勇者一行の『村娘』   作:テイラノ

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グロ注意


『魔女』

 

 

 顕現した()()は、黒髪黒目の女性だった。背丈は私と同じか少し低く、その体を靄のような魔力が覆っていた。

 

 ソレ…仮称『神』は、その場で大きく伸びをすると、独り言を呟いた。

 

 

「…空も空気も澄んでいて、気持ちが良いわ~」

 

 

 それは、『神』と呼ばれるにはあまりに似合わない、呑気な一言だった。

 しかし、その場に居る私以外のすべての人類が、その姿に絶望していた。

 

「…古文書に書かれている通りじゃねえか、チクショウ」

 

 親父がそんなことを呟いているが、『神』にはその言葉が届いていないようで、気にも留められずに流された。

 しかし、暫く呑気にフラフラしたり寝転がったりしている内に違和感があるようで、私たち(親父と兄貴と私)の方向をジッと見つめてきた。

 

「…何かこう、ムズムズするというか、キュッとしてドカーンとしたくなるというか…」

 

 「キュッとしてドカーン」が何かは分からないが、多分命が危うい状況だろう。

 『神』は少しの間悩んでいたが、諦めたように視線を外した。

 そして、次に気になっているであろうことを話し始めた。

 

 

 

「そういえば、私が此処に居るということは、私を解き放った…魔族が、多分いると思うのだけど」

 

 どこかしら

 

 

 

 …空気が、一段重くなるのを感じた。

 呼吸が浅く、心臓がより早く鼓動を打っている。

 体が、目の前の『神』を脅威として認識している。

 

「な…何をしておる!そこに居る『魔族』…いや、『魔女』を殺せ!」

 

 叫んだのは王族の男(馬鹿野郎)だった。

 椅子に座りながら、近衛騎士に指示を出そうと騒いでいる。

 しかし、近衛騎士たちは動こうとしなかった。

 なまじ戦える故に、目の前の『魔女』と自分たちの実力差をはっきりと理解してしまったのだ。

 騎士たちの顔には、絶望の表情しか浮かんでいなかった。

 

 

「早く動け!でなければ「うるさい」ただでは…っ!」

 

「口を開くなら私の質問に答えていただけないかしら」

 

 

 『魔女』の意識が、椅子に座る男に集中した。

 『魔女』はかなりの美女だが、この状況では見つめられて喜ぶことも出来ない。

 

「……ゆ、許してくれ!殺したのは儂ではない!そこの騎士たちじゃ!じゃから、儂は許してくれ!儂は悪くない!」

「そ、そうですよ!私は殺していない!指示も出していないし、この騎士たちは私のものではない!」

「わ…我らは一切、かの『魔族』たちを殺そうとしてはいなかった。我らを守っていたその騎士たちが殺してしまったが、此方も命が危うい状況であったため、致し方なかったのだ」

 

「…な?儂らは悪くないじゃろう?」

 

 男が耐えきれずに叫び、取り巻きの高官や領主たちが追従した。

 それに対して糾弾したい点は山ほどあるが、前提を正しく認識できていないことが最も致命的に感じる。

 どういうことかと言えば、彼らは自身達と『魔女』の立場が対等かそれ以上のものとして話しているのだ。

 

「……耳が腐りそうね。これほどの血が流れて尚生き残った者がどれ程の傑物かと思えば、ここまで自己愛の強い馬鹿だったなんて…私が手を下すまでもないわね」

 

 彼らはその言葉を聞いた瞬間に安堵したような表情を浮かべた。

 言葉の表面を読み取れば、『魔女』は彼らに興味を失ったように理解できるからだ。

 

「まあでも、貴方たちが何を見聞きしていたのかは知りたいわね」

「む?な、何を言って」

 

 男がそれ以上の言葉を発することは出来なかった。『魔女』の魔法により、彼らは全身を拘束されたのだ。

 『魔女』は彼らが動きを停止したことを確認すると、近衛騎士団の展開していた結界を紙のように破り通り、その内側にいた彼らに魔法をかけた。

 

「『理解する魔法』…貴方たちのことを、すべて教えて?」

 

 傍から見ていると『魔女』が小太りのおっさんたちに美人局(つつもたせ)しているようにしか見えないのだが、騎士たちの中でも魔法に長けている者はその魔法に戦慄していた。

