第26話「優しさの行き先」
ギルドの奥。
さっきまでの喧嘩の空気が、まだ残っている。
「……」
ヨゾラは、一人で立っていた。
視線は、ルーシィが去っていった扉へ。
「……やりすぎたか」
小さく呟く。
その時。
「そうね」
優しい声。
振り向く。
そこにいたのは――
ミラジェーン・ストラウス
「ミラ……」
ヨゾラが少し驚く。
「見てたのか」
「ええ、最初から」
にこりと微笑む。
「なかなか激しかったわね」
「……悪い」
「謝る相手、間違ってるわよ?」
軽く指摘される。
「……わかってる」
ヨゾラは目を伏せる。
少しの沈黙。
「ねぇ、ヨゾラ」
ミラジェーンが柔らかく言う。
「本気なの?」
「……ああ」
迷いなく答える。
「行くつもりだ」
「一人で?」
「そのつもりだ」
「……そっか」
ミラジェーンは少しだけ目を細める。
「似てるわね」
「……何が」
「昔の私に」
ヨゾラが、わずかに反応する。
「……どういう意味だ」
ミラジェーンは、少しだけ視線を遠くに向ける。
「私ね」
静かに言う。
「大事なものを失ったことがあるの」
その声は、優しいけど――どこか痛い。
「その時」
「全部、自分のせいだって思った」
ヨゾラの目が揺れる。
「だから、強くなろうって思ったの」
「……」
「一人で全部背負おうとして」
小さく笑う。
「結果、余計に遠回りしたけどね」
静かな言葉。
「……」
ヨゾラは、何も言えない。
「ねぇ」
ミラジェーンが一歩近づく。
「その旅、本当に一人でいいの?」
「……ああ」
少し間を置いてから答える。
「そうしないと意味がない」
「そうかしら?」
首を傾げる。
「誰かと一緒に進むことにも、意味はあると思うけど」
「……」
「それに」
少しだけ笑う。
「一人だと、無理しすぎるでしょ?」
「……否定できないな」
ヨゾラが苦笑する。
「でしょ?」
ミラジェーンは、優しく言う。
「だから――」
少しだけ間を置いて。
「私も行こうかしら」
「……は?」
ヨゾラが固まる。
「今、なんて」
「だから」
にこっと笑う。
「一緒に旅に出るの」
「……いや」
即座に首を振る。
「ダメだ」
「どうして?」
「危険だ」
「それはお互い様でしょ?」
軽く返される。
「それに」
少しだけ真剣な目になる。
「放っておけないの」
その言葉に――
ヨゾラの表情が揺れる。
「……俺は」
少しだけ目を逸らす。
「一人でやるって決めた」
「頑固ね」
くすっと笑う。
「でも」
もう一歩近づく。
「無理してる顔してるわよ?」
「……」
言葉に詰まる。
その時――
「……へぇ」
低い声。
二人が振り向く。
そこに立っていたのは――
ルーシィ・ハートフィリア
腕を組み、じっとこちらを見ている。
「楽しそうね」
笑っている。
でも――目は笑っていない。
「ルーシィ」
ヨゾラが言う。
「……戻ってたのか」
「ええ」
ゆっくり近づく。
「いいタイミングだったわ」
ミラジェーンを見る。
「一緒に旅?」
にこっと笑う。
「いいわねぇ」
その言い方に、棘がある。
「ルーシィ」
ミラジェーンが優しく言う。
「誤解しないで」
「してないわよ?」
即答。
「別に」
視線を逸らす。
「好きにすればいいじゃない」
その言葉。
でも――
拳が、ぎゅっと握られている。
「……そういうわけじゃない」
ヨゾラが言う。
「ただ――」
「いいって言ってるでしょ!!」
ルーシィが遮る。
一瞬、空気が張り詰める。
「行きたいなら行けばいいじゃない!!」
声が震える。
「一人でも!!二人でも!!」
「……」
「もう知らない!!」
そのまま、背を向ける。
足音が遠ざかる。
静寂。
「……やっちゃったわね」
ミラジェーンが小さく呟く。
「……ああ」
ヨゾラは、ルーシィの去った方を見つめる。
「完全に怒ってる」
「ええ」
少しだけ笑う。
「可愛いくらいにね」
「……笑えない」
ヨゾラがため息をつく。
「どうするの?」
ミラジェーンが聞く。
ヨゾラは、しばらく黙って――
「……行く」
そう言う。
でも。
「……その前に」
視線を落とす。
「話す」
その言葉に、ミラジェーンは微笑む。
「それでこそね」
優しく言う。
「ちゃんと向き合いなさい」
「……ああ」
ヨゾラが頷く。
揺れる関係。
それでも――
まだ、切れてはいない。
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