機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

88 / 88
第88話

 ドゥーは補助ハーネスに固定されたまま、俺の背中越しに小さく息を吸った。

 

 怒鳴りたい気持ちは、喉の奥でまだ燃えている。どうやって乗ったのか、いつからそこにいたのか、艦の医療区画にいたはずの彼女が、なぜこんな場所まで来ているのか。問いは次々に浮かぶのに、全周モニターの向こうでは、サイコ・ガンダム系列の巨型機群が再び動き始めていた。

 

「遠くからだと、白い音が混ざりすぎて分からなかった」

 

 ドゥーの声は震えていたが、逃げる声ではなかった。怖いのに、怖いままここに来た人間の声だった。

 

「だからって、勝手に乗る理由にはならない」

 

「分かってる。危ないことも、ランガが怒ることも、分かってた」

 

「なら、どうしてだ」

 

「あの中に、まだ人がいたから。撃つ場所を間違えたら、その人まで壊れると思った」

 

 俺は言葉を失いかけた。さっきの中央制御部。あそこを撃てば機体は止まったかもしれない。だが、その奥にまだ人がいたのなら、俺は檻ごと中身を潰すところだった。ドゥーが止めなければ、俺は正しいと思い込んだ一撃で、誰かを殺していたかもしれない。

 

「それを俺に言うために、自分をここへ置いたのか」

 

「うん。守られるだけじゃなくて、私も止める場所を見つけたかった」

 

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が痛んだ。彼女は守られるだけの存在じゃない。けれど、守りたいと思っている俺にとって、彼女がこんな危険な場所にいる現実は、どうしようもなく怖かった。

 

『敵巨型機群、照準変更。複数の砲門がガンダムXへ集中しています』

 

 艦橋からの報告が、俺たちの会話を断ち切った。

 

 奥に並んでいた白い巨人たちが、ゆっくりとこちらを向いていく。さっきまでは三機全体を押し潰すように組まれていた射線が、今は明らかにガンダムXだけを中心に組み直されていた。砲門の向き、増幅砲台の角度、周囲のMSの配置。その全部が、俺ではなく、俺の後ろにいるドゥーへ向いているように見えた。

 

「俺じゃない。ドゥーに反応しているのか」

 

「白い音がこっちを見た。私を呼んでるんじゃない、探してる」

 

『ランガ、会話は後だ。敵が君の機体を中心に布陣を組み直した』

 

『ドゥーの存在を感知したなら、敵はこの機を逃がすまい』

 

 ラルさんとガトーの声が続く。俺は奥歯を噛みしめ、シールドを握るガンダムXの左腕を前へ出した。怒りで前に出るな。逃げる線を考えろ。さっきまで自分に言い聞かせていたことを、今度はドゥーを背負った状態で実行しなければならない。

 

「逃がさないつもりなら、なおさら逃げます。ここで捕まるわけにはいかない」

 

「ごめん、ランガ。私のせいで狙われた」

 

「違う。狙う敵が悪い。だけど、無断で乗ったことは後で話す」

 

 俺は言い切って、ガンダムXを後退軌道へ乗せた。だが、敵はそれを許さない。左翼から改修ハイザックとバーザム試作型が回り込み、右側では白い増幅砲台が再充填を始めている。さらに上方から、ワイヤー状の細い影が伸びてきた。砲撃ではない。捕獲用の接続線だ。

 

「右上から白い鎖が来る。砲撃じゃなくて、捕まえるための線」

 

「捕獲用の誘導ワイヤーか。ラルさん、右上に罠があります」

 

『見えた。ガトー、右砲台の下を叩け』

 

『任されよう。敵が捕えるというなら、その手首を砕く』

 

 青いリック・ドムが重い機体を滑らせ、右側の砲台群へバズーカを撃ち込んだ。爆発は砲台そのものを砕かない。基部を揺らし、射線とワイヤーの角度だけを乱す。ガトーの攻撃はいつもそうだ。破壊ではなく、敵が次の動きを置く場所を潰していく。

 

『私が左翼を割る。ランガは中央から逸れるな』

 

「了解。俺はドゥーを乗せたまま、中央の射線を受けます」

 

『受けるだけでは足りん。受けながら、退く線を作れ』

 

「分かっています。ここで倒すために残りません」

 

 ラルさんのグフが左へ切り込み、ヒート・ロッドで敵MSの脚部を絡める。撃墜はしない。姿勢を崩し、互いの射線を塞がせる。俺はその隙へガンダムXを滑り込ませ、シールドで中央から来るビームを受けた。熱がシールド表面を焼き、左腕の警告がまた増える。

 

 背中の大型装備が、後退の軌道を重くする。

 だが、その重さを知っているから、まだ崩れない。

 

「ドゥー、揺れる。ハーネスを握ってろ」

 

「握ってる。ランガは前を見て」

 

 彼女の声が後ろから聞こえる。それが怖い。同時に、前を向けと言われているようで、妙に腹が据わった。俺は下方へ抜ける退路を選びかけたが、ドゥーがすぐに息を呑んだ。

 

