宇宙世紀0079 1月7日
ジオン公国は独立を理由に、地球連邦政府に対して宣戦布告した。
国力が圧倒的に優位である地球連邦。
誰もがすぐに終わると考えていた。
しかしそれは希望的観測に過ぎなかった。
既に腐敗化が進んでいた地球連邦軍参謀本部は事態を楽観視。
行動全てがジオンの後手に回っていた事実がそこにはあり、
ジオンは華々しい初戦を迎え、確実に勝利へと近づいている
そしてジオン公国は全スペースノイドの自治権と差別主義の撤廃を掲げる正に正義
真に正義
宇宙に住まう者達の希望をのせた正義を握りしめた拳を
今まさに腐敗した連邦政府へと振りかざしたのだ。
こうして
人類史上最大の
人類史上最悪の
艦隊戦が今、
始まった。
「全艦!撃ち方始めッ!!」
「ってぇええええ!!」
「射撃開始!」
「隊列を維持せよ!距離を正確に保て!確実に勝てる戦闘だ!落ち着いて教本通りに動くよう船員にいい聞かせろ!」
「装填不良!2番砲塔発射できず!」
「3番砲塔!目標を2時に絞れ!」
「ノーサンプトンよりグラスゴー!艦橋被弾により艦長副艦長致命傷の為航海長の我が引き継ぐ!」
広大なる宇宙で繰り広げられる戦争。
その実態は
一方は正義を掲げた聖戦であり、
一方は反乱を鎮圧する為の一対処行動であった。
「サイド3艦隊に動きあり!!陣形に乱れあり!」
「隙ができたぞ!!」
通信兵や観測官から同時に上がる報告。
エイノー艦長。彼は即座に状況を判断し指示を出す。
「全艦 艦載機発艦準備!!攻撃隊を出せっ!!全力出撃だ!」
「敵艦隊2割撃滅!!我の被害軽微なり!」
ジオン艦隊は被害を受け、隊列を瓦解させた。
その一瞬の隙を地球連邦軍宇宙艦隊の司令官達が見逃すことはなかった。
「第1艦隊突出!!第2第3艦隊は左右へ展開開始!!」
「よし、分かってるな!第4艦隊は第2艦隊に追随!第5艦隊は!?」
「第5艦隊は第1艦隊後方へ!第6第7艦隊は右翼側から迂回を開始!」
「よしっ!ここで決めるぞ!」
言葉はなくとも分かる戦友達の行動。
精鋭の第1艦隊は囮となり正面に突出。
第2、第3艦隊は左右に別れジオン艦隊を半包囲する形に動く。
第5艦隊は第1と第2第3に空いた穴を埋め、第6第7艦隊はジオン艦隊の迂回行動を予防するべくジオン艦隊の進行方向に出た。
そうなれば第8艦隊がすべきことは1つ、艦載された攻撃隊に よる航空攻撃である。
混乱しているジオン艦隊に一太刀居れる重要な行動。
寸秒でも判断が遅れれば戦況が変化する賭け。
それを彼は、エイノーはやってのけた。
「攻撃隊発艦準備よし!」
「攻撃隊発艦開始!」
「攻撃隊は発艦せよ!」
母艦から次々と発艦していく攻撃隊。
「ようやく俺達の出番だな!」
男達は興奮し、熱が冷めない。
その熱は冷めてしまっては勿体ないのだ。
「フゥッー!待ちくたびれたぜ!」
「まったく、サイド3の連中はとんだイベントを起こしてくれたもんだ」
「デケェ紛争だなぁおい」
「よくもまあ俺達に勝てると思ってんな、現実見れてねえんじゃねえかあ?」
「何も考えずはいはいと宇宙に出ていったヤツらだ、賢さじゃ俺たちが上だ」
「はははっ、上手いこと言うぜ」
「俺達を英雄にしてくれるんだ。感謝しねえとな」
彼らにとってはまたとない機会なのだから。
戦争に勝って英雄になる。
いつの時代も男が憧れて唄い
女が笑顔で背中を押す
人類史において幾度もみた光景である。
「帰ったら遊び放題だぜぇ」
「攻撃隊発艦せよ!繰り返す攻撃隊発艦せよ!…」
「っ!アタッカー1発艦!!」
アタッカー部隊、セイバーフィッシュをベースに大型の宇宙魚雷を搭載した機体で編成された部隊であり、今作戦の要の部隊である。
彼らは手際よく、訓練通り、教本通りに、洗練された動きで発艦する。
隊長機は各機にコールを飛ばす。
