『祝!王都凱旋の勇者一行!!』
side『ヘレナ』
掃除をしていると、昔書いた本を見つけた。
“本邦初公開!王都に凱旋した『勇者一行』は何を考え、どう生きているのか!”
「気持ち悪っ!」
調子に乗って書いた文字は汚い上に、このキャッチフレーズでは目も当てられない。
大人ぶって振る舞っていた頃の記憶が掘り起こされたような恥ずかしさに、顔が熱くなる。
初めて『家族』を失って数日しか経っていなかったが、同様に初めて訪れる王都の雰囲気で気分が乱高下していたのを覚えている。
思えば、あの頃から『勇者』は無理をしていたのかもしれない。
情けないと思っていたが、あの頃の『勇者』は、『勇者』ではなく“聖剣を抜いただけの人間”だった。
そうなると、寧ろ、背負わなくてもいい責任を負っていた憐れな人間だったとすら考えられる。
記憶を辿るのに夢中になっていた私は、背後から近づいてくるもう一人の仲間に気づかなかった。
「あら、いつぞやの本ね。中々面白く書いてあるわ」
私はその女に本を奪われ、気がついたら黒歴史を読まれていた。
「“面白く”じゃなくて“滑稽に”の間違いでしょ?返して」
「はいはい」
あの頃は『魔女』と呼んでいた女性から本を取り返し、机の引き出しに突っ込む。
ただ、カビ臭さの中に混じる紙の匂いが、いつまでも昔の記憶を思い出させた。
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side『ヘレナ・ブラウン』
無気力だった。
家族が死んで、兄貴以外の死体もなくて、村が消えてて、私は正真正銘の孤独になった。
母も、弟も、親父も、助けてくれた騎士団も、誰の死体も、生まれ育った村さえも無かった。
ちゃんと、弔いたかった。
最期くらい、しっかり見ておきたかった。
兄貴の遺体は丁寧に弔った。
でも、村に戻って、何も無い場所に墓を建てるのは辛かった。
私が見送れないせいで死んだ後の魂が雑に扱われたりしたらどうしようかと、ずっと考えていた。
「……俺の名前は『
「私の名前は『セレナ・アトラス』と言います。『聖女』として、『勇者』と一緒に祭りに呼ばれていました。貴女の名前を聞いてもいいですか?」
二人が自己紹介しているのが朧気に聞こえてきた。
「……『ヘレナ・ブラウン』です。何も、無いです」
今の私には何も無い。
ただ、名前しかない。
それ以上、考えたくない。
「…これから『シルベス』に向かい、村の惨状などについて報告する。少し、ついてきてくれないか?」
「……構いません」
私と『勇者一行』は城塞都市『シルベス』に向かった。
『シルベス』に着いて、『勇者一行』を待っていたのは罵詈雑言の嵐だった。
曰く、領主が死んだので償えとか、死んだ村の人間を返せということだ。
騒ぐ群衆を抑える衛兵たちも、その目には不信の色があった。
ありとあらゆる言葉と共に、石やゴミが投げつけられた。
しかし、『勇者』の結界が、私とセレナさんに降りかかるそれらを弾いていた。
彼自身の体に何を投げつけられても、結界が緩むことだけは無かった。
ことの顛末を領主代理に話し終わると、『勇者』やセレナさんから、私はどうしていきたいかを聞かれた。
この場所に残るのか、別の場所で生活するのか。
「連れて行ってください」
一言だけ、私は、それだけ言った。
何も考えられない中で、どうしたら生きていけるのか、案が幾つも浮かんでは消え、最後に残ったのがそれだった。
私の中には『魔女』が居る以上、『魔女』を倒すことができる人間の近くにいるのは当然だろう。
セレナさんは即座に反対したが『勇者』は賛成らしく、私の瞳の
そして、私は『勇者一行』に加わった。
王都までの旅路は、私が足を引っ張った。
時折、何も考えていないのに涙が出た。
その度に、セレナさんが頭を撫でてくれた。一日中涙が止まらない日は、ずっと傍に寄り添ってくれた。
『勇者』…セージさんは私が泣き出す度に立ち止まってくれた。進めなくて、同じ場所に何日も野宿することになっても、何も言わずに私たちを守ってくれた。
