主人公に成って絶賛記憶喪失だけど、何故か全キャラの好感度が既にMAX なんだが?!   作:ひまなめこ

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12話 Go to bed or go to hell

ベロブルグ下層部。

 

俺達はなのか、ブローニャ、丹恒を連れてベロブルグ下層部のボルタータウンの診療所に来ていた。

 

「穹さん、着きました。僕達にとってはとても馴染み深~い人が経営してる診療所ですよ。穹さんがここを訪れるのは何年ぶりでしょうね?」

 

ニヤニヤしながら、わざとらしくそう言ってくるサンポ。

 

恐らく、俺が記憶喪失である事をわかってて、面白がって弄ってるんだろう。

 

こいつの前では記憶喪失であることを明かした覚えはないが、こいつの事だ、何処かで盗み聞きしててもおかしくない。

 

「んな事言われても何も覚えてねえんだよ…。」

 

「あ~!そうでしたか!それは失敬、では訂正しましょう。ベロブルグの上層部で最先端の医学を学び、ベロブルグ屈指の腕利きの女医となり、更にはこの下層部で孤児院を経営している慈善家…ナターシャさんの診療所です。」

 

サンポは何とも大袈裟にわざとらしく大きな声、大きな身振り手振りで目の前の診療所について説明してきた。

 

如何にも、詐欺に引っ掻けてきそうな悪徳商人臭のするの振る舞いに俺はいい加減ウンザリする。

 

「この診療所で診てもらえれば、丹恒さん達の様態もたちまち回復の兆候を見せることでしょう。」

 

「人を重病人みたいに扱うな!大半はお前のせいだろ。」

 

などとふざけるこいつにツッコミを入れながら、俺は診療所の中に入る。

 

「あら?新しい患者さんかし…ら…。」

 

診療所の中に入るとターコイズグリーンの髪を目元に掛かるまで伸ばし、体のラインがくっきり強調される白を基調とした衣装を身に纏った大人びた美女がいた。

 

その女性は俺の顔を見て、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔で硬直した。

 

「…穹?…穹なの?」

 

「ええ、まあ…はい…。」

 

この人がナターシャか…。

とてつもない美人だが、かなりやさぐれている印象だ。

 

この時期のナターシャは原作メインストリーでの下層部の貧困化や、下層部の治安維持組織【地炎】の裏のボスを勤めていたり、同行クエストでの兄が犯した罪に対する責任感でかなりの心労を一人で抱えていたわけだから当たり前っちや当たり前か。

 

「本当に…本物の穹なのね?」

 

「はい、俺は正真正銘の穹です。」

 

俺がその質問に答えた直後、ナターシャはの胸元にいきなり飛び込んで来て、強く抱き締めてきた。

 

「今まで何処に言っていたのよ!心配したのよ…。急にいなくなるんだから。」

 

まるで幼い子供が父親から離れる事を拒むかのようにナターシャは俺の胸に顔を埋めて涙を流しながらそう言った。

 

大人っぽいナターシャの意外な一面だろうか?

俺にとっては今回が初対面だけど…。

 

「ええと、その…ごめんなさい…。」

 

ここは取りあえず謝るしかなさそうだな…。

俺が記憶喪失であることもある程度落ち着いてから言った方が良いだろう。

 

それから暫く、子供のように泣きじゃくったナターシャは泣き疲れて、そのまま寝てしまった。

 

「コイツらを診て欲しかったのだが…。」

 

流石に起こすのも忍びないな…。

 

気持ち良さそうに寝ているし、きっと今まで貯めに貯めていた疲れのせいでもあるのだろう。

 

今日の所は休ませてやろう。

 

 

「診療所の主治医がこんな有り様だし、ベッドは勝手に使っても構わないよな?」

 

「ええ、こんな状況ですしね。では、早速皆さんを楽な姿勢に寝かせましょう。」

 

そう言って俺はサンポと共になのか達をベッドに寝かせようとする。

…がしかし、眠りについたナターシャがとんでもない力で俺の体をホールドしてきて身動きが取れない。

 

「うっ!コイツ、寝ているのに力強っ!」

 

流石は【地炎】のボス。

中々のパワーだ。

 

「すまない、サンポ、俺は暫く動けそうにない。皆を寝かせるのはお前に丸投げして良いか?」

 

「ええ…仕方ないですねぇ。今回は特別ですよ!特別!」

 

なんやかんやでサンポは一人で三人を寝かせるのを引き受けてくれた。

 

サンポが丹恒達をベッドに寝かせている間に俺はナターシャを起こさないようにそっと抱えてベッドに運ぶ。

 

しかし、ベッドに寝かせようにもナターシャの手が俺の体をがっちり掴んでいるので、寝かせようにも寝かせられない。

 

「仕方ない…こうなったら。」

 

ーーー 一緒に寝るしかいない!

 

俺はナターシャの体を抱き締めた状態のままベッドに寝そべる。

 

これでナターシャをベッドに寝かせることに成功した訳だが、その代わり絵面がヤバい事になった。

 

若い男女が一つのベッドで寝ているのだ。

この光景を他の奴に見られたらヤバい事になる。

 

「穹さん、皆さんをベッドに寝かせる終わりま…まあ、これは…お邪魔しましたね。」

 

丹恒達を無事、ベッドに寝かせたサンポが俺とナターシャが寝ているベッドにまでやって来て、俺達の姿を見るなり、何かを察したようなウザイ顔でフェードアウトしていった。

 

「待て、サンポ。お前に頼みがある。この診療所に誰も来ないように見張っててくれないか?」

 

「…はあ、今日の穹さんは注文が多いてすねぇ…。僕は商人であって、都合の良い何でも屋ではありませんよ。」

 

くそう、こんな時に急に強気になりやがって一体何が目的だ?

