幕間「言えない理由」
夜。
壊れたギルドの残骸が、月明かりに照らされている。
みんなが戻る前の、静かな時間。
あたしは瓦礫の上に座って、膝を抱えていた。
「……寒いわね」
本当は寒さじゃない。
胸の奥が、落ち着かないだけ。
「ルーシィ」
後ろから、静かな声。
「ヨゾラ」
振り返ると、彼が立っていた。
少しだけ疲れた顔。
でも――あたしを見る目は変わらない。
「怪我は?」
「大丈夫よ」
「……そうか」
ヨゾラは少しだけ近づいてくる。
沈黙。
壊れたギルドを見渡して――
「……狙いは、お前だな」
静かに言う。
あたしは、少しだけ目を伏せた。
「……ええ」
否定できない。
「理由は」
「わかってるでしょ」
ヨゾラは何も言わない。
でも、わかってる。
あたしがハートフィリア家の娘だから。
「……親の問題だ」
「そう」
あたしは笑う。
でも、うまく笑えてないのは自分でもわかる。
「ほんと、嫌になるわよね」
「……」
「ギルドを壊されて、仲間が巻き込まれて」
拳を握る。
「全部、あたしのせい」
その言葉に――
「違う」
ヨゾラが即座に否定する。
「関係ない」
「あるわよ!」
思わず声が強くなる。
「だってあたしがいなかったら――」
「それでも壊されていた」
被せるように言う。
「理由は変わるだけだ」
「……」
「ここは、そういう場所だ」
ヨゾラの声は静かだった。
でも、妙に納得してしまう。
「……それでも」
あたしは目を逸らす。
「みんなに迷惑かけたくないの」
ヨゾラは黙って聞いている。
「ナツも、グレイも、ミラも……」
ギルドのみんなの顔が浮かぶ。
「これ以上、巻き込みたくない」
「……だから」
ヨゾラを見る。
少しだけ迷って――
それでも言う。
「このこと、みんなには黙ってて」
空気が止まる。
ヨゾラの瞳が、ほんの少しだけ揺れる。
「……理由は」
「言ったでしょ」
「それだけじゃないな」
鋭い。
さすがに誤魔化せない。
「……」
あたしは少しだけ黙って――
「……怖いのよ」
小さく呟く。
「もし、あたしのせいで誰かが……」
言葉が続かない。
でも、伝わるはず。
ヨゾラは、しばらく何も言わなかった。
ただ、静かにあたしを見る。
「……ルーシィ」
「なに」
「一つだけ聞く」
少しだけ近づく。
「それは、お前一人で背負うものか?」
その言葉に、胸が詰まる。
「……」
答えられない。
「ここはギルドだ」
ヨゾラが続ける。
「仲間がいる」
「……わかってる」
「なら」
「でも!」
思わず遮る。
「それでも、嫌なの!」
あたしは立ち上がる。
「みんなが傷つくのを見るのが!」
声が震える。
「だから……せめて」
ヨゾラの服を、少しだけ掴む。
「今だけでいいから……」
顔を上げる。
「黙ってて」
真っ直ぐに見つめる。
ヨゾラは、その目をじっと見返して――
長い沈黙のあと。
「……わかった」
小さく頷いた。
「今は、何も言わない」
「……ほんと?」
「ああ」
そして、少しだけ表情が変わる。
「ただし」
「え?」
「一人で無理をするな」
その声は、少しだけ強かった。
「限界が来たら――」
少しだけ間を置く。
「俺が話す」
「ちょっと!」
「約束だ」
譲らない声。
あたしは少しだけムッとして――
でも。
「……ずるいわね」
小さくため息をつく。
「逃げ道作るじゃない」
「必要だろ」
「……そうね」
否定できない。
少しだけ肩の力が抜ける。
「……ありがと」
小さく言う。
ヨゾラは何も言わない。
ただ――
「守る」
それだけ言った。
シンプルで、でも重い言葉。
あたしは少しだけ笑う。
「知ってるわよ」
そして、夜空を見上げる。
壊れたギルド。
迫ってくる戦い。
でも――
「一人じゃない、か」
小さく呟く。
ヨゾラが隣に立つ。
言葉はない。
でも、それで十分だった。
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