LINK ーつながる世界ー   作:金髪のグゥレイトゥ!

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Connect:06「夢≠現」

 

 

 

「ただいま戻りました!」

 

教会の扉を開けるなり、ユイが元気よく声を上げる。

すると、奥から神父のお爺さんが穏やかな笑みを浮かべながら姿を見せた。

 

「おかえりなさい、ユイ。随分遅かったですね」

 

しかし、その視線が僕へ向いた途端、不思議そうに「おや?」と首を傾げる。

 

「ユイ、その少年は?」

 

ユイは、今日一日にあったことを神父様へ説明した。

僕がゴブリンに襲われていたところを助けたこと。

そして、僕に記憶がないことを――。

 

「そうですか。大変な一日だったようですね」

 

神父さんは沈痛な面持ちを浮かべながら、気遣うような眼差しを僕へ向けた。

 

「神父様。ソラ君をここで保護することは出来ませんか……?」

「もちろんです。此処は、迷える者を受け入れるための場所ですから」

 

そう言うと、神父さんは僕へと向き直りにっこりと微笑む。

 

「ソラ君。私はこの教会で神父を務めているオルドと言います。わからないことばかりで不安かもしれません。ですが、ここを新しい自分の家だと思って構いませんからね?」

「……っ、ありがとうございます」

 

あまりにも優しい言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。

今日出会ったばかりだというのに、この村の人たちはどうしてこんなにも温かいのだろう。

 

なのに僕は、どこかで「これはゲームだ」と線を引いている。

 

都合のいい時だけ救われた気になって、苦しくなれば“作り物の世界”だと言い訳をする。

そんな自分が、ひどく醜く思えた。

 

「ふふっ。まずは温かい食事にしましょう。話はそれからです」

「はい!ソラ君!今日の晩御飯はシチューですよ。楽しみにしててくださいね!」

 

そう言って微笑む二人に連れられ、僕は教会の裏手へと歩いていく。

教会を出てすぐ傍。そこには、古びてはいるものの、どこか温かみのある小さな孤児院が建っていた。

 

どうやら、ここで子どもたちの世話をしているらしい。

 

孤児院の中へ入ると、僕たちはそのまま食堂へ案内された。

オルド神父に言われるがまま空いている席を勧められ、僕はちょこんと椅子に腰を下ろす。

そして、落ち着かない様子できょろきょろと食堂の中を見回した。

食堂の中には木製のテーブルや椅子が並べられていた。

少し古びてはいるものの、丁寧に手入れされているのが分かる温かな空間だ。

 

よく見れば、テーブルの裏や椅子の脚には、子どもが描いたらしい落書きが残っている。

拙い動物の絵や、この場所で子どもたちが笑って過ごしている光景が浮かんできて、胸がほんのり温かくなる。

 

「ふふっ……」

 

思わず笑みを漏らした、そのとき――。

 

「ごはんだー!」

「今日はシチューだって!」

「ほんと!?」

 

「うわっ!?」

 

ばたばたと騒がしい足音を響かせながら、子どもたちが食堂へ飛び込んできた。

突然の来訪者に驚きの声を漏らすと、その声に反応した子どもたちの視線が一斉に僕へ集まる。

 

「……あれ?」

「お兄ちゃんだれー?」

「新しい人!?」

「へんな服ー!」

 

「あわわわ……」

 

わらわらと集まってくる子供たち。

その勢いに戸惑っているうちに、僕はあっという間に包囲されてしまった。

 

「お兄ちゃんお名前はー?」

「この服な〜に~?」

 

グイグイと服を引っ張られ、僕は完全に慌てふためいた。

現実で袋叩きにされた経験はあれど、こんな悪意の無い、純粋で無邪気な好奇心にまみれた触れ合いは初めてだった。

小さな手が僕の制服の裾や袖を掴み、興味津々で顔を覗き込んでくる。

 

「ちょっ!? やめ……っ!?」

「わー、へんな服!」

「ねえねえ、どこから来たのー?」

 

四方八方から質問攻めをされ、僕は完全に逃げ場を失った。

悪意は全くない。それどころか、キラキラした目で僕を見上げてくる子供たち。

その無邪気さに、胸の奥がちくりと痛むのを感じた。

現実では、誰も僕にこんな風に興味を持ってくれなかった。

触れられることといえば、殴られるか、蹴られるか、嘲笑われるか……それだけだったのに。

 

