勇者一行の『村娘』   作:テイラノ

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かなり改稿しました。


第0章 少女が故郷を捨てるあれこれ
村祭り


 

 男が、その腰にある長剣を抜き、目の前にいる満身創痍の少女の眼前に突きつける。

 既に少女は立っているのがやっとの状態であり、腕は血塗れで曲げることすら覚束無い様子だった。

 

 しかし、少女はその状況にあってなお希望を失わず、輝きを宿した瞳で男を見つめ返し、対称的に男が少女を見る瞳はどこまでも暗く濁った色をしていた。

 

 男の名は『牧原清治(まきはらせいじ)』という。男は『アナフィリア自治共和国騎士団』の団長にして、元『勇者』であった。

 少女の名は『ヘレナ』という。少女は何の肩書きも持っていなかった。

 しかし、彼女は『最も勇者に近い人間』であった。

 

 互いに向ける視線は相容れないものであり、両者にとっては絶対に曲げられない信念だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 …変な夢を見ていた。

 

 少し、成長した?私を、変なおっさんが睨んでいる不思議な夢だった。

 あと少しで殺されることへの恐怖と、何かを絶対に叶えたいという願望が入り混じってぐちゃぐちゃの状態だった気がする。

 

 まあ、もうなんでもいいか。

 

 よく分からない夢を考えるのは諦めつつ、蒸し暑いベッドから出て朝の支度を始める。

 

 私の名前は『ヘレナ・ブラウン』という。

 ここ、アマン村に住んでいて、母、『ルーシー』や弟、『リューベック』と一緒に暮らしている。

 

「ヘレナ!早くご飯を食べて、話があるわよ!」

「はぁい」

 

 水で顔を洗っていると、母から朝ご飯を催促された。

 まだ眠い目を擦りつつ、パンと塩味のスープを食べる。

 

「それじゃあ、話し始めるわよ…ヘレナ?起きてる?」

「姉ちゃん、早く起きてくれよ」

「んぅ…ごめん」

 

 私はかなり朝が弱い。

 アマン村は城塞都市シルベスの近くにあり、平和で牧歌的だ。故に、こんなに寝坊していたりしても親兄弟以外にとやかく言われたりすることはない。

 そして、私の目がしっかりと開いてから母は話し始めた。

 

「シルベスからの連絡で、一週間後に貴方達のお父さんとお兄ちゃんが帰ってくるみたい。それで、村総出でお父さん達を祝うことになったから、二人にも手伝って欲しいの」

 

 なるほど、それはある意味一大事だ。

 

 この村は平和だからこそ、うちの親父や兄の様な志願して帝国騎士団に就いたりするような人間は殆どいない。だから、そんな人達が帰ってくるだけで村はお祭り騒ぎになるのだ。

 

「俺、親父の顔も兄貴の顔も知らないんだけど…」

 

 実は、生まれてから10年程になる弟は父と兄に会ったことがない。今も、「父親は消えてて兄は死んだのかと思ってた」と物騒なことを呟いている。

 

「それじゃあ、頼むわよ♪」

 

 いつも以上に雰囲気が明るいので、母はやはり嬉しいようだ。私は、弟と同じくあまり覚えていないのでそこまで嬉しくはなれない。

 

 『いつもの仕事に準備が増えるだけだろう』と考えて、取り敢えず私たちは村の広場に向かった。広場には既に村人全員が集合しており、私たちが最後だった。

 

「…全員集まったな。これから、十日後の祭りに向けて準備する役割を割り振る」

 

 どうやら、村長が各家の家業や個々人の能力から仕事を割り振っていくらしい。御年70歳になるとかならないとか言われている村長は人を見る目に長けていて、若い頃は村を出て帝都の大商業ギルドの長をしていたという噂もある。

 その後、母と私は縫い物を割りふられ、リューベックは大人達と一緒に、祭りの飯や供物になる肉を狩りに森の中に入っていった。

 この村では、10歳にもなれば男は大人の端くれとして扱われ始めるのだ。

 

 …私もそろそろ15歳になるので結婚を考えなければならないのだが、村では問題児として名前が通っている。

 また、同年代の男子は皆既に結婚しているか、一度は私の手で叩きのめされている。

 つまり、ほぼ確実に、当分の間、私の夫になるような人は現れないのだ。

 