すると次々に異常なしの報告が入ってくる。
隊長はそれを確認すると母艦へ報告した。
「全機異常なし!これより部隊は敵艦隊へ宙雷撃戦を開始する!」
隊長のその言葉に、手に汗が握る。
初めての実践、先程までの軽口は緊張を解すための意味もあった。
しかし目の前までそれは来たのだ、流石の彼らも緊張と恐怖に支配され始める。
だが隊長はそうではない。
部下を鼓舞させなければならない。
自身の責任は重いのだ。
戦争は1人の一瞬の判断が、一時の感情が結果を決める。
隊長は空気を軽く吸い歯を少し食いしばると思い切り口を開いた。
「てめえら!1人1隻撃沈だぞ!わかってんな!?」
隊長の言葉に感化されていく隊員達。
この部隊に配属された日から関わってきた隊長、
心より信頼できる隊長
彼の言葉が隊員達を恐怖から解放した。
「「「了解ッ!」」」
攻撃隊はジオン艦隊へ近づいていく。
数多の砲撃を掻い潜り、今にも操縦桿が壊れそうなぐらい強く押し倒している。
射程距離までもう少し。
指先が発射ボタンに自ずと近づく。
今だ!!
そう思った瞬間、事態は……
舞台は幕を開けた。
「…?なんだあれ……なんだ??…っ!?アタッカー3より全隊へ!敵新兵器の恐れあり!!」
「…なに??」
1人の隊員から入った報告。
彼から即座に情報共有の映像と座標が送られる。
そこに映ったのは…
人型の新兵器。
モビルスーツ。
かの巨体はまるで人間そのものかのように器用に、そして俊敏に動いた。
綺麗に、まるで芸のように。
「アタッカー3!回避しろ!!」
「っ!」
アタッカー3、攻撃機を巨人はその足で破壊した。
突然のことに動揺する攻撃隊。
周囲を見渡すと他の部隊も同様撃墜されていた。
そうなると起こるのは混乱と狂騒であった。
恐怖が戦場を完全に支配した。
「何だ!!何が起きているっ!?」
「新型兵器ですっ!人型!!」
「なんだアレは!?あれが兵器なのか!?」
「旋回が間に合わないッ!」
後ろをとっても容易に立場が逆転する、その様な相手に攻撃隊は更に混乱していく。
「クソッ!サイド3のやつらめ!やってくれる!」
「アタッカー6!FOX1!!」
取り合えず撃つ。当たれば良いのだ。当たれば……。
当たってくれ!
アタッカー6はそう願い攻撃する。
「回避したぞ!?」
そんな期待を裏切り、MSは易々と避ける。
「取り囲め!!3機で相手しろっ!!」
隊長の指示に、即座に反応する隊員達。
MS一機に対して攻撃機が3機つく。
「アタッカー7!FOX2!」
「アタッカー8!FOX2!」
「アタッカー9!FOX2!」
魚雷が発射されるも全て着弾することはなかった。
「クソッ!ちょこまかと!!でけえ図体して機敏な野郎だっ…」
「アタッカー04マツダ少尉KIA」
「アタッカー02パーソン少尉KIA」
「アタッカー07リヨン中尉KIA」
次々と流れる戦友の名前。
「腕を狙えッ!あの斧を封じるんだ!!」
「アタッカー09ハナフサ少尉KIA」
「クソ!!図体の割に機敏だ!」
隊員達は恐怖と同時に苛立ちを覚えていた。
「1番砲塔!!攻撃隊の援護に回せっ!!」
エイノーは攻撃隊の行く末を非常によく見ていた。
部隊が瓦解する前に少しでも支援をする。
その砲撃が当たらずともかの新型兵器を抑圧する行動になる。
そして孤立している攻撃隊を孤立せんとさせる行動である。
「エイノー艦長っ!8時の方向から人型兵器群!巡洋艦2隻を破壊しこちらに向かってきています!」
戦争は想像を超えてくるとはよく言ったものである。
咄嗟の判断で攻撃隊を救うべく指示を出した瞬間に、人型がこちらまで来ているのだ。
「何ッ!!1番砲塔!!旋回止めッ!全砲塔8時方向に!」
攻撃隊は見捨てる。
指揮官として重要な行動の1つを彼は貫く。