 

「…魔力を通して、情報を抜き取っている?いや、情報を魔力から読み取っているのか?」

「ど、ういう……いや、何を、どうやって……どうして?」

「なんてことだ……勝てるはずが、ない」

 

 騎士たちが一斉に絶望する。

 反応を見るに、この魔法は技術に近いのだろう。

 先ほどの『魔族』でも、もしかしたら発動させることすら出来ないかもしれない。

 

 

 

「ふふふ、一応、感謝するわ。……あの子たちは、そんな風に逝っていったのね…」

 

 

 

 魔法をかけ終わると、『魔女』が祈りを捧げていた。

 その表情は聖母のように優しく、『魔族』としての姿が異様なほどに似合わなかった。

 …祈りは、人類が神を信じるときに行うものであり、『魔族』に祈りの習慣や慣例は無いはずなのだが、どういうことだろうか。

 

「…弔いを、しましょうか。あの子たちが、神の御許で許されるように」

 

 短く、そう呟くと同時に、魔法で拘束されていた男たちが青く燃え始めた。

 男たちの表情が苦悶に歪んだように見えたが、不思議と燃え尽きていく様子は無かった。

 

「木も人も、赤く燃えるのが常識だけど、魔力は青く燃えるのよ」

 

 『魔女』はそう呟いてから、詠唱を始めた。

 

 しかし、親父たちは詠唱が始まる前に動き出していた。

 近衛騎士たちが『消去魔法(マジックキャンセル)』を重ねがけした結界を『魔女』の周りに展開した。同時に、魔法が使える者は全員集まり、この場で出せる最大火力で『魔女』を結界ごと消滅させる準備を始めた。

 

「ここから離れろ。絶対に戻るなよ」

 

 親父は、私に兄貴を預けて逃げるように言うと、スクロールによる『身体強化』と精神統一による集中を始めていた。

 

 そして、近衛騎士たちの中で騎士たちに指示を出していた、「レイシス」と呼ばれていた男が私たちに回復薬を渡してきた。

 

「君たちはここから逃げて、シルベスへ向かいなさい。この先、一人でも多く、生かすために」

「…わ、かり、ました」

 

 彼はこの村の惨状をシルベスに伝えるように言っている。

 つまり、『魔女』による被害が広がる前に封印か討伐のための人員を集めなければいけないということを言っており、それは、ここに残る者は全員助からないということに等しかった。

 恐らく、もう、親父に会うことは出来ない。

 

「最、悪、オレのことも、置いていって、構わん。だから、早く…」

 

 私の肩を借りている兄貴もそんなことを言い出した。

 考えることすら覚束無いであろう大怪我なのに、私に言葉で催促するほどの状況に陥っているのだ。

 

「──、────。───」

 

 『魔女』の詠唱は聞こえなかったが、朗々と、美しい声音が響くのを感じる。

 

「…分かりました。後を頼みます」

 

 私は彼にそう呟いてから、兄貴を引き摺って走り出した。

 

──────────────────────────────────────────────────

side『アマン村』

 

 茶髪の少女が村を出た頃、近衛騎士団長である「レイシス・マルセイア」は、逃がした少女の父親であり『グリズアイル王国』の王国騎士団長である「ザクス・ブラウン」の様子を見に来ていた。

 

「…どうした?怖じ気づいたか?」

 

 ブラウン家の家長であり、騎士団長を任されていた(ザクス)が質問した。

 

「いや、逆だ。いざとなれば、私が支援しよう」

「ハッ!王族直属近衛騎士団の団長様から協力を申し込まれるとは」

「馬鹿を言え。実力で見れば、お前はこの王国で…いや、人類で最強と言っても過言ではない。私の地位は、家格によるものに過ぎないんだ」

 

 目の前で魔力同士のぶつかり合いが起きているにも関わらず、二人は気負いない様子で最期の言葉を交わしていく。

 

「家格がなんだと言っても、半分は関係ない話だろう?お前が近衛騎士たちを腐らせずに居るお陰で、ここまで『魔族』に対抗できたのかもしれないんだぞ」

「そう、かもしれないな」

 

 ふと、言葉が途切れる。

 出会った頃から今までの記憶が、走馬灯のように二人の頭を駆け巡っていた。

 