宿屋に着くと泥のように眠ってしまって、それでも一日休めばまた守ってくれた。
最後の宿場町を出る頃には、涙は出なくなっていた。
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王都に入った『勇者一行』を待っていたのは、歓声だった。
グリズアイル王国の王都の人口は数十万人で、大陸でも屈指の大都市だ。
今見ていても、
交易の中心地でもあるので、人や物、情報が混ざりやすいのも特徴だ。
そして、道の両脇を埋め尽くす人々の声曰く、『魔女』を封印ではなく倒したとか、壊滅した村から死にかけの少女を助け出したとかいうことらしい。
『魔女』は私の中で寝転がっているし少女は死にかけていないので、事実無根である。
「シルベスの反応とは違いますね」
「ああ、混乱を避けるためだろう」
「はへぇ、なるほど」
最後の間抜けな声が私である。
自分でも信じられないほど阿呆みたいな声だったが、二人はその声を聞いた瞬間に笑い出してしまった。
「何気に、初めて反応してくれたかもな」
「ええ、そうですね…うふふ」
「──っ!」
恥ずかしさで顔から火が出そうだ。
でも、この数日間で初めて、『勇者』や『聖女』ではなく、セージさんやセレナさんとしての笑顔を見ることができた気がする。
「笑ってないで進んでください!みんな不思議がっていますよ!」
「はいはい」
「ふふふ、はは、あははは」
一向に進まない二人を無理矢理押していった。
私たちはまず、王城前の広場で凱旋の式典を行った。
王様は居なかったが、しばらく休むようにという言葉をいただいた。
ボロボロの『勇者一行』だが、その理由の半分以上が私にあるので、形容し難い居たたまれなさをずっと感じていた。
それに、田舎娘が『勇者一行』の中に居るのは流石に浮いていたようで、私を見てからひそひそと話したり、指を差してくるような人が多かった。
式典が終わると、私たちは宿屋で休むことにした。
混雑しているということで、一部屋三人で泊まることになった。
「ごめん、しばらく寝たい」
「じゃあ、買い出しに行って来ますね」
「ごめん、やっぱり起きる」
この数日間まともに寝ていないセージさんが馬鹿なことを言っている。
「寝たい」のに「起きる」とはどういうことか。
「もう、ちゃんと買い物くらい出来ますよ」
「私も、王都を自由に歩いてみたい」
「分かった、『分け身』の呪いでヘレナを追いかけるね。セレナは俺の本体が一緒に買い物に行くよ」
この勇者は馬鹿なのか?
寝不足に呪いを使用したら、文字通り魂が割れるぞ。
そんなに私たちが信用できないのか。
「だから、寝ててください。大丈夫ですから」
「………パン一個で幾らぐらいが相場か知ってる?セレナ」
「え?銅貨20枚から銀貨1枚ですよね?」
「は?」
銅貨20枚あれば1カ月は生活に困らないのだが。この聖女の金銭感覚はどうなっているんだ?
「次、王都の貧民街にはどんな家が建っている?ヘレナ」
「え?貧民街に家が建っているの?」
「うん?」
『シルベス』の貧民街は屋根のある木の板の寄せ集めで、家なんて無かったんですが。
「………『我が身裂けようとも永遠の契りを交わさん』」
「ああ!?死んじゃいますから寝てください!」
「ちょ!?本当に命に関わりますよ!」
『呪い』を発動し始めたセージさんを全力で止めた。
その日は三人とも、一日中寝ることになった。
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次の日、私たちは全員で買い出しに出かけた。
セージさんが呪いを使おうとするので、三人で行動することになった。
「セージさん、このパン安いですね!」
「あはは、そうだね。でも、もっと安いパンを見かけた気がするから後で買おうか」
流石王都。パン一個で銅貨6枚もするなんて、高すぎる。
あ、紙がある。何か小話でも書こうかな。
「セージ、この紙を買ってもいい?」
「ん?ああ、いいよ。何に使うの?」
「私はこう見えても文字が書けるからね、何か書こうかと思って」
