ぱきり、目の前で何かが割れた。
真っ暗だった世界に、緩やかな光が差す。
その隙間から辺りを見渡す。
……ちっと暗くてよく見えねえな。オレンジ色の光がちらほら浮かんでるけど、アレ燭台か?
立ち上がってみると、足元がもすっと沈み込んだ。羽毛みてえだ。やべ、布団破いちまったか? というか俺は羽毛布団なんて使ってたっけ……あれ? 全然思い出せねえな?
「グォオオアアアアアッ!!」
うわあビックリした! 猛獣みたいな方向が聞こえたんだけど。
周囲に燭台、捧げ物に鳥、その中心に俺。あれか、ここは悪魔召喚の祭壇か。つまり俺の背後にいるのは悪魔だ。そうに違いない。
だとすると俺が生贄ということか。寝てる最中に簀巻きにされて生贄に捧げられたのか。人生、生きてりゃ色んなことがあるもんだな。今にも人生終わりそうだけど。
『か、孵った、孵ったのか! そうだ……そうだ、そのまま立ち上がり、ゆっくり殻を払い落とすのだ』
頭に地の底から轟いたような恐ろしげな声が響いた。大悪魔だ。俺の頭上に大悪魔がいる。地獄の支配者みたいな奴が絶対覗き込んでやがる。
「グルオォォ……グオオオッ……」
もうやだ、さっきの猛獣まで呻いてるんだけど。あ、なんか水が垂れてきた。たぶん涎だ。俺を見てダラダラ食欲が湧いてきてるんだ。悪の組織のボスは猫飼ってるっぽいし、大悪魔の総帥とかなら巨大獣くらい飼っててもおかしくないな。きっとそうだ。
「グルオオオアァッ!」
猛獣が嬉しそうに呻いた。なんだ? 腹ペコで飯食えることに感極まってるのか? それとも飼い主に“待て”でもされてんのか?
あ、やっぱり俺って食われる流れ?
『我が子よッ!』
無理ッ! マジで無理ッ! 逃げる!
『フフフ、命が孵る瞬間の、何と美しいことだ……そうだ、我とハネラの七つ子は、我が島を空けていた間に産まれていたのだったな。……ハネラ、我は誓おう。今度こそ、我はこの子を守り抜くと……この八体目の、我が子を……おらぬ!?』
ハアー、ハアー、逃げ切れたか……?
背後からまだ何か聞こえた気がするが、俺は意識を全力で逸らして逃げた。大悪魔のテレパシーとか呪詛が乗っててもおかしくねえ。SAN値がゴリゴリ削られそうだ。
あまりにもそれどころじゃない状況でさっきは飲み込めてなかったが、俺の身体の方にも重大な発見があった。
【耐性スキル〖恐怖耐性:Lv1〗を得ました。】
ゲーム音声みたいなのが響いて、画面的なものが脳内に浮かんだ。そんで俺のことやステータスとやらの事を色々教えてくれたんだが……
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種族:ドラゴンエッグ
状態:通常
Lv :1/5
HP :5/5
MP :1/1
攻撃力:1
防御力:3
魔法力:1
素早さ:10
ランク:F
神聖スキル:
〖修羅道:Lv--〗
特性スキル:
〖卵の殻:Lv--〗〖神の声:Lv1〗
耐性スキル:
〖物理耐性:Lv1〗〖恐怖耐性:Lv1〗
通常スキル:
〖転がる:Lv1〗〖ステータス閲覧:Lv1〗
称号スキル:
〖魔王の片鱗:Lv1〗〖竜王の息子:Lv--〗〖歩く卵:Lv--〗
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要約すると、俺はクソ雑魚で頭が未成熟のドラゴンの卵だってことを教えられた。それにしては魔王とか、竜王の血筋とか、魔物の世界を支配する権限があるだとか、仰々しい肩書きばっかあるとも言われたけどな!
他に知りたいことはあったけど、神の声レベル1ではその説明を行うことができません、みたいな文言で突っぱねられた。
マジでなんなんだこの状況は。生物実験か? モルモットに天敵のいる環境と身に余る称号を与えたらどんな行動を取るのか実験してやがるのか?
前世? だかの記憶もなんだか思い出せねえし、どーなってんだよマジで。俺が転生したことは確かみたいだけどよ。
ほの暗い通路、みたいな場所を歩きながら愚痴ってたんだが、なんか俺以外にも誰かいるような気が……お、あれ人間じゃね!? シルエットが明らかに人間だ! 今の俺が小さいからか上背がデケえように思えるけど、平均くらいの身長っぽいな。
やった! 人間だ! 超嬉しいんだけど、やっと心許せる存在に出会えた。何かしらこの場所について情報を聞けるかも……
首無しの、全裸の男だった。
【耐性スキル〖恐怖耐性〗のLvが1から2に上がりました。】
うわっ横向きやがった! 腹に顔が張り付いてんだけど!? ホラゲー選手権してもあそこまでキモい奴はいねえぞオイ!
