幕間「優しさという檻」
目を開けると――
冷たい石の床。
薄暗い部屋。
どこか、湿った空気。
「……ここは」
あたしはゆっくり起き上がる。
手首には、見えない圧力。
魔力を抑え込まれている。
「っ……」
鍵に手を伸ばそうとして、気づく。
「魔法……封じられてる」
その時。
「目が覚めたんだね」
静かな声。
振り返る。
そこにいたのは――ユウリ。
相変わらず、優しそうな笑顔。
でも今は、それが怖い。
「……最低ね」
あたしは睨む。
「誘拐なんて」
「誘拐じゃないよ」
ユウリは首を振る。
「保護だ」
「どこがよ!!」
思わず叫ぶ。
「こんなとこに閉じ込めて!」
「君のためなんだ」
穏やかな声。
一歩、近づいてくる。
「外は危険すぎる」
「だからってこんなやり方――」
「必要だった」
被せるように言う。
その声が、少しだけ冷たくなる。
「君は、あの場所にい続ける気だった」
「当たり前でしょ!!」
即答する。
「フェアリーテイルはあたしの家よ!」
「違う」
ユウリが首を振る。
「違わない!!」
あたしは立ち上がる。
「仲間がいるの!」
拳を握る。
「笑って、バカやって、ケンカして……」
声が少し震える。
「それでも一緒にいる場所なの!!」
ユウリは、静かにそれを聞いていた。
「……それが問題なんだ」
「は?」
「そんな環境じゃ、君は壊れる」
「壊れないわよ!!」
「壊れるよ」
即答だった。
その目は、まっすぐで――怖い。
「だって君は優しいから」
ゆっくりと近づく。
「誰かが傷つけば、自分を責める」
「……」
「今回だってそうだろ?」
言葉に詰まる。
図星。
「だから守るんだ」
ユウリが手を伸ばす。
あたしの頬に触れようとして――
パシッ!!
あたしはその手を払う。
「触らないで」
低く言う。
ユウリの手が止まる。
「……どうしてわからないの」
少しだけ悲しそうに言う。
「全部、君のためなのに」
「違う」
あたしは首を振る。
「それ、あんたのためでしょ」
空気が止まる。
ユウリの表情が、わずかに固まる。
「……どういう意味だい」
「“守る”って言いながら」
一歩、近づく。
「閉じ込めて、選ばせないで」
睨む。
「それって、支配よ」
その言葉に――
ユウリの笑顔が、完全に消えた。
静かな沈黙。
「……なるほど」
小さく呟く。
「そう見えるのか」
「そう見えるも何も――」
「違うよ」
遮る。
その声は、さっきまでと違う。
少しだけ低くて、冷たい。
「僕は、君を正しい場所に戻そうとしてるだけだ」
「その“正しい”って何よ」
「決まってるだろ」
ユウリの目が細くなる。
「傷つかない場所だ」
「……」
「危険も、争いも、悲しみもない」
一歩、近づく。
「僕の隣」
ゾクリ、とする。
「それが君の居場所だ」
「違う」
あたしははっきり言う。
「それは“あんたの理想”でしょ」
「……」
「勝手に決めないで」
睨む。
「居場所は、自分で決めるの」
その言葉に――
ユウリはしばらく黙った。
そして。
「……やっぱり」
小さく息を吐く。
「変わってしまったね」
「最初からこうよ」
「違う」
首を振る。
「もっと従順で、素直だった」
その言葉に、背筋が冷える。
「……なにそれ」
「昔の君は、もっと“可愛かった”」
その目に、わずかな狂気が滲む。
「僕の言うことを、ちゃんと聞いてくれた」
「……気持ち悪い」
思わず本音が出る。
空気が一瞬で凍る。
ユウリの瞳が、静かに細くなる。
「……そうか」
低い声。
「なら――」
一歩、引く。
「少し、時間を置こう」
「……?」
「ここでゆっくり考えるといい」
再び微笑む。
でも、その笑顔はもう優しくない。
「君がどこにいるべきか」
背を向ける。
「必ず、わかる」
扉に手をかける。
「君は、僕のものなんだから」
その言葉に――
「違う!!」
あたしは叫ぶ。
「誰のものでもない!!」
ユウリは振り返らない。
ただ――
「……今は、ね」
そう呟いて、去っていった。
扉が閉まる。
静寂。
あたしは拳を握る。
「……ふざけないで」
震える声。
でも――
目は強い。
「絶対に、戻る」
仲間の元へ。
そして――
「ヨゾラ……」
小さく名前を呼ぶ。
きっと来る。
そう信じてる。
だから――
折れない。
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