主人公に成って絶賛記憶喪失だけど、何故か全キャラの好感度が既にMAX なんだが?! 作:ひまなめこ
穹sside
先程の謁見で何とかカカリアに協力して貰えるようになった俺達はクリフォト城を出た後、ジェパードにホテルまで案内して貰っていた。
「ここが、大守護者様が手配して下さった。ゲーテホテルだ。接客の質は僕と大守護者様が保障しよう。」
そうして案内されのは正に高級ホテルと言っても差し支えない程に立派で気品溢れるホテルだった。
ゲーテホテルはゲームでも訪れた事はあるが、やはり現実で訪れるのとでは感じる高級感が別格である。
「事情が事情とは言え、ここまでの長旅と先程の謁見で相当疲労が溜まっただろう?今日の所は思う存分休んでくれ。勿論、ベロブルグを観光したいと言うのであれば、それも構わないが。」
「いや、流石に疲れから今日はもう寝r」「お勧めの観光名所を教えてくれないか?」
今日はもう寝る旨を伝えようとした瞬間、丹恒がいきなり俺の言葉を遮ってそのような質問を投げ掛けた。
「名所らしい名所は無いが、街の中央にある【常冬の碑】がお勧めだ。あと観光名所ではないが、音楽に興味があるのなら、からくり工房【バーベチュアル】に行くと良い。あそこは定期的に野外ライブが行われているからな。」
「そうか、有益な情報感謝する。」
「フッ気にしないでくれ、君達の旅に幸有ることを祈っている。それじゃあ、僕はこれで失礼する。」
そう言ってジェパードは俺達に背を向けてこの場を後にした。
「丹恒、お前意外と旅行好きなんだな…。あんなに観光名所を興味津々に聞くなんて、少し驚いたぞ。」
「違う。俺が観光名所を聞いたのはお前達の為だ。」
「俺達?俺と…誰の?」
「三月だ。」
「うぇ?ウチ!」
今まで会話に一切参加しなかった三月が突然、自分の名前を呼ばれて分かりやすく狼狽える。
「折角の機会だ。二人でベロブルグの観光に行くと良い。ついでに仲直りもしてこい。」
「「はあ!?」」
「それじゃあ、部屋に行って俺は寝る。後は二人で頑張ってくれ。」
「ちょっと!待てや!丹恒!」
「そうだよ!いきなり二人なんて…流石に…。」
俺達の静止の声も届かず、丹恒はただ一人部屋の中に消えて行ってしまった。
その場に残されたのは、未だに気まずい関係が続いている俺と三月。
非常に気まずい!早く逃げたい!
しかし、このまま三月と気まずいまま仲直りのタイミングを失うのは嫌だ。
ここは腹を括るしかない。
「三月さん、しょうがないから丹恒の言う通り二人で観光しないか?」
「……うん、分かった。」
こうして俺達のベロブルグ観光が幕を開いた。
________________________________________________
先ず、俺達はホテルを出た後最初に【常冬の碑】と言うものを見に来ていた。
「綺麗な石(?)だな…。いや、氷か?」
ベロブルグの街の中央には【常冬の碑】と呼ばれる、機械仕掛けの球体の周りを青い氷のような結晶が覆っている記念碑が堂々と鎮座していた。
「…明らかに氷じゃないでしょ。ベロブルグは雪原よりも暖かいから溶けちゃうよ。」
言われてみれば確かに…。
…それにしても、【常冬の碑】は見てて圧巻だが、あまり面白い物でもないな…。
せめて光ったり、花火が出たら退屈しないのだが…。
「なあ、別の所に行かないか?こう言う記念碑眺めるの性に合って無いんだよな…。」
「…うん、ウチも正直退屈…。見た目は格好良いんだけどね…。」
やっぱり、三月も同じ気持ちだったらしい。
こう言う歴史的建造物を眺めるのは歴史オタク達のする事だ。
俺達には俺達なりの観光のし方と言うものがあるのだ。
「ちょっと!そこのお二方!神聖なる【常冬の碑】に対して退屈などと…どういう了見ですか!」
その時、突然眼鏡を掛けたシルバーメインの制服を着た小さな少女が鬼の形相で俺達に迫ってきた。