 誰か、私を、微妙に居心地の悪いこの村から連れて出してくれないだろうか。…多くは望まないが、白馬に乗った顔がいい何処かの王子様に迎えに来てほしい。

 

 弟の確かな成長を感じつつ、そこから改めて突きつけられる己の問題に葛藤しながら、取り敢えずチクチクと服などを縫っていく。

 

 

 

 実は、この祭りは20年に一度の村祭りを兼ねているらしい。

 なんでも、村の守り神を(あが)めて、讃えて、私たち自身が楽しく騒ぎ、過ごすことで守り神を満足させ、更に20年の守護と平穏を得る祭りであるとのことだ。正直、ただどんちゃん騒ぎをしたいだけではないかとも思う。

 しかし、単なる村祭りにしては凝った、特異なものであるらしく、祭りの際に舞踊を行う女性たちには特別な衣服を着させたり、普段は見ないような高価で特殊な装飾をさせたりするそうだ。他にも、男性たちは剣舞を披露することで、村人は神の力に頼り切らずとも自身の身を守ることができることを示すらしい。

 そして、今私たちの縫っている服が、女性たちが着る服である。

 布は白く、ざらざらしたものとツヤのあるものを組み合わせて縫っていく。ざらざらした布は安物だが、ツヤのある布はシルベスから贈られるものを使っている。

 自前で用意すると、村の20年の収入でも足りないらしい。

 

 

「…やっと、これで1着っと」

「あと20着以上あるわね~」

「面倒くさ…」

 

 本音が漏れてしまった。

 

 なにせ、1着を仕上げるのに数時間かかったのに、十日以内に確実に終わらせなければならないので、仕方ない。

 解せないこともあるにはあるが。

 

「なんで(うち)しか服を作らないの?我が家は普通の農家だし、他にも畑つくってる家はあるし、何より仕立屋も服屋もあるよね、この村に!」

 

 そう、服飾専門の人々が居るはずなのだ。

 なんで頼まないの?と母に愚痴を溢してみても、煮え切らない答えしか返ってこない。母曰く、「村長さんから、ブラウン家だけは絶対に服を縫ってくれ、と言われたけど、なんで他の家に頼まないのかは聞いても答えてくれなかった」そうだ。

 実は、母は別の村からこの村に引っ越していて、この祭りの準備について詳しいことは知らない。

 母も今回が初めての祭りということで張り切っていたのだが、頼まれた仕事が地味且つ大変なので中々捗らない様子だ。

 

 ちなみに()()関係のない話だが、女性用の服の他に男性用の服も私たちが作ることになっている。

 

「へっ、こんな仕事…やってられっか!」

「言葉遣いが汚い!それに、これが大切な仕事だって、貴方も分かっているでしょう?なら、やらなくちゃ!」

 

 堪えきれなくなって叫ぶと、母に諫められた。

 しかし、そんなことを言われても、やりたくないものはしょうがない。

 

「…ちょっと散歩に行ってくる」

「今は忙しいからダ~メ」

 

 さり気なく逃げ出そうとしたのだが、流石にバレているようだ。

 ならば…

 

「…水汲みと洗濯も私が全部やるから、行かせて?」

「そこまでやってくれるなら…」

 

 よし、罠にかかった!

 

「やった~!日が暮れるまでに戻るね!」

「なっ…ヘレナ!待ちなさい!!」

 

 もちろん、待つわけがない。

 水を汲むための桶を華麗な動きで掻っさらいつつ、水汲み場へと足を向ける。責任感の強い母が仕事を放り出して私を連れ戻しに来ることは考えにくいので、安心して道を歩いていく。村の真ん中にある井戸は祭りの準備で使えないので、村はずれの井戸まで歩くことにした。

 祭りにはシルベス一帯の領主が来訪するだけでなく、王家からの来賓もあるので、この井戸までの道にも祭りの雰囲気が漂っている。

 文字通り、村全体が熱に浮かされたような雰囲気に包まれていく。

 

 そして、辿り着いた井戸の傍に数羽のカラスが居た。

 

 手を叩いて追い払おうとするが、肝が据わっているのか、全く逃げ出す様子が無い。仕方がないので、カラスを避けるように桶を置こうとすると、カラスたちが態々その下に入り込んできた。

