勇者一行の『村娘』   作:テイラノ

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グロ注意
独特な会話表現にご注意ください


夜を越えて

 

 

 『魔女』は『勇者』に倒された。

 立ち上がることもできない様子で、地面に大の字になって寝転がっている。

 

「もう、動けない……私は死なないのに、どうするつもりかしら」

「この場で封印する。そして、これからも封印の儀式を繰り返す」

「また、この世に出てきたら?」

「その時の『勇者』に任せるしかない」

「そう……」

 

 単純な手数で圧倒されている『魔女』が倒されるのは当然だった。

 しかし、『魔女』は殺せないらしく、封印することにしたらしい。

 今は、セレナさんが封印の魔法を唱えている。

 

「正直、貴方のことは認めてないわ。半人前どころか、まだまだ及第点も付けられないレベルね。でも、『勇者』として『魔王』を倒すのなら、最後まで責任を持ちなさい。その時は、嫌でも貴方を認めるわ」

「…そうか」

 

 『魔女』は『勇者』を一時的に許したらしい。

 セレナさんが魔法を唱え終わり、『魔女』の体が浮かび上がった。

 

 次の瞬間、別の魔法によって『魔女』の頭が消し飛んだ。

 

「え?…あっ」

「…クソ、やられた!」

 

 二人は何かに気付いたような声を出しているが、私には何も分からない。

 

 しかし、すぐに激しい目眩が私を襲った。

 少し前に村の井戸で似たような感覚を味わった気がするが、抗うことができない。

 

『少し、貴方の体を借りるわよ』

 

 『魔女』の声が聞こえた気がして、意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 

 

 

 目が覚めると、暗い場所にいた。

 

 『私』という存在の概形すら見ることができない空間だった。

 

 闇の中で『目』をこらしてみると、長い黒髪が見える気がした。

 

 意識を近づけてみると、『魔女』が、そこに居ることに気が付いた。

 

『どうも。しばらくお世話になるわ』

 

 『魔女』が話しかけてくる。

 何故ここに居るのか、そもそもここはどういう場所なのかを聞きたいが、『声』が出ない。

 

『あら、ここは貴方の魂の中……貴方の魂は、肉体に依存しなければこの世に存在できないからこの場所を知覚し得なかっただけで、ここは貴方の存在の本質に最も近い場所なのよ』

 

 どうやら私が考えるだけで『魔女』は思考を読み取ることができるようで、ここは私の魂の中らしい。

 というか、そんな場所に『魔女』が居たら私の身が危ないのでは?

 

『ふふ、貴方を殺すつもりは無いわ。下準備が整っていたからここに入り込んだけど、思ったよりも居心地のいい場所だからしばらく居ることにしただけよ。広々とした開放的な魂で気に入ったわ』

 

 お気に召したようで何よりである。

 それで、どうしたら出て行ってくれるのだろうか。

 恐らく、今ここで私が死んでも『魔女』をとっちめることはできないし、私の魂とか何も知らないからどうすることもできない。

 

『そんなに怖い雰囲気を出してどうしたの?……ああ、私を追い出したいのなら、怒ったり悲しんだりすればいいのよ。魂の本質を維持するためのエネルギーが感情に割かれて、魂の領域が小さくなる。そうすると、私は居心地が悪くなって出て行っちゃうから』

 

 十分に怒っている。

 祭りをめちゃくちゃにされて、村を壊されて、家族を殺されて、私の居場所を全て踏み躙ったお前(魔女)をこの手で握り潰したい。

 

 それでも足りないのなら為す術がない。

 

『怒りだけじゃなくて悲しみもあるようだけど…まあ、貴方の村や家族に感謝しなさい。私の魂を受け入れて尚、余裕のある魂は見たことが無いわ。そして、そんな魂を育むのは幼い頃の経験に依るのよ』

 

 つまり、私の魂が小さかったら私はとっくに死んでいるってこと?