「今私は子供達と【ベロブルグ歴史の旅】をしている最中なのです!記念碑に対してどのような感想を抱くかは個人の自由ですが、子供達に悪影響なので外では慎んで下さい!」
「「はい…すみません。」」
俺と三月は目の前少女に対して深々と頭を下げて謝罪する。
まさか、近くにシルバーメインがいたとは…。
現地民からしたら、俺達のさっきの会話はさぞかし不快だっただろう。
これは申し訳ないことをした。
「分かれば良いのです。今後は周りにもう少し気を配って……あれ?あなた何処か見覚えが…。」
そこで目の前の少女は言葉を途中でやめて、俺の顔をマジマジと見詰めてくる。
「あの…何か?」
「あなたもしかして…穹さんてすか?」
「え?そう言うあんたは?」
「私ですよ!ペラゲヤ・セルゲーヴナです!かつては共にセーバルさんやダンさんと一緒にバンドを組んだり、リンクスと一緒に同人誌を書いたじゃないですか!」
成る程、知らない記憶だ。
しかし、ペラの事は知っている。
ゲームでのプレイアブルキャラであり、虚無の運命のサポーターだ。
まさかこんな所でばったり会うとは。
「戻ってこられたとは聞いていましたが、このタイミングでお会いするなんて、何とも間が悪いですね…。」
「あはは…。そっそうだな…。」
「そちらの方は?」
「あっえっと、ウチは三月なのかだよ。穹の仲間で、今彼とベロブルグの観光中なの。」
「……成る程、そうだったのですね。これはお邪魔して申し訳ありません。狭く、これと言って誇れるものもありませんが、ベロブルグを楽しんで行ってくださいね。」
そう言ってペラは俺達から離れて、沢山の小さな子供達に囲まれながら、何処かへ去って行った。
「びびった…。」
「…それはこっちの台詞だよ。あんた、無駄に顔広すぎ…。もう少しどうにかならないの?」
「そんな事言われてもな…。」
この調子だと、ベロブルグの殆どの人間は知り合いだろうし、ゆっくり観光出来ないな…。
「今日の所はやっぱりホテルに戻るか?」
「……ううん、まだ…観光したい…。折角だし、ジェパードにお勧めされた所は全部回ろうよ!」
ついさっきまで、不貞腐れていた三月が僅かに口角を上げながらそう口にした。
お世辞にも良いデートとは言えないが、少しは機嫌が直ってくれたのかな?
「分かった。じゃあ、次はからくり工房って所に行こうか!」
「うん。」
こうして、俺達は次の目的地にからくり工房を選び、真っ直ぐそこに向かう。
ジェパードの話によると、からくり工房では定期的に野外ライブがあるらしい。
どの様な歌が聴けるのか楽しみだ。
俺は少し心を踊らせて三月と共にからくり工房への道を歩む。
しかし…。
「本日休業…。」
残念な事にからくり工房の扉には休業と書かれた張り紙が貼られていた。
「えー、折角ここまで来たのに休業なんて、間が悪すぎでしょ…。」
「とは言ってもな、お店の人にも休みは必要な訳で…仕方ない事だろ…。」
かなり残念そうにうなだれる三月を諭すように俺はそう言葉を放つ。
そんな、俺達の背後に軽快な足音を立てる一人の女性の影が接近する。
「だーれだ?」
その女性はいきなり、俺の目を両手で押さえてその様な質問を投げ掛けてきた。
「えっと、ホントに誰ですか?」
「…ジェーちゃんの言う通り、記憶喪失ってのは本当みたいだね…。」
そう言って女性は俺の目から手を放して、今度は俺の肩を掴んで俺の身体を前後反転させる。
すると、俺の目の前にジェパードに良く似た金髪を腰辺りまで伸ばした快活な美女が現れた。
「やあ!久しぶり、そしてはじめまして!私はセーバル。あ・な・た・のセーバルお姉様だよ!」
まさかのセーバルのご登場か…。
いや、からくり工房に来た時点で予想はしていたが、こんなハイテンションで現れるとは思わなかった。
「穹、あんたお姉さんがいたの!?」
「言葉をそのまま捉えるな。冗談に決まってるだろ…。」