 どうにもならないので、少しカラスたちと格闘して、無理矢理に桶を置いた。

 置くのに結構な時間を使った気がする。

 疲れたので体を思い切り伸ばして、ゆったりと構えて水を汲もうとした。

 

 

 その瞬間、ふと見えた井戸の底に私の顔が映っていた。

 

 吸い込まれそうな顔をして、暗い景色の中に居た。

 

 

 昔、井戸の底を覗いてはいけない、ということを聞いたことがある。

 他の村でも一般的な常識であるそれは、私たちの村では少し違うものとして語り継がれている。

 

 曰く、井戸の底には異界があり、神が居る。

 

 そして、その神と目を合わせてはいけない。

 

 

「…」

 

 

 井戸の底からそっと目を逸らす。

 そして、何食わぬ顔で井戸に備え付けてある桶を使って水を汲み上げる。

 さっき、底に映った顔を見た瞬間、私の意識は何かに覆われようとしていた。実際、村の誰も覚えていないような古い話を思い出さなければ、何も考えずに井戸の底に落ちていたかもしれない。

 ぼんやりと、確証は無くても、そう感じる。

 

 水を汲み終わり、ゆらゆらと揺れる水面には、何も映っていなかった。

 

「…帰ろう!」

 

 周りから見れば、私が井戸の傍で急に叫んだように見えるだろうが、そうでもしないと立ち上がれなくなりそうだった。

 私は水を汲んだ桶を持って立ち上がり、周りをさっと眺めた。

 村はずれの、森の中にあるこの井戸は昔から使われているが、他の人は中々近寄らない。それでも、村の中心の井戸が使えない時は、みんなこの井戸を使いに来る。

 井戸を囲むように草の生えない地面が広がっていて不気味なのだ。

 しかも、一定の場所を越えると、鬱蒼とした森が広がっているので光も届きづらい。

 

 また、この井戸は謂れの数が多い。

 

 私が生まれてからこの井戸の辺りで十回ほど、人が事故に会ったり、失踪したりすることがあったらしい。

 それぞれ、一人か二人ずつ死んだり消えたりしているそうだ。

 皆が近寄りたがらないのも当然の話である。

 

 そろそろ怖くなってきたので、日は高いが村に戻るとしよう。

 私は背後から刺されないように注意しながら、井戸を後にした。

 

 私の後ろで、今まで微動だにしなかったカラスたちが啼いていた。

 

─────────────────────────

 

 私は井戸から戻ると、すぐに洗濯を終わらせて仕事に戻った。

 

 そして、女性用の衣装を四日で縫い終わった。

 

 しかし、今までに無い程集中していたので、仕事が終わった瞬間に視界がぐるぐると回り出し、まともに立ち上がることができずに倒れてしまった。

 医院に駆け込んだ母が医者から聞いた話では、睡眠不足と脱水症状で私は倒れたらしい。

 

「生きててよかった!」

「???」

 

 目が覚めた瞬間に母が私を抱きしめたので、思わず放心してしまった。

 周りを見て、覚えている限りの記憶を思い出して、母と医者の話を聞いて、やっと状況が呑み込めた。

 井戸に行ったあの日から眠らずに働いていたので、体を壊したようだ。

 確かに、今の体の調子は倒れる直前よりずっと良い。恐らく、原因はあの井戸にあると思うのだが、よくわからない。私は恐怖をずっと感じていたが、考えてみれば井戸に映った自分の顔を見ただけで気が狂うだろうか。

 …やはり、あの井戸には何か秘密があるのかもしれない。

 

「あの日から三日も寝ていて……少し様子が変よ?ヘレナ?」

「…あ、うん。そう、みたいね。母さん」

 

 考えごとに夢中になって話を聞いていなかった。

 あの日、村はずれの井戸に行ったことはまだ誰にも話していない。これは話してはいけないモノのような気がするのだ。

 直感的だが、理性に従うのは良くない気もするし、黙っていよう。

 

「少し不安な所はありますが、一先ずは大丈夫ですね。様子も見たいので、しばらくは安静にしていて下さい」

「わかりました」

 

 今のやり取りから、医者も問題無いと判断したらしい。入院の必要も無いということで、私は家に帰れることになった。

 医院の外に出ると、飾り付けられた村の通りが目に入った。何年も前から準備されてきただけに、細やかな飾り一つ一つの内容から配置まで、考えれば底が無い程奥深い趣を感じられる。

