主人公に成って絶賛記憶喪失だけど、何故か全キャラの好感度が既にMAX なんだが?! 作:ひまなめこ
穹 side
俺はクラーラとフックの案内に従って…と言うか途中から追い抜いて、採掘所で起きてる言い争いの仲裁に向かったのだが、到着した直後、地髄鉱脈の前で争う皆が記憶を失った俺を見てショックを受けてしまい、仲裁どころの問題ではなくなってしまった。
不本意ながら、鉱夫と流浪人の言い争いは沈静化出来たので、取り敢えずはこの場は皆一時解散となり、再び地髄を巡って争いが起きないように、スヴァローグが機械兵を使って採掘所を一時閉鎖した。
勿論それには反対する者の声が多かった。
しかし、再び争いが起きては、今度はどのような事態が起きるか予測出来ない。
もしかしたら関係の無い者まで巻き込むかも知れない。
しかし、地髄こそが彼らの生命線であるのもまた事実。
いつまでも閉鎖出来る訳ではない。
これは束の間の休息だ、早く状況を好転させる一手……そう、言うなれば星核の対処だ、星核を対処して直ぐにヤリーロが豊かになるわけではないが、これ以上悪化することはない。
飢え死にする者も路頭に迷う者も減るだろう。
そのような事を考えながら、俺は【地炎】の表向きのボスを勤めているオレグという男性と共にボルダータウンに戻って来ていた。
クラーラとフックはスヴァローグと共に機械集落に向かったらしい。
それから、先程記憶喪失の俺を見て泣いて走り去っていった青年…ルカは…何処にいるか分からない。
「余計な事しちゃったかな…。これなら大人しくナターシャに任せておいた方が良かったかも。」
先程、俺が記憶喪失になった事を告げた瞬間に衝撃を受けた皆の顔がフラッシュバックして、つい弱音が漏れてしまう。
…馬鹿だな…俺…。
人には向き不向きがある。
俺は戦い以外空っきしだ。
そんな事、ついこの前宇宙ステーションでスタッフのメンタルケアをした時に思い知った筈なのに…学習能力も空かよ…。
「そんなに自分を責めるもんじゃない。きっとあの場ではあのくらいのショックが無いと騒ぎは沈静化しなかったと俺は思うぞ。最善では無かったかも知れないが、だからと言ってナターシャが来たら状況が変わったかと言ったら、かなり難しいだろう。」
しかし、最善では無かったのも事実。
姫子なら、あの場はどう収めたのだろうか?
何でも出来て何でも救えるってのは難しいな…。
「…なあ穹、それよりも一つ良いか?」
「ん?」
感傷に浸る俺に少し遠慮がちにオレグ質問をしてくる。
「お前はなんで急にいなくなったんだ?そして、何で今になって急に戻って来た?目的はなんだ?お前に何があった?」
オレグから投げ掛けられた質問は俺の過去を知る者としては当然の疑問だった。
何で消えたか…は俺の口では言えないだろう。
何せ俺自身が過去を覚えてないのだから、寧ろ俺が聞きたい。
しかし、ここを訪れた理由なら言える。
寧ろ言って、こちらの事情をある程度把握して貰った方が動き易くなる
「…過去の俺がいなくなった理由はわからん。だから、言えない。ごめん。」
「…ああ、いや…そうか…。そうだよな…記憶喪失なんだもんな…すまん、余計な事まで聞いた。」
そう言ってオレグは申し訳なさそうに顔を伏せて謝ってくる。
別に謝って欲しい訳じゃ無いのに…そんなに謝られると、こっちが申し訳なくなってくる。
「…俺がここに来た理由だが、それはこの星が氷に包まれている原因、星核の回収または対処をしに来た。」
「星核?」
星核と言う単語に疑問符を浮かべて怪訝な顔を浮かべるオレグ。
星核の知識は確か、大守護者によって隠蔽されているから彼が知らないのも無理はないか。
「星核とは通称【万界の癌】と呼ばれている。存在するだけでその空間を汚染して裂界を生み出す。この星が今このような状況にあるのは全て星核が原因なんだ。」
「…そんな事が…星核…聞いたこともない言葉だが、その話は酔っぱらいの鉱夫のホラ話よりも断然、信憑性がある……よし、わかったお前を信じよう。」
オレグは俺の話を聞いて、ぶつぶつと独り言を呟きながら思案した後、あっさりと俺を信じると言い張った。
「…良いのか?」
「ああ、何せ穹の話だしな。信じない訳にも行くまい。」
過去の俺はそれ程までに信頼されていたのか…。
いつかゆっくり出来る時間があれば俺の過去について話を聞かせて貰いたいな。
「ところでお前は一人でこの星に戻って来たのか?」
「いや、仲間が二人いる。今は診療所で寝ている筈だ。」
「なら、一旦診療所に戻るか。ナターシャやお前の仲間を交えて今後の話をしたい。」
そう言ってオレグは診療所のある方へ歩みを進める。
俺もオレグについて行く形で歩き出す。
しかし、その直後、何処からか、大きな物音と共に荒々しい男性の怒鳴り声が辺りに響き渡る。
「どうして、ここにシルバーメインがいるんだよ!俺達を下層部に閉じ込めて見捨てたシルバーメインが!」
