幕間「失った空と、これから」
夜。
戦いの余韻が残るマグノリアの街。
少し離れた静かな場所。
屋根の上。
「……寒くない?」
あたしは隣を見る。
そこにいるのは――
ヨゾラ。
「平気」
短く答える。
でも、どこかぼんやりと空を見ている。
「……何見てるの?」
「星」
顔を上げる。
雲の隙間から、少しだけ見える夜空。
「……見えてる?」
「少しだけな」
静かに言う。
その声は、どこか遠い。
「……ねぇ」
あたしは少しだけ間を置く。
「ヨゾラってさ」
横顔を見る。
「どこから来たの?」
ヨゾラが、少しだけ目を細める。
「……わからない」
「え?」
「記憶がない」
あっさり言う。
でも――その裏に、何かある。
「……全部?」
「ああ」
頷く。
「気づいた時には、もう魔法が使えた」
「……それって」
あたしは少し戸惑う。
「怖くないの?」
「最初はな」
ヨゾラが小さく笑う。
「でも慣れる」
「慣れるものなの……?」
「慣れるしかない」
その言葉が、少しだけ重い。
「……」
あたしは黙る。
そして――
「でも」
ヨゾラが続ける。
「最近、少し思い出した」
「え?」
あたしは顔を上げる。
「何を?」
ヨゾラは空を見たまま言う。
「……星」
「星?」
「ああ」
少しだけ目を細める。
「誰かと見てた気がする」
その声は、柔らかい。
「大きくて、綺麗で」
「……」
「それで」
少しだけ間。
「“お前は星になる”って言われた」
「……なにそれ」
思わず笑う。
「ロマンチックすぎない?」
「……かもな」
ヨゾラも、少しだけ笑う。
でも――
その目は、少しだけ寂しそうだった。
「その人って」
あたしはそっと聞く。
「大事な人だったの?」
ヨゾラは少しだけ考えて――
「……多分な」
短く答える。
「でも」
拳を軽く握る。
「思い出せない」
「……そっか」
あたしは、小さく呟く。
「でもさ」
少しだけ前を向く。
「今は、いるでしょ」
ヨゾラが視線を向ける。
「大事な人」
その言葉に――
少しだけ、間。
「……いるな」
ヨゾラが言う。
「ギルドの奴ら」
「うん」
「ナツも」
「うん」
「……あと」
少しだけ言葉を止める。
あたしは、じっと待つ。
「……ルーシィも」
その一言。
胸が、少しだけ跳ねる。
「……そっか」
なんだか照れくさくて、少し視線を逸らす。
「じゃあさ」
あたしは立ち上がる。
「これから作ればいいじゃない」
「……何を?」
ヨゾラが首を傾げる。
「思い出」
振り向いて笑う。
「なくしたなら、新しく」
「……」
ヨゾラが少しだけ目を見開く。
「いい案でしょ?」
「……ああ」
小さく頷く。
その顔は――少しだけ柔らかかった。
その時。
風が吹く。
雲が、少しだけ流れる。
夜空が開ける。
「……見て」
あたしが指をさす。
満天の星空。
「……綺麗」
思わず呟く。
ヨゾラも、空を見上げる。
「……ああ」
その瞳に、星が映る。
「悪くない」
少しだけ、笑う。
その横顔を見て――
あたしも、少しだけ笑った。
「ねぇ、ヨゾラ」
「ん?」
「今度はさ」
空を見ながら言う。
「一緒に見るの、忘れないでよ?」
その言葉に――
ヨゾラが、少しだけ間を置いてから答える。
「……忘れない」
静かに言う。
「今度は、絶対に」
星が、静かに瞬く。
失った過去は戻らない。
でも――
これからは、自分で作れる。
二人で。
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