「懐かしいな。…お前は不思議と、他人のことを否定しない奴だった」

「お前は逆に、貴族だなんだと言って暴れまくってたけどな」

「家格に救われることは案外多いんだよ。良い意味でも、悪い意味でも」

 

 また言葉が途切れる。

 騎士たちの展開した結界が純粋な魔力によって砕け散り、『魔女』の魔力の奔流が村を覆い尽くしていく。

 

「そうだ、火傷が酷くてな。治せるものを持っていないか?」

「生憎だが、回復薬の持ち合わせは無いぞ。お前の家族に託したからな」

「そうか…チッ、俺が何も言えなくなるから渡しただろ。お前は嘘は言わないが、その腹の中は真っ黒だからな!」

「仕方ないだろう。我々のような大人より、未来ある若者に投資した方が、価値がある」

「テメエ…その価値を、俺たちは見られないじゃねえか」

 

 ザクスが放った弱気な言葉を、レイシスは鼻で笑った。

 

「フッ…ここで生き残れば見られるじゃないか。怖じ気づいているのはお前の方だったようだな」

「…ハッハッハ!気が滅入っちまっていたみたいだ。それじゃあ…やるか!」

「そうだな」

 

 騎士たちの全霊を込めた魔法が放たれ、収束した『魔女』の魔力に吸収された。

 魔法の効果すら発揮せず、すべてが『魔女』の描き出す魔法陣に吸い込まれた。 

 

「久しぶりだから、丁寧にいくわよ」

 

「『炸魔蒼炎』」

 

 青い炎が、辺りを包み込んで爆発した。

 正面で魔法を発射した騎士たちは蒸発し、家々が吹き飛び、村の外縁部までの地面がえぐれて焼かれた。

 かつて「アマン村」と呼ばれていたものが、すべて消し飛んだ。

 

「…あら」

 

 『魔女』が消し飛んだ村の残骸を見ていると、焦土の中に張られている小規模な結界が目に留まった。

 

「蒸し焼きになるところだったぜ」

塵芥(じんかい)の間違いだろ」

 

 少し経つと、結界の中から茶髪と黒髪の二人の人間(ザクスとレイシス)が出てきた。

 

「おい、次の魔法はどう防ぐ?」

「さっきの護符は使い切りだ。次は避けてくれ」

「了解」

 

 確認を終えると、二人は『魔女』の両側から一気に距離を詰めて斬り掛かった。

 

「近接戦は、あまり得意じゃないのよ」

 

 『魔女』はぼやきながら、二人の剣を捌きはじめた。

 『魔女』の体は大柄とはいえない。

 手足の長さも平均的な女性と同等かそれ以下であり、近接戦闘に向いた体であるとは言えないだろう。

 

 しかし、魔族としての筋肉量の密度と動体視力が戦闘を可能にしている。

 また、彼女自身の魔力を周囲に滞留させることで半径数メートル以内であれば五感が絶たれていても認識可能となり、二人の動きを3DCGで映したように理解できるのだ。

 

「…二人とも中々の腕前ね。今まで生きてきた中でも、ここまで優れた連携は見たことがないわ」

「そりゃ、どうも!」

「…」

 

 平然と、片手で各々の剣を捌かれる事態に二人は戦慄していた。

 確かに、彼らは一瞬で殺されることも想定して行動を起こした。

 しかし、魔法も使われずに互角以上にあしらわれるような事態は考えられなかった。

 圧倒的な実力差が、『魔女』との間に広がっている。

 

「…ところで、貴方は余裕が無さそうに見えるけど?」

「…っ!」

 

 レイシスは自身が殺される姿を幻視して身が震えた。

 そうしてできた一瞬の隙を、『魔女』は見逃さなかった。

 

「『拘束(バインド)』」

「チッ!」

「がはっ!」

 

 彼女は拘束魔法をザクスにかけた。

 魔力の糸が体を雁字搦めにするが、彼は怪力によって糸を無理矢理引き千切る。

 しかし、真の目的は足止めだった。

 『魔女』は一瞬でレイシスに肉薄し、その腹を熱線で貫いたのだ。

 そして、熱線には彼の内蔵をじわじわと焼く効果も付与されていた。

 

「…クソがぁ」

「叫ぶと痛みが酷くなるわよ~」

「…ゲスめ!」

 