「ランガ、下じゃない。上に抜けて。白い音が下で待ってる」

 

「上へ出る。二人とも、軌道を合わせてください」

 

『よし、合わせる。今だ』

 

『青いリック・ドム、推力を上げる。退路を塞ぐ敵は叩き落とす』

 

 三機の軌道が重なった。ラルさんが左の敵を崩し、ガトーが右の重火力を抑え、俺は中央でシールドを押し立てながら上へ抜ける。ガンダムXの背部装備が遅れてついてくるが、その遅れに合わせて姿勢を半回転させ、最後の射線だけをシールドの残った面で受けた。

 

 捕獲ワイヤーが、さっきまで俺たちがいた下方を走り抜けた。白い鎖の先端が空を掴み、何も捕まえられないまま収縮していく。もしドゥーの声がなければ、あそこへ飛び込んでいた。

 

『三機、撤退線まで残り二十秒。敵砲門、再充填中です』

 

「ガンダムX、シールド限界まで持たせる。二人とも先に抜けてください」

 

『君だけを残すつもりはない。三機で来て、三機で戻る』

 

『その通りだ。若い者に殿を任せて逃げるほど、私は老いていない』

 

 こんな状況で、少しだけ息が漏れそうになった。笑う余裕なんてない。けれど、二人の声は俺を一人にしなかった。俺は最後のビームを受け流し、撤退線の外へガンダムXを押し出す。

 

『三機、防衛線外縁を離脱。敵前衛の追撃、いったん鈍化しました』

 

 防衛線の光が、わずかに遠ざかる。サイコ・ガンダム系列の巨型機群はまだこちらを見ている。奥からのシロッコの圧も消えていない。だが、今は距離を取れた。情報も持ち帰れる。ドゥーも、生きている。

 

「助かった。でも、ドゥー。艦に戻ったら、ちゃんと話す」

 

「うん。怒られるのは分かってる」

 

「怒る。心配もする。だけど、その前に、生きて帰る」

 

 俺は焼けたシールドを下げず、艦の方向へ機体を向けた。背後から聞こえるドゥーの呼吸が、まだ近い。近すぎる。その近さが、今は何より怖くて、何より失いたくないものだった。

 

「話は戻ってからだ。今は怒るためじゃなく、お前を連れて帰るために操縦する」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界(作者:ボルメテウスさん)(原作:ガンダム)

【機動戦士Gundam GQuuuuuuXのネタバレを含みます。見てない方は今すぐに見てきてください】▼あの日、全てが一変した時から、俺は戦い続けた。▼復讐の為に動いていたはずが、いつの間にか似たような事をした事に気づいた。▼間違いに気づいた後、償いの為に戦って、死んだ。▼けれど、そんな俺が待ち受けていたのは、信じられない光景だった。


総合評価:3893/評価:7.76/完結:175話/更新日時:2026年01月01日(木) 07:00 小説情報

≠ハサウェイ(作者:なべを)(原作:ガンダム)

「ハサウェイ・ノア」として生を受けてどう生きるかをつらつらと書き記したもの▼


総合評価:2549/評価:7.07/完結:39話/更新日時:2026年03月08日(日) 20:00 小説情報

転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜(作者:台風200号)(原作:ガンダム)

気がつけば、そこは『機動戦士ガンダムSEED』の世界だった。▼だが――転生したのはコーディネーターでも、英雄でも、パイロットでもない。▼よりによって「オーブのアスハ家三男」という、政治と陰謀の渦中に放り込まれる地雷原のド真ん中の最悪のポジションだった。▼未来を知る者として、タイガ・ウラ・アスハは決意する。▼――オーブを守る。▼――プラントの滅びを見届ける。▼…


総合評価:2166/評価:6.92/連載:197話/更新日時:2026年06月27日(土) 07:01 小説情報

戦犯にはなりたくない!(作者:蒼天)(原作:ガンダム)

一年戦争の初日にコロニーに毒ガスを注入してしまったオリ主(ニュータイプ)が、戦犯にならないためにいろんなガンダム作品のキャラクターたちと交流しながら奔走するお話。▼※一部原作キャラクターの設定を変更しておりますので、ご注意ください。


総合評価:1207/評価:7.7/連載:69話/更新日時:2026年06月27日(土) 18:00 小説情報

ファーストの内容を1ミリも知らない俺が介入したせいで、宇宙世紀の歴史がおかしくなったかも(作者:フェルトファン)(原作:ガンダム)

トラックに撥ねられてしまった一人の社会人は、気が付いたらかの有名なガンダムの世界で負け確定のジオン側に転生してしまった。しかもよりによって彼は“ファーストを見ておらず”、それでも彼には“ガンダムを操縦したい!”という強い願望を持っている。▼本作の主人公「あぁん?原作崩壊するかもしれないからやめとけ……ジオン側だから無理……知るかボケェ!こっちとらガンダムを操…


総合評価:716/評価:7.93/連載:7話/更新日時:2026年05月24日(日) 20:21 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>