機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re 作:ボルメテウスさん
艦へ戻るまで、俺は一度も背後を振り返れなかった。
ガンダムXのコックピット後方には、補助ハーネスに身体を固定したドゥーがいる。敵の防衛線を離れた今でも、全周モニターの奥にはサイコ・ガンダム系列機の白い影が残っている気がした。あいつらは俺たち三機を追っていたのではない。ガンダムXの中にいるドゥーを見つけ、またどこかへ繋ぎ直そうとしていた。
『ガンダムX、収容位置へ誘導する。左腕とシールドの熱損傷が大きい、着艦時に姿勢を崩すな』
「了解。背部装備の固定も重い。ゆっくり入れます」
格納デッキの誘導灯が見えた時、ようやく息を吐けた。ラルさんのグフが先に入り、続いてガトーの青いリック・ドムが重い機体を滑り込ませる。最後に俺がガンダムXを固定フレームへ入れると、整備員たちが一斉に機体へ取りついた。
「ガンダムX、左腕部とシールドに高熱損傷。背部装備の固定部も再確認が必要です」
「機体は後で見る。先にコックピット後方を開けてくれ」
整備員が一瞬、手を止めた。
「後方ですか。まさか、誰か乗っているんですか」
「乗っていた。俺も戦闘中まで気づかなかった」
言葉にした瞬間、また怒りが喉まで上がってきた。どうして気づけなかった。どうして彼女が乗り込める状態のまま出撃してしまった。怒りはドゥーへ向いているようで、半分以上は自分へ向いていた。
ハッチが開くと、冷えた艦内の空気がコックピットへ流れ込んだ。俺は先に降りず、後方の狭いスペースへ身体を捻る。ドゥーはハーネスに固定されたまま、青白い顔でこちらを見ていた。唇は震えているが、目は逃げていない。
「ごめん。降りる時、少し手を貸してほしい」
「手は貸す。けど、話は絶対にする」
「うん。逃げない。怒られるのも、分かってる」
俺は彼女のハーネスを外し、医療班が差し出した簡易担架へ移す。足元が少しふらついた瞬間、反射的に腕を伸ばした。怒っているのに、支えずにはいられない。その自分が少し情けなかった。
格納デッキの隅で、俺はドゥーと向き合った。ラルさんとガトーは少し離れた位置に立っている。見守っているが、口は挟まない。これは俺とドゥーが最初に話すべきことだと、二人とも分かっているのだろう。
「助かった。お前が止めなければ、俺は中央を撃っていたかもしれない」
「うん。だから、近くで聞かなきゃいけないと思った」
「でも、それと無断で乗ったことは別だ。お前が撃たれていたら、俺はどうすればよかった」
声が少し強くなった。ドゥーの肩が小さく揺れる。それを見て、俺は拳を握りしめる。怒鳴れば楽だった。だが、楽になっていい話じゃない。
「ランガが怖がるのは分かってた。でも、私も怖かった」
「怖いなら、なおさら艦にいてほしかった」
「艦からだと、白い音が重なって分からなかった。誰が機械で、誰がまだ人なのか、近くじゃないと聞き分けられなかった」
ドゥーは俯かずに言った。白い部屋の記憶に震えながら、それでも彼女は同じ檻の中にいる誰かを見捨てなかった。
「だから、自分を危険な場所に置いたのか」
「私は、守られるだけじゃ嫌だった。あの中にいる人を、番号のまま壊したくなかった」
言い返す言葉が、すぐには見つからなかった。彼女の行動は危険だった。二度と許せない。けれど、彼女の理由を否定すれば、俺はドゥーをまた保護されるだけの存在へ押し戻すことになる。
「……その気持ちは分かる。けど、俺に何も言わずに乗るのは二度とやるな」
「うん。次は、ちゃんと言う」
「次がある前提で言うな、と言いたい。でも、たぶん俺たちはまたあの白い巨人と向き合う」
