第7話「暴走する悪意」
夜。
重く、湿った空気。
そこは――
幽鬼の支配者(ファントムロード)の本拠地。
薄暗いホールに、異様な魔力が満ちていた。
「……来ませんねぇ」
ゆっくりと歩く男。
紫の髪、鋭い目。
それは――
ジョゼ・ポーラ
ファントムロードのマスター。
その声は丁寧だが、底に狂気が混じっている。
「フェアリーテイルは、実に慎重だ」
クスクスと笑う。
「ですが――」
振り返る。
そこには、一人の男。
「準備は整っていますね?」
「ギヒッ……当然だろ」
壁にもたれかかるように立つのは――
ガジル・レッドフォックス
鋭い歯を見せて笑う。
「いつでもぶっ壊してやるぜ」
「ええ、ですがまだです」
ジョゼは優雅に手を振る。
「今回の目的は“戦争”ではありません」
「チッ……つまんねぇな」
「そう焦らずとも、いずれ壊せますよ」
その笑顔は、冷たい。
「まずは――“鍵”を確保する」
空気が変わる。
その時。
ポツ……ポツ……
天井のないはずの空間に、雨が降り始める。
「……来ましたか」
静かに現れたのは――
青い髪の少女。
どこか儚く、しかし重い気配。
「ジュビア、参上です」
それは――
ジュビア・ロクサー
エレメント4、“大海”。
「対象の周囲、湿度が高い……いい兆候です」
「雨を連れてくるとは、相変わらずですね」
ジョゼが微笑む。
「ギヒッ、陰気くせぇな」
ガジルが笑う。
「ジュビアは雨女……仕方ないです」
淡々と返すジュビア。
「それで?」
ジョゼが手を広げる。
「“彼女”の位置は?」
ジュビアは目を閉じる。
雨が、強くなる。
「感じます……」
静かに呟く。
「孤独と、不安……そして、強い光」
ゆっくりと目を開く。
「ルーシィ・ハートフィリア……確かにいます」
その言葉に、ジョゼの口元が歪む。
「素晴らしい」
そして――
別の方向へ視線を向ける。
「あなたも、準備はよろしいですか?」
そこにいたのは、一人の青年。
整った顔立ち。
柔らかな雰囲気。
優しそうな笑顔。
「ええ、もちろんです」
穏やかな声。
それは――
ユウリ
ルーシィの“婚約者”。
「ルーシィは、僕が連れ戻します」
「……ほう」
ジョゼが興味深そうに見る。
「愛、ですか?」
「ええ」
ユウリは微笑む。
「彼女は本来、ああいう場所にいるべきではない」
その言葉に、ガジルが鼻で笑う。
「ギヒッ……甘っちょろいな」
「そうでしょうか?」
ユウリは視線だけ向ける。
「彼女を守るためです」
その笑顔は、優しい。
だが――どこか歪んでいる。
「檻の中で、ですか?」
ジョゼが楽しそうに聞く。
「……安全な場所で」
ユウリは答える。
ジョゼは満足そうに頷く。
「結構」
そして、ゆっくりと手を上げる。
「では――作戦を」
空気が一気に引き締まる。
■作戦会議
「まず、直接の衝突は避けます」
ジョゼの声が響く。
「フェアリーテイルは厄介ですからね」
「じゃあどうすんだよ」
ガジルが不満そうに言う。
「簡単です」
ジョゼは微笑む。
「分断します」
「分断?」
「ええ」
指を鳴らす。
「彼らは“仲間”を重んじる」
「ならば――それを利用する」
ジュビアが静かに頷く。
「雨で視界と動きを制限……可能です」
「素晴らしい」
ジョゼが笑う。
「ガジル」
「あ?」
「再び襲撃を」
「ギヒッ……待ってました」
「ただし、引きつけるだけでよろしい」
「チッ……暴れ足りねぇがな」
「ユウリ」
「はい」
「あなたは“彼女”の説得を」
ユウリは微笑む。
「任せてください」
「彼女は優しい」
ジョゼが目を細める。
「揺らぎます」
そして――
最後に。
「……もう一つ」
少しだけ声のトーンが落ちる。
「護衛がいましたね」
空気が冷える。
「星の滅竜魔導士……ヨゾラ」
ジュビアが静かに言う。
「異質な魔力……危険です」
「ええ」
ジョゼは頷く。
「ですが――不安定でもある」
ガジルがニヤリと笑う。
「ギヒッ……壊しがいがありそうだな」
「ええ」
ジョゼの笑みが深くなる。
「“暴走”させましょう」
その一言に――
空気が歪む。
「守るものがある者ほど、壊れやすい」
静かに、しかし確実に。
悪意が形になる。
「さあ――始めましょう」
ジョゼが手を広げる。
「楽しい夜を」
雨が強くなる。
鉄が軋む。
そして――
物語は、戦争へと進み始める。
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