「ふん、やらせんっ!!目標っ8時の方向人型兵器!」
「各砲門 射撃準備よしっ!!」
「全主砲っ!ってえぇええ!!!」
宇宙戦艦から繰り出させる弾幕。
どれかは当たる、そう思えるほどの鮮やかな攻撃だった。
「目標!回避運動!命中せずっ!」
「続けて撃て!!」
「くそっ!ちょこまかと!!」
砲雷長や管制員は嘆く。
一方でエイノーは常に外に向かってその鋭い目を光らせていた。
「自走中口径対空砲!二門!艦橋前に配置!!砲隊は射撃準備にかかれ!」
奴らは無作為に宇宙戦艦を破壊していない。
船体をあの斧で切りつけた所で、宇宙戦艦の継戦能力は衰えない。
それを考えてか全ての人型兵器は戦艦の艦橋を攻撃し指揮系統を破壊することで一時戦闘不能となった戦艦を、ジオン艦隊が精密射撃によって撃沈させていた。
エイノーはそれに気づいたのだ。
それは理論ではなく、感覚。
軍人として何となく悟った。
エイノーは巨人が迫るまで祈る、砲隊の到着が自身の、部下の、この船の生死を決める。
司令室の隊員からはもちろん、船全体からの重圧。
それが彼に迫る。
その瞬間だけ彼は内にも外にも敵がいたように感じた。
「艦長!自走砲隊準備よし!いつでも撃てます!!」
祈りが通じたか砲隊は艦橋前で手信号をもって射撃準備完了の合図を送っていた。
「よし!号令と同時に撃て」
「了解!!」
「艦橋に向かってる!!1機だ!!」
「艦長っ!目標1機!艦橋左に来ますっ!!」
見えている。
敵は
単に戦術的観点からか
それとも私達を嘲笑う為か
艦橋正面に来る
「うむ、貴官らの見せ所だ!奴らを塵にしてやれっ!」
全ての船員に緊張が走る。
「……5」
「……4」
「……3」
「……2」
「敵正面!!」
「ってええぇえええ!!!!!」
砲火は……
巨人を貫いた。
「やった!!やったぞ!!!」
「一矢報いた!!」
「姉妹艦の仇だ!!」
「見たか!!スペースノイドの連中め!!」
歓喜の声で溢れる船内。
戦闘中にも関わらず、女性船員達は抱き合い、男たちはハイタッチを交わす。
エイノーはいつのまにか肺内に溜め込んでいた空気を一気に吐き出す。
彼は艦長だ。司令官だ。
次すべきことを指示しなければならない。
そんな彼が下した判断は。
「撃破した新兵器を早急に鹵獲しろっ!!緊急用固定ワイヤーを船体上部に巻き付けろ!あの機体は必ず持ち帰る!」
「了解っ!早急に人員出せ!ワイヤーハッチ開け!!左舷は順次警戒!右舷は20km圏内の敵を牽制しろ!!」
先程まで空気が柔らかくなっていた船内は再び緊張感に包まれる。
即座に出撃していく施設兵達。
それらを殺させまいと打ち続ける砲雷兵。
任務を達成し即座に撤収を始める砲兵。
速やかにそれぞらが適切の行動を選んでいく。
しかしそう上手く行った時ほど、悲報が飛ぶ。
それが戦場だ。
「艦長!第一艦隊が!!赤いヤツに!!」
「何っ!?」
「第一艦隊!被害甚大っ!次々と戦艦群が撃沈されています!」
「…戦隊全艦に送れっ!即時戦域離脱せよっ!救難隊を編成し即時出撃だ!」
かの第一艦隊がやられては我々にできることは無い。
そう瞬時に判断し、撤退命令を飛ばす。
「了解、第4戦隊旗艦グラスゴーより第4戦隊全艦は速やかに戦域を離脱せよ!」
「救助艇準備急げ!!」
「このままあの兵器にやられては……私達にあとは無い。ジオンの鼠共め…奴らにしてはよくやる」
吐き捨てるように言う彼の言葉は、この戦場にいる連邦軍人達の想いを代弁していた、
「第2艦隊!壊滅!!被害甚大!」
「第3艦隊!戦闘継続中!なれど被害甚大!救援信号きてます!」
「第6第7艦隊!一機の新型に壊滅的打撃を受けています!またも赤い機体です!」
「迂回したのが裏目に出たな…クソ」
「救難隊出撃します!」
「了解した、ヤツらめなんなんだあれは…あれが兵器?兵器なのか?」
