第18話「檻の中の花嫁」
――目を開ける。
「……ん……」
ぼやけた視界。
頭が重い。
「ここ……」
ゆっくりと起き上がる。
柔らかい布の感触。
ふと、自分の姿に気づく。
「……え?」
白いドレス。
レース、リボン、長いスカート。
「なに……これ」
それは――
ウェディングドレス。
「やあ」
優しい声が響く。
顔を上げる。
そこにいたのは――
ユウリ。
「……っ」
思わず後ずさる。
「どうかな」
穏やかな笑み。
「よく似合ってるよ」
その言い方は、本当に優しい。
だからこそ――怖い。
「……何してるのよ」
声が震える。
「見ての通りだよ」
ユウリが一歩近づく。
「結婚式の準備」
「……ふざけないで」
あたしは睨む。
「誰があんたと――」
「僕だよ」
即答。
「君を一番大切に思ってるのは」
その目は真剣だった。
嘘じゃない。
でも――
「それが怖いのよ」
思わず言葉が出る。
ユウリの動きが、少し止まる。
「……怖い?」
「そうよ」
あたしは言う。
「勝手に決めて」
「勝手に連れてきて」
「勝手に結婚しようとしてる」
拳を握る。
「それのどこが“愛”なのよ」
静寂。
ユウリは、少しだけ目を伏せる。
「……君は」
ゆっくりと顔を上げる。
「わかってない」
その声は、静かだった。
「外は危険なんだ」
一歩近づく。
「君は何度も狙われて」
「傷ついて」
「危ない目に遭ってる」
「それでも――」
あたしは言い返す。
「それでも、あたしはあたしの場所にいたいの!!」
声が響く。
「妖精の尻尾は……」
少しだけ、涙が滲む。
「大事な仲間がいる場所なの」
「……仲間」
ユウリが呟く。
その目に、わずかな影。
「その仲間は」
少しだけ声が低くなる。
「君を守れたのかい?」
「……っ」
言葉が詰まる。
「二度も攫われた」
淡々と続ける。
「守れなかった」
「……違う」
あたしは首を振る。
「守れなかったんじゃない」
涙を拭う。
「守ろうとしてくれたの」
その言葉に――
ユウリの表情が揺れる。
「ナツも」
「エルザも」
「みんなも」
そして――
「ヨゾラも」
名前を出す。
その瞬間。
ユウリの空気が、変わる。
「……彼か」
静かに言う。
「君を守ると言って、守れなかった男」
「やめて」
あたしは睨む。
「それ以上言わないで」
「事実だよ」
冷たく言う。
「君はまたここにいる」
「……違う」
「違わない」
一歩近づく。
「だから僕が必要なんだ」
手を差し出す。
「今度こそ、守る」
「いらない」
即答。
ユウリの目が、わずかに見開かれる。
「……なんだって?」
「いらないって言ったの」
はっきりと言う。
「守られるために生きてるんじゃない」
一歩下がる。
「自分で選んで生きるの」
その言葉に――
沈黙。
そして。
「……そうか」
ユウリが小さく呟く。
その笑顔が――
少しだけ歪む。
「やっぱり、まだ危ないね」
「……なにが」
「考えが」
静かに言う。
「外の影響を受けすぎてる」
「……は?」
「大丈夫」
優しく微笑む。
「ここで全部、正してあげる」
背筋が凍る。
「やめて」
「安心して」
手を伸ばす。
「僕が全部、守るから」
「来ないで!!」
叫ぶ。
だが――
その時。
ドォォォォン!!!
遠くで、爆発音。
ユウリの動きが止まる。
「……来たか」
小さく呟く。
あたしの心臓が跳ねる。
「……ヨゾラ」
思わず名前が出る。
ユウリが、ゆっくりとこちらを見る。
「……その顔」
少しだけ、寂しそうに笑う。
「やっぱり、彼なんだね」
静かに言う。
「なら――」
振り向く。
「証明しよう」
その声は、冷たい。
「どっちが、君を守れるか」
外で、戦いの音が大きくなる。
あたしは、拳を握る。
「……来る」
信じてる。
絶対に。
その瞬間――
戦いは、最終局面へと向かう。
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