幕間「竜の匂い」
夜。
ギルド裏の通り。
静かな風が流れる中――
「……こんなとこにいたのか」
声をかけるのは
ナツ・ドラグニル
その視線の先。
壁にもたれているヨゾラ。
「……ナツか」
ヨゾラが顔を上げる。
「珍しいな」
「お前がな」
ナツがニヤッと笑う。
「一人で黄昏てるなんてよ」
「……別に」
「明日、出るんだろ?」
ヨゾラが少しだけ目を細める。
「……聞いたのか」
「ギルド中で噂だ」
「そうか」
短く返す。
少しの沈黙。
「なぁ」
ナツが言う。
「なんで行くんだ?」
「……」
ヨゾラは少しだけ空を見る。
「強くなるためだ」
「ざっくりしてんなぁ」
ナツが笑う。
「でもよ」
一歩近づく。
「お前、もう結構強ぇぞ?」
「……足りない」
「何が」
「全部」
その答えに――
ナツは少しだけ真面目な顔になる。
「……そっかよ」
その時。
「ギヒッ……」
嫌な笑い声。
振り向く。
そこにいるのは――
ガジル・レッドフォックス
「湿っぽい話してんじゃねぇよ」
腕を組みながら近づいてくる。
「……ガジル」
ヨゾラが目を細める。
「てめぇもか」
ナツが笑う。
「ちょうどいいじゃねぇか」
ガジルがニヤつく。
「ドラゴンスレイヤーが三人揃ったんだ」
ヨゾラを見る。
「話くらい聞いてやるよ」
「……別に頼んでない」
「ギヒッ、可愛くねぇな」
少しの間。
そして――
「で?」
ガジルが言う。
「逃げんのか?」
「……違う」
ヨゾラが即答する。
「探しに行く」
「何をだ」
「自分を」
その答えに、ガジルは少しだけ黙る。
「……なるほどな」
鼻で笑う。
「ガキらしい理由だ」
「悪いか」
「別に」
肩をすくめる。
「だがよ」
少しだけ鋭い目になる。
「自分探しなんざ、大体ロクな結果にならねぇ」
「……」
「見つかる前に死ぬか」
「見つけて絶望するか」
静かな言葉。
「どっちかだ」
ナツが眉をひそめる。
「おいガジル、言い方ってもんが――」
「いい」
ヨゾラが止める。
「その通りかもな」
「……おい」
ナツが驚く。
「でも」
ヨゾラは続ける。
「やらないと進めない」
その目は、真っ直ぐだった。
「……チッ」
ガジルが舌打ちする。
「面倒くせぇな、お前」
「よく言われる」
少しだけ笑う。
その空気に――
ナツがニヤッとする。
「いいじゃねぇか」
拳を鳴らす。
「強くなる理由なんて、そんなんで十分だ」
「……ナツ」
「オレもよ」
空を見上げる。
「イグニール探すために旅してた」
「……」
「結局いねぇけどな!!」
「いや笑うなよ!!」
思わずツッコむヨゾラ。
ガジルも少しだけ吹き出す。
「ギヒッ……バカだな」
でも――
その空気は、少しだけ軽い。
「……ヨゾラ」
ナツが言う。
「一個だけ教えといてやる」
「なんだ」
「ドラゴンスレイヤーはな」
ニヤッと笑う。
「一人で強くなるもんじゃねぇ」
「……」
「誰か守って、誰かとぶつかって」
拳を握る。
「それで強くなんだよ」
静かな言葉。
「……そうかもな」
ヨゾラが小さく頷く。
その時。
ガジルが口を開く。
「ま、好きにしろ」
背を向ける。
「死ぬなよ」
「……ああ」
ヨゾラが答える。
「死なねぇよ」
「当たり前だ!!」
ナツが笑う。
「死んだらぶん殴れねぇだろ!!」
「発想が雑だな」
「うるせぇ!!」
三人の空気が、少しだけ和らぐ。
「……じゃあな」
ヨゾラが言う。
「おう」
ナツが手を振る。
「帰ってきたら勝負な!!」
「ギヒッ、俺も混ぜろ」
ガジルが笑う。
「三つ巴だ」
「面倒くせぇな」
ヨゾラが苦笑する。
でも――
その顔は、どこか軽かった。
夜空を見上げる。
星が、瞬く。
(……行くか)
静かに決意する。
一人で。
でも――
一人じゃない。
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