思わず呆気にとられてしまう。
サイド3の新型兵器のその強さに。
エイノーから指示を受け、赤十字マークが刻まれた中型宇宙船が第一艦隊のもとへ急行した。
辺り一帯は死体だらけ、暗い宇宙が真っ赤に染まっている。
「大丈夫かっ!?早く乗れ!!」
「酸素マスクをはやく!!」
「遺体の回収もだ!くそ!宇宙服を着てないヤツが多い!」
「しっかりして!意識を持って!!大丈夫!大丈夫!」
衛生隊員達が必死になって救助を開始。
「他分遣隊は異常なさそうか?」
衛生隊長の言葉に、伝令の任についていた若い女性兵士か答える。
「今の所は異常確認できません!ですが通信状態が不安定で時折通じません」
「粒子か、通信班!速やかに有線の接続を頼む!順番1-3-2-5-4!各分遣隊との連携をとれ!」
「了解ッ!こちら第1分遣隊全部隊へ、これより部隊間の有線構成を…」
女性兵士は直ぐさま通信機材を取り出し、周辺の同部隊と連携をとる。
彼女は通信兵としての技能があるため今回の行動に一任された。
開戦前に偵察隊として駆り出された偵察兵達は宇宙に浮かぶ岩の影に隠れて戦況を確認、随時司令部に報告していた。
戦況は悪化の一途を辿っている。
ここ数分間で送っている内容は常に同じ。
「ひでえありさまだ」
「…クソ!サイド3のやつらめ」
「宇宙ってのは…こうも虚しいもんか」
かつて人類にとって宇宙は憧れ、希望、夢であった。
それが今やどこよりも悲惨な光景になっている。
昔の天文学者達がそれを見れば発狂するような地獄の光景だろう。
「おい見ろよ、有線敷いてるぞ。勇敢なヤツらだ、流れ弾も気にしてねえ」
偵察兵の1人が眼鏡で第一艦隊を見ていると、赤十字連中が必死になって救助活動をして、更には有線を張り出している。
その姿に偵察隊はみな心の内で敬意を評した。
「当たったら国際法違反ですからね、こっちは赤十字掲げてやってるんです。初戦時に大破させた敵艦周辺には、我が方は撃ってませんし」
「お偉いさんは戦後処理を見据えてたってわけね」
軍人は良い意味でも悪い意味でも規律遵守。
地球連邦軍は大破した敵艦に対して不必要な攻撃は控えていた。
それは単に人道的観点を重視したのではなく、この戦争が終わったあとに面倒事を作らない為の行いであった。
連邦軍は出撃前に本会議でそれを決めていた。
「有線構成完了!こちら01、03感明送れ」
女性兵士は見事任務を達成した。
彼女は常に顔を強ばらせていたが、ようやく表情が優しくなる。
可愛らしい顔立ちで、衛生隊ではよく小動物として扱われ、からかわれていた。
彼女はいつもの顔をした、愛嬌があり器量も良い女の子。
宇宙服を着ているため汗は拭えないが体がその行動を求めたのか、右手の袖でヘルメット越しに額の汗を拭う。
綺麗な目、いつか優しい旦那さんを捕まえて
安定した生活を送るのだろう。
輝かしい未来を掴み取るのだろう。
そう皆から言われていた。
彼女は光に照らされる。
それが太陽の光なのか、月の光なのか、彼女自身の煌めきだったのか。
そんな彼女の名は。
「救難隊120名収容完了。更に別の艦船からも救難隊が出されており第1艦隊では大規模な救難活動が…っ、あ、え」
「…どうした」
「あ、……なんで」
「トモゼー上等兵、どうした。落ち着いて、落ち着いて話せ」
トモゼーと呼ばれた入隊3年目にして司令室勤務となった優秀隊員。
普段はあまり喋らず、感情の起伏を見せない。
そんな彼女が涙を流し、嗚咽を繰り返す。
普段からは想像もつかない異様な光景に司令室は、自ずと静かになっていく。
みな注目しているのだ。
なぜ普段から今に至るまで寡黙だった彼女が涙を流すのか。
「…あ、……あの…うぐっ」
「大丈夫だ、なにがあった」
「…ぜんめつ、です」
「なに?」
「き、救難隊はぜんめつ…しました」
