第23話「鎖を断ち切る日」
朝。
ハートフィリア邸。
大きな門の前に、あたしは立っていた。
「……久しぶりね」
見上げる。
変わらない。
冷たくて、大きくて――
息が詰まる場所。
「……行こう」
自分に言い聞かせて、一歩踏み出す。
門をくぐる。
中は静まり返っていた。
使用人たちが、驚いた顔でこちらを見る。
「お嬢様……!」
「……通して」
それだけ言う。
まっすぐ進む。
迷いはない。
扉を開ける。
重厚な部屋。
その奥に――
一人の男。
椅子に座り、書類を見ている。
顔を上げる。
それは――
ジュード・ハートフィリア
「……ルーシィか」
淡々とした声。
「久しぶりだな」
「……ええ」
あたしは立ったまま言う。
「久しぶりね」
沈黙。
空気が重い。
「……何の用だ」
ジュードが言う。
「今さら帰ってきて」
「帰ってきたんじゃない」
すぐに言い返す。
「話しに来たの」
その言葉に、ジュードの眉がわずかに動く。
「話だと?」
「そう」
一歩前に出る。
「今回のこと」
拳を握る。
「全部、あんたが原因でしょ」
「……」
ジュードは、少しだけ目を細める。
「幽鬼の支配者の件か」
「そうよ」
声が強くなる。
「なんでよ!!」
思わず叫ぶ。
「なんであたしを、あんな連中に狙わせるの!!」
「……」
「どれだけ迷惑かけたと思ってるの!?」
「……」
「みんな、傷ついたのよ!!」
胸が苦しい。
でも――止まらない。
「なのに、あんたは……!」
「……それが」
ジュードが口を開く。
低い声。
「娘を守る方法だった」
「……は?」
言葉の意味が理解できない。
「守る……?」
「そうだ」
ジュードが立ち上がる。
「お前はハートフィリア家の人間だ」
ゆっくり近づく。
「狙われる存在だ」
「だからって……!」
「だからだ」
言葉を遮る。
「強い力の元に置く必要があった」
「それが……幽鬼?」
「そうだ」
あまりにも冷静な答え。
「ふざけないで!!」
あたしは叫ぶ。
「何が守るよ!!」
涙が溢れる。
「檻に閉じ込めることが、守ることなの!?」
ジュードの表情が、わずかに揺れる。
「……外は危険だ」
「知ってるわよ!!」
叫ぶ。
「でも!!」
拳を握る。
「それでもあたしは、自分で選びたいの!!」
静寂。
あたしは、震えながら続ける。
「怖いこともある」
「危ないこともある」
「でも」
涙を拭く。
「仲間がいるの」
その言葉に――
ジュードの目がわずかに揺れる。
「……仲間」
「そうよ」
少しだけ笑う。
「バカで、騒がしくて」
「でも、ちゃんと助けてくれる人たち」
「……」
「一人じゃないの」
その一言。
重く、真っ直ぐ。
「……」
ジュードは、しばらく黙っていた。
そして。
「……母親に似たな」
ぽつりと呟く。
「……え?」
「強くて」
少しだけ目を伏せる。
「……わがままだ」
「ちょっと!!」
思わずツッコむ。
その瞬間――
ほんの少しだけ、空気が緩む。
「……だが」
ジュードが顔を上げる。
「甘い」
その言葉に、あたしは睨む。
「……何が」
「守られることを否定するな」
静かに言う。
「それもまた、必要だ」
「……っ」
言葉に詰まる。
「だが」
ジュードが続ける。
「選ぶのは、お前だ」
「……え?」
予想外の言葉。
「行くなら行け」
背を向ける。
「もう止めん」
「……本気で言ってるの?」
「……ああ」
短く答える。
「ただし」
少しだけ振り返る。
「後悔するな」
その目は、真剣だった。
あたしは、しばらく見つめる。
そして――
「……しない」
はっきり言う。
「絶対に」
少しだけ笑う。
「だって、あたしには仲間がいるから」
ジュードは、何も言わない。
ただ――
ほんの少しだけ、口元が緩んだ気がした。
「……じゃあね」
あたしは背を向ける。
扉へ向かう。
「……ルーシィ」
呼び止められる。
振り向く。
「……元気でな」
その一言。
あたしは、少しだけ驚く。
でも――
笑う。
「そっちもね」
手を軽く振る。
扉を開ける。
外の光が差し込む。
一歩、踏み出す。
もう、迷いはない。
あたしは――
自分の道を行く。
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