幕間「始まりは、一枚の写真」
静かな部屋。
重厚な机。
その上に、一枚の写真が置かれている。
金髪の少女。
どこか不機嫌そうで、それでいて綺麗で――
それは
ルーシィ・ハートフィリア。
「……この子が」
一人の少年が、それを見つめていた。
それが――ユウリ。
まだ若く、今よりもずっと素直な目をしている。
「今回のお見合い相手だ」
背後から声。
父親だ。
「ハートフィリア家の令嬢」
「……へぇ」
ユウリは写真を手に取る。
じっと見つめる。
「……綺麗だね」
ぽつりと呟く。
「それだけじゃない」
父親が続ける。
「名家、資産、血筋」
「すべてが揃っている」
「……ふーん」
ユウリは適当に返す。
だが、その目は――写真から離れない。
「会ってみればわかる」
「……うん」
その時は、ただそれだけだった。
■最初の違和感
数日後。
ユウリは、屋敷の廊下を歩いていた。
「……ん?」
ふと、会話が聞こえる。
「ルーシィ様はまたお逃げに……」
「本当に困ったお方です」
「……逃げた?」
ユウリが足を止める。
「どういうこと?」
使用人に尋ねる。
「あ、ユウリ様……」
少し困った顔。
「ルーシィ様は、あまりお見合いに乗り気ではなく……」
「よく屋敷を抜け出されるのです」
「……へぇ」
ユウリは少しだけ考える。
写真の中の少女。
不機嫌そうな顔。
「……なるほど」
小さく笑う。
「面白い子だ」
■一目惚れ
その夜。
ユウリは一人、部屋で写真を見ていた。
「……逃げる、か」
指でなぞる。
「自由が欲しいんだね」
少しだけ、優しい顔になる。
「わかるよ」
自分もまた、“決められた道”の中にいる。
だからこそ――
「守ってあげたい」
自然に、言葉が出た。
「君が、傷つかないように」
その時は、まだ純粋だった。
ただの“好意”。
ただの“共感”。
だけど――
■歪みの始まり
それから、何度も話を聞く。
「また逃げたらしいぞ」
「使用人に反抗して……」
「父親とも対立しているとか」
そのたびに――
ユウリの中で、何かが変わっていく。
「……危ないな」
ぽつりと呟く。
「そんなことしてたら……壊れる」
写真を見つめる。
「誰かが止めないと」
その“誰か”に――
自然と、自分を当てはめる。
「……僕が」
小さく呟く。
「僕が守る」
■決定的なズレ
ある日。
報告が入る。
「ルーシィ様が家出を」
「……家出?」
ユウリの目が見開かれる。
「行き先は不明です」
その瞬間。
胸の奥で、何かが弾ける。
「……危険だ」
立ち上がる。
「外は危険すぎる」
写真を強く握る。
「一人でなんて……」
呼吸が荒くなる。
「ダメだ」
その思考は――
もう止まらない。
「連れ戻さないと」
「守らないと」
「閉じ込めてでも」
――その瞬間。
“優しさ”が、“支配”に変わった。
■現在へ
薄暗い部屋。
ユウリは静かに立っている。
手には――あの写真。
「……やっと見つけた」
優しく微笑む。
でも、その目はもう昔と違う。
「ルーシィ」
名前を呼ぶ。
「君は、やっぱり変わってなかった」
自由を求めて。
危険な場所に飛び込む。
「だから――」
写真を胸に当てる。
「僕が守る」
静かに呟く。
「今度こそ」
その声は、優しい。
でも――
完全に歪んでいる。
「もう逃がさない」
雨の音が強くなる。
愛は、すでに檻になっていた。
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