第2話「星と自由と、あたし」
あたしは走っていた。
夜の街を、ドレスの裾を押さえながら全力で。
「はぁっ、はぁっ……もう、やってらんない!」
ハートフィリア家なんて、大嫌い。
決められた人生、決められた未来。
全部、全部――息苦しい。
「……あたしは、自由になりたいのよ」
そう呟いた瞬間だった。
「――ルーシィ様」
後ろから、静かな声がした。
「っ……!」
振り返らなくてもわかる。
この声は、一人しかいない。
「……追ってきたのね、ヨゾラ」
足を止める。
夜風が、金髪を揺らした。
ゆっくりと振り返ると、そこには銀髪の青年。
いつもと同じ、落ち着いた表情。
「護衛ですので」
「命令でしょ?」
「はい」
即答だった。
あたしは思わず顔をしかめる。
「……だったら帰りなさいよ。これは“あたしの問題”」
「それはできません」
「なんでよ!」
思わず声が大きくなる。
ヨゾラは一瞬だけ目を細めて――それから、静かに言った。
「あなたが危険だからです」
「危険なのはあの家のほうよ!」
胸の奥に溜まっていたものが、溢れ出す。
「お父様はあたしを“道具”みたいに扱うし、結婚だって勝手に決めるし!」
声が震える。
悔しいのか、悲しいのか、自分でもわからない。
「……だから、あたしは出ていくの。自分の力で生きるの」
夜空を見上げる。
星が、遠くに瞬いている。
「あたし、魔導士になる」
その言葉に、ヨゾラの表情がわずかに揺れた。
「……魔導士に」
「そうよ。ギルドに入って、仕事して、自由に生きるの!」
あたしはまっすぐヨゾラを見る。
「だから、ついてこないで」
少しだけ、間が空いた。
風の音だけが響く。
そして――
「……それは、命令ですか?」
「え?」
予想外の言葉に、あたしは目を瞬かせた。
「それが“主としての命令”であれば、従います」
ヨゾラは淡々と言う。
でもその瞳は、どこか迷っていた。
「……命令じゃないわ」
「では、従えません」
「はぁ!?」
思わず変な声が出た。
「なんでよ!」
「俺の意思です」
はっきりと、そう言った。
「あなたがどこへ行こうと、何を選ぼうと――」
一歩、近づいてくる。
「守ると決めたのは、俺自身です」
その言葉に、胸が少しだけ熱くなる。
「……バカじゃないの」
「よく言われます」
「給料も出ないわよ?」
「問題ありません」
「面倒くさいことばっかりよ?」
「承知しています」
即答だった。
あたしは、しばらく何も言えなかった。
――ずるい。
そんな真っ直ぐな顔で言われたら。
「……勝手にしなさい」
そっぽを向いて言う。
「ただし!」
ビシッと指を突きつける。
「“様”は禁止!ルーシィでいい!」
「……努力します」
「努力じゃなくてやりなさい!」
「……善処します」
「もう!」
思わず笑ってしまう。
さっきまであんなにイライラしてたのに。
不思議と、少し軽くなっていた。
「行くわよ、ヨゾラ」
「はい」
「だから“はい”じゃなくて!」
「……ああ、ルーシィ」
その呼び方に、少しだけドキッとする。
夜空の下。
あたしは一歩踏み出した。
もう、振り返らない。
「目指すは――ギルドよ!」
「どのギルドに?」
「決まってるでしょ!」
あたしはニッと笑う。
「一番楽しそうなところ!」
ヨゾラが小さく頷く。
「……では、そこへ」
その瞬間。
ふわりと、星の光が舞った気がした。
まるで、あたし達の旅を祝うみたいに。
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