ありえない報告。
その言葉にエイノーは思わず顔をしかめながら問いただす。
「…理由は?」
「早く!!!!急げ!!」
「血がそこら中に!!前が見えない!!」
「はやく!!陣痛薬打って!!止血剤は!?」
「全員意識なし!!」
「宇宙空間故の悲劇だ…」
「宇宙服を着用者のみ回収!!穴を塞いで!未着用者はドックタグのみ回収!!」
「ドックタグのみ!?遺体は!!?」
「第1艦隊の人達がこんなに…あんな……あんな強いって言われてたじゃない」
「この量で遺体の回収は無理だ!ここの負傷者だけで数千人は居る!」
「少しでも多くのドックタグを持ち帰る!すこしでも、すこしでも!!」
「敵がきたぞぉ!!!」
「っ!あれが、あれがジオンの新型兵器?」
「…くそっあれがやりやがったのか!! 」
「卑怯な連中めっ……」
「お前ら!口を動かしてないで今は「隊長!」
「敵新型兵器が来ます!!9時の方向!」
「なに!?…いや大丈夫だ!そのまま救助を」
「うわ」
「たいひっ…」
「あつ」
「なに」
「え」
「う」
「まぶ」
「救難隊は…敵新型兵器の噴射により燃え尽きました。さらに有線が敵新型の足に引っかかり…そのまま……」
「…そうか」
赤十字を掲げた部隊に対しての非人道的行為。
これは事故であったとしても到底許されない行為である。
連邦軍はどれだけサイド3を、ジオンをどれだけ見下していても、この点に関してはしかと順守させていた。
「……スペースノイド共めっ」
エイノーに強い感情が抱かれる。
これが負の感情であることには間違いない。
他の船員達も同じくその感情に支配されていた。
先程まで泣いていたトモゼーも赤く腫れた目でジオン艦隊を睨みつけていた。
地球連邦軍とジオン公国軍の艦隊戦は。
ジオン公国の勝利で幕を閉じる。
ジオン軍の地球降下より数か月経ち、劣勢に追いやられる地球連邦軍。
二人の男女は手を繋ぎ、一生懸命に走っていた。
太陽が煌めき、蒼い空の下、男女は影となり疾走する。
日常風景であれば仲睦まじい光景であるが、事態はそうではない。
明らかに異質な光景である。
まるで死が迫ってくると言わんばかりの表情であることだ。
住宅街があったハズのその場所、周囲は瓦礫だらけで道路も瓦解している。
女はは何度も転けそうになるもその都度男が女を支えた。
そしてなんとか、物陰に2人は隠れる。
「ねえねえ!どうしようっ!!」
黒髪を首まで伸ばした女が涙を散らしながら、手を握ってくれている黒髪の男に訴えかける。
「今は動くな…勘づかれる」
「…怖い」
「大丈夫、大丈夫。なんとかなるよ、目をつぶってろ」
「手…握って」
「ほら…大丈夫だろ?」
「っ!…うん!!」
男が空いた左手で彼女の頭を撫でると、女の涙は徐々に少なくなっていた。
男は周りを目で見渡し、次はどこに隠れるべき、
どこに逃げるべき。
なにか無いのか。
そう目を光らせる。
すると奇跡か、走っていけばなんとか間に合う距離に、兵器?らしきものが置かれているのが見える。
男は視力があまりいい方では無いため、視力のいい幼馴染に尋ねてみる。
「エマ、あれが見えるか?」
エマと呼ばれた少女は彼の指さす方向に目を凝らす。
「あれって…軍隊の?」
「軍隊の……兵器か?」
「あれ……たぶん…モビルスーツかも…ニュースでやってた」
「なに?放棄されてるのか?…ならパイロットはどこに?」
「探そうよ!!パイロットの人!!じゃないと皆死んじゃうよ!」
エマは必死になって探そうと訴える。
「そうだな、でもな…お前は隠れてろ」
エマは理解していた、あの兵器は動いていないのだからパイロットが周辺に居ないことを。
でも探そうと提案するしかなかった。
幼馴染なのだ、だいたい相手の考えることはわかる。
それでいて、彼がどのような男なのかも理解している。