その声は診療所から少し離れた階段を登った先にある広場から聞こえたのもだった。
「何か騒ぎか?」
「取り敢えず、行くぞ。」
そう言って俺達は怒鳴り声が聞こえた広場の方へと向かう。
するとそこには、診療所で丹恒となのかと一緒に寝ている筈のブローニャが複数の流浪人達に囲まれている光景があった。
「シルバーメインが下層部を見捨てた?一体何の事?」
「惚けるな!お前達が上層部でのうのうと暮らしてる間にこれまでどれだけの仲間が死んでいったと思ってる!全部お前達のせいだ!」
下層部の状況が今一まだ理解出来てないブローニャを捲し立てるように不満の声をぶつける流浪人。
彼らの怒りは理解出来ないものではないが、それをブローニャにぶつけるのはお門違いだろう。
彼女自身、何も知らないのだから、星核の事もベロブルグの過去の事もそして、カカリアの事も。
「大守護者様はあなた達ベロブルグの民を想って…「そう言うの良いから…。上の連中が皆俺達下の人間を見下してる事くらいに分かってんだよ!文字通り地面を這いつくばって生きる俺達の姿はさぞかし滑稽だっただろ!…本当に俺達の事を想うなら……ここで死ね!」
そう言って、流浪人の一人が銃を構えてブローニャに向けて発泡する。
「っ!」
いくら、シルバーメインと言っても、ブローニャは最前線で戦うタイプではない。
弾丸だって、いきなり射たれたら、なす術無いだろう。
このままではブローニャの心臓に弾丸が着弾してしまう。
そうなる前に、俺は直ぐに動きだし、ブローニャを庇うように弾丸の前に立ち塞がった。
そして、何事も無かったかのように弾丸を素手で掴む。
「なっ!」
「穹、何故そいつを庇う!この女はシルバーメイン…敵なんだぞ!」
ブローニャを庇った俺に対して、目の前の流浪人はまるで親の敵を見るような目で怒鳴ってきた。
「落ち着け、シルバーメインは敵じゃない。ブローニャに罪はない、八つ当たりするな。」
「なんだよ…それ…。お前まで俺達を裏切るのか!俺達流浪人みたいな、はみ出しもんにさえも手を差し伸べて、どんな人間でも救っちまう、この下層部の希望だった穹は何処に行ったんだよ…。」
…そんな事言われても分からねえよ…。
どんな人間でも救える?初めて聞いたなそんな話…。
凄いな…、過去の俺って何でも出来たんだな…。
今の俺は正直戦い以外何やっても駄目で、自分の事で精一杯だよ。
「お前は…何なんだよ!俺達の知ってる穹に戻ってくれ!俺達の穹を返してくれよ!」
戻るってなんだよ?返すってなんだよ?思い出せってか?
そんなの無理に決まってんだろ…。
何で皆俺を見て悲しい顔すんだよ…。
忘れちまう事がそんなに悪いことなのか?
お前達の勝手な過去を俺に押し付けんなよ!
何で過去の俺の幻影を追うために今の俺を殺さなくちゃ行けねえんだよ!
「お前ら…ふざけ「ふざけないで!」
我慢の限界が来て、俺が流浪人達に怒鳴り散らそうとした時、俺の後ろにいたブローニャが被せるようにそう言い放った。
「あなた達は何故そうも、自分の理想を彼に押し付けるのですか!穹は穹です!あなた達の理想を叶える道具じゃない!記憶を失っても失わなくても彼の本質は変わらない…。あなた達が言う下層部の希望だった彼も今の彼の中にきっとある筈です!あなた達はそれを分かっているのに、敢えて分からないフリをして、彼を都合の良い感情の捌け口にしたいだけなのでは無いですか!」
ブローニャのその言葉に流浪人達は誰も何も言えなかった。
きっと図星だったのだろう。
俺を感情の捌け口にしたかったのか…。
確かにこの下層部での生活はストレスが溜まる。
それを何処かで発散する必要はあるが、ストレス発散に利用されたこっちはたまったもんじゃない。
「ありがとう、ブローニャ。」
「お礼は良いわ。今ので、私もなんか吹っ切れから。」
「吹っ切れた?」
何に吹っ切れたんだ?
確かに原作のブローニャは全てが正しいと信じていた…いや、そう信じるように自分に言い聞かせていた、カカリアに対して下層部での生活を切っ掛けに疑念を抱くようになり、葛藤する場面があったのだが、それは…もう少し後の話じゃないか?
「ずっと疑問に思っていたの。大守護者様の判断は本当に全て正しいのか。疑問に思っては、私程度じゃ思いも寄らない思慮深いお考えがあるのだと自分に言い聞かせていた。でも、今朝いきなり穹とその仲間を捕らえろと命令されたり、この下層部の人達がシルバーメインと大守護者様を恨んでいるのを見て、やっと気付いたの。私が今まで見て見ぬフリをしていた事実に。」
ブローニャは俺の目を真っ直ぐ見つめてそう語った後、次は流浪人達に視線を移してこう告げる。
「私はもう、親の言いなりにはならない!この下層部の為にそして、ベロブルグの全ての民の為に私は大守護者カカリア・ランドに引導を渡す!」
そう告げた彼女の姿はまるで民衆の前で演説する国王のようで、その若さにして既に年齢に見合わないカリスマ性と貫禄を醸し出していたのであった。