 

『そうなるわね』

 

 …村も家族も滅ぼした相手にそれらの大切さを教えられるなんて、何の皮肉だろうか。

 しかし、あれだけの災厄を前にして、生き残っただけでも満足と捉えるしかない。

 その上、私の内側にこんな厄ネタ(魔女)が居る以上、これから迂闊な動きはできない。

 

『…意外に感じるかもしれないけど、私は、本当に、貴方を殺す気がない。理由は色々と有るけど、姿を隠していた方が都合がいいことは多いのよ』

 

 ということは、私は「『魔女』に殺されること」ではなく、「『魔女』を内に飼っていることで他の人間に殺されること」を警戒する必要があるのか。

 貴女(魔女)が嘘を吐いている気もしないし、そこは信用して行動しよう。

 

『…一応、私は貴方の多くの物を奪った敵だってことを忘れないでね?』

 

 無論、忘れるつもりは無い。

 いつか、私の魂から貴女を引き摺り出して痛めつけてやることに変わりは無いのだ。

 しかし、それまでは私の中で管理しておかないといけない。

 それに、私自身が死んでも本末転倒である。

 

『そう…忘れないなら安心よ』

 

 …思ったよりも、魂というモノは感情を色濃く映すようだ。

 

 そう思いながら、私の意識は戻ろうとしていた。

 

 

 

 

 

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 目が覚めると、夜空の下に居た。

 傍で焚き火が燃えていて明るい。

 

「セージさん、意識が戻りました!」

「良かった……本当に良かった…!」

 

 隣を見れば、『勇者』とセレナさんが私を見て安心している。

 気を失ってからどれだけ経っているのかは分からないが、心配させてしまったようだ。

 

「大丈夫ですか?何処か、具合の悪いところとか、いつもと違うところはありませんか?」

「ああ、はい。特にあり、ま、せ…」

 

 体を起こして答えようとしたが、次の言葉が出てこなかった。

 焚き火を挟んで、私の反対側に兄貴が横たわっていた。

 

 でも、それは、遺体を寝かせるときの───

 

「……兄貴、は…生きていますよね?」

 

「あ…お兄さんは、その……すみません」

「…俺たちが遅れたせいです。大変申し訳ありませんでした」

 

 二人が沈痛な面持ちで謝ってくる。

 頭を殴られたような気持ちになった。

 遅れて、大きな喪失感と共に視界が濁った。

 

「……謝らないでください。助けていただき、ありがとうございました。でも、少し、頭が痛いので、もう、寝てもいいですか?」

 

 そう言って、私はもう一度横になった。

 

 もう、現実を見たくない。

 

 そう思いながら、私の意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

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side『勇者』

 

 

 

 『魔女』の頭が消し飛んだ直後、助けたはずの茶髪の少女が倒れてしまった。

 

「私が治すので、『勇者』さまはさっきの怪我人を連れてきてください!」

「分かった!」

 

 俺は枯れ葉と枝を岩の上に集めて簡単な焚き火を作り、走って来た道を急いで戻った。

 道中に倒れていた男性から少女のことを聞いて、置いてきてしまったのだ。

 

「大丈夫ですか!」

「…『魔女』、は」

 

 見つけた男性の傷は、かなり酷い状態だった。

 片腕は完全に千切れており、反対の腕は手首から先がない。

 腹の傷は貫通して穴が開いており、体液等が漏れ出ている。

 ここまでの重傷を見たのは今までの人生で初めてのことだった。

 

「安心してください、『魔女』は倒しました。それよりも、気を強く持ってください!」

「倒、した…良、かった」

 

 本当は取り逃がしているが、素直に従ってもらうために嘘を吐いてしまった。

 傷口に最低限の処置をして、地面などに付けないように気をつけながら彼を運んだ。

 もう、意識が朦朧としていて、ぶつぶつと囈言を呟き続けている。

 

「セレナ、多分、こっちの方が重傷だ!」

「『勇者』さま!火の横に寝かせてください!」

 

 俺は急いで彼を寝かせると、セレナは回復魔法を唱えた。

 しかし、彼の意識は戻らない。

 セレナも困惑していて、表情からは焦燥も見て取れる。

 

「え、どうして…治した筈の場所からどんどん傷が広がってる」

 

 症状は(まじな)いに近いものがある。

 それならば、セレナの『聖霊魔法』よりも俺の『呪術』の方がなんとかできるかもしれない。

 そう思って、『解呪』の魔法と『呪い移し』の呪いをかけたところ、俺に『呪い』が移ってきた。

 

