機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re 作:ボルメテウスさん
# 本編
## 青き殿、白い軍勢を断つ
救出艇の小さな誘導灯が、白い闇の中で何度も瞬いた。
その中にはリオがいる。まだ名前の全部を取り戻せたわけじゃない。けれど、番号タグではなく、ドゥーが拾った二音の名前で呼ばれた誰かが、今は檻の外へ出ている。
だからこそ、ここからが本番だった。
『救出艇、艦までの帰還線へ移行。ガンダムX、護衛位置を維持してください』
「了解。ガンダムX、救出艇の後方へ入ります」
俺はシールドを前へ出し、救出艇の背中に重なるように機体を滑らせた。白い巨型機の残骸は背後で沈黙している。けれど、ジュピター・ノード03の奥から、別の白い影がゆっくりと起き上がっていた。
怪獣が夜のビル街から立ち上がる時みたいに、巨大な輪郭が星を隠す。
その下で、改修ハイザック、バーザム試作型、マラサイに似た機体群が、黒い砂粒のように広がっていく。
「リオの音、まだ小さい。でも、檻の中の響きじゃない」
後ろの補助席からドゥーの声が届いた。彼女はハーネスの中でじっとしている。手動切断スイッチへ添えた指が、モニターの反射で白く見えた。
「そのまま聞いててくれ。俺は救出艇から離れない」
『その判断でよい。ランガ、君は盾に徹しろ』
ラルさんのグフが、俺たちの左前方へ出た。青い機体がヒート・ロッドをほどくと、しなった鞭の先が、白い捕獲線の束へ絡みつく。
『右翼は私が抑える。若い者と救出艇を、あの白い檻へ戻すな』
ガトーの青いリック・ドムが右へ滑った。バズーカの砲口が、敵の砲撃軸へぴたりと向く。撃つ前から、もう敵の射線が折れる場所を読んでいるようだった。
左ではラルさんが捕獲線を払った。
右ではガトーが砲撃軸を潰した。
俺はその二つの青に挟まれて、救出艇の背中を守る。
白い軍勢が迫ってくる。改修ハイザックの部隊が二列に分かれ、バーザム試作型がその後ろで射線を重ねる。マラサイ系の機体が斜め上から降り、救出艇を俺から切り離すように動いた。
『ランガ、動くな。君が追えば、救出艇の背が空く』
ガトーの声が、操縦桿へ伸びかけた俺の指を止めた。
「敵が分断しに来ています」
『分かっている。だから撃つのは私だ』
青いリック・ドムが横へ流れた。重い機体なのに、射線だけが先に戦場を渡っていく。ガトーの砲撃は、敵の真ん中ではなく、二つの部隊が手を繋ごうとした継ぎ目へ落ちた。
爆発が包囲の輪を割る。
そこへラルさんのグフが飛び込んだ。
『敵を追うな。足を止めればよい』
ヒート・ロッドがハイザックの脚部を打ち、グフの肩が別の機体を押しのける。サーベルはコックピットを避け、関節と推進器だけを切っていく。青い機体の動きは荒くない。けれど、触れられた敵は次々と隊列から剥がされていった。
「撃墜しないんですか」
『あれらも使われている手足だ。止められるなら、止めるだけでよい』
ラルさんの声は、戦場の中でも変わらなかった。
その言葉の後ろで、グフのヒート・ロッドがもう一機の武器腕を弾いた。ランガ・ロード、見ておけ、と言われた気がした。敵を倒す手と、人を帰す手は同じ形をしていない。
『敵の布陣、二系統が混在している』
ガトーが砲撃の合間に言った。
「二系統?」
『こちらを観察するように射線を測る隊と、救出艇を力任せに押し潰す隊が同時に動いている。シロッコの目と、バスクの拳が同じ盤面に乗っていると見るべきだ』
『ならば、盤面ごと崩すしかないな』
ラルさんが短く返す。
その瞬間、ジュピター・ノード03外縁の砲撃制御ノードが赤く灯った。白い巨型機ではなく、基地外殻の一部が開き、救出艇の帰還線そのものへ太い照準が伸びる。
『砲撃制御ノード、起動。救出艇の帰還ルート上に高出力反応』
「俺が――」
『ランガ、動くな』
ガトーとラルさんの声が、ほとんど同時に入った。
