機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第90話

# 本編

 

## 守るための席

 

 格納デッキの照明は、戦闘の熱を冷ますみたいに白く濁っていた。

 

 ガンダムXのシールドは焼け、左腕の装甲には黒い焦げ跡が走っている。背中の大型装備はまだ完全に使えないまま、重い沈黙を背負うように機体の後ろへ固定されていた。さっきまでサイコ・ガンダム系列機の弾幕を受けていたせいか、その白い光まで、どこか爆炎の残り香を含んでいるように見える。

 

「ガンダムXは左腕部、シールド、背部固定部に損傷。操縦席後方のスペースにも急造同乗の痕跡があります」

 

 整備員の報告を聞いて、俺は反射的に眉を寄せた。急造同乗の痕跡。言葉にされると、背中の奥が冷える。ドゥーがそこにいた。俺の真後ろ、薄い装甲と補助ハーネスだけに命を預けて、あの白い巨人の前にいた。

 

「そこはもう二度と使わせません。あんな場所にドゥーを乗せるなんて、危険すぎます」

 

「もう隠れて乗らない。けど、必要ならちゃんと言って乗りたい」

 

 ドゥーの声は小さかったが、折れてはいなかった。医療班に肩を支えられながらも、彼女は俺から目を逸らさない。怖がっているのに、逃げていない。その強さが、俺にはどうしようもなく怖かった。

 

「必要なら、って簡単に言うな。敵はお前に反応したんだぞ」

 

「簡単には言ってないよ。怖いから、ちゃんと言うって決めたの」

 

 返された言葉に、息が詰まった。デッキの空調音が、白い海鳴りみたいに耳の奥で広がる。守りたいと思うほど、言葉が鎖になる。俺は彼女を守りたいのに、その守り方を間違えれば、また別の檻を作ってしまう。

 

「ランガ、彼女を前線に出すかどうかだけで考えるな」

 

 ラルさんが、青いグフの足元から歩いてきた。戦闘直後なのに、その声はいつものように落ち着いている。

 

「問題は、必要になった時に無防備な形で乗せないことだ」

 

「軍人でない者を作戦に入れるなら、感情ではなく手順が要る。無断同乗を二度と起こさぬ仕組みも必要だ」

 

 ガトーの声は厳しい。青いリック・ドムの影から降りてきた彼は、俺とドゥーを順番に見た。責める目ではない。だが、甘やかす目でもない。

 

「仕組みを作れば、ドゥーを使っていい理由になるんですか」

 

「違う。仕組みがなければ、彼女の意思すら危険に変わると言っている」

 

 その言葉は、硬い金属みたいに胸へ落ちた。ドゥーの意思を尊重する。言うのは簡単だ。けれど、戦場で意思だけを前に出せば、その意思ごと撃ち抜かれる。彼女が選ぶなら、その選択を守る器が必要になる。

 

 整備員がガンダムXのコックピット周辺図を投影した。操縦席後方には、本来なら補助機材と予備パックが固定される小さな空間しかない。そこに人を乗せたという事実だけで、喉が苦くなる。

 

「操縦席後方は、本来は人を乗せる前提ではありません。衝撃吸収も生命維持接続も、正式な補助席とは比べ物になりません」

 

「分かっています。だから、もう乗せません」

 

「でも、あの場所じゃないと近くで聞こえなかった」

 

 ドゥーが静かに言った。俺は彼女を見た。彼女の瞳には、まだ白い巨人の残像が映っている気がした。

 

「ならば、人を隠す場所ではなく、支援者を守る席として作り直すべきだ」

 

 ラルさんの言葉に、格納デッキの空気が少し変わった。隠れる場所ではなく、守るための席。それは、俺が思いつけなかった言葉だった。

 

「補助席、衝撃吸収ハーネス、生命維持接続、緊急遮断。最低でもその程度は必要だ」

 

「緊急遮断?」

 

「敵のサイコミュや強化人間用の感応探知が彼女へ伸びた時、機体側で接続を切る機構だ」

 

 ガトーの説明に、ドゥーが小さく瞬きをした。

 

「また繋がれそうになったら、切るための壁を作るってこと?」

 

「そうだ。彼女を閉じ込める壁ではない。敵から切り離すための壁だ」

 

 ラルさんの声が柔らかくなる。その言葉に、ドゥーの肩からわずかに力が抜けた。俺も、ほんの少しだけ呼吸を取り戻す。壁という言葉は嫌いだった。けれど、外から伸びる手を断つための壁なら、必要なのかもしれない。

 

 通信回線が開き、シャングリラに残るテムさんの声が艦内に響いた。

 

『操縦席後方を補助席化するだけなら可能だ。だが、問題は席ではない。彼女の感応と、機体の中に眠るものが干渉することだ』

 

