東方逆天撃   作:阿鯛 斎京

1 / 24
私は只呆然とその光景に目を奪われていた。



プロローグ

 

 

 

 

正邪side

 

 

 

「ぜぇ…はぁ…、もう、大丈夫か」

 

流れる汗を拭って、ひとまず息を整える。

荒ぶる弾幕を掻い潜り這う這うの体で逃げてきた。

森に降り立って、妖の気配を探るが奴の気配はない。

どうやら撒いたようだ。

それとも本当に見逃されたのか。

 

「くそっ八雲紫め」

 

悪態を吐いてその場に腰を下ろす。

森の土は固く、座り心地はあまり良くなかった。

さて、どうするか。

木々の向こうの青い空には煌々とした太陽。

まだ昼を過ぎた位か。

 

「水の音が聞こえる」

 

森の先から届く水の音。

どうやらこの先に沢があるらしい。

逃走で喉の渇きを覚えた私は、すぐさま立ち上がり音のする方へと向かった。

 

「ごくごく……っぷは」

 

直に口をつけて川の水を飲み込む。

よく冷えてうまい水だ。

 

「とりあえず、飯でも食いながら考えよう」

 

手頃な岩に腰掛け、昨日盗んだ地蔵に供えられていた握り飯にかぶりつく。

 

「不味いなぁ」

 

嘆息する。

昨日の飯だ。もうすでに硬くなってしまって、干飯を食べているようだ。

昨日のうちに食べられれば良かったが、そこは追われる身。

身を潜め、それでも見つかって必死で逃げてきたのだ。

ゆっくりと飯が食えるだけありがたい。

握り飯を早々に平らげ、さてこれからどうするかと、腕を組む。

実を言うと相当に宜しくない状況である。

理由は先ほどの八雲紫との弾幕勝負で全ての道具を奪い返されたから。

 

「不味いなぁ」

 

回収された道具をどうやって取り戻すか、それとも他に良い方法があるか。

しかし妙案が思い浮かばない。

冷や汗が流れる。

ただ気になることはあった。

それは先ほど必死で逃げる私の背中に告げた八雲紫の言葉。

 

「今は見逃して差し上げます」

 

こればかりは意味が分からなかった。

道具を失った私を見逃すと告げたのだ。

すぐにでも私を殺せるというのに。

あれほど多くの人妖、幻想郷の強者たちが血眼で私を殺そうとしたというのにだ。

 

「それでもまぁ」

 

生きている。

どんな思惑があったにしろ私は生きている限り、次がある。

機会があるのだ。

この幻想郷を転覆させる機会が。

 

「八雲紫、今に見ていろ。私を見逃したこと後悔させてやる」

 

私は立ち上がり空を見上げる。

穏やかな青い空が憎々しかった。

 

 

 

 

 

 

「ぎゃっ!」

 

空を見上げて立ち尽くす私の背中に唐突に鋭い痛みが走った。

短い悲鳴をあげて前のめりに倒れ込む。

倒れた拍子に砂が口の中に入る。

 

「おい、何してる!そんなことで殺せるか!」

「間違いねぇ。こいつだ!」

「首だ!首を切り落とせ!」

 

耳に届く男たちの興奮した声。

そうか、私は刺されたのか。

唐突だったが、それでも冷静に頭を切り替える。

逃げないといけない。

状況を確認する暇はない。

とにかく今は早く逃げないと。

 

「逃がすな!押さえつけるんだ!」

「ぐぅっ、くそ、放せ!」

 

飛んで逃げようとするが、飛べなかった。

何故か飛べなかったのだ。

大きすぎる混乱。

二人の男に組み敷かれる。

うつ伏せに組み敷かれた私は、なんとか逃げようと力いっぱい暴れまわる。

しかし、それは振りほどくまでには至らない。

 

「暴れるんじゃねぇよ」

 

一度、顔を殴られた。

それでほんの少しだけ冷静さが戻り、暴れるのをやめる。

大人しくなった私を見て、男たちは諦めたと思ったのか組み敷いたままで会話を始める。

 

「間違いない。お尋ね者の鬼人正邪だ」

 

髪を掴まれ顔を上げさせられる。

私を組み敷いているのが二人。

それとは別に鉈を手にした一人。

 

「にん…げん?」

 

目を見開いて驚愕した。

なぜ人間がこんなところに?

いや、それよりも私は妖怪だ。

人間ごときに組み伏せられるわけがない。

いくら不意打ちだからといって、人間の男が二人で組み敷けるほど力は弱くない。

それでもいくら力を入れても振りほどくことができない。

おかしい。

一体何が起きてる。

 

「そうだ人間さまだ。ははっ、それにしてもこいつ女ほどにも力がねぇ」

 

嘲笑して私を見下ろす男たち。

力では逆らえないと思って余裕が出来たのか、会話を始める。

 

「俺たちは運がいい。こいつを殺せばひと稼ぎだ」

「あぁ、さっきの女には感謝だな」

 

さっきの女?

誰かが私の居場所をこいつらに教えたのか?

 

「……にしても、なかなかいい女だな」

「あぁ、こいつは上玉だ。ちょっと幼いが」

「それがいいんじゃないか。一番は俺にやらせろよ」

 

下卑た男たちの声に嫌な予感がした。

まさかこいつら私を犯す気か?