 『魔女』は黒髪の男(レイシス)を盾にするようにして茶髪の男(ザクス)を見た。

 技量や力は、ザクスがこの中で一歩リードしている。

 しかし、それ以外の手数の多さはレイシスに軍配が上がる。

 つまり、先にレイシスを崩すことで、迫る脅威のパターンを限りなく減らすことが出来るのだ。

 それも含めて、『魔女』は実質的な勝利を納めることに成功していた。

 

 最後に、ザクスの魂から損失分の生命力を奪い去れば、完璧な勝利が可能()()()

 

「端から、殺そうとは…していない」

「何か言った?…っ!」

 

 その瞬間に、黒髪の男が針を突き刺した。

 

 レイシスは彼女に勝てないことが分かっていた。

 流石に、ここまで一方的な展開は予想していなかったが、()()()()()()()()()()()()時点で彼らに為す術がないことは明白だった。

 

 故に、ある道具を持ち出していた。

 

 

「『魂喰針』、の解析が、終わった…呪い、の、所有権は、譲渡、可能だ」

「くっ…!」

 

 

 それは、『魔女』が封印される前の時代では解明が進んでいなかった呪いだった。

 しかし、『魔女』はその呪物の効果を知っていた。解呪の魔法では消えず、所有者の死と共に所有権を世界中の誰かに変える呪いであり、所有者の魂を蝕む呪いだった。

 

「貴様の、魂は、焼かれ続ける…」

「…そのようね。でも、貴方が所有権を与えてくれたお陰で、()()()()()()()()()()

 

 そう言うと、『魔女』はザクスに突撃を仕掛けた。

 両手に魔力を圧縮することで手刀の精度を上げて斬り掛かったのだ。

 ザクスも、魔力の刀は想定外なので防戦に回るが、さっきまで二人がかりで攻めきれなかった『魔女』の反撃はより上手だった。

 周到に隙を突く『魔女』の三次元的な攻撃により、ザクスの比較的未熟な要素が尽く潰されていく。

 元々受け流されていた攻撃も二、三度と回数を重ねる内に通じなくなっていき、一挙手一投足が致命傷に繋がり得る状況に陥ってしまう。

 必死に技の隙をカバーするが抵抗虚しく、『魔女』によってザクスは剣を弾き飛ばされてしまった。

 そして、『魔女』はその懐に潜り込み、ついさっき刺された針を刺した。

 

「『譲渡』」

「なっ…!」

 

 それは、黒髪の男が『魔女』に針を刺した際に男から流れ出た魔力が、針のどの部分にどのような影響を及ぼしていたのかを忠実に再現していた。

 

 つまり、呪いの譲渡が起こる、筈だった。

 

 

「…あら?」

「…残念だったな。()()()()()()()()()

 

 

 それは、ザクスだけで無く、その先祖から子供(ブラウン家の一族)に受け継がれている特異体質だった。

 ブラウン家の人間は生まれつき、ありとあらゆる呪いが効かない体なのだ。

 

「そう…それは、とても残念ね」

 

 そして、呪いを移すことが出来なかった時点で、『魔女』にとって二人の存在意義は消滅していた。

 

「先ずは、貴方の魂を頂戴するわ」

 

 そう言って、『魔女』はザクスの顔を掴んだ。

 同時に、彼の顔は生気を失っていき、最後に塵だけがその場に積もった。

 

「次は…貴方の魔力をもらうわよ」

 

 『魔女』は塵の山から興味を無くすと蹲るレイシスの傍に近寄り、その体を蒼い炎で包み込んだ。

 彼の顔が苦痛に歪むが、それは体を激しく燃やされることによる痛みではなく、魂に根ざした生命力を炎のように燃やされるためだ。

 

 先ほど燃やしていた三人の魂の場合、魂の核となる部分はそこまで大きくなかったがその周りに脂肪のような生命力が付いていたので、生命力を激しく燃やすことが出来た。

 そして、レイシスの場合、彼自身の魂の核が大きく、その周りに付いている余分な生命力が少ないため、核の魔力を少しずつ燃やしていき、必要なときに必要な分を燃やすことが出来る魔力貯蔵庫となった。

 

 一度火がついた魂は燃え尽きるまで燃え続けるため、二度と彼が意識を取り戻すことは出来ない。

 

 「アマン村」での戦いは、終結した。

 

 

 

 

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