「HADESですか」

 

『そうだ。HADESは沈黙しているが、怒りや危機感に反応する。そこへ強化人間系の感応波が入れば、機体が勝手に答えを作る危険がある』

 

 その瞬間、コックピットで見た監視端末の赤い揺らぎを思い出した。機体が先に答えを出すな。テムさんの言葉は、何度でも俺の首根っこを掴んでくる。

 

「分かっています。だからこそ、止める仕組みが要る」

 

『補助席には三つの遮断層を置く。外部感応遮断、HADES干渉遮断、そしてドゥー自身が拒否できる手動切断だ』

 

「私が、自分で切れるの?」

 

『そうだ。誰かに切られるだけではない。君が嫌だと思った時、君自身で切れるようにする』

 

 ドゥーはその言葉を聞いて、唇を少しだけ噛んだ。痛みを堪える顔ではない。自分で選べると言われた人間が、その重さを受け止める顔だった。

 

「それなら、ドゥーを道具にはしないで済む」

 

『勘違いするな。仕組みは守るための最低条件だ。使うかどうかは、人間が決めろ』

 

 テムさんの声は突き放すようでいて、どこか優しかった。機械は選ばない。選ぶのは人間だ。だからこそ、俺たちは間違えるし、間違えないために手順を作る。

 

 ガトーが腕を組み、静かに口を開いた。

 

「条件を定める。第一に、彼女の同乗は本人の明確な同意がある時のみだ」

 

「それは当然です」

 

「第二に、彼女が拒否した時点で作戦から外す。感応できるから続けろ、という命令は許されん」

 

「拒否してもいいの?」

 

 ドゥーが驚いたように聞く。ラルさんは、当然だと言うように頷いた。

 

「当然だ。君は兵器ではない」

 

「第三に、ランガ・ロードが感情的に判断を乱した場合、最終命令権はランバ・ラル大尉へ移す」

 

 その言葉に、胸が少し痛んだ。だが、反発は湧かなかった。あの白い巨人がドゥーへ照準を向けた瞬間、俺は確かに視界が狭くなった。もし次に彼女が捕まりかけたら、俺が冷静でいられる保証はない。

 

「俺が、ドゥーを守りたいあまりに判断を間違える可能性があるからですね」

 

「そうだ。守ると言う者ほど、守る相手を失いかけた時に戦場を見失う」

 

「厳しい条件だが、必要な条件だ。ランガ、受けられるか」

 

 ラルさんが俺を見る。俺はドゥーを見た。彼女は不安そうにしている。けれど、俺に拒んでほしい顔ではなかった。自分の選択を、俺に閉じてほしくない顔だった。

 

「受けます。ドゥーを守るためなら、俺が止められる仕組みも必要です」

 

 言葉にした瞬間、少しだけ自分が変わった気がした。守るということは、抱え込むことではない。自分が止められることも含めて、誰かを帰す線を作ることなのだと、ようやく分かり始めていた。

 

 会議が終わった後、俺とドゥーは格納デッキに残った。ガンダムXは照明の下で膝をつき、傷だらけのまま黙っている。外の宇宙は見えないのに、デッキの白い光が、遠い星の冷たさみたいに足元へ落ちていた。

 

「私、怖いよ。あの白い音を近くで聞くのは、今でも怖い」

 

「怖いなら、逃げてもいい。逃げることを俺は責めない」

 

「うん。でも、聞こえるなら、止められるかもしれない。檻ごと壊さずに済むかもしれない」

 

 ドゥーの声は震えている。けれど、その震えは弱さではなかった。恐怖を抱えたまま、それでも前を向くための震えだった。

 

「お前がそう選ぶなら、俺はその選択ごと守る。だけど、無理をしたら止める」

 

「止めて。私が戻れなくなりそうなら、ちゃんと呼んで」

 

「呼ぶ。何度でも、お前の名前を呼ぶ」

 

 ドゥーは少しだけ笑った。泣きそうで、でも確かに笑っていた。

 

「じゃあ、私はドゥーとして乗る。番号じゃなくて、道具じゃなくて、私として」

 

 その言葉が、格納デッキの白い光の中で静かに広がった。俺はガンダムXを見上げた。呪われた機体だと言われた。HADESは眠っているだけで、消えたわけではない。それでも、この機体に新しく作る席は、誰かを檻へ戻すためのものではない。

 

「分かった。ドゥーとして、俺の後ろに乗れ。ただし、帰るための席にする」

 

 俺は焼けたシールドの下で立つガンダムXを見上げながら、ゆっくりと言った。

 

「ここは戦うための席じゃない。お前を檻から遠ざけて、必ず帰すための席にする」

 

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