だからこそ、それを察して彼女は探そうと言ったのだ。
「…だよね。君はそういう人だもんね」
ほんの少し呆れたように言う。
「分かってるじゃん」
「…こういう時ぐらい私も一緒に行きたいけどさ。キミは許さないんだもん」
「ありがとな」
「うん、必ず戻ってきてね!」
「当たり前だろ」
エマにとって、受け入れざるを得ない状況。
本当は二人で逃げたい、戦争に関わりたくない。
両親も亡くなった今、私達はある意味自由なのかもしれない。
だからこそ生を謳歌したかった。
二人で生きたかった。
でも彼はいつも置いていく。
私の、みんなの為に。
人のやらない、嫌がることを黙々とやる。
そんな彼が好きで好きでたまらなかった。
だから彼の言葉を受け入れるしかなかった。
彼がやろうとしていことは分かっている。
しかしそこで否定してしまっては、彼の否定に、自身の否定に繋がる。
彼がそう発言し、行動しようとしたからには受け入れる。
エマはそういうものだとなんとか受け入れようとした。
「……でも…むりよ。いやよ」
離れていく彼、
シンヤ・スガイの後ろ姿を見て、心が苦しくなった。
「パイロットはどこだ!?どこに!」
もしかしたら周辺で意識を無くしてどこかに倒れているかもしれない。
そんな希望を持って辺りを見渡す。
されどパイロットは見つからない。
ならやることは1つ。
幼馴染を守るためだ
ここで死んでもいいだろ
彼はモビルスーツのコックピットに侵入した。
「どう動かすんだっ…これか?こうか?」
手当り次第にボタンやレバーを引く。
すると起動音が内部に響き渡った。
「こいつ……動けるぞ!!なら!やりようは…あるっ!」
体の感覚、なんとなく。
偶然かそれとも元よりそうなのかこの機体は操作が簡素化されていた。
単純な行動であれば申し分なく彼には動かせた。
「へえ、意外といけるかもな!!」
そして彼の操作するモビルスーツは立ち上がる。
画面の上部に、機体の名前らしきものが見える。
「陸戦型ジム?これが名前?」
彼は画面の意味を一つ一つ確認しながら、一歩。また一歩と歩みを進める。
連邦軍が潜伏するとされる住宅街の占領を指示されたMS3機で編成されたザクⅡ分遣隊。
当初こそモビルガンや有線ミサイルカーなどの戦力が確認されたがそれらを撃滅して以降連邦軍に動きはない。
その為、彼らは住宅地にて四周警戒を行いほか部隊からの通信があるまで待っていた。
そして警戒に当たっていた分遣隊の男性が異変を感じ取る。
「なんだっ?……振動センサーが!!隊長!振動センサーに感あり!!」
「何?…確認した!!西だ!!迎撃態勢に移れ!!」
「「了解!」」
「あれは……?」
分遣隊の1人、若い女性が何かを発見する。
「スカー!なにか見えるか!?」
隊長からスカーと呼ばれたその女性兵士は目を凝らす。
「……っ!?モビルスーツです!!連邦軍!右肩にマークが!」
「了解っ!おまえら!戦闘だ!散開しろ!!」
「「了解ッ!」」
3機のザクⅡは散開する。
「これがモビルスーツ……動きが少し鈍いけど…けど!やれる!!」
走りを最大限加速させていく陸戦型ジム。
走りながらも盾を正面に構え、右手でマシンガンを構える。
「カーゴ隊長っ!連邦のMSを確認しました!!」
「構わん!チノ!撃ち殺せ!!」
チノと呼ばれた男性兵士は射撃をしようとマシンガンの引き金を引こうとする。
「やらせるかっ!!」
頭部バルカンからの射撃の方が早かった。
チノは前に出れず、少し後方に後退し始める。
「くっ!バルカンによる反撃!前進できません!」
「そのまま引き付けていろ!スカー!周りこめ!」
「了解!バズーカでやってやります!」
スカーはバズーカを構え、全力噴射で右に迂回していく。
「マシンガンで援護する!ひと思いにやってやれ」
