機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re 作:ボルメテウスさん
ドゥーは補助ハーネスに固定されたまま、俺の背中越しに小さく息を吸った。
怒鳴りたい気持ちは、喉の奥でまだ燃えている。どうやって乗ったのか、いつからそこにいたのか、艦の医療区画にいたはずの彼女が、なぜこんな場所まで来ているのか。問いは次々に浮かぶのに、全周モニターの向こうでは、サイコ・ガンダム系列の巨型機群が再び動き始めていた。
「遠くからだと、白い音が混ざりすぎて分からなかった」
ドゥーの声は震えていたが、逃げる声ではなかった。怖いのに、怖いままここに来た人間の声だった。
「だからって、勝手に乗る理由にはならない」
「分かってる。危ないことも、ランガが怒ることも、分かってた」
「なら、どうしてだ」
「あの中に、まだ人がいたから。撃つ場所を間違えたら、その人まで壊れると思った」
俺は言葉を失いかけた。さっきの中央制御部。あそこを撃てば機体は止まったかもしれない。だが、その奥にまだ人がいたのなら、俺は檻ごと中身を潰すところだった。ドゥーが止めなければ、俺は正しいと思い込んだ一撃で、誰かを殺していたかもしれない。
「それを俺に言うために、自分をここへ置いたのか」
「うん。守られるだけじゃなくて、私も止める場所を見つけたかった」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が痛んだ。彼女は守られるだけの存在じゃない。けれど、守りたいと思っている俺にとって、彼女がこんな危険な場所にいる現実は、どうしようもなく怖かった。
『敵巨型機群、照準変更。複数の砲門がガンダムXへ集中しています』
艦橋からの報告が、俺たちの会話を断ち切った。
奥に並んでいた白い巨人たちが、ゆっくりとこちらを向いていく。さっきまでは三機全体を押し潰すように組まれていた射線が、今は明らかにガンダムXだけを中心に組み直されていた。砲門の向き、増幅砲台の角度、周囲のMSの配置。その全部が、俺ではなく、俺の後ろにいるドゥーへ向いているように見えた。
「俺じゃない。ドゥーに反応しているのか」
「白い音がこっちを見た。私を呼んでるんじゃない、探してる」
『ランガ、会話は後だ。敵が君の機体を中心に布陣を組み直した』
『ドゥーの存在を感知したなら、敵はこの機を逃がすまい』
ラルさんとガトーの声が続く。俺は奥歯を噛みしめ、シールドを握るガンダムXの左腕を前へ出した。怒りで前に出るな。逃げる線を考えろ。さっきまで自分に言い聞かせていたことを、今度はドゥーを背負った状態で実行しなければならない。
「逃がさないつもりなら、なおさら逃げます。ここで捕まるわけにはいかない」
「ごめん、ランガ。私のせいで狙われた」
「違う。狙う敵が悪い。だけど、無断で乗ったことは後で話す」
俺は言い切って、ガンダムXを後退軌道へ乗せた。だが、敵はそれを許さない。左翼から改修ハイザックとバーザム試作型が回り込み、右側では白い増幅砲台が再充填を始めている。さらに上方から、ワイヤー状の細い影が伸びてきた。砲撃ではない。捕獲用の接続線だ。
「右上から白い鎖が来る。砲撃じゃなくて、捕まえるための線」
「捕獲用の誘導ワイヤーか。ラルさん、右上に罠があります」
『見えた。ガトー、右砲台の下を叩け』
『任されよう。敵が捕えるというなら、その手首を砕く』
青いリック・ドムが重い機体を滑らせ、右側の砲台群へバズーカを撃ち込んだ。爆発は砲台そのものを砕かない。基部を揺らし、射線とワイヤーの角度だけを乱す。ガトーの攻撃はいつもそうだ。破壊ではなく、敵が次の動きを置く場所を潰していく。
『私が左翼を割る。ランガは中央から逸れるな』
「了解。俺はドゥーを乗せたまま、中央の射線を受けます」
『受けるだけでは足りん。受けながら、退く線を作れ』
「分かっています。ここで倒すために残りません」
ラルさんのグフが左へ切り込み、ヒート・ロッドで敵MSの脚部を絡める。撃墜はしない。姿勢を崩し、互いの射線を塞がせる。俺はその隙へガンダムXを滑り込ませ、シールドで中央から来るビームを受けた。熱がシールド表面を焼き、左腕の警告がまた増える。
背中の大型装備が、後退の軌道を重くする。
だが、その重さを知っているから、まだ崩れない。
「ドゥー、揺れる。ハーネスを握ってろ」
「握ってる。ランガは前を見て」
彼女の声が後ろから聞こえる。それが怖い。同時に、前を向けと言われているようで、妙に腹が据わった。俺は下方へ抜ける退路を選びかけたが、ドゥーがすぐに息を呑んだ。
「ランガ、下じゃない。上に抜けて。白い音が下で待ってる」
「上へ出る。二人とも、軌道を合わせてください」
『よし、合わせる。今だ』
『青いリック・ドム、推力を上げる。退路を塞ぐ敵は叩き落とす』
三機の軌道が重なった。ラルさんが左の敵を崩し、ガトーが右の重火力を抑え、俺は中央でシールドを押し立てながら上へ抜ける。ガンダムXの背部装備が遅れてついてくるが、その遅れに合わせて姿勢を半回転させ、最後の射線だけをシールドの残った面で受けた。
捕獲ワイヤーが、さっきまで俺たちがいた下方を走り抜けた。白い鎖の先端が空を掴み、何も捕まえられないまま収縮していく。もしドゥーの声がなければ、あそこへ飛び込んでいた。
『三機、撤退線まで残り二十秒。敵砲門、再充填中です』
「ガンダムX、シールド限界まで持たせる。二人とも先に抜けてください」
『君だけを残すつもりはない。三機で来て、三機で戻る』
『その通りだ。若い者に殿を任せて逃げるほど、私は老いていない』
こんな状況で、少しだけ息が漏れそうになった。笑う余裕なんてない。けれど、二人の声は俺を一人にしなかった。俺は最後のビームを受け流し、撤退線の外へガンダムXを押し出す。
『三機、防衛線外縁を離脱。敵前衛の追撃、いったん鈍化しました』
防衛線の光が、わずかに遠ざかる。サイコ・ガンダム系列の巨型機群はまだこちらを見ている。奥からのシロッコの圧も消えていない。だが、今は距離を取れた。情報も持ち帰れる。ドゥーも、生きている。
「助かった。でも、ドゥー。艦に戻ったら、ちゃんと話す」
「うん。怒られるのは分かってる」
「怒る。心配もする。だけど、その前に、生きて帰る」
俺は焼けたシールドを下げず、艦の方向へ機体を向けた。背後から聞こえるドゥーの呼吸が、まだ近い。近すぎる。その近さが、今は何より怖くて、何より失いたくないものだった。
「話は戻ってからだ。今は怒るためじゃなく、お前を連れて帰るために操縦する」