幕間「鎧の言葉、素の言葉」
夕方。
ルーシィの家の外。
中からは、相変わらず騒がしい声が聞こえてくる。
「うるせぇ!!」
「テメェが先に殴っただろ!!」
「あい!また壊れるー!」
「……元気だな」
ヨゾラは壁にもたれながら、ぽつりと呟く。
その隣に――
静かに立つ影。
振り向かなくてもわかる。
「一人か」
低く、凛とした声。
そこにいたのは――
エルザ・スカーレット
「……ああ」
ヨゾラは短く答える。
「騒がしいのは苦手か?」
「いや、そういうわけではない」
少しだけ間。
「ただ……考え事をしていただけだ」
エルザは腕を組み、ヨゾラを見る。
「ルーシィのことか」
「……」
沈黙が答えだった。
「守る、と言っていたな」
「ああ」
ヨゾラの視線は、遠くに向いたまま。
「それが俺の役目だ」
「役目、か」
エルザは小さく繰り返す。
「それだけか?」
「……それだけで十分だ」
即答。
迷いはない。
だが――
「本当にそうか?」
エルザの問いは、鋭かった。
ヨゾラはわずかに眉を動かす。
「……どういう意味だ」
「お前の言葉は硬すぎる」
「……」
「まるで、自分に言い聞かせているようだ」
風が吹く。
静かな時間。
「……そう見えるか」
「見える」
即答だった。
ヨゾラは少しだけ目を伏せる。
「……記憶がないからかもしれない」
ぽつりと呟く。
「自分が何者か、わからない」
「……」
「だから、“役目”で縛っている」
エルザは静かに聞いていた。
「守る理由が、それしかない」
その言葉に――
「違うな」
はっきりと否定する。
ヨゾラが顔を上げる。
「お前は、ルーシィを“選んでいる”」
「……選んでいる?」
「ああ」
エルザの瞳はまっすぐだった。
「命令ではなく、自分の意思でな」
ヨゾラは少しだけ黙る。
「……そうかもしれない」
「ならば」
一歩、近づく。
「もっと力を抜け」
「……?」
「その話し方だ」
「話し方?」
「固い」
はっきり言う。
「敬語も、言葉も」
「……そうか」
「ここは軍でも貴族の屋敷でもない」
エルザは腕を組む。
「仲間のいる場所だ」
その言葉は、重くて温かい。
「……仲間」
ヨゾラが小さく呟く。
「そうだ」
エルザは頷く。
「守るべきものは、“役目”ではない」
少しだけ柔らかくなる声。
「“大切なもの”だ」
ヨゾラの瞳が、わずかに揺れる。
「……大切、か」
「だから」
エルザは少しだけ笑う。
珍しく、ほんの少しだけ。
「そんな堅苦しい話し方は必要ない」
「……」
「素のままでいい」
ヨゾラはしばらく何も言わなかった。
風が通り過ぎる。
家の中の騒ぎが遠くに聞こえる。
「……難しいな」
小さく呟く。
「慣れてない」
「慣れればいい」
即答。
「ここはそういう場所だ」
ヨゾラは少しだけ考えて――
「……そうだな」
そして、ゆっくり顔を上げる。
「エルザ」
「なんだ」
「ありがとう」
その言葉は――
今までより、少しだけ柔らかかった。
エルザは一瞬だけ目を細める。
「……ああ」
短く頷く。
その時。
「おいヨゾラー!!」
中からナツの声。
「飯ねぇのかー!?」
「あるわけないでしょ!!」
ルーシィの怒号。
「また壊したな貴様ら!!」
ドカーン!!
「……」
「……」
二人は顔を見合わせる。
「戻るか」
エルザが言う。
「……ああ」
ヨゾラも頷く。
そして、扉に手をかける前に――
小さく呟いた。
「……守るよ」
今度は、“役目”じゃない。
もっと自然な言葉で。
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