そうじゃん! ここが地獄なら悪魔がいてもおかしくないよな! でも何で俺の前に来るんだよ!? 地獄じゃアイツらが一般市民なのか!?
【〖アダム〗:A-ランクモンスター】
【最果ての地に住まう、奇怪な姿のモンスター。】
【好戦的な性格であり、たまたま訪れたその時代の勇者一行を、まともな抵抗を許さぬままに蹴り殺したこともある。】
【圧倒的な身体能力の他に、敵わないと思えば強敵を呪い殺す、陰湿な手段を用いることもある。】
【海の向こう側には異形の化け物が住む、と人々を恐れさせる元凶である。】
【動物に対しては醜悪なまでの執念を持って襲い掛かるが、反して自然を愛でる一面をも併せ持つ。】
お前なんぞが原初の人類であってたまるか! 楽園追放されて当然の生態しやがって!
あれ、気付かれた? ヤバイヤバイなんかペットみてえな奴と目が合ったんだけど! よく見りゃそいつも単眼生首と片足を縫い合わせたみてえな外見してやがるしよ!
【〖イヴ〗:A-ランクモンスター】
神様ァ! 今すぐコイツら作り直しといてくれよ!
俺は前世で何をしたらこんな目に遭うんだ。ああもう、せめてひと思いにサッと殺してくれ。
「グルォオオオオオアアアアアアアアアッ!!」
とんでもねえ咆哮が轟いてきやがった。猛獣が自分のメシを取られそうでご立腹なのか?
ズシン、ズシンと重々しい足音が近づく。全裸マッチョと片足単眼はどっか去っていった。……うわ、マッチョ二人いたのかよ。
巨大な化け物に一口で噛み殺されるか、ヒトモドキの群れに殴り殺されるか……前者の方がマシかな……どうせ死ぬなら同じだろうけど……
『まったく、気が気でなかったのだぞ。元気が有り余っているのは良いのであるが……。この竜王の血筋がそう怯えるでない。アダム共は我の下僕だ、後ほど躾けておこう』
デケえ腕が、俺の身体をそっと撫でた。卵の殻越しだったから感触はよく分からねえが、とんでもない質量だった。ちょっと力加減間違えたら潰れて死ぬぞ、俺。……待った、もしやコイツって……。
『何はともあれだ。よくぞ産まれてきてくれた、我が息子よ』
このドラゴンが、俺の親父だ。
猛獣と大悪魔じゃなくて、ドラゴンが念話とやらでテレパシーしてたんだな。そう考えると安堵……いや今もまだ滅茶苦茶怖ええけど。
『外を見に行くぞ。元よりそのつもりだったが、お前も早く外の景色を見たいだろう。ほれ、こっちだ』
やだ怖い! 爪がギロチンみてえなんだけど! つーかまだ状況がよく分かんねえし!
『む……そうも怯えられると、少し複雑であるぞ……我は確かに強大で頑強であるが、お前の父親なのだ……』
え!? 俺の思考読めてたの!?
『当たり前である。これは念話だ、お前は言語を覚えておらんだろうが、この父は思考を読み取り、我の思考を送れるゆえ会話に支障はないぞ』
そ、そうでしたか……。
扉っぽいものが割とすぐに見えてきた。巨大なドラゴン……親父は前足で軽々と扉を開く。
『よく見ておけ、息子よ。これより我らが、支配するべき世界だ』
開かれた扉の眩しさに目を細めると、そこには大自然が広がっていた。
すげえ綺麗な青空と、見たこともねえような植物だ。ここは地獄じゃなかったんだな。
孤島なのか? 原っぱの向こうにはもうデカい海が広がってるな。あと、ここは日本じゃなかったんだな。ドラゴンもいるし今更か。つーか日本にもアフリカにも、あんなキモキモ怪物トリオがいてたまるかってんだ。
草に紛れてデケえ鶏が、うげっ気持ち悪い! 爺さんの頭がくっついてやがる! なんで正気度抉るようなビジュアルの奴ばっかなんだよ!
『アレはバジリスクだな。毒と呪いを操る卑劣な魔物よ』
……やっぱ外も地獄だったかも。パパ、俺をベッドに帰らせてくれ。永遠に外に出なくて良いから。引きこもりデビューするから。
『あの上空に飛んでいる、ニンゲンの顔をした鳥畜生の群れはセイレーン共だ。お前の孵った巣は奴らの羽毛で作ったのだぞ』
帰りたくなくなる情報やめろよ! その職人のこだわりいらねえからな!