「だから、ちゃんと言う。勝手に隠れたりしない」
その答えを聞いて、俺はようやく肩の力を抜いた。許したわけではない。安心したわけでもない。ただ、彼女が自分の意思で立っていることだけは、無視できなかった。
応急診断の後、俺たちは小会議室へ移った。モニターには戦闘ログが表示され、ガンダムX、グフ、青いリック・ドム、そしてサイコ・ガンダム系列機の射線変化が時間ごとに並んでいる。ドゥーは医療班の監視下で椅子に座り、俺はその隣に立った。
「まず確認する。ドゥー君の判断で、前衛巨型機の中枢を壊さずに済んだ」
ラルさんが静かに切り出した。
「それは事実だ。だが、無断同乗は作戦全体を危険に晒した」
ガトーの声は厳しい。だが、責めるためだけの声ではなかった。
「はい。ごめんなさい」
「責めるなら俺もです。コックピット後方に乗り込まれたことに、出撃前に気づけなかった」
「その通りだ。守ると言うなら、気持ちだけでなく確認手順も守れ」
返す言葉はなかった。守るために生きると言ったのに、出撃前の確認すら甘かった。感情だけでは人は守れない。ガトーの言葉は、また同じ場所を突いてくる。
「ガトーの言うことは厳しいが、間違ってはいない。次からは同乗や感応支援を正式な作戦として扱う必要がある」
「正式な作戦にするということは、ドゥーを前線に出すということですか」
「必要ならば、そういう判断もあり得る。ただし、道具としてではなく、本人の意思と安全策を前提にする」
「ドゥーを道具にするなら、俺は反対します」
すぐに言葉が出た。ガトーの視線がこちらへ向く。ラルさんも止めない。ドゥーだけが、少し困ったように俺を見上げた。
「ランガ、私は道具になりたいんじゃない。自分で選びたい」
その言葉は、俺が一番受け止めなければならないものだった。
艦橋要員が戦闘ログを再生する。敵巨型機群の照準が、三機全体からガンダムXへ集中する瞬間が映った。ドゥーが背後から声を出した直後、複数の砲門が一斉に角度を変えている。
「戦闘ログを再生します。敵巨型機群が照準を変更したのは、ドゥーさんの発声直後です」
「俺の機体信号じゃないんですね」
「ガンダムXへの反応もありますが、照準再編の中心は別の波形です」
「サイコミュ、または強化人間用の感応探知か。敵は彼女を識別した可能性がある」
ガトーが淡々と言う。淡々としているからこそ、内容の重さが際立った。敵はドゥーを見つけた。探していた。捕まえようとした。
「探してた。私を呼んでたんじゃない。見つけたものを、また繋ごうとしてた」
「そんなものに近づけるつもりはありません」
俺の声は低くなった。だが、ラルさんはそこで首を横に振る。
「だが、彼女の感覚がなければ、次も檻ごと壊す危険がある」
「分かっています。でも、だからってドゥーを前に出す理由にはしたくない」
「ランガ、私は前に出たいんじゃない。止めたい場所を、一緒に探したい」
ドゥーの声は小さかったが、はっきりしていた。俺は彼女を守りたい。けれど、守るという言葉で彼女の選択を塞げば、それは別の檻になる。
「ならば次は、無断ではなく作戦として決めることだ。軍人でない者の意思を使うなら、軍人が責任を負え」
「その責任は私が預かる。ランガ、君だけが背負うな」
ラルさんの言葉に、俺は小さく頷いた。全部を背負おうとすれば、また判断を間違える。誰かを守るためには、自分一人で抱えることをやめる必要もある。
俺はドゥーへ向き直った。まだ怒っている。まだ怖い。だが、それでも彼女の意思を聞かずに閉じ込めることはできない。
「お前を道具にはしない」
ドゥーが静かに俺を見る。
「けど、お前が自分で選ぶなら、俺はその選択ごと守れる方法を探す」