第25話「離れる理由」
第25話「離れる理由」
妖精の尻尾のギルド。
昼下がり。
いつもの騒がしさの中――
「……なぁ、ルーシィ」
ヨゾラが、不意に言う。
その声は、どこか真剣だった。
「ん?」
あたしは本を閉じて顔を上げる。
「どうしたの?」
少しの沈黙。
そして――
「……旅に出る」
「……え?」
思考が止まる。
「ちょっと待って」
笑ってしまう。
「何それ、冗談でしょ?」
「本気だ」
即答。
その目は――冗談じゃない。
「……どういうこと?」
胸がざわつく。
「理由は?」
ヨゾラは、少しだけ目を伏せる。
「……自分のこと、知りたい」
「……」
「記憶のことも」
拳を軽く握る。
「力のことも」
「……今さら?」
思わず言葉が強くなる。
「今までだってやってきたじゃない」
「足りない」
ヨゾラが言う。
「中途半端なままじゃ――」
顔を上げる。
「守れない」
その言葉に、胸が痛む。
「……またそれ?」
あたしは睨む。
「守る守るって」
「それの何が悪い」
「悪いわよ!!」
思わず立ち上がる。
周りの視線が集まる。
でも止まらない。
「一緒にいるって言ったじゃない!!」
「……言ったな」
「じゃあなんでよ!!」
拳を握る。
「なんで一人で行くの!?」
ヨゾラは、静かに答える。
「一人でやることだからだ」
「……は?」
「これは、俺の問題だ」
「だから何!?」
あたしは叫ぶ。
「仲間でしょ!?あたしたち!!」
「……だからだ」
ヨゾラの声が少し低くなる。
「巻き込みたくない」
「勝手に決めないで!!」
怒りと、悲しみが混ざる。
「巻き込まれてもいいって思ってるのが仲間でしょ!?」
「……」
ヨゾラが黙る。
「それに」
あたしは続ける。
「一人で行って、また……!」
言葉が詰まる。
あの時の光景。
倒れたヨゾラ。
「……また、守れなかったらどうするのよ」
声が震える。
静寂。
ヨゾラが、ゆっくりと言う。
「その時は――」
顔を上げる。
「俺が弱いだけだ」
「……っ!!」
その言葉に、胸が締め付けられる。
「ふざけないでよ!!」
涙が溢れる。
「一人で抱え込んで!!」
「……」
「そんなの、かっこよくない!!」
「……」
「ただの自己満足よ!!」
その一言。
ヨゾラの表情が、初めて揺れる。
「……そうかもな」
小さく呟く。
でも――
「それでも行く」
はっきりと言う。
「俺は――」
少しだけ間を置いて。
「自分を知らないまま、隣にいたくない」
「……」
言葉を失う。
「中途半端なままじゃ」
ルーシィを見る。
「お前の隣に立てない」
その言葉は――真っ直ぐすぎた。
「……そんなの」
あたしは俯く。
「そんなの……あたしは気にしない」
「俺が気にする」
即答。
静寂。
空気が、重い。
「……最低」
ぽつりと呟く。
「なんでよ……」
顔を上げる。
涙で滲む視界。
「なんで、そんな遠く行こうとするのよ」
ヨゾラは、少しだけ目を細める。
「……遠くない」
「遠いわよ!!」
叫ぶ。
「だって一人で行くんでしょ!?」
「……ああ」
「じゃあ遠いじゃない!!」
その一言に――
ヨゾラは、何も言えなくなる。
「……もういい」
あたしは背を向ける。
「勝手にすれば」
そのまま歩き出す。
止まらない。
止まりたくない。
「ルーシィ」
呼ばれる。
でも――
振り向かない。
「……知らない」
小さく言って、そのまま去る。
残されたヨゾラ。
静かに立ち尽くす。
「……」
拳を握る。
「……間違ってない」
自分に言い聞かせるように。
「……はずだ」
でも――
その声は、少しだけ揺れていた。
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