いや、すぐに殺されないなら逃げる機会はあるかもしれない。

 

「逃げられないわ」

 

不意に耳に届いた声はよく知った者の声。

 

「自分よりも弱いものに犯され、殺される」

「どんな気持ちかしら?」

 

甘く愉悦を帯びた声に私の血が沸騰するのを感じる。

 

「八雲紫ぃぃぃいいい!!!」

「うわっ!急に暴れるな」

 

私の叫びを聞いて男が私の顔を蹴り上げた。

それでも私は血に塗れた目で頭上を睨みつける。

しかし、そこには男たち以外誰もいない。

声は聞こえるというのに。

 

「あなたがしたことの意味これでよくわかるでしょう」

「言葉では伝わらないならその体と魂に」

「大丈夫あなたの最後は見ないであげる。それがせめてもの慈悲」

「だって仲間のいない、味方もいない、あなたにぴったりだもの」

「さようなら。愚かで孤独な天邪鬼……死ぬがよい」

 

あぁ、姿は見えなくても分かる。

こいつは今、笑顔で私に断罪を行うのだ。

お前たちの仲良しごっこに付き合えない私はいらないと言って。

両手を広げて拒絶するのだ。

お前は何も解ろうとしなかったと。

それでも体と魂を陵辱され、死を与えてようやく理解しろと言う。

ふざけるな。

ふざけるな。

ふざけるな。

ふざけるな。

ふざけるな。

ふざけるな。

ふざけるな。

ふざけるな。

私は天邪鬼。

たとえこの体と魂が陵辱されようと、お前の思い通りにはならない。

決して。決してだ。

復讐してやる。

絶対にお前の理想を。

 

「ひっくり返してやる」

 

口の中の砂を噛む。

血の味がする。

 

「犯るか」

「大人しくしてろよ」

 

うつ伏せの体がひっくり返される。

口を塞がれ、乱暴な男の手が私のスカートにかかる。

急に現実に引き戻される。

逃げられない。

いくら力を込めても男たちの手を振りほどけない。

逃げる機会がない。

考えろ。

私は諦めが悪いんだ。

あの女に復讐するまで死んでたまるか。

強く思う。

それでも。

 

「嫌だ」

 

言葉を吐いて出てしまう。

この絶望的な状況に。

やってみろと言えなかった。

涙があふれる。

抗えない屈辱に。

人間ごときに犯される。

八雲紫の声は聞こえず、男たちの荒々しい息と、水の流れる音だけ。

 

「諦めな」

 

取り出した男の象徴が眼前に迫る。

それでもと抵抗しようと体に再び力を入れるが意味を成さない。

こんなところで終わるのか。

まだ、なにも成し遂げていないのに。

ちくしょう。ちくしょう。

力が入らない。

抵抗ができない。

このまま良いように犯されて、殺されるのか。

そんなのは許されない。

心は侵されまい。

あいつの良いようになってたまるか。

 

「睨んでんじゃねぇよ」

 

嘲りながら、私の込めた瞳を一瞥して、男はゆっくりと腰を落としていく。

そして男の頭が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「えぁ……お」

「……は?」

 

私を押さえつけていた男二人が間抜けに声を上げる。

そして突如男の後ろに現れた影が私を見下ろす。

 

「ひっ」

「て、てめぇ何」

 

そして次に私の目に飛び込んだ光景は血飛沫だった。

それは私を押さえつけていた男たち二人の首からのもの。

瞬きのうちに三人が殺された。

私は只呆然とその光景に目を奪われていた。

組み敷かれていた男たちの力が無くなっているのに、私は動けないでいた。

殺される。

ただそれだけが脳裏によぎる。

しかし、いつまでたっても私の意識が消えることはなかった。

暫くして影は踵を返して歩き去ろうとする。

 

「待って!」

 

気付けばその背に声をかけていた。

なぜ声をかけたのか分からない。

咄嗟に出た私の言葉に立ち止まる影。

いや、男だろう。

ゆっくりと立ち上がった私は歩みを止めたその男の背に再び声をかけた。

 

「どうして助けた?」

 

すると男はこちらを振り返りまっすぐと私を見つめ返してきた。

それは中年の男だった。

 

「葉巻を持っているか?」

「は?」

「お、お前。私はどうして助けたか聞いているんだ」

「……それが答えだ」

 

落胆したように肩を落とした男は踵を返し歩き始める。

 

「ま、待てよ!」

 

納得いかない私は急いで男の前に回り込む。

 

「なんだ?」

「あ、えっと……」

 

聞かれて私は自分の行動に疑問が浮かぶ。

どうして彼を呼び止めた?

奇跡的に助かった。

それならそれでいいじゃないか。

呼び止める理由などないだろう。

いや、ある。

理由ならある。

とある名案を思いついた。

そうだ利用しよう。

この男を。

内心で笑みが溢れる。

まずはこの男を説得しよう。

話はそれからだ。

どう言えば引きずり込めるか。

そしてすぐに妙案が浮かぶ。

 

「あんた、葉巻が欲しいんだろう? 今は持ってないけど、置いてある場所を知ってるよ」

「助けてもらったんだ。お礼がしたいんだ」

「私の名前は、鬼人正邪。なぁどうだろう、案内するよ」

 

あ、うっかり名前を言ってしまった。

私はお尋ね者なんだ。

だ、大丈夫か?

 

「ふむ。では任せよう」

 

しかし、私のことを知らなかったようで、男は軽く頷いて言葉を告げる。

良かった。

私のことは知らないみたいだ。

というか、こいつは人間か?

妖力は感じない。

かと言って、霊力も感じない。

だけど、先ほどの光景を思い返して身震いがした。

あれは間違いなくこいつがやったことだ。

こんな強い奴は身に覚えがない。

本当に何者なんだ。

 

「じゃ、じゃぁ案内するよ。あ、でもその前に……」

「あんたの名前聞かせてくれる?」

 

私の投げかけた質問に、男は満足そうに応えた。

 

 

 

 

……アルベルト。衝撃のアルベルトと。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。