 青い空も相まって、絵画のような景色が広がっていた。

 

「今日はお父さんたちも家に来るけど、貴方は休んでいなさい」

 

 家に帰る途中で珍しい景色に見入っていると、母に釘を刺されてしまった。私としても余計な心配をさせてしまったことには多少の申し訳なさがある。

 なので、しばらくは大人しく過ごすつもりだ。

 

 というか、そういえば今日は親父たちが帰ってくる日だった。殆ど家に居なかったから、どんな顔をしていたのかも曖昧だ。

 最後に会ってからかなり時間が経っているから、顔が判別出来ないかもしれない。

 

「ただいま」

「お帰り、二人とも……ヘレナ、大丈夫か?倒れたって聞いたけど…」

 

 記憶に僅かに残るものより髪の白い親父が分かりやすく心配してくる。しかも、関わる時間が少なかったせいで、私と会うなり狼狽えてあまりにみっともない。ついでに、玄関でオロオロと突っ立っているので邪魔にもなっている。

 

「親父……ヘレナは元々こういう奴だから心配しなくても大丈夫だって言っただろう?あと、久しぶり、ヘレナ」

 

 10年ぶりに会った兄貴は立派な青年になっていた。偉丈夫といっても過言ではない程の体格だが、少し、苦労人な性格が顔から滲み出ている。

 意外と二人の判別は容易だったので、そこからの話の流れはスムーズだった。今は、弟のリューベックが帰ってきて二人と話している。

 

 そんな様子を尻目に、集まった家族全員を眺める。

 本当に、不思議な状況だと言える。

 10年間居なかった親父と兄貴が私たちと談笑し、この1週間で経験を積んだ弟が雰囲気まで大人っぽくなってその中に入り、普段のんびりしている母が私の分まで忙しそうに働いているのを暴れん坊の私が大人しく座って見ている。

 3日後の祭りは、槍が降ってもおかしくない。

 

「…ヘレナ、どうした?さっきから様子が変だぞ」

「確かに、姉ちゃんがこんなに黙ってオレたちを見守っているなんて…」

 

 親父がまた私を心配している。

 リューベックは絶句しているし、兄貴も言葉こそ発しないが、視線を感じる。

 

「何にもないよ、多分。それより、何で親父たちは戻ってきたの?」

 

 話を有耶無耶にするために話題を変えた。

 

 その瞬間、親父たちの顔が僅かに濁った。

 

「…何でと言われても、3日後の祭りで剣舞を舞うためだよ。それとも、他に理由があると思うのかい?」

「…」

 

 流石に、親父の顔は一瞬で人の善い笑顔に戻った。

 しかし、兄貴はその表情を隠しきれていない。なんなら、二人とも無意識にからだが動きやすいように姿勢を直している。

 体中が針に刺されているような感覚になった。

 嫌な汗が流れ、背筋に悪寒が走る。

 

「……いいや、無いよ。少し、気になったから、聞いてみただけ。それに、二人が帰ってくるのなんて、何時ぶりだっけって話だからね。…つい、聞いたんだ」

「……そうか。それなら、俺らの剣舞を楽しみにしてろよ!」

 

 私の答えを聞いて、親父は元気な返事を返し、兄貴も視線を外した。

 しかし、返答によっては何をされていたのか分からない。実の家族であるのにそんなことはないと思いたいが、あの視線は駄目だった。私の一挙手一投足が親父たちの動く理由になりかねないと思えるような隙の無い視線だった。

 

 親父たちは、3日後の祭りで剣舞を舞う。

 何故親父たちが舞うのかというと、騎士という、この村で唯一の存在であるからだ。騎士団からも、この祭りが行われる数日間は無条件で休暇を与えられているらしい。

 

 しかし、それほどに、剣舞を舞うことには重大な責任が伴うということでもある。そして、その役目を預かれることは親父たちの誇りでもあるのだ。今も、舞う役に選ばれることがどれだけ立派なことなのかを親父と兄貴の二人がかりでリューベックに力説している。

 リューベックは親父たちの様子にドン引きしているが、私は、親父たちの剣を見るのは久しぶりなので少し興奮している。親父が兄貴に稽古を付けているのは10年前に見たが、体格差と実力差からまともな稽古は付けられていなかった。

 故に、どんな舞を見られるのか楽しみなのだ。

 

