機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第96話

 発進デッキの白い誘導灯が、ガンダムXの胸を斜めに照らしていた。

 

 その光は、戦場へ送り出す合図というより、手術室の天井灯に似ていた。焼けたシールドも、未完成の背部装備も、今だけは武器というより大きな器具に見える。これから俺たちは敵を倒しに行くのではなく、白い檻の中へ置き去りにされた誰かを、傷つけないように外へ出しに行く。

 

 背後の補助席で、ドゥーのハーネスが軽く鳴った。

 

「補助席、接続正常。遮断層も、手動切断スイッチも反応してる」

 

「ドゥー、途切れてる方だけ拾ってくれ。綺麗な声は、敵が磨いた餌だ」

 

「分かってる。うまく助けてって言えない方を探す」

 

 その言い方に、俺は操縦桿を握る指を少し緩めた。ドゥーはもう、ただ白い音に怯えるだけじゃない。自分が何を拾い、何を拒むのかを、自分の声で言っている。

 

『ガンダムX、グフ、青いリック・ドム、発進準備完了。救出艇は三機の後方にて待機します』

 

『今回の目的は撃破ではない。接続解除、被験体回収、そして全員の帰還だ』

 

『敵がドゥーの手動切断を解析している以上、予定外の接続反応が出た時点で作戦を一段戻す』

 

 ラルさんとガトーの声が、コックピットの中で重なる。

 俺はサブ画面の作戦図を確認し、右胸部ユニットへ伸びる三本の接続線を見た。前回は鍵穴を見つけただけだった。今日は、その鍵穴へ手を差し込む。

 

「分かっています。俺は鍵を開ける。救出艇が入れる道を作る」

 

「その声を聞いたら、私は止める場所を言う。ランガが見えなくなる前に、名前を呼ぶ」

 

「その時は、ちゃんと聞く。機械の答えより先に、お前の声を聞く」

 

 カタパルトが震え、ガンダムXの足元から艦の床が滑るように離れた。黒い宇宙へ押し出された瞬間、白い巨型機の残骸が前方に浮かび上がる。あれはもう動かないはずなのに、装甲の隙間にはまだ冷たい光が滲んでいた。

 

 ラルさんの青いグフが左へ流れ、ガトーの青いリック・ドムが右へ出る。救出艇は俺たちの後方で姿勢を保ち、まるで小さな心臓みたいに誘導灯を明滅させていた。

 

『右側砲門、再起動兆候あり。こちらで抑えるが、長くは持たん』

 

『左翼の捕獲線は私が払う。ランガ、君は檻の鍵へ集中しろ』

 

「了解。ガンダムX、出力を絞る。切るのは装甲じゃない、接続線だ」

 

 ビームライフルの照準を、一本目の白いケーブルへ合わせる。出力は低く、照射時間も短く。焼き切るだけでいい。破壊しすぎれば、檻の中の人間まで巻き込む。

 

「三本目の白い線、その奥が一番近い。けど、そこを深く焼くと中の人まで届く」

 

「外側だけを焼く。少しでも違ったら止めてくれ」

 

「止める。ランガが前だけを見すぎたら、後ろから引く」

 

 ドゥーの声と同時に、一本目が焼けた。派手な爆発はない。白い線が炭化し、接続ユニットの光が一段弱まる。二本目へ照準を移した瞬間、右側の残骸から砲門が起き上がった。

 

 ガトーのリック・ドムが、俺より先に撃った。

 重い砲撃が砲門の基部を叩き、射線だけを横へずらす。敵を粉砕するのではなく、救出艇へ向かう道から敵の手首を外す撃ち方だった。

 

『ランガ、二本目を処理しろ。右は私が黙らせる』

 

「助かります。二本目、焼きます」

 

 ライフルの光が二本目を舐めた。白い接続線が裂け、巨型機の胸部装甲の奥で、何かが小さく跳ねる。サブ画面に生体反応が浮かび、弱い点滅が前回より少しだけ鮮明になった。

 

『接続負荷、段階的に低下。救出艇、進入可能時間は推定三十秒です』

 

『救出艇、進入準備完了。ガンダムXの切断完了を待ちます』

 

 最後の三本目へ照準を合わせた瞬間、背後のドゥーの呼吸が変わった。細く、短く、けれど途切れない。補助席の警告灯が黄色く瞬き、遮断層の波形がざらつく。

 

「来る。前と違う。切った後のところを、向こうが待ってる」

 

「手動切断を狙っているのか」

 

「うん。押した瞬間に、別の白い音が後ろから回り込む。だから、今は進まないで」

 

 指が引き金の上で止まった。三本目を切れば救出艇は入れる。けれど、その直後にドゥーが絡め取られれば、檻は二つに増えるだけだ。

 

「作戦を一段戻す。救出艇、前進停止」

 

『了解。救出艇、待機姿勢へ移行します』

 

『よく止まった。敵の誘いに乗れば、君たちは檻の中で二重に絡め取られていた』

 

『ランガ、遮断優先だ。救出は道を失ってまで行うものではない』

 

 ガンダムXを横へ流す。救出艇から離れすぎず、巨型機にも近づきすぎない位置へ。作戦図で引いた青い線を、今度は自分の手でなぞる。

 

「ドゥー、切るなら今だ。俺は機体を横へ流す」

 

「切る。私はドゥー。戻る道を、自分で閉じない」

 