「こ、こらー! みんな、ソラ君を困らせちゃダメ!」

 

少し離れたところでユイが慌てて駆け寄ってくるのが見えたが、子供たちの勢いは一向に止まらない。

僕はただ、照れくささと戸惑いと、奇妙な胸の温かさをごちゃ混ぜにしたまま、子供たちの質問の嵐に翻弄されるしかなかった。

 

 

 

 

「ごめんなさい、ソラ君。子供たちが……」

 

ユイが申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「あはは……いいよ、気にしないで」

 

僕は苦笑しながら手を振って許した。

当の子供たちはもう僕のことなど完全に興味も失せた様子で、シチューに夢中になっている。

 

「すみませんね。教会にお客さまが来るなんて珍しいから、子供たちもはしゃいでしまったようです」

 

オルド神父もまた申し訳なさそうに微笑みながら言った。

僕は「いえ」と小さく首を振り、スプーンを手に取った。シチューを一口食べる。

 

「……美味しい」

 

口に含んだ瞬間、頰が自然と緩んだ。

野菜の甘みと肉の旨味がじんわりと広がり、温かいスープが体に染み渡る。

 

味覚の方もちゃんと再現されているんだな……。

 

現実の食事と相違ない。深みのある味わい。 食感。温かさ。

これはもう、完全に本物の食事だった。

 

「ふふっ、気に入ってもらえたようでよかったです」

 

ユイが嬉しそうに笑う。

それにつられて僕も微笑むと周りを見回した。ユイ、オルド神父、子供たち……みんなが笑っている。

賑やかで、温かくて、まるで本物の家族のような食卓。いつぶりだろう。こんな風に、誰かと一緒に食卓を囲んだのは……。

 

懐かしいなぁ……。父さんが生きていた頃は、毎日家族揃って晩御飯を食べていたっけ。

 

父さんも僕も、母さんが作るシチューが大好きだった。母さんに「好き嫌いしないで野菜も食べなさい」ってよく怒られてたっけ……。

あの頃は、当たり前だと思っていた日常が、今では遠い記憶のように感じる。

 

「……」

 

胸の奥が、じんわりと熱くなった。

現実ではもう二度と味わえないはずの温かさが、ここにあった。

 

「ソラ君? どうかしましたか?」

 

ユイが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。

僕は慌てて首を振り、笑顔を作った。

 

「ううん、何でもないよ。……ただ、すごく美味しいなって思って」

「ふふっ、よかったです!たくさん食べてくださいね」

 

ユイの柔らかな笑みに、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 

――これがゲームなんかじゃなければいいのに。

 

そんな願いが、ふと胸の奥に浮かんだ。

現実では味わえなかった温かい食卓。

笑顔を向けてくれる人たち。

誰も僕を嘲笑わず、誰も僕を殴らない。

ここにいれば、きっと毎日がこんな風に穏やかで……。

 

「ソラ君?」

 

ユイが不思議そうに僕の顔を覗き込んでくる。

僕は慌てて笑顔を作り、首を横に振った。

 

「本当に何でもないよ。……ただ、久しぶりに、こんなに美味しいご飯を食べられて嬉しかっただけ」

 

本当は、もっとたくさんの想いが胸に渦巻いていた。

でも、それを言葉にすることは出来なかった。

 

――これはゲーム。ゲームなんだ……。

 

そう自分に言い聞かせて、僕は無理やり笑顔を作った。

ユイは少し心配そうに僕を見つめていたが、やがて優しく微笑んでくれた。

 

「そうですか。おかわりもありますから、遠慮しないでくださいね?」

「あはは……ありがとう」

 

その笑顔に、その優しさに、僕はまた胸の奥が熱くなるのを感じながら、スプーンを口に運んだ。

 

「……うん、本当に美味しい」

 

口に入れたシチューは本当に、温かくて美味しかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Connect:06「夢≠現」

 

 

 

 

 

 

 

 

食事が終わり、僕はせめて食器の片づけだけでも手伝おうと、食べ終わった食器を運んでいた。

カチャカチャと水音が響く中、ユイが洗い物をする手をふと止めた。

 