「リューベックも騎士にならないか?きっとカッコいいと思うぞ!」

「うーん。オレはこの村に居たいんだけどな…」

「お父さんもその辺にして、ご飯ができたわよ」

 

 母が親父たちの間に割って入った。

 今日の晩ご飯は、お祝いを兼ねて豪華になっている。リューベックが初めて仕留めた鳥や兎をそのまま貰ってきたので、その肉を使って親父たちが無事に帰ってきたことを祝うのだ。

 食べてみると、鳥はしっかりとして歯応えを感じるが、噛めば噛むほど味が出て美味しかった。兎は、柔らかくて淡白な味だが、今回の鳥肉とは相性の良い味をしていた。

 

「もう猟に出るなんて、リューベックも立派になったなあ」

「う~ん、ソウダネ」

 

 料理を美味しそうに食べていた親父が、突然、リューベックの成長に感嘆した。もっとも、リューベック自身はまだ親父たちと会って数日しか経っていないので、特に思うところも無いようだった。

 ご飯を食べ終わり、その日は寝ることになった。

 

 そして、次の日も、その次の日も、私が外にでることは無かった。

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 祭りの日になった。

 珍しく朝から起きて外に出ると、空は青く日差しが照りつけている。この数日は外に出られなかったので、久しぶりに浴びる朝日は眩しかった。

 そして、村は3日前とは比較にならないほどの賑わいを見せていた。

 普段は閑散としている通りにも、出店が立ち並び所狭しと人が歩いている。

 大通りでは、見たこともないような商品を店先に並べる出店が道の両脇で商売をしている。人の熱気が溜まって目眩がしそうなほど、どの店も繁盛しているようだ。

 取り敢えず、人が多すぎるので裏通りを歩くことにした。今歩いている通りでは装飾品が多く売られているようだ。

 アマン村の辺りでも売っているような質素なものから王都で売られているような少し値の張るものまで、様々なものを見ることができる。

 

 ふと見ると、周りを歩く人々が男女で列んで歩いていることに気付いた。今目の前に居る男女(幼馴染み)も、自然に手をつなぎ、出店を見て回っている。

 

 彼らは、付き合わないと思っていたんだけどな…

 

 私も一緒に祭りを楽しめる人が欲しいな。

 このままでは、もしかしなくても行き遅れるのは目に見えている。

 

 

 

 ……ならば、この祭りで運命の人を見つければいいのでは?

 これだけの人が集まることは、他の村であれば奇跡に等しい。

 つまり、この村にはそのチャンスがあり、今がそのタイミングである。裏を返せば、恐らく、こんな出来事が今後起こることはないだろう。

 村に人の来ている今が好機……!

 

 

 事実を前向きに捉え、熱に浮かされたような気分で私は歩き出し、その瞬間に、教会の鐘が聞こえてきた。

 

 もうこんなに時間が経っているとは思わなかった。

 浮かれるのもいいが、取り敢えず、広場に向かうとしよう。

 村のみんなや来訪者も、初日の剣舞だけは全員で見ることになっているのだ。

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 

 穏やかな音楽と共に、目の前で人が踊り始めた。

 全員が集まった瞬間に、音楽は始まるようになっていた。

 女性たちが、白い衣装をたなびかせて舞う。

 ゆらゆらと揺れ動く白いカーテンは、同じ景色を二度と見させてくれない。

 舞台の上で前後左右に演者が動き、美しさよりも幻想的な雰囲気に魅了されそうになる。

 

 みんなの意識が白の調和に染まりきった瞬間に、親父と兄貴が舞台上に姿を現した。

 そして、壇上の真ん中で剣を抜くと、自然な流れで銀閃を煌めかせはじめた。

 よく晴れた快晴の下、ちらちらと二人の剣が瞬く。

 舞台の後ろや両脇で踊る白い人々が銀の瞬きを映し、舞台全体に白い星空が広がるようだ。

 二人の剣舞も、互いが自由度の高い動きをしながらその剣線が乱れることはない。

 互いに動きを見ることもなく、大胆でありながら時に紙一重の差で大怪我を負いかねない緻密な舞だ。

 

 みんな、意識を舞台に向けていた。煌めいて見える舞台に魅了されていた。

 

 

 

 

 

 そんな中で、誰かの首から吹き出る赤い血が、不思議なほどに鮮明なアーチを描いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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