「へえ、文字が書けるなんてすごいね。できたら見せてよ」
「ふっふっふ、楽しみにしててね」
私は村でも賢かった。
文字が読み書きできて計算も結構できた。
故に、そこを褒められると嬉しいのだ。
村には無いものや賑わいで気分が上がる。
ふと見ると、少し向こうの路地で骨董市を開いているのを見つけた。ちょっと行ってみようかな。
「ヘレナ、止まって」
「うん?セージ、どうした?」
「向こうの路地から先には貧民街が広がっている。俺やセレナならともかく、ヘレナには危険だ」
「え?向こうも賑わっているけど」
賑わいはこちらも向こうも負けてない。
確かに、ちょっと柄の悪い人が多いが、村の大人たちの方が体格は良かったし、私は大人たちと何度も喧嘩をしているので大丈夫だと思うのだが。
「少し人の目が届かなくなれば闇商人に売り捌かれる。向こうはその道の専門家だから、俺ですら気付けないかもしれない。それに、スリや小競り合いも表通りと比較にならないほど多かったり、規模が大きくなったりする。基本的には、立ち寄らない方がいい」
う~ん、『シルベス』の貧民街に比べたら品行方正に見えるのだが。
まあ、危険だと言うのなら仕方が無い。
行くのはやめよう。
「は~い、分かりました」
今回の買い出しは食料よりも小物や魔法具などを買うので、私も手伝うとしよう。
羊皮紙や護符、マジックスクロールに炭、特殊な色水、薬草、毒消し、回復ポーション………etc.
全部鞄に詰め込んでいく。
鞄はセージさんの魔法で異空間と繋げてあるので、大量に買い込むことができる。
「私がいるので、ポーションとか薬草を減らしてもいいんじゃないですか?」
「セレナ自身が魔法を使えなくなったら致命的だから、買っておいて損はない」
「確かに」
そんな状況になったら、みんな死んでるかもしれないけど。
と、『勇者』が真顔で怖いことを言っている。
まあ、確かに、後衛にいなければならないセレナさんが影響を受けている場合、前衛のセージさんが役割を果たせていないことになる。
セレナさんも、自分の身が一番大切なので、セージさんと私は動けなくなっているだろう。
…ちょっと前に、『聖女』が『魔女』に殴りかかっていたが、アレは駄目だったのではないだろうか。
「セージさん、この杖は買わなくていいんじゃないですか?」
「…もし、今の杖を壊したりしたら必要かなと思って」
「え?杖はそう簡単に壊れませんよ?」
セレナさんは意外と抜けているところがある。
『聖女』としての能力はとても高いし、聖母みたいに人を慈しみ優しく包み込むような一面があるものの、世情や他人に囚われない自由さがあるように見えるのだ。
「セージ、この剣と魔法具は何?初心者用に見えるけど」
「ヘレナも付いてくるなら、強くならないといけないからね。王都を出たら、旅をしながら特訓しようか」
セージさんが笑顔でそう言ってきた。
普段の表情と乖離した急な笑顔が怖い。
何をされるのか分からない分、より不気味に見える。
「特訓ってどんなの?」
「剣は最低限扱えるレベルを目指して取り回しに慣れるところから。魔法は、魔力操作の本質理解を目指して流れを読み解くところから始めようかな」
「ふ~ん」
剣の取り回しについては家でやっていたので問題ない。
魔力についても、『魔女』の魂を観測する過程で感覚は身についているので、大丈夫だろう。
…正直に言うと、聞いたことのない訓練法だ。
もしかして、セージさんは独学なのだろうか。
独学で『勇者』になれるなら十二分にバケモノなのだが。
そうこうしている内に日が暮れてきた。
宿屋に戻ろうとすると、セージさんが私とセレナさんの手を引いて酒場に連れて行ってしまった。
「へい、らっしゃい。注文は?」
「ビール二杯とミルク一杯頼む」
「あいよ。つまみは?」
「干し肉三つ」
「あいよ…連れが賑やかだなぁ。両手に花ってやつかい?」
「まさか、仕事仲間だよ」
「そりゃあすげえな。ほら、ビールとミルクだ。肉も奮発するぜ」
「ありがとう」
とんとん拍子に進んでいくから突っ込む機会を逃してしまった。
