に入った声は、いつもより近く聞こえた。けれど、今は考えている余裕がない。俺はドゥーの言葉に従い、右へわずかに機体をずらした。次の瞬間、左側を掠めるはずだった光が右の増幅砲台から曲がるように伸び、さっきまでいた位置を焼き抜いた。
ドゥーがいなければ、読めなかった。
ラルさんのグフが左へ沈むように走り、白い巨型機の肩部へ近づいていく。敵の弾幕は濃いが、撃つ方向を変えるたびに肩の増設ユニットがわずかに遅れる。ラルさんはその遅れだけを拾い、熱の走る光線の隙間へ機体をねじ込んだ。
『ランガ、左肩の白い増設部を見ろ。あれが砲門の同期を取っている』
「撃ち抜くと中にいる人間まで傷つけるかもしれません」
『だから剥がす。沈める戦いではなく、止める戦いだ』
前のビグ・ザムと同じだ。檻を壊すのではなく、檻と中身を繋いでいる鎖を外す。俺は照準を中央の装甲ではなく、肩から背部へ伸びる白い固定具へ移した。だが、その瞬間に右側から砲台群が一斉に光る。
『右の砲台群、射撃間隔を崩す。三秒だけ中央の圧が薄くなる』
ガトーの青いリック・ドムが、重い機体を真横へ押し出した。リック・ドムのバズーカ弾が増幅砲台の基部を正確に叩き、破壊せずに姿勢だけをずらす。砲台の同期が乱れ、弾幕の一部に細い隙間が生まれた。
「三秒あれば十分です。外装だけを焼く」
『甘い照準は許さん。浅すぎれば効かず、深すぎれば中枢を壊す』
「分かっています。撃破じゃない、無力化です」
俺はビームライフルの出力を落とし、白い増設部の端だけを焼いた。装甲が溶け、固定具の一部が赤く光る。けれど、完全には外れない。サイコ・ガンダム系列機は身をよじるように動き、胸部砲門へ再び光を集め始める。
『その奥、まだ駄目。白い音が痛がってる』
「また近いな……いや、今は確認している余裕がない」
ドゥーの声が、やはり近い。通信の遅れがない。息づかいの小さな揺れまで聞こえる。それでも、俺は前を見るしかなかった。目の前の巨型機が次の弾幕を撃てば、三機の間合いは完全に裂かれる。
『敵巨型機、弾幕密度低下。中央制御部への射線、開きます』
『撃てるぞ、ランガ・ロード。だが、何を撃つかを誤るな』
ガトーの声と同時に、モニター中央へ制御中枢らしき熱源が浮かんだ。そこを撃てば、確実に止まる。胸部の奥、白い接続ユニットの下、制御信号が集まっている一点。俺の指が、引き金へかかる。
「中央制御部を止める。これで動きは止まるはずだ」
「そこは駄目」
声は、通信ではなかった。
コックピットの後ろから聞こえた。耳ではなく、背中に触れるような近さで聞こえた。俺は一瞬だけ呼吸を止めかけたが、弾幕の光が視界へ迫り、振り返る余裕を奪った。
「ドゥー、何が見える」
「そこに人がいる。機械じゃない。痛いまま、まだ繋がれてる」
「通信が近い……?」
『ランガ、判断を急げ。次の弾幕が来る』
ラルさんの声で、俺は現実へ戻った。驚くのは後だ。怒るのも後だ。今ここで迷えば、ドゥーの言葉が守ろうとしたものまで壊す。
「中央は撃たない。右上の白い接続ユニットを焼く」
『よかろう。ならば、そこへ道を開ける』
ガトーのリック・ドムが右の砲台へもう一撃を入れ、砲口の向きを強引にずらした。ラルさんのグフは左肩へ取りつき、ヒート・ロッドを白いケーブルの束へ絡める。引き千切る動きではない。筋肉を剥がすように、相手の内側を傷つけない速度で緩めていく。
『ケーブルを掴んだ。引き千切りはしない、緩めるだけだ』
『右砲台、制圧する。ランガ、今だ』
「ビームライフル、出力制限。固定具だけを焼く」
「そこなら大丈夫。白い音が、少し離れる」
「信じる。撃つ」
俺は中央制御部から照準を外し、右上の白い接続ユニットの固定具だけを撃った。ビームは深く入らない。表面を焼き、固定金具を溶かし、ラルさんのヒート・ロッドが緩めたケーブルへ負荷を逃がす。巨型機の全身が大きく震え、胸部砲門に集まっていた光が乱れた。
『敵巨型機、外部接続ユニット損傷。砲門同期、崩壊します』
『よし、押し切るな。ここで壊しすぎれば檻ごと潰れる』
『無力化確認。敵前衛巨型機、主砲反応停止』
白い巨体が、膝を折るように動きを止めた。完全に破壊したわけではない。腕部はまだ残り、装甲も崩れていない。けれど、弾幕を作っていた同期は切れ、周囲の増幅砲台も照準を失って沈黙した。
「止まった……撃破じゃない。止められた」
俺はようやく息を吐いた。ガンダムXのシールドは焼け、左腕の警告が点滅している。けれど、三機ともまだ動ける。防衛線の一枚目は測れた。サイコ・ガンダム系列機がどんな形で動き、どこを剥がせば止まるのか、その一端を掴めた。
そこで、さっきの違和感が一気に戻ってきた。
「ドゥー、今の誘導は助かった。艦へ戻ったら、ちゃんと休んでくれ」
「うん。でも、艦には戻れないよ」
「……何?」
「ランガの後ろにいるから」
全身の血が、一瞬で冷えた。
「後ろ……?」
『ランガ、どうした』
『何か異常か』
「異常どころじゃない」
俺は首だけを動かし、操縦席の後ろへ視線を向けた。狭いコックピットの後方、通常なら工具ケースと予備パックが固定されるスペースに、補助ハーネスで身体を固定したドゥーがいた。顔色は悪い。白い音を聞き続けたせいで唇も震えている。けれど、その目は逸れていなかった。
「ごめん。勝手に乗った。でも、あの音を近くで聞かなきゃ、止める場所が分からなかった」
俺は怒鳴りたかった。何をしているんだと叫びたかった。ここがどこか分かっているのか、サイコ・ガンダムの壁の前で、シロッコの圧が届く場所で、どうして一人で乗り込んだのかと問い詰めたかった。
けれど、彼女の手はまだ震えていた。
それでも、俺を見ていた。
「ドゥー……お前、操縦席の後ろにいたのか」
『ランガ、敵前衛の再編が始まる。話は後にしろ』
ラルさんの声が、厳しく割って入った。分かっている。今はまだ戦場だ。奥にはサイコ・ガンダム系列の集団が残っている。シロッコの圧も消えていない。バスクの匂いがする防衛線も、まだ一枚剥がれただけだ。
それでも俺は、一秒だけドゥーから目を離せなかった。
「今すぐ怒鳴りたい。けど、その前に聞かせろ」
俺は再び前を向き、ガンダムXのシールドを上げた。背後にいる彼女を守るためにも、今は立ち止まれない。
「なんで、ここまで来た」