「『勇者』さま、『呪い』が…」

「大丈夫。この『呪い』は解析しておくから、セレナはその人を治してくれ」

「…はい!」

 

 『聖女』であるセレナにかかれば、余程の理由が無い限り、()()()()回復できるのだ。

 任せておけば、まず間違いない。

 だから、俺は俺のできることをやる。

 茶髪の少女がいつ目を覚ましてもいいように隣に座り、『呪い』の効果を理解する。

 

 解析して体感したところ、『呪い』の効果は傷を焼き広げるものだと分かった。

 構造は比較的単純で汎用性が高く魔法と組み合わせて相手に与えることも可能であり、単純な構造故に『呪い』自体の耐久性が高い。

 対処法としては、魔力の流れから『呪い』の原因になる因子とその場所を把握し、因子を高密度の魔力で破壊する方法をとることになる。

 言うのは簡単だが、魔力の配分を誤れば体組織を破壊する可能性がある危険な方法だ。

 まして、内臓のような人体の急所ともいえる場所で行うのであれば、因子のみを破壊することは難しい。

 

 今回のような場合で傷口に処置を行うのであれば、まず傷口を治した上で、焼かれて広がる他の傷を保護し、より精密な魔力の配分で、怪我人の負担にならないように、『呪い』の因子を破壊しなければならない。

 セレナの能力が規格外だとしても、情報の無い状態でそれらを行うことは……できないことはないだろうが厳しいだろう。

 

 『呪い』についての解析が大体完了したところでセレナの様子をもう一度見ると、『聖霊魔法』による回復が終わっていた。

 男性の回復が終わったのだろうと思ってセレナに近付いた。

 

 

 男性は死んでいた。

 

 

 体の動きからは呼吸や脈拍がないことが分かり、魔力を使った情報からは微細な脳波すら感じ取れなかった。

 そして、魔力が最も強く反応するべき『魂』が無かった。

 魂の残滓と思われる反応を所々に感じるが、核となり得るようなモノを感じ取れなかった。

 セレナは、()()()()()()()()()頭部を全損していても『回復』させることができる。

 今も、男性の体は全て、内臓の位置や性質まで元の状態かそれ以上に良好な状態に『回復』させている。

 しかし、『魂』が無い限り、回復させた()()は肉人形でしかない。

 

「ゆ、『勇者』、さま、私…わ、私、は……」

「セレナ……」

「………か、体が、回復、してるのに、一番大事な、部分が、どんどんわからなく、なって……全部、消えちゃって、どうしようも、無くなって」

 

 セレナが縋るような視線を向けてくる。

 恐らく、呪いの効果が魂にも届いてしまったのだろう。

 途中で俺が奪い取ったものの、傷の経過や本人の状態から見て既に魂は消失しかけており、最期に瓦解してしまう瞬間をセレナは感じ取ってしまったのだと思う。

 つまり、セレナに責任は無い。

 あったとして、それを果たせないことを、俺は責められないし責めるつもりも無い。

 もう、男性が死んでしまっている以上、次に繋げるしかないのだ。

 

「大丈夫、大丈夫だから、次はこんなことしないし、次はもっとちゃんとできるから、大丈夫だから」

「セレナ、ちょっといい?」

「はい、大丈夫、いいか、ら…」

 

 俺はセレナを正面から抱きしめた。

 なんとなく、セレナが不安になっていることが分かったのだ。

 今まで、セレナは出会った全ての傷病者をその場で治すことが出来ていた。

 そして、今日は『聖女』として初めて仕事をする日であり、目的地に着いたときには村自体が無くなっていた。

 治すべき人が全く見当たらない上に『魂』も残っていなかった。

 

 今は、目の前の人間が為す術無く死んでいく様子をより深く感じ取ってしまっていた。

 恐らく、挫折と絶望と無力感と、彼女自身の存在価値への恐怖があるのだろう。

 

「大丈夫だよ。次は『魂』から治せるように頑張ればいいし、今のままでもセレナは十分すごいから、()()()()()()()()()()()()、大丈夫、安心していいよ」

