第31話「やさしい風の魔法」
――化猫の宿。
木造の温かい建物。
中は、どこか懐かしい空気に包まれていた。
「わぁ……!」
目を輝かせるのは
ウェンディ・マーベル
「戻ってきました〜!」
「はしゃぎすぎよ」
呆れながらもどこか嬉しそうな
シャルル
「いい場所ね」
微笑む
ミラジェーン・ストラウス
ヨゾラも、静かに周囲を見渡す。
「……落ち着くな」
「でしょ!」
ウェンディが嬉しそうに言う。
「今日はみんなでご飯作りましょう!」
「いいわね」
ミラジェーンが頷く。
「腕が鳴るわ」
「……手伝う」
ヨゾラも短く言う。
「えっ」
ウェンディが少し驚く。
「料理、できるんですか?」
「……多分」
「多分!?」
不安しかない。
■料理開始
キッチン。
材料が並ぶ。
「じゃあ私はスープね」
ミラジェーンが手際よく動く。
「私は野菜切ります!」
ウェンディも元気に取り掛かる。
「……」
ヨゾラは包丁を手にする。
じっと見る。
「……どう切るんだこれ」
完全に初心者。
「普通に切ればいいのよ」
ミラジェーンが苦笑する。
「……普通がわからない」
「大丈夫です!」
ウェンディがフォローする。
「こうやって――」
手本を見せる。
「……なるほど」
ヨゾラが真似する。
トン……
トン……
トン――
「……っ」
ピタッと止まる。
「どうしたの?」
ミラジェーンが振り向く。
「……切った」
ヨゾラがぼそっと言う。
「え?」
手を見る。
指先から――血。
「ああもう!」
ミラジェーンが慌てる。
「だから言ったでしょ!」
「いや言われてない」
「ニュアンスでわかりなさい!」
「難しいな」
冷静。
「だ、大丈夫ですか!?」
ウェンディが駆け寄る。
「問題ない」
「問題あります!」
涙目で言う。
「血出てます!」
「……出てるな」
他人事みたいに言う。
「ちょっと待ってください!」
ウェンディが手を取る。
「すぐ治します!」
「……治す?」
ヨゾラが少しだけ目を細める。
その時。
ウェンディの周りに、優しい風が集まる。
「動かないでくださいね」
淡い光。
風が、ヨゾラの手を包む。
傷が――
ゆっくりと、消えていく。
「……これは」
ヨゾラの目がわずかに見開く。
「天空の滅竜魔法です!」
ウェンディが少し誇らしげに言う。
「癒しの魔法も使えるんですよ!」
「……滅竜魔法」
ヨゾラが呟く。
自分と同じ。
でも――
全く違う力。
「治りました!」
ウェンディが笑う。
「……ああ」
手を見る。
完全に元通り。
「すごいな」
素直に言う。
「えへへ……」
少し照れるウェンディ。
「これで安心ね」
ミラジェーンも微笑む。
「……助かった」
ヨゾラが言う。
その言葉は、自然だった。
「いえいえ!」
ウェンディが嬉しそうにする。
その時。
「……ねぇ」
ヨゾラが少しだけ真面目な顔になる。
「ん?」
「その魔法」
少しだけ間。
「誰に教わった?」
ウェンディが、一瞬だけ止まる。
「……えっと」
少しだけ視線を逸らす。
「……グランディーネに」
「……!」
ヨゾラの目が揺れる。
ナツの“イグニール”。
ガジルの“メタリカーナ”。
そして――
ウェンディの“グランディーネ”。
「……やっぱりか」
小さく呟く。
「ヨゾラさんも……?」
ウェンディが恐る恐る聞く。
「……ああ」
頷く。
「滅竜魔導士だ」
「やっぱり!」
ぱっと顔が明るくなる。
「なんだか似てると思ってたんです!」
「……そうか」
少しだけ目を細める。
「じゃあ……仲間ですね!」
無邪気な一言。
「……」
ヨゾラは一瞬だけ黙る。
そして――
「……ああ」
小さく頷く。
その表情は、少しだけ柔らかかった。
風が、静かに流れる。
その中で――
星と空。
二つの滅竜魔法が、出会った。
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