ジムに向かってマシンガンが放たれる。
しかしジムはシールドでそれらを受け切り、正面に尚も加速していった。
「はぁあああ!!」
そしてスカーが背後を取り、勇ましくバズーカを放とうとする。
「来たなっ!!」
ジムはブルパップマシンガンを後方に放つ。
「なんで!?気づかれた!?」
思わぬ事態に回避行動をとるスカー。
それを見た隊長のカーゴはあることに気づく。
「カメラの視野を利用してやがる!横を向くことでギリギリ真後ろが見えてるんだ!チノ!奴は左半分しか視界を確保していない!左からスカーと挟撃しろ!俺は正面からいく!」
「了解っ!!」
「いかせないっ!!」
ジムは跳躍噴射を行い、チノの上をとる。
「チノ!!避けろぉおお!!!」
「へ?」
「貰ったっ!!」
ジムはビームサーベルを用いて、ザク2を真っ二つに切り裂いた。
ザク2は火花を散らし、体が左右に別れ、爆発した。
「……」
そして彼からの通信は消えた。
「チノ!?チノぉ!!!返事して!チノ!」
スカーはチノと中高を同じくしていた、チノの死に彼女は半ば狂乱状態に陥った。
「スカー!一旦下がれ!俺がやつの隙を作る!その一瞬でやつをヒートホークで仕留めろ!」
「っ!……了解!」
「こっちだ!!連邦軍の野郎っ!!」
ザクⅡがマシンガンを乱射しつつジムに接近していく。
「クソっ!向こうの方がすばしっこい!こっちは待ってるだけかよ!」
ジムはビームサーベルを構え、ザクを待ち受ける、
まだ目立った改良もされていない陸戦型ジムは、ザクⅡに対して僅かながら機動力で遅れをとっていた。
そのためわざわざジムから出向くことはダメだと彼は直感で判断していた。
「うぉおおおお!!!!その武器を使わせてたまるか!」
カーゴ隊長はジムに対し拳を繰り出す。
「くっ!」
斧を使わずに拳で接近戦をしかけたザクに、彼は同様。思わずビームサーベルを握る右腕でそれを受け止めてしまう。
「取った!!スカー!後ろだ!やれ!!」
「うあぁああああ!!」
スカーはジムの背中を斧で切り裂こうとする。
「……おぉらぁあ!!!」
ジムは左腕の盾、陸戦型シールドの爪をスカーの左手に思い切りぶつける。
スカーは左利きであったのだ。
それが彼女の運命を狂わせた。
「斧が!!」
斧が宙を舞い飛んでいく。
「スカー!右にっ…」
隊長は咄嗟に体を右へズラすよう指示するが間に合わない。
「いやぁああ!!??」
そして盾の二撃目が、ザクⅡの腹を。コックピットを潰す。
「スカー…くっそてめえ!!あいつらは!まだ!まだ20にもなってねえってのに!!」
隊長はこの1分で部下を、若者を、二人を死なせた事実に対して極度の喪失感と苛立ちを覚えたのだ。
「……」
カーゴは若者の死、部下の死、自身の不甲斐なさ、屈辱感、すべての感情を乗せてその斧を
「なんとか言えやぁああ!!!連邦の犬がァ 」
ジムに振りかざした。
「………」
「ハイマン司令っ!」
ハイマンと呼ばれた高官は通信兵の言葉に反応する。
「何があった?ザク分遣隊は?」
先程まで住宅街を攻撃していたザク分遣隊。
ここ周辺はハイマン率いる方面隊が担当していたがしかしその住宅街はハイマンより二期上の連邦軍高官が担当する事になっていた。
住宅街は防衛優先度が高く、構築された戦域とは別で部隊が用意されているのだ。
そのため、ハイマンよりも歴の長い高官が配置されていたのがそれが今や住宅街は壊滅状態。
そこには独立した対MS部隊が駐屯していたが奮戦虚しく全滅している。
撤退してきた部隊は既に基地内で療養させている。
なお偵察隊によると司令部ごとバズーカで破壊されている為、例の高官の生存は望めないだろう。
そのため自動的にハイマンがその部隊の総指揮を担うこととなった。
ハイマンは顔をしかめて考える。
なんだ?撤退でも開始したか?