セージ(清治)さん…」

 

 改めて彼女の顔を見ると、碧い目から流れ落ちる雫が輝いて見えた。

 静かに、絶望を少しずつ洗い流すように、彼女は泣いていた。

 

「また、失敗したり、助けられなかったり、助けられてばっかりなのに私がダメになったら…」

「関係ないよ。もしそんなことがあってもセレナは俺より何倍もすごいから。寧ろ俺がミスした方が肩身が狭くなる気がするし、実際になったし。それに、俺たちは助けあって今があるんだから、これからも助けあっていけばいいんだよ」

 

 助けられてばっかりなのは俺の方だろう。

 ついさっきも『魔女』の目の前で醜態を晒してセレナが絶対に言わないようなセリフを言わせて、正気を取り戻すことができたのだ。

 感謝してもし尽くせない。

 

「大丈夫だよ、セレナ。きっと、大丈夫だよ」

「そう、だね。大丈夫、だよね。…セージさん、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 

 

 

 という訳で、茶髪の少女が目覚めるのを待つ。

 実は、セレナは気付いていないし報せるつもりもないのだが、茶髪の少女が気絶した理由もなんとなく把握できている。

 

 今、彼女の中には、魂が()()存在している。

 少女自身の魂が大きすぎるため、常人の魂では受け入れられないほど巨大な『魔女』の魂を内包した状態になっているのだ。

 人間の体で例えるのなら、大脳皮質内に別の人間の脳が丸ごと入り込んでいる状況に近い。

 

 つまり、いつ死んでもおかしくない。

 

 最悪の場合、素人ではあるが、私が魔力で介入しなければならない。

 少女の魂の核か『魔女』の魂が無くなった場合、即座に反応して「『魔女』の復活への対処」か「少女の救命」に動く必要があるのだ。

 人知れず、緊迫した時間が続く。

 

 しばらく時間が経った後、少女の中で魂が安定し、目を覚ました。

 

「セージさん、意識が戻りました!」

「良かった……本当に良かった…!」

 

 奇跡に近い状況だが、少女に異変は感じられなかった。

 

「大丈夫ですか?何処か、具合の悪いところとか、いつもと違うところはありませんか?」

「ああ、はい。特にあり、ま、せ…」

 

 セレナが少女を診ていると、少女の視線が男性の遺体に固定された。

 俄に心拍数が上昇し、呼吸が安定しなくなっている。

 

「……兄貴、は…生きていますよね?」

 

 …遺体は少女の兄であるらしい。

 となると、村の状況も鑑みるに、少女の親族はもういなくなっている可能性が高い。

 寧ろ、少女が生き残っているのが奇跡かもしれないほどの被害が出ているのだ。

 

「あ…お兄さんは、その……すみません」

「…俺たちが遅れたせいです。大変申し訳ありませんでした」

 

 そして、それほどの被害が出た原因は俺たちの行動の遅さや力不足にある。

 救えなかった命を、戻らない命を、遺族からの批判を、守り切れなかった人々の不信を、全て『勇者一行』である俺たちが背負うことは当然のことだ。

 故に今は、謝罪しかできない。

 

「……謝らないでください。助けていただき、ありがとうございました。でも、少し、頭が痛いので、もう、寝てもいいですか?」

 

 …すごい、きちんとした返事が返ってきた。

 殴りかかられても文句は言えないと思っていたのだが。

 

 いや、恐らく限界だったのだろう。

 俺たちに怒るほどの体力も、精神も残っていないのだ。

 

「もっと…頑張っていきます。『聖女』として、相応しく在れるように」

「ああ、頼む。俺も、『勇者』に()()()ように頑張るよ……疲れたと思うし、セレナは眠ってくれ。俺が火を見てるから」

「セージさん…分かりました。お休みなさい」

「お休み、ヘレナ」

 

 暗い夜空に風が吹いていく。

 セレナを寝かせて、火の見張りをする。

 今夜は寝ずの番になりそうだ。

 

 

 いざというときに挫けた弱い心も、目の前で死んでいった誇り高い命も、全て、『勇者』として受け容れ、次に繋げていく。

 

 覚悟を新たに、夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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