急にこんなところで酒盛りとはいかなる心境か。
「あの、セージさん、これは?」
「え?王都まで無事に来れたお祝いをしようかと思って」
「……そういうことは先に言ってくださいよ…」
「そーだそーだ」
ビールを片手に叫んでおく。
セレナさんは聖職者だからミルクなのだろう。
「こら、ヘレナはミルクにしなさい。頭がパッパラパーになるぞ」
「そうですよ。お酒に溺れてもいいことはありません」
ミルクを飲むのは私らしい。
あっという間に手元のビールをミルクと交換された。
というか、『聖女』がビールを飲んでも大丈夫だろうか。
破戒僧みたいな扱いになっても悲しいのだが。
まあいいや。
問題になってから考えよう。
「王都に怪我一つなく辿り着いたことを祝しまして、乾杯!」
『乾杯!』
一杯目はぐいっといく。
酔わない私が率先して飲めば二人ともビールを呑むペースが早くなり、判断力が落ちたところでビールをもらえば私も呑むことができる。
それにしても、肉に酒とはなんと贅たくなのだろうか。
『酒池肉林』ということばもあるし、今夜は“へぶん”だ~
「すまん、ミルクと間違えてビールを入れちまった…って、聞いてねえな」
「二人ともいい呑みっぷりですねぇ!」
「せやろせやろ!こういうときは景気よく呑まにゃあ!」
「うふふ、うふふふふ、みなさん元気で嬉しいです~」
るんるんるんっとミルクがすすむ。
なんだかミルクの色も味も違う気がするが、王都のミルクはこんなもんだろう。
いやあ、ミルクと干し肉ってよく合うな~
「おっちゃん!ビールもう三杯!」
「あのなぁ嬢ちゃん、王都じゃビールは大人の飲み物なんだよ。そこの二人はともかく、嬢ちゃんはまだ若いだろう?親が心配するし故郷にも帰れなくなる。その内、人生を棒に振るぞ」
「人生もクソもあるか!こちとら親も村もないんだ、今さら誰に止められるってんだ!」
ああ、目の前がぐにゃぐにゃ歪んできた。
ぼやけてよく見えない。
「なんで私だけなんだよ!生かすなら弟でも兄貴でも良かっただろ!全部奪いやがって、全部全部ぜんぶ……」
「ごめんよぉヘレナ、オレたちがすぐに来れなかったから…」
「ヘレナさん、よしよしします。悲しいこと全部私がもらいます」
「うわ~ん、セレナさ~ん」
うう、なんでだよぉ……えへへぇ、セレナさんいい匂い。
なんか母さんに似てる気がする。
気のせいかな~
「…なんか、ヘレナがオレたちの子供みたいにみえるんだよな~」
「ふぇ!?セ、セージさん、それってどういう」
「え~、オレとセレナが将来何も無くなってまた自由になったら、こんな子ができるといいな~って」
「はわわ、そんな、子供なんてそんな…えへへ」
「いちゃいちゃすんな~!」
このアホたれ勇者がまたセレナさんを口説いてるよ。
勇者が聖女に入れあげてどうすんだってんだ!全く。
ごめん、少し頭が冷えてきた。
公衆の面前で『勇者』が『聖女』を口説くとかヤバすぎる。
軌道修正しなければ。
「すみません、ミルク二つお願いします」
「お、おう。やけに大人しくなったな、嬢ちゃん」
「さっきはすみませんでした」
まず二人にミルクを飲ませる。
落ち着いてもらわなければならない。
「二人とも、新しいビールです。飲んでください」
「おっ!気が利くな~」
「……ぷはぁ、冷えててちょうどいい~」
これで、一旦流れを止められたと思う。
次は、セレナさんに『解毒』の魔法をかけてもらえばセージさんは元に戻る筈だ。
「セレナさんセレナさん、なんだかちょっと酔っ払っちゃったみたいです。セージさんと一緒に『解毒』魔法をかけてもらえませんか?」
「お安い御用です~『穢れを祓い、真を映せ』!」
よし、次に鞄から毒消しを出してセレナさんにかければ完璧だ。
「セージさんセージさん、鞄から毒消しを…ってセージさん?」
「……やっちまった。セレナにはそんなこと言ったら駄目なのに…」
クソ雑魚勇者め、だったら酒なんて呑むな。
「セージ、鞄を開いて」
「あ、ああ」
勇者が精神的に弱いので自分で鞄を弄る。
確か、毒消しは私が入れたので…すぐに取り出してセレナさんに飲ませた。