「フフッでも"あなたの"は冗談じゃないよ。穹は覚えてないだろうけど、私とあんたは特別な関係なんだから。」
こいつってリアルだと、こう言うタイプなんだな。
如何せん描写が少なくて分からなかったが、意外と人を弄るのが好きなタイプらしい。
「…特別な関係って、一緒にバンドを組んでいた話しか?」
「あれ?覚えてるの?」
「ペラにさっき言われたんだよ。」
「…なんだ、つまらないの…。」
先にペラに会っておいて良かったよ…。
危うく要らぬ誤解を招くところだった。
「ねえ、この後暇?折角だからお店に寄ってかない?」
「いいのか?休業中なんだろう?」
「良いの良いの。どうせ不定期で適当に働いてるだけだから。」
それはそれでどうなんだ…。
「そこの可愛い彼女さんも一緒に来なよ。粗茶だけどクッキー出して上げるよ!」
「かっ彼女…。」
そんなこんなで半ば無理やりからくり工房に入る事になってしまった。
「うわ、色んな機械がいっぱい。」
からくり工房に入って直ぐ目に映った光景に三月は感嘆の声を漏らした。
「からくり工房だからね~。機械修理を生業としてんのさ。」
そう言って適当にお茶とクッキーを出すセーバル。
茶とクッキーの味に関しては特に言うことはない。
普通に美味かった。
「ねえ、セーバルさん。この機械ってどうやって動かしてるの?」
三月はお茶を飲み干した後、興味津々にセーバルに質問を繰り出した。
ロボットオタクのヨウおじちゃんの影響か、三月はこの手の機械に目がないみたいだ。
「お嬢ちゃん、機械に興味があるの?じゃあ、お姉さんが手取り足取り教えて上げる!」
セーバルもノリノリで質問に答えて、楽しそうに機械について熱く語る。
そんな時間を暫く過ごしていると気付けば外がすっかり暗くなっていた。
「もう、こんな時間か…。楽しい時間はあっという間だね。」
「そうだね!楽しかった~!ありがとうセーバルさん!」
時間も忘れて語り合った二人はどこか物足りないような、しかし心の底から満足しているような清々しい表情を浮かべていた。
「最近、裂界が活発化して物騒だからね。あんまり遅くならない内に今日はもう帰りな。」
「ああ、今日はありがとな。」
「ありがとう!また、来るね!」
そう別れを告げて俺達はからくり工房を後にした。
詳しい時刻は分からないが、街はすっかり暗くなり、街灯の明かりが目立つようになっている。
空を覆う雪曇の隙間から僅かに茜色に光る空が見えることから、今は夕暮れ時であると窺える。
そんな黄昏時の帰り道、俺は隣で歩く三月に意を決して話掛けた。
「なあ、三月さん。今日は…楽しめたか?」
「え?うん!勿論!凄く楽しかったよ!」
彼女の機嫌はすっかり直り、ヤリーロに来たばかりのあの不貞腐れた態度は鳴りを潜めたようだ。
「なあ、その…この前の跳躍の時は…悪かった。事故とは言え女性の胸に…顔を…。」
「…良いよ。元はと言えばウチがふざけて跳躍チャレンジしたのが原因だしね。もう、気にしてないよ。」
「本当か?良かっt」「但し。」
「え?」
「"三月さん"はもう止めて…。」
「えっと、じゃあ、三月。」
「そうじゃなくて!」
その時、三月は俺の前に躍り出て、行く手を阻み、上目遣いでこう言葉を紡ぐ。
「名前で読んでよ…"なのか"って」
「っ!?」
その時、俺の身体に走ったのは衝撃だった。
三月は既に俺の事を知っている様子だったが、俺からしてみれば三月とは宇宙ステーションでの邂逅が初対面。
何となく俺の方から、さん付けで呼ぶことで距離を作っていた。
その距離を壁を彼女は取り払おうと、今決心して、意を決してその言葉を紡いだのだろう。
なら、俺がやることは決まってる。
「分かったよ、なのか。改めてこれからもよろしく。」
「うん!」
雲の隙間から光が完全に消え、訪れた夜。
彼女の笑顔はどの星よりも眩しかった。