 補助席から、小さなクリック音が響いた。

 

『手動切断、作動。外部感応遮断、再構成中。別経路接続反応、検出』

 

「別経路は左上か。ラルさん、捕獲線と一緒に払えますか」

 

『見えた。彼女の戻る道へ触れさせはせん』

 

 グフのヒート・ロッドが、左上から伸びる白い接続線へ絡みついた。青い機体が一瞬だけ巨型機の影に沈み、次の瞬間、白い線を引き千切るように宙を薙ぐ。切れた線の先端が火花を散らし、偽の救難信号が波形ごと乱れた。

 

 その乱れの奥で、ドゥーが息を呑んだ。

 

「聞こえた。番号じゃない。たぶん、名前」

 

「名前が分かるのか」

 

「全部じゃない。……リ、オ。そんなふうに、途切れてる」

 

 リオ。

 たった二音の名前が、コックピットの中で白いノイズを押しのけた。番号でも、記号でも、ムラサメ系列でもない。誰かが誰かとして持っていたはずの音だった。

 

「リオ、聞こえるか。俺たちは檻を壊しに来たんじゃない。開けに来た」

 

『生体反応、呼びかけに微弱反応。心拍波形に変化があります』

 

『右胸部ユニットの外装ロック、解除確認。救出艇、進入可能です』

 

 俺は三本目の外側へ照準を戻した。HADES監視端末の赤が、視界の端で薄く震えた。強引に撃ち抜けば早い。中枢を潰せば、檻は黙る。そういう答えが、機体の奥からにじみ出そうになる。

 

 俺は出力をさらに絞った。

 

「ガンダムX、最後の線を焼く。リオのいる場所には届かせない」

 

「少し右。そこなら外側だけ」

 

「了解。少し右へ修正」

 

 ビームが三本目を焼いた。白い線が切れ、右胸部ユニットのロック表示が緑へ変わる。救出艇が、俺のシールドの影を滑るようにして前へ出た。

 

『救出艇、進入します。右胸部ユニット内へ突入』

 

 俺はシールドを救出艇の前へ置き、残骸の流れと砲門の火線を受けた。装甲が軋み、左腕に警告が増える。だが、救出艇の小さな灯りは消えない。白い檻の隙間へ、まっすぐ入っていく。

 

『被験体を確認。生命維持装置に接続されたままです。番号タグあり、氏名情報は損傷しています』

 

「番号で呼ばないで。たぶん、リオって聞こえた」

 

 ドゥーの声は、さっきより低かった。白い音の中で拾った名前を、両手で包むみたいな声だった。

 

「リオ、聞こえるなら、少しだけ待ってくれ。今、そこを開ける」

 

『接続管、一本ずつ解除します。強制切断は危険、手動で外します』

 

『救出艇の周囲へ残骸が流れている。こちらで押さえる』

 

『右側砲門を黙らせる。ランガ、救出艇の背中を守れ』

 

「了解。ガンダムX、盾を前へ。リオを乗せた救出艇へ、白い線を近づけさせない」

 

 白い捕獲線が何本も伸びた。救出艇へ向かう線、ガンダムXへ向かう線、ドゥーのいる補助席を探るように揺れる線。俺はシールドで受け、ビームで細い線だけを焼き、近づきすぎた残骸を機体の肩で押しのける。

 

 ラルさんのグフが左で踊るように線を払い、ガトーのリック・ドムが右で重い砲撃を刻む。二人が道の両端を押さえてくれるから、俺は救出艇だけを見ていられる。

 

『被験体、固定解除。救出艇、収容完了しました』

 

 その報告が入った瞬間、コックピットの空気が一拍だけ止まった。

 ドゥーの呼吸が、細く長く抜ける。俺はシールドを下げなかった。まだ終わっていない。連れて帰るまでが救出だ。

 

『ジュピター・ノード03側で巨型機反応が増大しています。別個体、起動兆候あり』

 

『やはり扉が開いた瞬間を狙ってきたか』

 

『救出艇を先に帰す。ランガ、君は盾になるが、深追いはするな』

 

「分かっています。リオを連れて帰るまでが救出です」

 

「リオの音、まだ小さい。でも、檻の中の響きじゃなくなってる」

 

 ドゥーの言葉に、俺は救出艇の灯りを見た。白い巨型機の胸から離れたその小さな光は、まだ頼りない。それでも、さっきまで檻の奥で途切れていた点滅とは違っていた。

 

「なら、その音を艦まで連れて帰る。ガンダムX、撤退線へ入る」

 

『敵巨型機、起動反応拡大。追撃、来ます』

 

 前方の闇で、別の白い影がゆっくりと身を起こした。装甲の隙間から光が走り、巨大な腕のような輪郭が星を隠す。特撮の怪獣みたいに、宇宙そのものを割って起き上がる白い悪意。

 

 俺はシールドを構え、救出艇の後ろへガンダムXを滑り込ませた。背後にはドゥーがいる。前にはリオを乗せた救出艇がいる。左右にはラルさんとガトーがいる。

 

 もう、俺一人で檻へ突っ込む戦いじゃない。

 

「上等だ。俺たちは勝ちに来たんじゃない」

 

 救出艇の誘導灯が艦の方角へ瞬く。

 俺はその光を見失わないように、操縦桿を握った。

 

「名前を呼んだなら、最後まで連れて帰る」

 

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