「そうそう、ソラ君」

「え、何?」

ユイは泡のついた手を軽く振りながら、こちらを振り返った。

何か思い出したように、柔らかな笑みを浮かべている。

 

「今晩泊まる部屋なんですが……空いている部屋がひとつあるので、そこを使ってください。もともとは物置として使っていた部屋なんですけど、子どもたちが掃除してくれたので、ちゃんと休めると思います」

 

さっきの子供たちが脳裏を過る。

掃除してくれたんだ…。

 

「ありがとう……本当に、助かるよ」

「ふふっ、どういたしまして。これが片付いたら案内しますね」

 

ユイはそう言って、再び洗い物を再開した。

僕も食器を運ぶ手伝いを続け、しばらくすると食堂の片付けはひと段落する。

 

「お待たせしました。じゃあ、お部屋に案内しますね」

 

エプロンを外して手を拭きながら、ユイが柔らかく微笑む。

彼女に促され、僕は孤児院の細い廊下を一緒に歩き出した。

 

木造の廊下を進み、辿り着いたのは宿舎の隅にある小さな部屋だった。

扉を開けると、きっと子どもたちが頑張って掃除してくれたのだろう。簡素ながらも綺麗に整えられた室内が現れる。

小さなベッドと木の机、古びた棚。本当に最低限の物しか置かれていないが、不思議と嫌な感じはしなかった。

 

部屋にある小窓の外では、すっかり陽が沈み、静かな星空が広がっている。

 

「ここです。少し埃っぽいかもしれませんが……」

「全然大丈夫だよ。ありがとう」

 

ユイが去った後、僕はドアを閉めて深く息を吐いた。

そのままベッドへ近づき、力尽きたようにボフンと倒れ込む。

 

ミシリ、と古い木が軋む音。

そして、干したばかりなのだろう、陽の匂いが残るシーツの香りが鼻をくすぐった。

 

「ふぅ……ゲームのはずなのに、疲れたなぁ……」

 

柔らかなベッドに顔を埋めながら、小さく呟く。

 

今日は本当に色々なことがありすぎた。

ゴブリンに襲われ、ユイに助けられ、村中を重たい薪を持って歩き回って……。

ゲームなのに、身体の節々は痛くて、肉体的にも精神的にも、もうクタクタだ。

 

「本当に変なの……ゲームなのに、こんなにねむ……く……」

 

心地よい眠気……ゆっくりと意識が沼に沈んでいくような感覚……。

 

あ……れ…?……本当に……ねむ…る……。

 

目を閉じようとした、その瞬間――。

 

――バンッ!

 

「ソラ君!」

「うわぁ!? びっくりしたぁ!?」

 

勢いよくドアが開けられ、僕はベッドの上で飛び起きた。

心臓が跳ね上がり、眠気が一瞬で吹き飛ぶ。

 

驚いて声のした方を見ると、そこには少し息を切らせたユイが立っていた。

彼女は「あっ……」と気まずそうに肩をすくめると、申し訳なさそうに両手を合わせる。

 

「わ、ごめんなさい!驚かせちゃいましたよね……」

 

そう言いながら、ユイは僕の顔を覗き込んだ。

 

「その頬の傷、まだ治してなかったですよね?」

 

そう言われて頬に手を当てる。

ゴブリンに襲われたときについた傷だ。血が結構出たときは驚いたけれど、すっかり忘れていた。

 

「ああ、いいよ別に。もう全然痛まないし……」

「もう、ダメです!」

 

ユイはむっとしたように頰を膨らませ、ぴんと指を立てて僕を叱った。

「めっ、ですよ?」と言いたげな表情が、なんだか可愛らしい。

 

「傷はちゃんと治さないと。化膿して悪化したらどうするんですか!?」

 

いやそんな現実じゃないんだから、いくら何でもそこまで再現されて――るかもしれない。このゲームだと……。

放置すると普通にバッドステータスとかありそうだ。

 

そんなことを考えていると、ユイがそっと僕の頬へ手を伸ばした。

柔らかい指先の感触と、ふわりと甘い香りが鼻をくすぐり、僕はどきりと身体を強張らせた。

 

「じっとしていて下さいね」

 

