第3話「火竜と星竜」
港町に着いたのは、昼過ぎだった。
「はぁ〜……やっと街ね」
あたしは大きく伸びをする。
家を飛び出してから、ずっと歩きっぱなし。
正直、足が限界。
「宿を取りますか?」
横から落ち着いた声。
ヨゾラは相変わらず疲れた様子もなく、静かに立っている。
「お金ないのよ、あたし」
「……そうでした」
「“そうでした”じゃないのよ」
思わずため息。
その時だった。
「おい、そこのお前!」
ガラの悪そうな男たちが近づいてきた。
「見ねえ顔だな。観光か?」
「だったら案内してやるよ」
明らかに怪しい。
あたしは一歩引く。
「結構です」
ヨゾラが前に出る。
声は穏やかだけど、空気が変わる。
「んだと?」
「ガキが調子に――」
男が腕を振り上げた、その瞬間。
「――やめとけって」
横から、軽い声が割り込んだ。
振り向くと――
ピンク色の髪の少年が立っていた。
その肩には、小さな青い猫。
「そいつら、オレが相手するからさ」
「誰だテメェ!」
男たちが一斉に襲いかかる。
次の瞬間。
「火竜の――」
少年が息を吸い込む。
空気が震える。
「咆哮(ほうこう)!!」
ドォンッ!!
炎が一直線に吹き荒れ、男たちはまとめて吹き飛んだ。
「なっ……!?」
あたしは思わず目を見開く。
すごい……これが、滅竜魔法!?
「よし、片付いたな」
少年はケロッとしている。
「お前ら、もう絡むなよー」
男たちは慌てて逃げていった。
「助かったわ……ありがとう!」
あたしは駆け寄る。
「気にすんな!」
少年はニカッと笑った。
「オレ、ナツ!ナツ・ドラグニル!」
「オイラはハッピーだよ!あい!」
青い猫が元気よく手を上げる。
「しゃ、喋った!?」
「あい!」
「普通に受け入れてください」
後ろからヨゾラが冷静に言う。
「無理よ!」
あたしがツッコんだ瞬間。
ナツの視線が、ヨゾラに向いた。
「……なあ、お前」
「はい」
「今の感じ……お前も“それ”使うだろ?」
空気がピリッと張り詰める。
「……滅竜魔法、か」
ヨゾラが静かに答える。
ナツの口元がニヤリと歪む。
「やっぱりな!」
「火竜と……星竜、ですね」
「星竜?」
ハッピーが首をかしげる。
「そんなの聞いたことないよ?」
「俺も、詳しくは知りません」
ヨゾラの瞳が、わずかに揺れる。
「記憶がないので」
「へえ、面白え!」
ナツは完全に“戦いたい顔”になっていた。
「なあ、ちょっと勝負しねえか!?」
「却下よ!」
あたしが即答する。
「えぇ!?」
「えぇ!?じゃない!」
あたしはビシッと指を突きつける。
「今はそれどころじゃないの!あたしはギルドに入りたいの!」
「ギルド?」
ナツが首をかしげる。
「そう!魔導士ギルド!仕事して、お金稼いで――」
そこまで言ったところで。
ナツがニヤッと笑った。
「だったらちょうどいいじゃん」
「え?」
「オレたちのギルド来いよ」
「……え?」
一瞬、頭が止まる。
「オレ、“フェアリーテイル”の魔導士だし」
「フェアリーテイル!?」
あたしは思わず叫ぶ。
「知ってるのか?」
「有名よ!問題児ばっかりの最強ギルドでしょ!?」
「褒めてる?」
「たぶんね!」
ハッピーが笑う。
あたしの胸が高鳴る。
そこが――あたしの目指してた場所。
「ねえ、連れてって!」
ナツはニカッと笑う。
「いいぜ!」
その時。
「……ルーシィ」
ヨゾラが小さく呼ぶ。
「なに?」
「このギルド……騒がしそうです」
「望むところよ!」
あたしは笑って言い切る。
「退屈なんて、もうごめんだもの」
ナツが大笑いする。
「気に入った!」
「決まりだね!あい!」
こうして――
あたしとヨゾラは、“フェアリーテイル”へ向かうことになった。
その先に、どんな騒ぎが待ってるかも知らずに。
そして――
「……面白え魔力だな」
ナツが小さく呟く。
「星を喰う、か」
ヨゾラの瞳が、わずかに光った。
火と星。
二つの竜が、今――交わろうとしていた。
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