俺はシールドを握る腕だけを前に出し、踏み込みかけた脚を止めた。救出艇の灯りが、俺の視界の下で震えている。ここで俺がノードへ飛べば、リオの乗った救出艇の背中が空く。
『君の役割は盾だ。今は我々が刃になる』
ラルさんのグフが左へ跳んだ。
ヒート・ロッドが砲撃制御ノードへ伸びる接続線群を絡め取り、青い機体が全身でそれを引く。白い線が何本も軋み、砲門の首がわずかに逸れた。
『ガトー、今だ』
『心得た』
青いリック・ドムが右側の残骸を蹴り、射線の死角から一撃を通した。砲撃は派手ではない。けれど、制御ノードの基部へ正確に食い込み、赤い光を一瞬で散らした。
白い砲撃が救出艇の横をかすめ、宇宙の奥へ流れていく。
光の尾が消えたあと、救出艇の誘導灯はまだ点いていた。
「救出艇、無事か」
『救出艇、機体損傷軽微。リオの生命維持、維持しています』
息を吐いた瞬間、背中の補助席からドゥーの小さな声が届いた。
「ランガ、リオの音、艦の方へ近づいてる」
「聞こえてるなら、もう少しだけ支えてくれ」
「うん。途切れないように、見てる」
俺はシールドを救出艇の後ろへ合わせた。撃ちたい敵は山ほどいる。白い檻を作った奴らを、今すぐ全部黙らせたい。けれど、操縦桿を握る手は、前よりも少しだけ言うことを聞いた。
左でラルさんが敵を止める。
右でガトーが射線を潰す。
俺は真ん中で、救出艇の速度に合わせる。
やがて、艦の収容灯が見えた。白い誘導灯が救出艇を包み、格納口の中へ吸い込んでいく。通信回線の向こうで、医療班の声が重なった。
『救出艇、収容完了。被験体リオ、医療班へ引き渡します』
リオ。
艦橋要員が、その名前で言った。
俺は一瞬だけモニターから目を離せなかった。
番号ではなく、名前が通信に乗った。その短い響きだけで、白い戦場のどこかに小さな穴が開いたように見えた。
『感傷に浸るには早いぞ、ランガ・ロード』
ガトーの声で、俺は前を見直した。
ジュピター・ノード03の外縁には、まだ無数の光が灯っている。さっき潰した制御ノードは一つだけだ。奥にはさらに濃い軍勢がいる。
『今の戦闘ログを艦へ送る。敵の最終防衛線の入口が見えた』
「入口?」
『砲撃制御ノードの接続先だ。追撃の軸をたどれば、本隊を守る喉元へ出る』
『よく読んだな、ガトー』
ラルさんのグフが、損傷した肩をかばうように機体を戻した。青い装甲には白い接続線の焼け跡が残っている。
『私は左の線を切っただけだ。道を読むのは、そちらの役目だろう』
『その左の線がなければ、私の一撃は通らなかった』
短い沈黙のあと、ラルさんが小さく笑ったような気配が通信に混じった。
『ならば、次も役割分担だ。若い者を送り込み、そして必ず送り返すための突入口を作る』
『同意する。次は撤退戦ではない。ティターンズの喉元へ踏み込む準備だ』
俺はガンダムXのシールドを下げずに、二機の青い背中を見た。
ラルさんのグフと、ガトーの青いリック・ドム。二つの青は、白い軍勢の前でそれぞれ傷を負いながらも、まだ退く線と進む線を同時に作っていた。
俺一人では、こんな道は作れない。
けれど、今はそれを悔しいとは思わなかった。
救出艇を帰した。
リオの名前が艦内通信に乗った。
そして、ティターンズの最終防衛線へ続く入口が見えた。
「ラルさん、ガトーさん。次の作戦でも、俺は真ん中を受けます」
『真ん中を受けるだけでは足りん。帰す道を忘れるな』
『そして、敵の盤面を見ろ。君が守る者は、君の正面だけにいるわけではない』
俺は頷き、救出艇が消えた格納口の光を見た。
あの中にリオがいる。ドゥーが聞いた途切れた声が、今は医療班の手の中にある。
「分かっています。次は、もっと奥へ行く。だけど、必ず戻る道を連れて行きます」
白い軍勢の向こうで、ジュピター・ノード03が沈黙したまま光っていた。
その光はもう、ただ遠い敵基地の灯りには見えなかった。
最終決戦へ続く、閉じた扉の隙間だった。