彼女は静かに目を閉じ、静かな声で詠唱を唱えた。

 

「――マナよ、癒し手となりて、かの者の傷を癒してまえ……」

 

「ヒール」

 

淡い緑色の光がユイの手のひらから溢れ、僕の頰を優しく包み込む。

じんわりと温かな光が傷口へ染み渡り、わずかに残っていたひりつく痛みも、すうっと引いていった。

 

……気持ちいいな、これ……。

 

まるで、母さんの優しい手のひらに包み込まれているみたいな、不思議と安心する感覚……。

 

すごい。これが魔法なのか…。

 

ゴブリンから助けてもらったときは、怖くて目を閉じていたからちゃんと見る余裕なんてなかった。

だけど、こうして改めて目の当たりにすると、その不思議さと神秘的な光景に僕はただぼんやりと見惚れていた。

 

「……はい。これでもう大丈夫ですよ」

 

ユイが柔らかく微笑みながら、手をゆっくりと離した。

 

「どうですか? まだ痛みはありますか?」

 

僕はそっと自分の頰に触れてみる。

残っていた僅かな痛みもすっかり消え、裂かれていた皮膚も滑らかになっている。傷なんて最初から無かったかのように。

 

「……うん、もう全然痛くない。ありがとう、ユイ」

「ふふ、よかったです」

 

ユイは安堵したように目を細め、ほっと息を吐いた。

その笑顔があまりにも可愛くて、顔が熱くなるのを感じながら、僕は慌てて視線を逸らした。

 

「? どうしました?」

「な、何でもないよ……!」

 

顔の熱をごまかすように、僕は慌ててそっぽを向く。

そんな僕を見て、ユイは不思議そうに瞬きをしたあと、くすりと小さく笑った。

 

「変なソラ君」

 

「う、うるさいなぁ……」

 

からかわれているわけでもないのに、なぜだか妙に気恥ずかしい。

 

するとユイは、ふと思い出したように窓の外へ視線を向けた。

 

「もう遅いですし、今日はゆっくり休んでくださいね」

「……うん」

「おやすみなさい、ソラ君」

「おやすみ、ユイ」

 

ぱたん、と静かに扉が閉まる。

 

部屋に静寂が戻った。

 

僕はしばらく閉じられた扉をぼんやり見つめていたが、やがて糸が切れたみたいにベッドへ倒れ込む。

 

「はぁ……」

 

もう頭も回らない。

考えたいことはたくさんあるはずなのに、強い眠気がそれを許してくれなかった。

 

本当に何でゲームなのに眠くなるんだよ……。

 

僕は重たい瞼をそのまま閉じる。

 

そして今度こそ、深い眠りへと落ちていった――。

 

 

 

 

 

 

――ピピピピッ!!

 

「っ!?」

 

聞き慣れた目覚ましのアラーム音に、僕はガバッと体を起こした。

辺りを見回すと、そこは見慣れた自分の部屋だった。

薄暗い天井、散らかった机、窓のカーテンの隙間から差し込む朝の光……すべてが、ゲームの中とはまるで違う現実の光景。

 

「……夢、じゃない……」

 

現実じゃないけど、夢じゃない……。

 

体を起こした瞬間、頰に残る微かな痛みと、まだ熱を帯びているような全身の感覚が、すべてを思い出させた。

ゴブリン、ユイの魔法、村の人たちの笑顔……あの温かさ。

興奮が、胸の奥から一気に込み上げてくる。

僕は思わず両腕で自分の体を抱きしめた。

心臓がまだ激しく鳴り続け、指先が小刻みに震えている。

 

「……本当だった……」

 

現実に戻ってきたのに、あのゲームの世界の感触がまだ体に残っている。

風の匂い、草の感触、ユイの温かい光……すべてが、夢とは思えないほど鮮明だった。僕はベッドの上で膝を抱え、興奮と混乱で息を荒くしながら、ただ天井を見つめていた。

 

 

 

 




おはようございます。こんにちは。こんばんは。金髪のグゥレイトゥ!です。
皆様GWは楽しめたでしょうか?私はコロナ堝で数年行けなかった祭りに今年は行ったのですが、目当ての屋台がコロナショックでお店を畳んだ様でとぼとぼ家に帰りました…。
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