「………私ったら何を」
「あの、セレナ、さん?」
「あ…えっと、その……ごめんなさい!」
セレナさんは酒場から逃げ出してしまった。
選択肢が二つある。
私がセレナさんを追うか、セージさんがセレナさんを追うかの二つだ。
双方にメリットとデメリットがあり、軌道修正に大きく関わることになる。
「ヘレナ、代金の支払いを頼む。あと、戻ってくるから、酒場から動くな」
「はい、分かりました」
セージさんがセレナさんを追いかけていった。
良くて有耶無耶、悪くて行くところまで行くかもしれないが、まあ、二人とも役目は果たすだろう。
「すみません、お騒がせしてしまって」
「構わんよ。それに、あの二人はこの辺でも有名だからな。まあ、まさか『勇者』と『聖女』になるとは思わなかったが」
「へえ…あの二人のことをもっと教えてくれませんか?」
「嬢ちゃんは……分かった。王都に居た頃の二人のことなら何でも答えるぜ」
「それじゃあ…………」
この店主は色々知っているようなので、話を聞くことにした。
店主曰く、王都に来た段階で、あの二人は既に
セージさんはよく王都の外とか貧民街の辺りで日雇いの労働をしていて、セレナさんは教会に住まわせてもらっていたようだ。
「二人は雰囲気が違う。何より、セレナの嬢ちゃんはセージに釣り合わない。何人も
「ああ、確かに」
うん。
金髪碧眼、整った容姿に綺麗な身体、白磁のような手、すらりとした脚、性格は温厚で人当たりが良く真面目。
なんでセージさんについて行っているのか分からない。
「二人が来て一月経った辺りで、王城で貴族の懇親会が開かれてな。嬢ちゃんが公爵家の長男に惚れられたことがあった」
世間一般から見れば玉の輿に乗るようなものだ。
平民百姓から次期公爵に嫁ぐとなれば、絶好の機会だろう。
しかし、セレナさんがその申し出を受けることは無かったという。
「セージもその辺りから変わっていって、しまいにゃ聖剣を抜いて帰ってきちまった」
「それで、『勇者』と『聖女』になった、と」
「そうなるな。そこから先は嬢ちゃんが知るとおり、浮浪者同然の立場から『勇者』にまで上り詰めたアイツは嬢ちゃんとの関係も認められて、俺たちの間じゃどこまで進んだのかまで話が飛んでる始末さ」
「そこまで話が飛んでるのは知らなかったけど、教えていただきありがとうございました」
「いいってことよ。それより、あの二人のことを嬢ちゃんにも頼みたいからな」
私に頼むとはなんだろうか。
「もしかして、依存し合うような関係になっちまった時は…って今もそんな感じだが、二人が互いに寄り添えるようにしてほしい」
「縁もゆかりもない私に頼んでいいんですか?」
「アイツらは、俺らの家族みたいなもんだからな。家族のためには藁でも掴むんだよ」
「私は藁ですか。まあ、いいですけど」
この人は、私みたいな子供でも一人の人間として頼んでくれている。
それほど、セージさんやセレナさんのこともしっかり考えているのだろう。
しかし、それにしても、セージさんのかっこよさはよく分からないが、彼にはセレナさんに劣らないほどの心の強さがあることは分かっている。
でなければ、『勇者』になろうとは思わないだろう。
最悪、私が干渉して二人を自立させても問題あるまい。
「…あの二人は絶対領域だから、外から支えるような立場がいい。最高なのは隣に並ぶことだけどそうでなくても別に構わない。何なら気付かれないように外堀を埋めて、でもそれなら私が入る余地も残ってるかも………」
「嬢ちゃん……まあ、いいか。精々嫌われないようにな」
「…はい。ありがとうございました」
そして、セージさんはセレナさんを連れてちゃんと戻ってきた。
顔の赤さが抜けていないが気にしない。
「ヘレナ、すまん、宿に戻るぞ」
「お礼は店主に言ってください。追い出されても文句は言えませんでしたから」
「ああ、ありがとうございます」
「いいってことよ。それに、また飲みに来てくれればチャラになるからな」
太っ腹な店主だ。本当にありがたい。
感謝しつつ、私たちは酒場を後にした。