それとも本隊との合流か?
モビルスーツに異常が出たのか?
あらゆる行動を予測し次の動きを考えるハイマン。
腐敗した中にある連邦軍人の中では楽観主義者ではなく、冷静な現実主義の彼は非常によく出来ていた。
そんな彼でも、その報告は予想できなかった。
「パイロットの戦死により放置されていた陸戦型ジムが…」
通信兵は信じられない光景に息を飲み、目を泳がせている。
「ジムがどうした!」
混乱した通信兵にハイマンは問いかける。
「動きました!誰かが乗っています!」
その報告は騒がしかった司令部を一瞬で沈黙させた。
「っ!?…なんだと?周辺に兵は居ないはずだ」
「はい、ですが確かに動いています…そしてたった今。…ザクを1機撃破しました…」
彼我不明のパイロットに、ザクⅡの撃破報告。
察するに生き残ったパイロットが決死の覚悟で倒したのだろう。
「っ!?…素晴らしい!よく敵を持っていったな無謀なパイロット!」
ザク3機を相手に単騎で挑むは無謀だ。
そのためハイマンや司令部要員の中では既に相打ちしたのだろうということでそれぞれが自然と思い込んでいた。
しかし通信兵が続ける言葉に、前線の連邦軍人は敗戦色を受け入れ思考が悲観的になっていることを証明する。
「また1機落としました!」
「なに!?相打ちではないのか!?モニターに出せ!」
「了解、メインモニターでます!」
「この者が…」
「すごい……まるで敵の動きを分かってるみたい」
モニターに映し出されたのは、ザクⅡを切り伏せる瞬間の陸戦型ジムの立ち姿。
よく見るとジムの周りには2機のザクⅡが倒れており、煙が上がっていた。
「最後の1機を撃破…」
通信兵の報告に司令部やそれを聞いていた一般部隊から歓喜の声があがる。
皆から戦勝ムードの中、ハイマンは1人静かだ。
「あのパイロットは……何者だ?」
「…陸戦型ジム。その場に立ち尽くしたままです」
その報告を聞くと、ハイマンは冷静に、冷淡に判断を下す。
「対MS戦闘用意。人員をだしてヤツを照準に入れさせておけ」
「司令っ!?なにを!?」
それを聞いて困惑する女性通信兵、対してハイマンはきっぱりと答える。
「現在は所属不明機である、こういう時はテロリストと同様の対処で行うものだ」
対MS戦闘行動、基地内にそれが発令され即座に車両機動部隊とモビルガン部隊が出撃。
攻撃ヘリが先導し陸戦型ジムを撃破できる戦力を次々と投入していく。
そして、
地球連邦軍は陸戦型ジムを完全に包囲した。
次回予告!
ジオン公国による戦火は民間人をも巻き込む!
幼馴染を守るため連邦軍の新型兵器に乗り込んだシンヤ・スガイ!
敵モビルスーツを3機破壊した事実は彼の人生の歯車を大きく動かす!
彼を待ち受けるのは悪人面の連邦軍高官達!
果たして彼は平和な世界を手にすることができるのか!?
次回!「ジオン第二次攻撃」
エマ「さぁて次回もサービスサービスゥ!」