幕間「変わった言葉、変わらない距離」
夕方。
あたしの家の中は――相変わらずカオス。
「だからオレの方が強ぇって言ってんだろ!!」
「脱ぐな!!話が逸れるだろ!!」
「あい!また壊れるね!」
「……うるさい」
あたしはため息をつく。
ほんと、なんでこうなるのよ。
「外、出るわ……」
静かな空気を求めて、ベランダに出る。
「はぁ……」
やっと落ち着く。
風が気持ちいい。
その時。
「ここにいたんだ」
後ろから声。
「ヨゾラ」
振り返る。
なんとなく、いつもと雰囲気が違う気がした。
「中、騒がしすぎてな」
「でしょ?」
あたしは苦笑する。
「慣れてきた?」
「まあな」
……あれ?
「……ちょっと待って」
「ん?」
あたしはじっとヨゾラを見る。
「今の」
「?」
「“まあな”って言った?」
ヨゾラが少しだけ首を傾げる。
「言ったけど」
「敬語じゃない……」
思わず呟く。
ヨゾラは少しだけ考えて――
「ああ」
「エルザに言われた」
「エルザに?」
「固いって」
少しだけ苦笑する。
「仲間なんだから、そのままでいいってさ」
その言葉に、胸が少しだけ温かくなる。
「……へぇ」
あたしは腕を組む。
「いいじゃない」
「そうか?」
「うん」
はっきり頷く。
「その方がいい」
ヨゾラは少しだけ安心したように息を吐く。
「……なら、このままでいく」
「そうしなさい」
あたしは少しだけ笑う。
「正直、前のヨゾラってさ」
「ん?」
「ちょっと距離あったのよね」
「距離?」
「なんていうか……壁?」
言葉を探す。
「“護衛です”みたいな」
「……ああ」
ヨゾラが小さく頷く。
「そうだったかもな」
「でも今は」
あたしはヨゾラを見る。
夕日に照らされた銀髪が、少しだけ柔らかく見える。
「ちょっと近くなった感じ」
「……そうか」
ヨゾラは少しだけ目を細める。
「悪くないな」
その言い方に、あたしは思わず笑う。
「でしょ?」
少しの沈黙。
でも、気まずくない。
むしろ――心地いい。
「なあ、ルーシィ」
「なに?」
「あの時の約束」
「……ああ」
すぐにわかる。
“無理したら言う”ってやつ。
「守るよ」
まっすぐな声。
でも――前より軽い。
いい意味で。
「……うん」
あたしも小さく頷く。
「頼りにしてる」
その言葉に、ヨゾラは少しだけ驚いた顔をした。
「……珍しいな」
「なによ」
「素直だ」
「うるさい」
軽く睨む。
でも、ちょっとだけ笑ってしまう。
「たまにはいいでしょ」
「まあな」
またそれ。
あたしはクスッと笑う。
「気に入ったわ、それ」
「そうか?」
「うん」
少しだけ間を置く。
そして――
「ヨゾラ」
「ん?」
「今のあんた、好きよ」
言った瞬間、自分で固まる。
「……は?」
ちょっと待って。
今あたし何言った?
ヨゾラも一瞬止まる。
でも――
「……ありがと」
普通に返された。
「いや違うのよ!そういう意味じゃなくて!!」
慌てて否定。
「話し方のこと!!」
「わかってる」
「ほんと!?」
「たぶん」
「たぶんって何よ!!」
あたしは顔を真っ赤にして叫ぶ。
その様子を見て――
ヨゾラは少しだけ笑った。
ほんの少しだけ。
でも確かに。
「……やっぱりいいわ」
あたしは小さく呟く。
「その顔」
「どの顔だよ」
「今の」
「よくわからないな」
「わかんなくていいの」
あたしはそっぽを向く。
でも――
ちょっとだけ嬉しかった。
中からまた爆音がする。
「うおおおお!!」
「壊すなと言っているだろう!!」
「……戻るか」
ヨゾラが言う。
「そうね」
あたしは頷く。
扉に手をかける前に、ふと振り返る。
「ねえ、ヨゾラ」
「ん?」
「これからも、そのままでいてよ」
少しだけ真面目に言う。
ヨゾラは一瞬だけ考えて――
「ああ」
頷いた。
「そうする」
その答えに、あたしは笑う。
「よし」
そして二人で中に戻る。
騒がしい日常の中へ。
でも――
さっきまでとは、少しだけ違う。
距離が、ちゃんと縮まっていた。
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