 

「そうですね…。僕も鬼ではありませんし、1000シールドで勘弁してあげましょう。」

 

 

シールドってベロブルグの通貨だっけ?

流石に金は持ってねえよ…。

 

「金意外で頼む!助けてくれるなら何でもするから!」

 

「…何でも?今"何でも"するって言いましたよね?」

 

何だ?急に雰囲気が変わったんだが?

何か良からぬ事を考えているんじゃないだろうな?

しかし、背にはらは代えられない。

この状況を他の奴に見られたら終わりだ。

 

「お前がしっかり見張りをしてくれるのなら、お前の好きなタイミングで何でもしてやるよ。」

 

「…分かりました。特別に協力してあげましょう。」

 

そう言ってサンポは診療所の外に出て、これ以上人が入れないように見張りを始めた。

 

「ふう…。」

 

俺は何とかサンポを説得出来た事に安堵の声を漏らす。

 

…これで、何とか危機は脱っせただろうか?

 

『ちょっと、サンポ!退きなさいよ!』

 

…ん?

 

気のせいだろうか?

今外から気の強そうな女性の声が聞こえたような…。

 

『ええ、このサンポ退けるものならこの道をゼーレさんに譲りたいのですが、これにはやむにやまれぬ事情がありまして…。』

 

『そんな事知ったこっちゃないわ。私はナタに用事があるの。だから退きなさい!』

 

『あああ!』というサンポの断末魔が外から響いてきた直後、診療所の扉が無残にも開かれる音が聞こえてきた。

 

おい!サンポ!ちゃんと仕事しろよ!

 

「ナタ、入るわよ。…っていないじゃない。寝ているのかしら?」

 

入ってきたのは声的に若い女性。

多分俺と同い年くらいかな。

 

その女性はナターシャがいない事を確認した後、あろうことか患者が寝ているベッドのカーテンを開けてナターシャを探し始めた。

 

この診療所は…と言うか、どの病院も同じだが、最低限のプライバシーを守るためにスライド式のカーテンがベッドに備え付けられている。

 

今入ってきた女性は非常識にも患者一人一人のベッドのカーテンを開けてナターシャがいないかを確認しているのだ。

 

「あれ?この患者…下層部では見ない顔ね?上層部の人間にしては服が奇抜過ぎるし、誰なのかしら?」

 

恐らくは丹恒かなのかの事だろうか?

眠っている彼らを不躾に観察して独り言を呟く彼女は止まる事なく、再び別のベッドのカーテンを開ける。

 

「今度も知らない顔ね…。でも、この服装には見覚えがあるわ。…シルバーメインが何で下層部に?ワケわかんない。」

 

ワケわかんないのはお前のモラルだよ!

普通、診療所のベッドのカーテン開けないだろ!

 

「次はここね…。」

 

ヤバい!俺達が寝ているベッドだ。

どうする?

この状況を打破する方法…。

こうなったら一か八かやるしかない!

 

ーーー声真似を!

 

「ちょっと、待って。今休んでいるの。暫く寝かせてくれないかしら?」

 

俺が咄嗟に出したナターシャの声真似。

そのクオリティはまるで本人なのではないかと思う程に再現度が高かった。

 

「何?寝てたの?ナタが私を呼び出したんじゃない…。」

 

「…ごめんなさい、あなたを待ってる間にうとうとしちゃって…。悪いけど、また日を改めて貰えるかしら?」

 

どうだ?

このまま当たり障りのない会話でこの女性を速やかに帰す。

俺の声真似は完璧だ。

口調は少し迷子かも知れないが…。

急場凌ぎには効果覿面だろう。

 

「…そう、分かったわ。」

 

よし!作戦は順調だ!

サンポがあっさり見張りを破られた時は肝が冷えたが、何とかなりそうで僕ちん安心。

 

「ねえ、ナタ。最後にいい?」

 

「何かしら?」

 

まだ帰らねえのかよ…。

早よ出てけ!

こちとら、いつボロが出るかで気が気じゃねえんだよ!

 

「もうちょっと、マシな嘘ついたら?」

 

「え?」

 

突然の言葉に俺は思わず思考停止してしまい、声真似ではなく素の声をあげてしまう。

 

「ナタはね。確かに一人で色々抱えて、寝る間も惜しんで怪我人を診て、今にも倒れそうなくらいに疲れた顔してるけど、どんなに疲れても人との約束ほっぽって居眠りするような奴じゃないわ。」

 

くそう…。

最初からボロが出ていたのか…。

これは万事休すか…。

 

「あんた誰よ。正体を現しなさい!」

 

そう言って、その女性はカーテンを全開に開けて俺とナターシャのあられもない姿をその視界に映す。

 

「…あ…あんた…きっ穹?…え?何で?…ナタと…ベッドで…え?」

 

「あ…どうも…。」

 

診療所にただ気まずい空気が流れるのだった。

 

 

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